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闘争の世界 ep.29 『決着をつけようか』

新作を始めています。

タイトルは【アルカナ戦記~機会に狙われた世界で最強の力を振るう俺~】となります。

どうか一度読んでみてくださいな。


 仕切り直されたムラマサとくろあんの立ち会いは当初に比べて質が一変した。

 アーツというものは基本的に武器を扱った戦闘に不慣れな人に宛がわれた救済措置という側面がある。それは自分一人の力だけでは不格好になりがちの戦いもアーツを正確に命中させることを狙いに定めればそれなりの形になる。

 所謂格闘ゲーム等における必殺技という位置づけであるアーツも戦いに慣れた人が使えば違ってくる。それがくろあんとの戦いで最初にムラマサが行った通常攻撃としてアーツを使うことだ。威力を高めた一撃で打ち合うには相手も同じだけの威力を持つ攻撃を使うか、上手にいなすことが求められる。とはいえ正確に威力を合わせることや攻撃を回避するのではなくいなすことは至難の業。少しばかり戦闘に慣れた程度では完璧にそれを熟すことなどできるはずもない。

 アーツによる連続攻撃は強力であるが故に弱点も存在する。

 自身のMPの総量による攻撃回数の限界。

 アーツという挙動が固定された攻撃であるが故にいずれは確実に見切られてしまう怖れがあること。

 それを理解していながらも初手からアーツによる攻撃にムラマサが出たのは、最初に自分有利な状況を作りたいと考えたからだった。

 そもそもが旧来の格闘ゲームのようにコントローラーを使ってキャラクターを操作するのではなく、現実の自分の体であるかのように自分のキャラクターを操作して戦うからこそ最初に抱いた印象というものはそう容易く拭い去れるものではない。

 初めに相手の動きが自分よりも速いと思い込まされてしまうと、少しだけ加減した速度で攻撃されたとしても、例えそれが自分が行う攻撃の速度と同程度だったとしても不思議と一手遅れてしまう。相手の力が強いと思えば打ち合う手にいつも以上の力を込めてしまうだろう。そんな僅かな普段との誤差が積み重なり、いつしか普段のように戦うことさえもできなくなってしまう。

 だからこそ敢えて強気に攻勢に出たのだが、息を整え戦闘を仕切り直しするとくろあんは意外なことにもそれまで抱いていたムラマサに対する印象をリセットしてみせていた。

 トライアンフという名のナイフを華麗に操ってくろあんはムラマサに強撃を打ち込ませる隙を与えないように立ち回っている。

 ムラマサは白狼という名の刀を振るい、くろあんの最接近を防ぎながら牽制の意を込めて斬り付けていた。


「仕留めきれないか」


 視線によるフェイントを織り交ぜながらも攻めあぐねているムラマサが小さく独り言ちる。その呟きはくろあんに届くことなく二人の剣戟の音に掻き消された。

 白狼の切っ先とトライアンフが激突する。

 実物の刀の強度を遙かに超えた白狼と実際のナイフを超えた威力を秘めたトライアンフ。

 二つの武器はそれぞれの戦い方を体現したかのように戦いの舞台の上でその存在を煌めかせていた。


「――ふぅ」


 たんっと軽く後ろに跳んでくろあんは深く息を吐き出した。

 そのままトントンっとその場でジャンプをして自身の呼吸を整える。

 すうっと目を瞑り、かっと見開く。


「せやっ」


 正面に立つムラマサを見据えたくろあんはそれまでよりも一段ギアを上げた速度で攻撃を仕掛ける。

 トライアンフを逆手に持って、拳を真っ直ぐ振り抜いた。

 逆手に持ったことでトライアンフの刃はムラマサの方を向いているわけではない。だというのに拳を正面から見ているムラマサはその拳から鋭い刃を突きつけられているかのような圧力を感じていた。


「くぅっ」


 咄嗟に白狼の柄を使いくろあんの拳を打ち付ける。

 刀を振るうことができなかったのはくろあんがムラマサの予測以上の速さで自身に接近していたからだ。

 伸ばされた手の首を正確に穿った白狼の柄。

 硬い鈍器で打ち付けた時のような音が響き、くろあんは思わずに顔を顰める。

 表示されているくろあんのHPゲージにも確かなダメージが刻まれるが、それでもくろあんはトライアンフを放すことなく手首を回すことで刀身を下に向けて勢いよく振り下ろした。

