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闘争の世界 ep.24 『本戦開始』


 戦闘を終えて一息を吐いている俺たちの前に突然、小さな煙が弾けるエフェクトを伴って白猫のケットシーが現われた。


『おつかれさまー』


 短い手を精一杯振りながら可愛らしい声で労ってくるケットシーはトコトコというコミカルな音が聞こえてきそうな歩き方で近付いてきて俺たちを見上げている。

 被っている小さなシルクハットを外して小さな猫の手でくるりと回す。


『おめでとー』


 シルクハットに見える黒い闇から眩い光が空に向かって放たれた。


「うわっ」


 光と同時に舞い散る色取り取りの紙吹雪をまともに浴びたハルが驚いたように声を上げている。

 一歩下がった場所にいたムラマサは困ったような笑みを浮かべて体に付いた降り注ぐ紙吹雪を払っていた。

 大きな鎧の隙間に入った紙吹雪の欠片を摘まみながら問い掛ける。


「大丈夫か?」

「あ、ああ。だいじょうぶ」


 口に入った紙吹雪をぺっぺっと吐き出しながら答えたハルは兜を脱いで勢いよく頭を振っていた。


「ふむ。おめでとうということはオレ達は予選を通過したということでいいのかい?」

『はーい。これで予選通過者が揃いましたー』

「俺達が最後だったのか?」

『いいえー。予選最終戦が終わったのはだいたい似たようなタイミングでしたよー』


 派手な演出が収まったシルクハットに手を突っ込みながら答える白猫のケットシー。

 小さなその手が掴んで取り出したのは掛け軸のように額取られた一つのスクロールだった。


「これが全部予選通過者ってことか」

『その通りですー。ええーっと、みなさんの名前はー』

「んー、ここにあるね」


 しゃがんでスクロールを見ていたムラマサがスクロールの中頃を指差した。

 スクロールに書かれているのはそれぞれのパーティの名称、あるいはパーティリーダーの名前。俺たちの場合はパーティに名前を付けていないためにムラマサの名前がそこに記されている。


『そしてー、これが本戦のトーナメント表になってまーす』


 どーんという擬音を背負って見せ付けてくる白猫のケットシー。俺たちは誘われるようにスクロールを見つめるのだった。


「……全部で32パーティか」

「それって多いのか?」

「どうかな。とりあえず本戦は五回勝てば優勝できるみたいだけど」

「んー、予選に参加していた人の数から考えれば少ないんじゃないかな」


 トーナメント表を見ている間はじっと動かずにいてくれる白猫のケットシーの前で小声で話し合っていると、暫くしてから白猫のケットシーの腕がぷるぷると震えだした。

 スクロールを持ち上げることに疲れてしまったのだろうと気付いたムラマサが優しく受け取ろうとするも、白猫のケットシーは頑なにスクロールを渡そうとはしなかった。仕方ないとスクロールを受け取ることを諦めて立ち上がったムラマサの後に続いて俺とハルも立ち上がった。

 ふうっと息を吐いてスクロールを下ろした白猫のケットシーは慌ててもう一度スクロールを掲げる。


「オレ達はしっかり見たから下ろしてくれても大丈夫だよ」

『いえっ、まだなんです』


 ふんっと鼻息荒く胸を張る白猫のケットシーが掲げているスクロールに表示されている文章が変わった。

 スクロールの文章を読み上げていく白猫のケットシーの話す口調がいきなり機械的なものに変わる。


『これが本戦の日程です。本戦は明日から二日間で行われます。初日は本戦の一回戦と二回戦と準々決勝が行われて、二日目に準決勝と決勝戦が行われる予定です。本戦の日程とトーナメント表は後にメッセージで各自にお送りしますので確認して下さい』


 機械的な口調で話す白猫のケットシーが言い終える可愛らしく一礼してこの場から消えて行った。

 残った俺たちも今日の疲れを癒やすべくこの日はゲームを終えることにした。

 現実に戻って真っ先に確認したのは運営から送られて来たメッセージ。そこにある本戦の日程表を確認すると本戦が始まるのは明日の昼一時。トーナメント表を見た限り俺たちの出番は第三試合になるらしい。

 夕食を終えて、眠り、起きたのは次の日の十一時。

 余裕を保つのならあと一時間くらいでゲームを始めた方がいいだろう。

 手早く朝食を兼ねた昼食を終えて、トイレを済ますと丁度良い時間になった。

 ログインしてゲームを再開する。

 俺は本戦に進出した全てのパーティに宛がわれた本戦会場の控え室に自動的に送られていた。


「お、来たか」


 先に来ていたハルが声を掛けてきた。


「ムラマサは?」

「もうそろそろ来るんじゃないか? ほら、噂をすれば、だ」


 部屋の一角に転送の光が灯る。

 俺もこんな感じで来たのかとぼんやりと考えているといつもの格好をしたムラマサが光の中から現われた。

 視線が自分に集まっていることを感じたムラマサは来て早々俺たちに訊ねてきた。


「ん? どうかしたのかい?」

「なんでもないさ。これで揃ったな」


 ハルが俺たちの顔を見渡して言う。

 控え室の中央に浮かぶホログラムのモニターがゲームの公式サイトにて生配信される本戦を映し出している。放送が始まっていない現時点でも視聴者数はかなりのものになっていて、ゲーム開始に先駆けたプレ大会という面目躍如にはなっているらしい。

