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闘争の世界 ep.30 『次の試合』

新作を始めています。

タイトルは【アルカナ戦記~機会に狙われた世界で最強の力を振るう俺~】です。

九月四日の投稿で予定通りに完結しますが、どうか一度読んでみてくださると幸いです。


 戦いを終えたムラマサが控え室に戻ってきた。

 特別疲労したような感じは見うけられない。だとしても先に戻って来ていたハルと一緒にムラマサの健闘を称え、勝利を祝った。

 自分たちの後に行われる予定の試合が始まった。

 繰り広げられている戦闘の様子を見ながら、ムラマサとハルは戦いの疲れを取るために控え室にある椅子に座って休憩している。


「戦ってみてどうだった?」


 自分一人だけ戦っていない俺は何気なく二人に問い掛けていた。予選とは違う本戦における実際の戦いの雰囲気というものが俺だけ掴めていないのだ。

 だからといって自分の出番がなかったことを責める気にはなれない。それは二人が全力で戦ったからこその結果なのであるし、仮に自分が先に出て他の誰かの出番がなくなる結果になったとしても、責められても困ることしかできないと理解しているからだった。


「んー、オレとしてはあまり変わらなかったかな」

「マジか!? おれも最初はかなり緊張したぞ」

「意外だね。いつもと変わらないように見えたよ」

「そりゃあさ、戦うってのに慌てたりはしないようにしてたけどさ。けど独特な感じはしたぞ。何ていうかさ、緊張感みたいなものが満ちているっていうか」

「予選の時も似たようなものだったけどね、今回もパーティが負けたら終わりなんだ。本戦にまで残ったからには勝ち上がりたいと強く思っていてもおかしくはないさ。そのせいだろうね。戦いの舞台に普段の戦闘とは違う雰囲気が漂っていたのはさ」


 多少の違和感はムラマサも気付いていたらしく、ハルの感じたものを否定するようなことはしなかった。

 眺めている試合が終わった。とはいえ完全に決着が着いたわけではなく先鋒の試合が終わったというだけだが。すぐに次の試合が始まる。勝ち残ったプレイヤーはどこか緊張した面持ちだ。どうしてだろうかと疑問を抱くもその答えはすぐに出ることとなる。次鋒として現われたプレイヤーがこれまでにないほどの威圧感を纏っていたのだ。

 思わず映像に注視してしまう俺たち。

 映像に映るかの人物は全身を禍々しい鎧に包んでいる。

 顔は分からない。体格から察するにおそらくは男なのだろう。男は目元すらも隠す鬼のような面が付いた兜をしっかりと被っているために表情さえもわからない。

 表情が読めないというのは存外に不気味だった。

 映像で見ているだけの俺がそう感じているのだ。対峙しているプレイヤーにとっては俺の何倍も気圧されそうになっていることだろう。

 加えて一度戦っている疲労もあるだろう。仮想世界において肉体的な疲労はそれほど問題にならない。問題なのはどちらかといえば精神的な疲労だ。禍々しい鎧に身を包んだプレイヤーから発生している威圧感はその精神的な疲労を加速させる要因となっているらしい。

 戦いの幕が開く。

 HPの残量で劣っている勝ち残っているプレイヤーから攻撃を仕掛けた。

 禍々しい鎧のプレイヤーは何も動かない。

 まるで防御することも回避することも意味がないと言っているかのように。


「嘘、だろ……」


 呆然とした顔でハルが呟いた。

 それほどまでに圧倒的だったのだ。禍々しい鎧のプレイヤーは攻撃を仕掛けてきた男を歯牙にも掛けず一刀のもとに斬り伏せていた。

 いつの間に抜刀したのだろうか。禍々しい鎧のプレイヤーの手には鎧と同様に禍々しいオーラを纏った大剣が握られている。

 訳が分からないという顔をして倒れた男が戦いの舞台から姿を消した。

 戦いの舞台には観客がいないから静まり返ったというのは少し違うかも知れないが、映像を見ている俺たちには二人の公式プレイヤーによる実況の声が聞こえている。その声が一度途絶えた。公式から渡されている何らかのデータを見ながら行っているはずの実況の人ですらその光景は予想を超えたものだったということなのか。


「彼の名前は?」

「えっと、サベッジっていうみたいだけど、知ってるか?」

「いや。俺は知らないけど」

「困ったね。情報収集を怠ったつもりはないのだけど、サベッジというプレイヤーは知らない。むしろここまで実力を隠して勝ち上がってきたのか、あるいは、本戦直前になってあの装備を手に入れたのか」


 勝者が決まり画面に表示されているのは禍々しい鎧のプレイヤーただ一人。画面の上部にある名前と一ミリも減っていないHPゲージはこの男のものなのは間違いない。

 勝ったというのにサベッジは喜び一つみせない。戦績的にはこれでイーブンに持ち込んだだけなのだから仕方が無いと思わないこともないが、それにしても感情を微塵も表に漏らさないのは不気味の一言に尽きる。


「次のプレイヤーが来たみたいだね」


 じっとサベッジを観察していると、視線を微かに動かしてムラマサが告げる。

 戦いの舞台に現われたのは、こう言ってはなんだが、普通のプレイヤーだった。サベッジの名前が付随しているHPゲージの真横に出現するもう一つのHPゲージ。その上に記されているリップルというのがこの普通のプレイヤーの名前なのだろう。

