闘争の世界 ep.27 『繋ぐのはおれだ』
数日前より新作投稿始めました。
タイトルは【アルカナ戦記~機械に狙われた世界で最強の力を振るう俺~】となります。
宜しければ試しに一度読んでみてくださいな。
戦闘が始まってからすぐに取ったマルバの構えを一言で言い表すのならば“静”だろうか。表面が丸みを帯びた無地の盾を前に、鞘から抜いた直剣の切っ先を下げて真剣な面持ちでハルを見ている。
これが初戦となるマルバのHPは当然万全な状態。それに比べてハルのHPはサンゴとの戦いで半分近く減らしてしまっている。
最初から不利な戦いだとしても構うものかとハルは普段と変わらぬ様子でハルバードを構える。
待ちの体勢から想像するにマルバはカウンターの攻撃が得意なのだろう。だとしたら不用意に攻撃を仕掛けるのは自滅行為も同然。そう思いつつも当初から自分が不利な立場にいると考えていたハルはじっと睨み合いとするなんてことはできなかった。
堪えきれなくなったというわけではないが、自分から手を出さずにいたら何も状況が変わらないのは間違いない。
だからこそ、ハルはハルバードの切っ先をマルバに向けて突撃を繰り出した。
「驚きました。コレを見ても正面から来ますか」
感心したというようにマルバは造形の整った顔で笑みを浮かべる。
無謀とも取れるハルの突進とそこから突き出されたハルバードの先端に合わせて盾を構えたマルバは腰を落として衝撃に耐える体勢を取った。
「貫せてもらう!」
「貴方にはできないかも知れない」
「どうかなっ!?」
強く舞台を踏み締めてハルが勢いよくハルバードを突き出す。
マルバの盾がハルバードと激突すると凄まじい轟音が鳴り響く。
「どうですか? 貴方が思っていたよりも硬いでしょう」
「いいや、押し切るさ!」
「えっ?!」
強引に盾の上からハルバードを押し込んでくるハルにマルバは驚きの表情を浮かべた。しかし自分の盾によほど自信があるのか一切驚く素振りは見せない。
それどころか盾で防御することでハルを自分の攻撃が届く距離に引き寄せたマルバはずっと機会を狙っていた直剣を盾の後ろから突き出してみせた。
「ハアッ」
「くっ」
「上手く避けましたね」
「そっちの狙いが甘いんじゃないか」
「言ってくれますね。でしたら、これでどうです!?」
当然に眼前に迫る刃に思わず身を引いてしまったハルの顔の横をマルバの直剣が通り過ぎた。
もし身を引いていなければ、その刃はハルの頭を的確に穿っていたことだろう。防御からのカウンターを得意とするだろうと想定していたとはいえ、その一連の動作は堂に入ったものがある。
バランスを崩すことなく下がって回避したハルだったが、マルバの直剣が繰り返しの突きによる追撃を繰り出してきた。
体を動かすことによる回避には限界がくる。
長めに持っているハルバードを短く持ち替えて突き出される直剣を防御し始めたハルだったが、武器の重さや使い勝手に違いがあるためか、次第に捌ききれなくなっていった。
全身を覆う鎧に小さな傷が付き始めるとハルのHPが少しずつではあるがダメージを受け始めたのだ。
「このお、離れろ!」
「おわっ」
ハルが思いっきりマルバの盾を蹴り飛ばす。
本来は防御を主としているマルバが攻勢に出たことでほんの僅かながらも疎かになってしまった防御の隙を突く蹴りによって半ば強制的に広がる両者の間の距離。
咄嗟に盾を構えて身を隠すマルバ。
ハルは己のハルバードを横薙ぎに振り回してマルバの接近を牽制していた。
仕切り直しになった激突でダメージを受けてしまって一層不利になったのはハル。マルバは自分が有利な状態を維持して勝利を収めるべく次の一手を探し始めた。
マルバの持つ直剣ではハルの鎧を貫くことは難しい。だけどそれがハルにダメージを与えられるのかという意味ではあまり関係のないことだ。現実ならば鎧を破壊しなければその内側の体に傷を付けることは叶わない。例えば鎧の繋ぎ目や人が着る物であるいう構造上、どうしても体が剥き出しになってしまう場所がある。其所を狙えば致命傷を与えることもできるだろう。
だが、この世界ではその限りではない。確かに防御の薄い場所を狙った方が与えられるダメージ量は増える。しかしそれ以外に当てたとしてもダメージは正しく与えられる。突き詰めたところ“攻撃”だとシステムが認識する攻撃を相手の体に当てることさえできればいいのだ。