 モニターにはゲームのデモ映像と大会の公式サイトの画像が繰り返して映されている。

 本戦開始の時間でもあり生配信開始の時間がやってきた。

 本日限定のデモ映像と大会映像が組み合わされたオープニング映像が流れる。

 一分半ほどの動画が終わり、次に映ったのは大会の進行を務める運営の人とタレントの人のキャラクター姿だった。


『はい。始まりました。【ARMS・ON・Verse】ゲーム配信記念、プレ大会。本戦第一日でーす。進行は私、【ARMS・ON・Verse】の広報担当【カタハシ】と』

『公認配信者の【土佐ケン】がお送りします』


 カタハシはスーツを着た男性で、土佐ケンは犬耳カチューシャを付けた美少女だ。

 二人はこの大会とゲームについての説明を終始和やかに行い、続けて本戦に進出したプレイヤーの紹介を始めていた。

 参加しているプレイヤーはある意味で素人の集まり。それを理解しているからこそ、それぞれにインタビューを行うのではなく、進出者の予選の様子を切り取った紹介映像が映し出され、カタハシの補足説明と土佐ケンによる印象優先のリポートが行われている。


『ここで本戦のルールを説明致します』


 一通りの紹介を終えると映像が切り替わりそれに沿ってカタハシが説明を始めた。


『本戦第一試合はパーティ戦ではなく個人戦の勝ち抜き戦となります。最終的にパーティメンバーが全員負けると敗退となりますので頑張ってください』

『ということは最初の一人で三人抜きも可能というわけですね』

『その通り。ですが、本戦では戦闘中に回復アイテムの使用は不可となっていて、受けたダメージは回復することなく引き継がれることになっています』

『回復するにはどうすれば良いのですか?』

『基本的に試合が終われば全回復するようになっていますが、個人が回復系のスキルを持っている場合はその限りではありません。回復アーツを使えば戦闘中であっても体力を回復させることができます』

『なるほどー』

『ゲームシステムでは使用出来るアーツは四つとなっていますので、強力な攻撃を行うか、回復するのかは個人のセンスによるところが大きいですね』


 コメントを織り交ぜながらの説明が行われている裏で、最初の試合を行うプレイヤーに試合準備を行うようにというアナウンスが流れていた。

 俺たちは固唾を飲んで配信を見ていると程なくして本戦第一試合の最初の試合が始まった。

 プレイヤー同士が激突する。

 個人戦の連戦はどの程度余力を残すかが大事になる。かといって手の抜きすぎれば負けてしまう。

 最初の試合は運営の想定通りに進行した。

 片方の一人目が勝てば次は新たに出て来た二人目のプレイヤーが勝ち残ったプレイヤーを倒して勝つ。その次も同じ展開だった。新しく出て来た方が勝ち、最後の試合は三人目同士の激突となった。

 一試合に掛かった時間はおよそ二十分。

 格闘ゲームの試合と考えれば長く感じるそれも実際の格闘技の試合だと見れば適正な時間配分だったと思う。

 現実の格闘技の試合と異なるのはプレイヤーに身体的な疲労はないこと。どれだけ連続して戦っても問題ないのはゲーム故の特性だろう。


 最初の試合が終わった。

 勝ったのは初戦を制したプレイヤーがいる方だった。

 アイテムで体力の回復ができないというルールは先制を制したほうが有利になるようだ。

 配信画面では試合を解説と実況をしながら見ていたカタハシと土佐ケンが興奮気味に盛り上がっている。

 五分ほどのインターバルを挟んで本戦第一試合の次の試合が始まった。

 先行有利ならぬ先制有利に思えた本戦第一試合も一概にそうではないことが分かった。この試合では先制を取られた方のパーティの二人目のプレイヤーが獅子奮迅の活躍を見せたのだ。

 一人目を倒して、次に二人目をも倒す。体力の限界が来たのは三人目の体力を半分近く削ったころ。人数的にはどうにかイーブンに持ち込んだものの、三人目同士の試合は順当に体力が万全な方が勝利を収めていた。


「次はオレ達だ」


 試合の途中に自分たちの控え室のモニターに準備をするようにというアナウンスが流れ、同時に消えていた転送ポータルが出現していた。

 試合を最後まで見ていたいという気持ちに後ろ髪を引かれながら俺たちは転送ポータルを使って戦場に向かう。

 淡い光に導かれた先は戦闘が行われていない舞台の袖だった。


ユウ レベル【21】


武器


閃騎士の剣――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


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