 狙いは白狼を持つムラマサの手。

 奇しくもトライアンフを持つくろあんの手を狙ったムラマサと同じ意図を持った攻撃だ。


「はあっ」


 狙いは同じだとしても先手を取ったのはムラマサ。しかし後の先とは良く言ったもので、リーチの短いトライアンフという武器で正確にムラマサの手を狙うにはこのタイミングが最も適しているのだった。

 鋭いトライアンフの刀身がムラマサの手を捉えている。長い刀ではこれだけの至近距離の一撃を防ぐにはどうも取り扱いが悪い。

 この一撃を受けることを覚悟しながらもムラマサはどうにかダメージを最小限に抑えることを意識した。

 ダメージを受けることは決まっている。ならばどうすればいいのか、どうすれば反撃に出ることができるのか。そう考えて取った行動はおよそ熟考の果てなどとはいえないもの。攻撃であるとすらいえないぐっと体をくろあんに寄せた当て身だった。

 威力が弱く、相手を吹き飛ばすこともできない、できるのはせいぜい相手の体勢を崩すことだけ。

 破れかぶれの行動だったとしても時には功を奏することもある。ムラマサの手を捉えていたトライアンフの刃は当初の目測を外れて、手の甲を切り付けるだけに留まった。

 ぐらりと体を反らしたくろあんは次の行動に移ることが遅れてしまう。

 その一瞬を逃さずに、ムラマサは傷が刻まれた手で硬く白狼を握り絞めて強く一歩を踏み出した。

 白狼を鞘に収めること無く、それでいて居合いの構えを取るムラマサ。

 身を屈め、間合いとタイミングを図っているムラマサの視線の先でくろあんは迎撃に向けてトライアンフを構えて敢えて地面に膝を付いた。

 居合い斬りの軌道は下から上へ、あるいは横へと繰り出される。そのために斬撃の軌道から逸れた位置に身を下げたくろあんはムラマサが狙っていた攻撃の射線から逃れたともいえる。

 しかしそれは本来の居合い斬りであった場合はだ。

 ムラマサは白狼を鞘に収めなかった。それでは居合い斬りのメリットの一つである鞘を使った加速が行われない。だからこれは体勢こそ居合い斬りであるものの、実際は規定の体勢から放つ切り払いに過ぎない。

 繰り出す技の本質を誤認したも同然なくろあんは迫る白狼の刃から逃れられない。

 トライアンフを構えて防御しようにも、元来ナイフ系統であるそれは身を守るには小さすぎる武器だった。


「ハアッ」


 くろあんに白狼の先が届くその一瞬にムラマサは気合いを吐き出した。

 加えて呟かれる「<(ながれ)>」のアーツ。

 実際にくろあんに命中するまでの僅かな間に輝きを放つ白狼の刃。

 その光を目撃したくろあんは息を呑み、襲い来る衝撃に身構えるのだった。


「ぐぅ」

「一気に繋げる! <流>!!」


 返す刀で斬り掛かり、再び切り払いのアーツを発動させる。

 一度目の攻撃を受けてよろめいたくろあんは体の前面に一筋の切り傷が刻まれた。

 既にムラマサの手の甲に付いた傷は綺麗さっぱり消えてしまっている。それと同様にくろあんの体にできた傷も瞬く間に消えて無くなっていた。


「まだだっ!? まだ終わらない!? <スネイル・バイト>オオォォォォォォ」


 攻撃を受けた衝撃で倒れまいとしようとして堪える最中、くろあんが蛇の形をしたライトエフェクトを伴うアーツを発動させていた。

 小さなナイフであるトライアンフの一撃の射程や攻撃範囲を拡張することができる蛇のライトエフェクトは体勢を崩しかけているくろあんの正面にムラマサの追撃を妨害するべく竜の如く天高く昇っていく。

