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闘争の世界 ep.25 『最初はおれだ』


「先鋒はおれが行く」


 自分たちに宛がわれた控え室でハルが意気揚々と告げた。

 既に兜を被っていているハルは戦意を漲らせながら背中に背負うハルバードを掴んでいる。

 やる気に満ちたその姿を目の当たりにすれば止めることなど出来やしない。

 俺とムラマサは声を揃えて初戦を任せることを告げるとハルはその声に応えるように拳を振りあげて控え室から戦場へと向かっていった。

 転送ポータルの光に包まれ姿を消したハル。

 控え室に残った俺たちは静かに浮かぶモニターに視線を向けた。


 観客はいないのに歓声に包まれた戦いの舞台に立ったハルは独特の高揚感に包まれていた。


「お、あいつがおれの最初の相手か」


 戦いの舞台の向かい側に立つ男を見てハルが独り言ちる。

 男の格好は格闘技の道着のようなものを着ている。目に見える武器もなく、戦うスタイルは素手による格闘なのだろうか。

 ここに来て浮かんでくるようになった視界の上部にある二本のHPゲージ。左側に伸びたそれが自分のもので右側にあるのが相手のHPゲージなのは間違いない。よくある格闘ゲームのインターフェースだ。


『両者、前へ!』


 対戦者だけに聞こえてくるアナウンスの声が響く。

 その声に従ってハルとその対戦者である男はゆっくりと戦いの舞台へと上がっていく。

 戦闘開始が告げられるよりも前にハルはハルバードを持ち構え、男はどこからともなく取り付けた鋼鉄製の手甲をガチンガチンと打ち合わせている。

 固く結んだ口に険しい顔つきをしている男。

 二人の対戦者が戦いの舞台に立った瞬間に浮かび上がる両者の名前。ハルの上には“ハル”という名前が。男の上には“サンゴ”という名前がある。


「良い勝負をしようじゃないか」


 互いの声が届く距離に立った瞬間、サンゴが爽やかに告げてきた。


「おう! もちろんさ」


 ハルは戸惑うこともなく快活に答えている。

 格闘技の選手が互いの健闘を称えるために拳を打ち合わせるように、和やかに近付いて来たハルとサンゴは互いの拳を打ち合わせた。


『両者、準備は宜しいか?』


 まるでその行為を見届けていたかのように、無人のアナウンスの声が響く。

 互いに数歩下がって一定の距離を作り出す。

 ハルはハルバードを構えて、サンゴはまるでボクシングのような構えを取った。


『試合、開始!!!』


 バンッと号砲が轟いた瞬間、サンゴが一気に飛び出してきた。

 両手をグッと体に引き寄せて攻撃の機会を探っているサンゴにハルは自分が構えるハルバードの切っ先を向ける。

 素手に比べれば確実にリーチに優れるハルバードという武器を使っているハルの方が有利であるはずなのにどうしてだろうか、サンゴが放っているプレッシャーにハルは攻勢に出ることができないでいた。

 ハルが攻めあぐねているのを瞬時に見極めたサンゴは、瞬時に体の向きを変えてハルの懐に潜り混んだ。


「隙だらけだぜ」

「くっ」


 いきなり正面に来たサンゴに虚を突かれたハルは防御が間に合わない。それでも直撃を避けるために身を反らすもサンゴが突き出してきた拳は的確にハルの顔を追いかけてくる。兜に守られていても顔を殴られてば衝撃は凄まじい。それだけじゃない。現実の戦いとは異なり、この世界での戦闘では痛みを感じることはなくともダメージを受けてしまう。


「こんな攻撃くらいで!!」

「おうっっと。危ないな」

「逃がさない!」


 受けた衝撃とダメージとの差異は如実に表れた。ハルは自分ではそれほど強い打撃を受けたとは思っていなかったというのにダメージとして減少したHPゲージは想定以上に多い。それでも倒れることはなく、即座に反撃に出る。

