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闘争の世界 ep.31 『代表戦』

先月に投稿していました新作が今月の初めに完結しました。

暇なときにでも是非一気読みしてくだされば嬉しいです。

急でありますが、次回2023/09/15の更新は作者体調不良につきお休みさせていただく存じます。

ギリギリまで様子を見てましたが、好転しなかったためのお休みです。

流行り病は嫌ですね。


 一通りの試合が終わりを迎えた。

 この日の日程ではすぐに本戦の二回戦が行われることになっている。

 自分たちの出番はその二試合目。そして二回戦のルールはこれまでの勝ち残り戦ではなく、パーティの代表者一名による代表戦となっていた。


「本当に任せてもいいのかい?」


 心配そうな顔をしてムラマサが話しかけてきた。


「ここでもユウを温存して戦力を隠しておく戦法もないわけじゃないが」

「さっきの試合でオレたちが受けたダメージもここで休憩している間に完全回復したからな」


 問題無いと言うハルの言葉の通り、HPもMPも今では完全に回復しているのだろう。そしてムラマサが言うようにまだバレていない俺の戦い方というものを伏せておくことが有効なのも理解している。

 しかしそれは所詮次の試合に勝てた場合でしかない。

 自分たちが次に戦うことになる相手は対戦相手を圧倒してみせたサベッジがいるパーティ。自分たちと同様に最後の一人は戦っていないにしても、サベッジが見せたあの戦い振りを思えば彼がそのまま次の試合も出てくる可能性は決して低くはないように思えた。

 それならば一度戦い、戦術がバレている二人よりも、自分の方がいいと考えたのだ。


「俺が出れば仮に正体不明の三人目が出てきたとしても互いの手の内が分かっていない状態になるのだから条件はイーブンのはずさ。それにサベッジが出てくるのだとしたらあの防御と高い攻撃力に注意すれば何とかできるはず」

「できるのかい?」

「あ、いや。確信は無いけどさ。似たようなレベル帯までしか成長させられない現状、あれだけの戦い振りをするには何らかの条件があると思うんだよ。例えば、試合が始まってから移動をしてはならないというみたいにさ」

「んー、“制約”というやつわけか」

「そう! それ!」

「だけど、オレたちはそんな制約が宛がわれている装備は見たこともない。全部想像の範囲を超えられてはいない」

「ま、まあ。そうなんだけどさ」


 僅かに落ち込む俺をハルが慰めるように肩を叩いた。


「気にすんなって。そもそもオレたちは武器と防具を同じシリーズで揃えられてすらいないんだぜ。制約ってのが発生するのも装備単体の効果じゃなくてシリーズで纏めて装備した場合に限ったことなのかもしれないだろ」

「確かに」

「ここで考えていても回答を得ることはできない。だとすればこちらも何か奇策に出ることも悪くはない、か」


 少し考える素振りを見せて独り言ちるムラマサに俺は深く頷いてみせる。


「まあ、俺が奇策っていう扱いなのはどうも変な気分になるけどさ。実際相手からしてみても対策らしい対策を立てられないって意味なら間違いではないんだろうけどさ」

「とりあえずはさ。この試合の様子を見る限りだと代表戦に変わったってこと以外にはさっきの試合と変わっているところは見当たらないな」

「試合の形式。表示されているHPゲージの状態。それに戦っているプレイヤーの姿。どれを見ても特出すべきことはない、か」


 顎に手を当てて考えているムラマサと、どこか楽観的な調子のハル。対照的な態度を見せている二人の間で戦いが繰り広げられている映像を見ていると暫くして試合が終盤に差し掛かっていた。

 拮抗して減少している互いのHPゲージ。

 繰り広げられているのは見事な剣戟同士の打ち合い。どちらが勝ってもおかしくはないような見事な戦いが観客たちの視線を惹き付けていた。


「ん?」


 控え室にある転送ポータルが突如光を放ち始める。

 どうやら運営側もそろそろ試合が終わりそうだと判断したらしい。


「行ってこい! というか、勝ってこい!」

「頑張ってくれ。だが、無茶はするなよ」

「ああ、わかってる。けどさ、ここで負けたら全部終わりだからな。少しくらいは無茶もするつもりさ」


 二人に見送られながら転送ポータルへと飛び込んだ。

 一瞬の閃光に包まれて俺は誰もいない小部屋に立っていた。


「さあて、後どれくらい掛かるかな」


 控え室となっている小部屋にはモニターはない。現在行われている試合の様子など外の様子は知ることができないようになっている。

 暇を持て余すことになり俺は持っているアイテムを確認することにした。

 予選も本選も対人戦ばかり。勝ったとしてもドロップアイテムなどはなく、また獲得できる経験値もたかが知れている。せめてレベルが上がってくれていることを願ってもみたが、経験値の溜まり具合を表わしたゲージが満タンになるまであと僅かというところで止まってしまっていた。