 蛇の妨害によりムラマサが一拍攻撃を遅らせたことでくろあんは片手で強く地面を押すようにして飛び上がった。

 続けて自身の次の攻撃に繋げるための構えをとって正面を見るとそこにあったのは白狼を正眼に構えるムラマサの姿だった。


「<(つらぬき)>!!」


 そこから繰り出される強力な突きは消えた蛇のライトエフェクトの残滓をも貫く。

 白狼に宿る光は先程のそれとよく似た色。

 どうにか立ち上がることはできたもののくろあんはその一撃を防ぐことができなかった。

 硬い鉄の塊を打ち付けたように火花が舞い散る。

 生じた衝撃はくろあんに強いノックバックを発生させていた。


「しまっ――」


 ノックバックを受けて構えを解いてしまったくろあん。

 完全な無防備を晒したその一瞬にムラマサは更にもう一歩強く踏み出した。


「<(おぼろ)>」


 反撃を事前に防ぐためにトライアンフを持つ手を目掛けて切り上げる。


「<流>」


 次いでくろあんの体にむけて白狼を切り下ろす。


「<流>」


 切り下ろしを続けることで擬似的な回転斬りを放つ。


「<流>」


 三度切り下ろされる白狼の刃。

 この時既にくろあんのHPゲージは大きく削られてしまっている。


「これ以上好き勝手させるかあああああああああああああああ!!!! <イグル・ヒット>!!!」


 攻撃を受けながらも繰り出されるくろあんの反撃は、彼女が持つ四つ目のアーツ。スキル≪大弓(たいきゅう)・6≫で使えるようになる大きな矢で狙った場所を正確に貫くことができるアーツだ。本来は遠距離武器である大弓で使うそのアーツをくろあんはトライアンフで繰り出しているのだ。

 使う武器種の形状がスキルと大きく離れていれば本来正確には発動しないはずのそれは、くろあんが動物の形でアーツを放つという何かしらの装備効果を有しているがゆえに有効となっているようだ。

 翼を広げた大鷲の形をしたライトエフェクトがムラマサに迫る。

 三度目の<流>と激突した大鷲は弾けるように消えて、ムラマサの攻撃を中断させることに成功していた。


「もう一度だあ! <イグル・ヒット>」


 大きく振り抜かれたトライアンフを持つ腕から飛び出す大鷲のライトエフェクト。

 甲高い大鷲の声が聞こえてくるかのようだ。

 ばさりと翼をはためかせる大鷲が鋭い爪を向けてくる。だとしても攻撃判定があるのは爪だけではないはず、その全身が武器も同然なのだろう。

 ムラマサは攻勢に出ていたことで大鷲を避けることはできない位置に立っている。それならばと四度目の<流>を発動させてくろあん本人ではなく大鷲のライトエフェクトを切り払った。

 ボンッと何かが弾けるような音と共に消える大鷲のライトエフェクト。

 襲ってくる突風のような衝撃波を堪えてムラマサが更に前に出た。


「決着だ!」


 近付くムラマサにくろあんが叫ぶ。

 消えた大鷲のライトエフェクトを見届けることなくトライアンフを構えて更なる攻撃を仕掛けた。

 繰り出されるのは<クラッシュ>と<ファング>の連撃。ライオンと虎のライトエフェクトが続け様に大口を開けてムラマサに襲い来る。

 ムラマサはまたしても<流>と<朧>を連続して放ち、それぞれのライトエフェクトを打ち砕いた。


「ああ。決着をつけよう」


 くろあんに応えてムラマサは最も攻撃範囲が広い<八咫烏(やたがらす)>を放った。

 先程放った<八咫烏>は空を切った。くろあんのように動物の形をしたライトエフェクトを飛ばすことができないムラマサのそれはあくまでも白狼を用いた斬撃を拡大させるものに過ぎないからだ。

 しかしその本来の威力はムラマサが使えるアーツの中で最も高い。

 大振りになるために当てることが他のアーツに比べて難しいその一撃をムラマサは自ら相手が攻撃範囲に入るように踏み出すことで正確に命中させてみせたのだ。

 ぐんっと勢いよく減っていくくろあんのHPゲージ。

 最後の抵抗だと言わんばかりに突き出したトライアンフの切っ先がムラマサの鼻先へと迫る。

 白狼を振り抜いた格好で停止するムラマサ。

 トライアンフを突き出した格好で動かないくろあん。

 ふっとくろあんが微笑む。

 言葉を発することなくくろあんの体が光の粒となって弾けて消えたのだった。



ムラマサ レベル【26】


武器


【白狼】――白銀に輝く刀身が美しい刀。剣戟を繋げることができるようになる。


外装防具


【なし】――。


内部防具


【流水の着流し】――激流を象った紋様が施された着物。纏った者に水の加護を与える。


習得スキル


≪刀・7≫――<流>激流のように切り払う。体勢を崩した相手にはより大きいダメージを与えることができる。

≪太刀・3≫――<朧>勢いを付けて切り上げる。相手の防御を崩すこともある。

≪小太刀・6≫――<貫>的確に一点を貫く突きを放つ。武器の重さによって威力と速度が変化する。

≪直刀・5≫――<八咫烏>攻撃範囲の広い斬撃を放つ。攻撃範囲と威力は武器によって変化する。


残スキルポイント【0】


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