 ハルバードで薙ぎ払うことでサンゴを離れさせてから追い打ちをかけるために突き出す。


「ぐおっ」


 バックステップで回避したサンゴは最後の突きまでは避けきれずに受けて強く胸を打ち付けていた。

 アーツを使わない通常攻撃の応酬。開幕直後の激突だからこそ派手な攻撃はないものの地力が出る打ち合いだった。

 結果は互角。殴り付けられたハルも、ハルバードによって突かれたサンゴも同程度のダメージを負ってしまっている。


「やるな」


 にやりと笑い戦意を漲らせるサンゴ。

 その向かい側でハルは兜の奥で顔を顰めていた。


「簡単には勝たせてもらえなさそうだ」


 容易く圧勝するつもりだったハルは予想外の手強さに気を引き締め直す。

 ハルバードを構え直して、より真剣な面持ちで対峙するサンゴを睨み付けた。


「ハアっ」


 全身鎧の重さを感じさせない軽やかな動きで前に出るハルにサンゴも同じように前に出る。


「そうりゃっ!」


 突き出されたハルバードの切っ先にサンゴは手甲を付けた拳を打ち付けた。

 二人の攻撃は互いを打ち消しあって、ダメージを与えることなく衝撃だけを生み出していた。


「うおっ」

「くっ」


 同時に体を抜ける衝撃に二人の声が出た。

 弾かれて切っ先が上がってしまったハルバードと振り上げられた腕。この状況で次の攻撃に早く出ることができたのはサンゴの方だった。

 ハルバードを殴り付けたのとは異なる方の腕で殴り掛かってくるサンゴにハルは己の拳を打ち合わせた。


「ほう」


 感心したような声を出したサンゴ。しかし悲しいかな。格闘を己の戦い方の主軸に捉えていなかったハルはサンゴのパンチに打ち負けてしまう。

 容易く殴り飛ばされてしまうハルの拳。


「<乱れ突き>!!」


 ハルバードでも使うことのできるスキル≪ナギナタ・6≫で使えるようになる連続突きのアーツだ。突きの回数は使う武器によって決まる。ハルが使っている【青流(そうりゅう)のハルバード】の場合、突きの回数は最大で七連撃となる。


「<双角連打(そうかくれんだ)>!」


 突然のアーツ攻撃に一瞬戸惑ったサンゴも直ぐにそれに合わせて即座に己が使える連撃のアーツを発動させた。

 <双角連打>はスキル≪拳打・5≫によって使用可能となるアーツで、奇しくもハルが使う<乱れ突き>と同じように装備している手甲、あるいはグローブの性能によって連打数が決まる。サンゴの手甲【堅手(けんしゅ)銀板(ぎんばん)】では十回までの連打が可能となる。

 アーツのライトエフェクトを伴う連続攻撃がぶつかり合う。

 観客の目には断続的に迸る閃光が派手な打ち合いに見えていることだろう。

 事実この戦いを見ている人たちは熱狂に包まれている。

 とはいえ本人たちにとってはそんなこと知る由もない。突き出される互いの一撃を裁くことに必死になっていた。

 大きなダメージを与えることができないまま、アーツのライトエフェクトが収まった。

 最大数の連撃を放つことができたハルに対してサンゴは最大数の連打を繰り出すことができなかった。連撃の最後に突き出したハルバードの一発を打ち消すことに失敗したことで連打が途中でキャンセルされて止まってしまったのだ。


「<猛打掌(もうだしょう)>」


 拳を握るのではなく軽く開いた掌底の突きを放つサンゴ。

 ハルは迫る掌底をハルバードの石突きで突き上げる。


「そう、りゃっ」

「ぐふっ」


 掌底がハルバードと当たった瞬間にサンゴは気合いを放つ。すると驚いたことにハルバードを通してハル自身に衝撃が襲い掛かった。

 それこそがサンゴが使う<猛打掌>がもつ特殊効果。いうなればダメージの透過である。本来は硬い体を持つモンスターに有効打を与えるためのアーツだが、対人戦で使用すれば一定の防御を無視してダメージを与えることができる。使いづらいのはそのタイミングがシビアであるという点。掌底を当てた直後にもう一度突き出す必要があることだ。使用者にはタイミングを示すエフェクトが見えるとはいえ、中々にして難度が高いそれはよほど練習をしない限り実戦では使えないはずだった。

 衝撃とダメージを受けて下がるハル。

 サンゴがそれを追い駆けてよりダメージを与えるべく拳を握る。


「<突き抜け>」


 スキル≪棒・1≫で使えるようになる棒という武器の基本的なアーツを繰り出すハル。

 ハルバードの石突きによる突きの威力を高めることができるアーツはサンゴの肩を穿ち、追撃を妨げるのと同時にダメージを与えることに成功していた。

 受けたダメージも与えたダメージもほぼ同数。

 未だどちらにも傾いていない勝敗を決する天秤はまるで薄氷の上に立つようにギリギリの所で保たれていることをハルとサンゴは互いに理解していた。



ハル レベル【23】


武器


【青流のハルバード】――凄まじく速い水の流れすら両断するとされているハルバード。その刃先は水を受けて切れ味を増すという。


外装防具


【闘士の全身鎧】――熟練の闘士が纏っていたとされる鎧。しなやかで硬いその装甲はあらゆる攻撃を受けても形を崩さない


内部防具


剛猿の鎧――群れの長を長年勤めた大猿の毛皮を使った鎧。並大抵の火では焦げ目すらつかない。


習得スキル


≪ナギナタ・6≫――<乱れ突き>使用する武器の能力によって繰り出す回数が異なる連続突きを放つ。

≪――・―≫――<――>

≪棒・1≫――<突き抜け>長い棒の先端で威力を高めた突きを放つ。

≪――・―≫――<――>


残スキルポイント【0】


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