非力である人や戦闘に不慣れな人、あるいは戦闘が苦手な人であっても攻撃できるようにという運営の配慮の結果だった。
「このまま全部削り取らせてもらいます」
マルバは少ない手数で致命傷を与えるよりも多い手数で着実にHPを削ることを選択したようだ。
「だったらおれはこの一振りの下、あんたを叩き伏せてやるさ」
ぐっとハルバードの柄を握り宣言するハルにマルバは引き攣ったような笑みを浮かべていた。
自分の不利など一切感じさせないような余裕に満ちた声。どんなに優勢を保てていても警戒を怠ってはいけないということは対峙しているマルバが一番感じていることだ。
マルバがじっと盾を構えて攻撃を繰り出すタイミングを見計らう。
先程とは反対に今度はハルがマルバの挙動にハルバードの切っ先を合わせて動かしている。
待ちの体勢にあるのは両者同じ。しかし、功を焦って先に手を出してしまったのは意外なことにマルバの方だった。
「動いた!」
盾を前に突き出した格好でマルバが迫ってくる。
器用にも目元から上だけを盾の上に出した格好だ。右手には直剣がハルが待ち構えているところを狙い定めていることだろう。
ギリギリまで引き付けるべきだとつい反撃に出てしまいそうになる自分を必死に抑えて堪えて、最大の反撃ができるまで待つ。
マルバが突き出したのは直剣ではなく盾。
シールドバッシュと呼ばれる攻撃だ。
「<ハード・バッシュ>」
アーツの名前を宣言したことでマルバが構える盾を光が包み込む。
<ハード・バッシュ>はスキル≪大盾・4≫で使えるようになる確率でノックバックを発生させる強打のアーツである。一定の助走距離が求められることを除けば比較的使いやすいとされているアーツだ。
ハルの予想ではマルバの攻撃は直剣によるもの。しかし彼女は防具である盾を武器として使ってきた。
ギリギリまで引き付けていたことが裏目に出てしまったとハルは<ハード・バッシュ>の直撃を避けることができなかった。
硬い鎧を襲う激突がそれまでに無いほどの衝撃を発生させる。
体を大きく仰け反らせて攻撃を耐えているハルが奥歯を噛み締めて渾身の力でハルバードを突き出した。
ハルにはアーツを発動させる余裕などはない。
ノックバックを起こして反撃の芽を摘んだつもりだったマルバにとってハルが行った攻撃を受けながらの反撃は予想外でしかない。そのために追撃のアーツを発動させることができずに、突き出されたハルバードを一撃をその身に受けてしまう。
「くうぅ」
ダメージは少ない。だが、本来は受けるはずの無い一撃だ。戸惑いを受けて手を止めてしまったマルバの視線の先で想像以上の動きを見せて反撃したハルは大きく吹き飛ばされて地面を転がっている。
ガリガリと音を立てながら地面に爪を立ててブレーキを掛けるとハルは体勢を整えることもなく即座に立ち上がって駆け出した。
この時のハルはマルバのHPゲージを気にしてなどいなかった。といよりも一割近くしか残っていない自分のHPゲージと回避よりも相手の攻撃を受けてからの反撃を得意としている普段の自分の戦い方を思えばこれだけ開いてしまった差は埋めようのないものだと理解できてしまった。
「<剛切轟断>!!」
スキル≪ハルバード・9≫で使えるようになる赤黒いライトエフェクトを伴った強力な斬撃を放つことができるという現時点のハルにとって最も威力が高いアーツだ。
鬼気迫る表情で叫ぶハルにマルバは無意識のうちに盾を構えて防御を選択していた。それはハルの迫力に臆したというわけではない。自分の盾の防御力に絶対の自信があったからこその選択だった。
ハルバードの軌道は単純明快。マルバが構えている盾を上から叩き切るための振り下ろし。
傍から見ていたら回避してしまえばいいとすら思えるほどハルが行ったのは素直な攻撃でしかないのだが、実際に対峙しているマルバにとっては回避不可能に思えるほどの気迫が乗った一撃だったというわけだろう。
「<城壁防御>」
マルバの盾に先程とは異なる澄んだ水色の光が宿る。
スキル≪タワーシールド・2≫で使えるようになる縦の防御範囲と防御力を増加させることのできるアーツだ。
より硬くなった自分の守りにかなりの自信があるということなのだろう。