「ゲージじゃなくて数字なら後一桁って感じかな」


 自嘲混じりに呟くと俺は手元のメニュー画面を消した。めぼしい更新がないのならばどれだけ見ていても意味がないとわかったからだ。

 部屋に唯一置かれている小さな椅子に腰掛けて、目を閉じる。

 自分の試合時間が訪れるまで静かに待つことにしたのだ。

 程なくして小部屋に転送ポータルが出現する。どうやら先の試合が終わったようだ。

 転送ポータルに入り試合の舞台へと向かう。

 来た時と同じ光に包まれて俺は戦いの舞台へと立っていた。


「同じタイミングか」


 不思議と対戦相手のプレイヤーが転送されてくるタイミングが重なった。焦らすようにギリギリまで転送ポータルに入らないプレイヤーもいるだろうと何気なくムラマサに訊ねた時に彼女からは転送に掛かる時間をシステムが調整してタイミングを合わせているのだろうと言っていたことを思い出した。それだけじゃない。本戦というトーナメントが始まっている状態で下手に失格になりかねないような行動を取らないのだろうとも。

 対峙しているプレイヤーを見る。

 俺たちがしていた予想は二つ。まだ見ぬ三人目が来るか。あるいは無双の活躍を見せたサベッジが来るか。

 正解は後者。

 ボロボロの外套に隠れて顔も何もかもが分からないが、あの体格と佇まいを思えば目の前に立っているのはサベッジで間違いない。確認するようにゆっくりと視線を上空へと向けると俺の名前とHPゲージが表示されている横に思ったとおりサベッジの名とHPゲージがあった。

 気になるのは彼の装備がさっきの試合の時とは変わっていること。


「わざわざ変えてきたってことは何か意味があるってことだよな」


 聞こえているのかいないのか。俺の呟きに返ってくる言葉は無い。

 無言のまま試合が始まる瞬間を待つ武人の如き振る舞いを見せるサベッジが醸し出す空気感のようなものがある。ピンッと張り詰めた空気はここが真剣勝負の場であることを否が応にも思い出させてくる。

 無意識のまま伸びた指が閃騎士の剣の柄に触れ、カチャリと音を立てる。

 サベッジの纏うボロボロの外套がまるでこの瞬間に限界が訪れたというように自壊して微細な切れ端となって宙を舞う。


「やはり、装備が違う」


 記憶にあるサベッジはどこか禍々しい鎧を纏っていた。しかし目の前のサベッジが装備している鎧は血のように真っ赤な有機的な鎧。

 ダンジョンの最奥に出現するモンスターの姿をそのまま象ったかのような鎧だ。

 腰から提げているのも剣や刀というよりは巨大な鉈のようにも見える。

 仮面のように顔を隠す兜も憤怒する鬼の如く。

 出で立ちを変えたサベッジを観察している俺だったが、対戦相手を注意深く窺っているのは自分に限った話ではない。

 鬼の兜の奥で鋭い眼光を向けてくるサベッジからは射貫くような視線を感じている。

 睨み合いのような観察を互いに行っている最中、突然に二人のHPゲージが浮かんでいる空にカウントダウンを示す数字が現われた。

 “10”から一秒ごとに減っていく。

 突然のことにも狼狽えず、俺とサベッジはゆっくりと己の武器を掴んだ。

 カウントダウンが“0”になる。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 まずは自分から先制攻撃を仕掛ける。

 アーツを使わないまま閃騎士の剣を抜いて突きを放ち、サベッジの胸元を狙う。

 硬い鎧に覆われていることなど百も承知。それでも戦闘の主導権を握るためには前に出る以外に方法はない。


「せやっ」


 気迫を込めて閃騎士の剣を突き出す。

 さっきまでのサベッジの戦い方を思えば防御などしないだろう。それどころか持っている鉈のような剣で物の見事に反撃までもしてくるはずだ。

 だから敢えて完全に踏み込むようなことはしないで、すぐに剣を引き戻せるだけの余力を残して仕掛けた。


「!?」


 だとしても決して手を抜いた攻撃などではなかったはずだ。そもそも防御らしい防御などしてこなかったはず。なのに何故かサベッジは鉈のような剣の腹で性格に俺の繰り出した突きを受け止めて見せた。


「拙いっ!」


 剣を引こうとしてもかち合った剣同士で半ば押し合うような格好となってしまっては下手に引くことは身の危険へと繋がりかねない。

 やむを得ず両手で閃騎士の剣の柄を掴み、ぐっと体重を乗せる。


「……軽いな」

「なにっ?!」


 鉈のような剣の腹の内側に剣を持たない方の腕を付けると、軽々と押し返してきた。


「その軽さでは鬼灯を砕くことなどできやしない」


 はっきりと言い放ってからシールドバッシュをするかのような動きで鉈のような剣――鬼灯をかち上げた。

 軽々と押し返された俺は足をもつらせながらもどうにか体勢を維持して距離を取る。

 離れた俺に鬼の兜の奥に潜むサベッジの鋭い視線が突き刺さる。こちらを値踏みしているかのようなその視線に抗うかのように俺もまた頭を覆う戦闘に突入した瞬間に出現した竜玉(ドラグライト)(アーマー)の兜の中から睨み返していた。



ユウ レベル【21】


武器


【閃騎士の剣】――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


【成竜の鎧】――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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