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闘争の世界 ep.22 『予選最終戦~その①~』



 夜の七時。

 二時間程度の休憩を挟んで俺は再びゲーム世界へと来ていた。

 見慣れない小さな部屋。埃一つ落ちてなく、テーブルも椅子も傷や汚れ一つない新品そのもの。装飾品の類は何一つ置かれてはおらず、また窓もない。完全に閉鎖されたこの部屋は苦手な人は苦手に感じるだろうと俺はぼんやりと考えていた。



「準備はどうよ?」



 椅子には座らずに立っているハルが俺とムラマサに問い掛けてきた。

 ハルが装備している鎧も背負うハルバードも以前と変わっているようには見えない。しかし自信に満ちた雰囲気を纏う彼は予選最終戦に向けて万全な準備を終えているようだ。

 それは俺も同じ。ムラマサも一緒だろう。



「できる限りのことはしてきたつもりさ」



 腰の刀に手を添えながら答えるムラマサに続いて俺も「良い感じだ」と言ったのだ。

 それから程なくして俺達がいる小部屋のドアが勝手に開いた。

 ドアの先には何も見えない。光が満ちていて廊下があるかどうかすら怪しいくらいだ。

 不意にアナウンスが流れる。


『予選最終戦に出場するプレイヤーはドアを潜り会場に向かってください』


 俺達は頷きあい、歩き出す。

 光の扉を抜けた先にあったのは正方形の石が敷き詰められた広い舞台の上だった。



「闘技場みたいだな」

「確かに」

「広さは段違いだけど」

「そうだな」



 第一印象をそのまま声に出したハルに俺は頷いて応えていた。



「おや? 二人は闘技場に挑んでいたのかい?」

「普通にダンジョンに潜っていたんじゃ武器が更新できなかったからさ」

「おれは純粋にタイマンの経験を増やしたくてだな。ついでにいいレベル上げにもなったぞ」

「なるほど。戦果は上々だったみたいだね」

「まあな」



 腰の後ろにある閃騎士の剣に触れながら答える。

 いつ予選最終戦が始まるとも知れない状況だというのに俺達は意外なほどにリラックスすることができていた。

 そんな俺達の前でポンッとコミカルな煙が弾けると、その中から服を着た二足歩行の猫が現われた。


『やあやあ、ボクはケットシー。ボクが今回のルールについて教えるよ』



 つぶらな瞳をこちらに向けてケットシーが大袈裟な動きをしながら告げる。



『予選最終戦のルールは三対三の総力戦。武器防具に制限は無いけれど、戦いに持ち込めるアイテムはこちらが用意したものだけになるからね。戦闘開始は三分後。それまでに準備を終えるよーに』



 言うだけ言ってケットシーは再びコミカルな煙を出して消えていた。

 ケットシーが居た場所に残される金属製の無地の箱。ムラマサがそれに手を伸ばすと箱はひとりでに開かれ、その中には見慣れたHP回復用のポーションが六つとMP回復用のポーションが三つ入っている。



「全員均等に分けられるみたいだね」



 ムラマサが二本のHP回復用と一本のMP回復用のポーションを持ち上げる。それに倣い俺とハルもそれぞれ自分に宛がわれたポーションを掴んだ。

 大きな箱に九つの薬瓶。あからさまに大袈裟過ぎる感が否めないが、気にする必要はないのだろう。

 いつの間にか設定されていた臨時のストレージにそれが収まる。メニュー画面でよく見てみれば全てのポーションに【支給品】という単語が付け加えられていた。どうやらここで使わずに持ち帰ることはできないようになっているらしい。同時に使い渋る必要もない。どうせ回収されるアイテムだ、遠慮無く使ってしまおうと決めた俺はその瞬間が訪れるのを待ち構えた。