光る盾に身を隠して待ち構えているマルバにハルは力いっぱいハルバードを振り下ろした。
「砕けろおおおおおおおおおお!!!」
「はああああああああああああ」
二人の気合いがぶつかり合う。
異なるアーツのライトエフェクトが激突して周囲に眩い光が迸る。
ピシッと何かが割れる音がした。
それはマルバが構えている盾の表面に大きな亀裂が入ったことによって響いた音だ。
「おぉりゃああぁぁ」
全身全霊の力を込めてハルバードを振り下ろす。
ぶつかり合っていた二つの光はハルバードが纏っている赤黒い光に呑まれて一つになった瞬間に地面に激突して弾け飛ぶ。
マルバが構えていた盾に刻まれた亀裂は瞬く間に全体へと広がっていき、その中心から真っ二つに割れてしまった。
滅多に壊れることの無い装備が壊れるという事態になりこの戦いを見ている人たちに歓声が沸き起こる。
当事者であるハルはマルバに攻撃が届かなかったことを悔やみ、マルバは自慢の盾が壊されたことに驚愕してそれどころではなかったのだが。
「やりますね。ですが、あと一歩、惜しかった。勝のは私です」
壊れた盾を投げ捨てて両手で直剣を構えるマルバ。
渾身の一撃を放った直後で無防備になってしまっているハルは直剣を振り上げたマルバを見上げて無数の傷が刻まれている兜の奥で笑みを浮かべた。
「だけど、繋げたさ。これで盾は使えなくなっただろ」
「……!」
笑顔の理由を隠し立てすることもなく告げたハルにマルバは苦笑で返す。
「そうですね」
盾を使う戦い方をするマルバにとって盾を失うことは片腕を失うことも同然。次の戦闘のことを思えばこれはかなりの痛手となった。
開始直後から不利になったことは変えられない。
それでもとマルバは綺麗に直剣を振り下ろした。
防御することもなく、一刀を受け入れたハルのHPゲージがゼロになる。
次の瞬間、ハルの姿は光に包まれて戦いの舞台から消えてしまった。
「うーん、予備を用意していればよかったかな」
直剣を鞘に戻してマルバは小さく呟いた。
誰にも届くことのない言葉だ。
受けたダメージは少ないが、盾を失ったことはそれ以上に次の戦いに影響が出ることだろう。
気を引き締め直してじっと戦いの舞台で待っていると次なる対戦相手を届ける光がぼうっと浮かび上がった。
転送の光はゆっくりと消え、その中から現われた金属製の鎧を一つも装備していない、長い刀を腰から提げた麗人が自然な佇まいで立っていた。
「貴方が次の相手ですか?」
マルバは離れた場所に立つ麗人に声を掛けていた。
体の線が細く、一結びになっている長い髪が風に靡き、ゆっくりと開いた色素が薄い青色の瞳は対峙するマルバを映す鏡のよう。纏っている着物のような防具は一体何処で手に入れたというのだろうか。
自分の鎧もかなり満足する性能とデザインをした防具だと、それも自分に似合っていると自負しているというのに、不思議とマルバは目の前に立つ麗人から目を逸らすことができなくなっていた。
「ああ、そうさ。オレはムラマサ。互いに良い勝負をしよう」
綺麗に笑うムラマサ。
程なくして戦闘開始前のお決まりのアナウンスが流れるとマルバ対ムラマサの試合が始まった。
ハル レベル【23】
武器
【青流のハルバード】――凄まじく速い水の流れすら両断するとされているハルバード。その刃先は水を受けて切れ味を増すという。
外装防具
【闘士の全身鎧】――熟練の闘士が纏っていたとされる鎧。しなやかで硬いその装甲はあらゆる攻撃を受けても形を崩さない
内部防具
剛猿の鎧――群れの長を長年勤めた大猿の毛皮を使った鎧。並大抵の火では焦げ目すらつかない。
習得スキル
≪ナギナタ・6≫――<乱れ突き>使用する武器の能力によって繰り出す回数が異なる連続突きを放つ。
≪ハルバード・9≫――<剛切轟断>刀身にオーラを纏わせて破壊力を高めた一撃を放つ。低確率で相手の武装を破壊することがある。
≪棒・1≫――<突き抜け>長い棒の先端で威力を高めた突きを放つ。
≪戦斧・3≫――<連なり穿ち>戦斧の強固な刀身による連打を放つ。威力は武器が硬ければ硬いほど上がる。
残スキルポイント【0】
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