 リップルは装備しているのは一般的な防具にどこにでもあるような普通の片手剣。彼の特質すべきものは何だと問われればその“普通さ”がそれに当たるのかもしれない。

 剣を構えるリップル。試合開始が告げられた瞬間にサベッジの後方へと回り込むべく全力で走り出した。

 装備の軽さはそのまま身軽さに繋がる。

 速度という点だけならばリップルはサベッジを圧倒しているように見える。が、当然速度が全てを決めるわけではない。速い攻撃というのは往々にして軽い攻撃であるといえる。それではサベッジの鎧を貫いて的確なダメージを与えることができるかどうか怪しいといったものだ。

 戦いの舞台を見下ろす形で映し出している戦いの映像を注意深く見る。動作をリップルの速度に合わせることはできていないみたいだが、微かに動くサベッジの頭を追うとどうやら視線で追いかけることはできているらしい。

 駆け回るリップルもずっと視線で追いかけられていることを認知しているのだろう。一向に攻撃に転じることができずにいるようだ。


「ムラマサやハルだったらどうする? あのサベッジって人にどうやって攻撃すれば良いと思う?」


 映像から視線を外さずに俺は同じ控え室にいる二人に問い掛けていた。

 戦いは始まったばかり。だというのに俺はリップルとサベッジとの戦いの結末をぼんやりと想像することができていた。

 突然の質問に二人は真剣に考えてくれているようだ。

 だが、暫く待っていても答えは返ってこない。その間に試合は僅か一度の打ち合いで決着が付いてしまった。

 堪えきれずに無理な攻撃に出たリップルが片手剣を振り下ろす刹那にサベッジがリップルの片手剣もろともリップルを両断してみせたのだ。

 あり得ない程の高威力。

 一撃で全快状態のHPを全て刈り取るなど今の俺たちには到底できない芸当だ。


「んー、ユウの質問の答えになるかどうかは微妙だけどね。こと彼を相手にするときに限れば並大抵な攻撃は意味がないように思えるね。仮にオレが戦うとすれば、正面からの打ち合い意外に方法は残されていないようにさえも感じるよ」

「だなー。おれも似たようなもんかな。まあ、おれは二人に比べてスピードが無い分、下手な小細工ができないっていうだけなんだけど」

「とはいえ、そもそもからしてサベッジが一撃でリップルを倒したのは異常に思えるね」

「それだけレベルが高いってことじゃないのか?」

「まさか。正直、今本戦に出ているプレイヤーのレベルはオレたちと似たり寄ったりでしかないはずさ。偶然強力な武器を手に入れただけだとも考えられるけど、彼の武器はどう考えても防具と同じシリーズ物だ。現状ドロップからしか装備を手に入れられないことを考慮すれば先に武器か防具のどちらかを手に入れてから、後にもう片方を手に入れたと考えるほうが自然だろう」

「確かに。強い武器が手に入ったからそこで別の装備を手に入れるために少し粘ってみるってのはよくあることだけどさ。それにしたってさ、あれは完全に装備を一式揃えているだろ。装備を揃えるメリットって特に無かったよな?」

「ああ。だけど、オレたちが知らないだけで彼にとっては揃える意味があったのかも知れない」

「それが、あの威力の秘密ってことか?」

「あり得ない話ではないだろう」


 きっぱりと言い切るムラマサに俺とハルは何処か納得させられていた。

 映像のなかでは最後の三人目のプレイヤーが現われている。

 これまたリップルと似たり寄ったりの防具を纏っているが、武器は奇妙な形をしたハンマーを担いでいる。硬い円盤を何枚も重ねたようなデザインのハンマーを持つプレイヤーの名前はカルスパ。

 試合開始が告げられた瞬間、カルスパがハンマーを目の前の地面に目掛けて思いっきり振り下ろした。

 二人が立つ戦いの舞台が大きく揺れる。

 揺れを起こしたのがカルスパのアーツによるものなのか、それともあのハンマーが持つ特殊効果なのかはわからないが、普通ならば対峙している相手は体勢を崩されてしまうのだろう。それを理解しているからこそ初撃として繰り出したはずなのだ。

 しかしサベッジはそれすらも平然と受け流している。

 影響はないというように悠然と立っているサベッジに驚いたカルスパは先程のリップルと同じように接近戦を挑んでいた。

 僅か四つという限られた数しかアーツが使えないシステムで、ハンマーのような近接武器を使うとなれば、その大半は接近して使うものなのだろう。

 やむを得ず接近して戦うことになったカルスパはハンマーを振り上げて強くサベッジを打ち付けた。

 舞台を揺らした時のように戦場の空気が大きく振える。

 先の戦いと異なるのはサベッジが掲げる大剣を使ってそれを防御したということ。

 剣とハンマーが打ち合って互いに一歩も引かないという強気な態度を見せている。

 サベッジは無言で、ただ強者の振る舞いを。

 カルスパは自身が敗北すれば仲間全員がここで敗北になると背水の陣を覚悟して。

 意思と意地がぶつかり合う。

 映像にて見ていると拮抗しているようにも見える。しかし、顔が表に出ているためか、カルスパの必死な面持ちが彼の方が圧されているようにすら感じられた。

 リップルとの戦いを思えば決着は一瞬。

 映像を見ている誰もが固唾を飲んで見守っている次の瞬間、それは起きた。

 ぐんっと力を込めてハンマーを押し返したサベッジが目の前のカルスパを縦に両断してみせた。


「決着、か」


 ムラマサが独り言ちる。

 この戦いは結末が決まった。それだけじゃない。この本戦がトーナメント方式であるが故に、自分たちの次の対戦相手が決まった瞬間だった。



ユウ レベル【21】


武器


閃騎士の剣――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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