 舞台の中心に俺達の元へと現われたケットシーとは別の個体が現われた。まるで格闘技のレフェリーのように俺達を呼びつける。

 最初に呼ばれたのは俺達ではなく、対戦相手のプレイヤー達。

 全員が黒いローブを纏い、自身の陰に隠すように武器を持っている。男か女かすらも分からないその見た目に訝しんでいる俺を舞台にいるケットシーが呼んだ。



「行こうか」

「ああ」



 ムラマサの号令を受けて俺とハルは彼女の後ろに続く。

 特徴的な着物の戦衣装を纏い、颯爽と歩くムラマサの腰には青い鞘に収まる一振りの刀があった。元々ムラマサが使っていた狼牙刀とは違う新しい刀を手に入れたようだ。

 防具も武器も新しくしたムラマサの左側にいるハルはいつもと変わらぬ様子だ。無論装備が変わっていないというだけではなく、その佇まいも普段と変わっていない。

 戦場に立った瞬間に俺は平時は装備されていない兜を身に着けていた。外装防具である【竜玉(ドラグライト)(アーマー)】の特性である。

 ハルは自らの手でヘルムを被る。

 素顔が剥き出しのムラマサの横に痩身の鎧を纏った俺と重装備のハルが並ぶ。



『そろそろ始めるよ。いいね?』



「ああ」と頷くムラマサ。

 コクリと頷く黒いローブを纏ったプレイヤー。

 双方の合意を受けてケットシーが空に向けて空砲を鳴らす。

 瞬間空に浮かんだのは舞台に立つ六人のHPゲージを映した画像。

 俺達は号砲を聞き、即座にそれぞれの武器を抜いていた。



「散!」



 構える俺達を前に黒いローブの三人が一斉に散らばった。

 引き寄せられるように駆けて行く黒いローブを纏うプレイヤーを目線で追った。

 バッと黒い何かが眼前に広がる。



「――っ!」



 咄嗟に閃騎士の剣を振り上げる。一筋の切れ目が入りその向こうに見つけたのは不気味なデザインの黒い鎧を纏った長身の男だった。視界を遮ったのは彼らが纏っていた黒いローブで、それを脱ぐのと同時に俺達から身を隠して先制攻撃を仕掛けるつもりだったのだろ。

 事実、ハルとムラマサが対峙しているプレイヤーは機会に乗じてそれぞれの武器を振るっている。

 ハルが相対しているプレイヤーは藍色の軽鎧を纏った薄桜色をした長い髪の少女で、使っている武器は先が十字の槍。上空に浮かぶ画像と照らし合わせると彼女の名前はアレアというらしい。

 ムラマサが戦っているのは濃紅の軽鎧を纏った青銀色の短髪の少女。身の丈以上もある大太刀を片手で軽々と操り、軽い身のこなしで動き回りながら斬り付けている彼女の名はメリナ。

 防具や髪型、使う武器は違うが、顔の作りや体格はアレアとメリナは良く似ている。現実ではどうなのかは分からないが、少なくともこの世界では双子として作成したようだ。



「来ないのか?」

「生憎と俺は正々堂々が好みでね。不意打ちのような真似は趣味じゃないんだ」



 俺の問いに男はニヤリと笑いながら答えていた。

 男の手にある武器は剣。がっしりとした体つきと禍々しいまでの黒い鎧のせいで気付きにくいが、それは片手剣ではなく本来は両手で扱う大剣のようだ。

 闇を写したような黒髪に微かに残る顎髭。

 年齢は三十前半といった所だろうか。現実のそれに合わせる必要が無いために平均して二十代中盤かそれ以下であることが多い見た目の年齢を思えば、あきらかに年上の印象を受ける。

 彼の名前はルガル。声を聞く限り先程の号令は彼ではないようだ。



「準備はいいか?」



 大剣を片手で持ち上げてその切っ先を向けてくる。



「行くぞ」



 返答を待たず、ダンッと強く床を踏み込んだルガルが大剣を振り下ろす。

 まるで片手剣であるかのよに軽々と振るわれるそれに俺は咄嗟に閃騎士の剣を打ち合わせていた。



「ほう。良い剣だな」

「ああ。自慢の剣さ!」



 ルガルを押し返して即座に返す刀で斬り付ける。

 しかし、その時既にルガルは俺の剣が当たらない距離に立っており、俺の反撃は空振りに終わった。



「だが、使い手がまだ甘い!」



 再び瞬時に距離を詰めてくるルガル。

 見た限り彼はアーツの類を使ってはいない。どうやらあの動きは全て素の状態で行っているようだ。



「くっ」

「どうした! それだけじゃ凌げないぜ!」



 どうにか喰らい付こうと必死に防御する俺を嘲笑うようにルガルは大剣を振るい続ける。

 上下左右、縦横無尽に繰り出される剣戟を不格好になりながらもどうにかいなしていく。

 剣同士が打ち付け合う度に俺とルガルは僅かに身を反らしそうになるのを堪えて、相手の追撃と反撃に備えていた。

 体格の差は歴然ながらも、剣を振るう力はある程度拮抗しているようだ。



「いいね。現実ではこうはならない。分かっているんだろう?」



 一度剣を止めてルガルが俺に問い掛けてきた。



「得物の差は歴然だ。俺の剣の方が重く、硬い。筋力(ちから)だってそうだ。本来は俺の方が強くなる。そうならないのは、レベルというシステムがあるからだ。レベルがあるからこそ非力でも俺と対等に打ち合える。俺は俺の望む戦いを愉しむことができる」

「何となく分かる気がするよ」

「いいね。そうさ。現実で(コレ)を振るえばすぐに捕まるだろうさ。そもそもここまで立派な剣は現実にはあり得ない。今や刀剣は全て芸術品でしかないからな」



 どこか寂しそうに言ったルガルが一転喜色を溢れさせて叫ぶ。



「本物の命の掛からない、命のやりとりができる。それは戦いを欲している俺からすれば何物にも代え難い最高の環境だ」



 鋭い視線が俺を捉える。

 思わず体をビクッとさせる俺にルガルはまたしてもニヤリと笑う。



「そう思うだろ。アンタも!!!」



 直後、ルガルは独白を終えて攻撃を仕掛けて来た。

 口では熱くなっているものの、その剣筋は冷静そのもの。鋭く、正確な斬撃が俺の首元に迫る。



「このっ」

「はは、これも裁くか、よッ」



 咄嗟に閃騎士の剣で打ち上げた俺に喜色を向けるルガルは硬く拳を握り殴り付けてきた。



「<マグナ>!」



 ≪格闘・1≫のアーツを発動させてルガルの拳に打ち合わせた。

 バンッと大きな音と衝撃波が広がり、閃光が迸る。

 弾き返された拳に代わり剣を振るう。

 奇しくも似た戦い方をする俺とルガルはまたしても剣で剣を受け止めていた。



「アーツと同じ威力って、どんな拳だよ」



 呆れたのか、感心したのか。思わず口から出た言葉にルガルは一瞬キョトンとした顔をして、即座に納得したというように頷いていた。



「ああ、お前のアーツは一々発動する必要があるのか」

「何だと?」

「俺の<レゾナンス>は便利だぞ。なにせ戦闘が始まってからずっと発動し続けるからな」



 そう告げるとルガルの体の表面にあるうっすらとした赤い光が強くなった。

 どのスキルのどのようなアーツなのかは分からない。

 しかし、ルガルが使っているそれは純粋に身体能力を底上げしてくれるだけでは無いはずだ。



「ついでに見せてやるよ。俺の攻撃アーツ<イフリート・ブロウ>をなっ!」



 大剣を逆手に持ち、その刀身を地面に這わせる。

 地面から噴き出す炎が巨大な手のように俺に迫ってきた。




ユウ レベル【21】


武器


閃騎士の剣――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


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