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闘争の世界 ep.21 『最終予選にむけて~闘技場③~』



 デュラハン・ナイトの剣が勢いよく振り下ろされる。

 実際の騎士が重い剣を使う時に繰り出す初撃としては最もポピュラーなものだ。

 冷静に剣の起動を見極めて、俺は横に跳んでそれを回避した。



「追撃はしてこない、か」



 縦の攻撃に続けて横の攻撃が来る。そう予測していた俺は自分の反撃の機会を無くすことになったとしても回避距離を大きく取っていた。

 俺が離れたことを察知しているのか、頭の無い騎士は強引な追撃を行わずゆっくりと体の向きをこちらに変えた。

 その佇まいから感じる圧倒的な強者感。

 相手がモンスターであることを忘れそうになるくらい高揚した俺は剣を握る手に力を込めていた。



「はあっ」



 強く踏み込んで精錬された片手剣を突き出す。

 歩いて近付いて来るデュラハン・ナイトが立ち止まり、その体躯からは想像もできないくらいの速度で俺が突き出した精錬された片手剣に己の剣の切っ先を合わせてみせた。



「ぐっ」



 剣を通して感じる衝撃。

 思わず後ろに下がりそうになるのを体を前のめりにして強引に耐えると、それを嘲笑うようにデュラハン・ナイトが剣を引いた。

 バランスを崩してしまった俺をデュラハン・ナイトは有るはずの無い頭部で見つめてくる。

 追撃に備えて剣を盾代わりに構える俺。

 デュラハン・ナイトは剣ではなくその拳で俺が構えている剣の上から殴り付けてきた。



「がっ、うあっ」



 体格の違いが攻撃の軌道すらも変える。デュラハン・ナイトにとってはシンプルな前突きのつもりだったはずのそれも、俺からしたら上方向から拳をハンマーのように打ち付けた強打に変わる。

 剣ごと無理矢理に俺を殴り飛ばしたデュラハン・ナイト。

 背中をしこたま地面に打ち付けてなおその勢いを殺しきることができないまま体ごと跳ね返り、再び床に体を打ち付けていた。

 痛みはそれほど感じない。感じるのは床と激突した微かな衝撃だけ。身を起こして睨み付けるように見上げた視線の先でデュラハン・ナイトは再びゆっくりと近付いてきた。



「防御はその上から貫かれる。やはりアイツの攻撃は全部回避した方が無難か」



 我ながら無理難題を言っていると感じる。

 けれどそれをしなければまともに立ち会うことすら不可能だということも解る。

 だからこそ俺は前に出る。常に先手を取り続けることで自分有利に戦うことができるはずだ。デュラハン・ナイトの剣を打ち付けて軌道を逸らす。むしろ軌道を逸らすことしかできなかったとも言えるが、そんな違いなどこの状況において大した意味は持たない。

 一撃の重さは明らかにデュラハン・ナイトに分がある。だが、一撃の速さは俺の方に分があるらしい。

 双方の戦力を冷静に見極めながら俺は自分の戦い方を研ぎ澄ましていく。

 剣を払い、腕や脚を狙って切り付ける。デュラハン・ナイトは全身が鎧でできたモンスターである。剣を通して感じる手応えも硬い金属を打ち付けたそれだった。

 これが現実だったのならばさぞ手が痺れていたことだろう。けれどこの世界では硬い鎧であろうとも斬り付ければ傷付けることができる。ダメージを与えることができる。

 ダメージを与えられるということはデュラハン・ナイトの頭上にあるHPゲージが減らせるということ。

 これらの事実は確実に自分を勝利に近付かせていた。



「<イグナイト>!」



 ≪闘士剣・1≫のアーツを発動させる。

 光を宿した剣を振るう。

 振り抜かれるデュラハン・ナイトの剣を避け、強く踏み出して伸ばされた腕を切り上げる。アーツによって威力が底上げされている一撃はそれまで以上にデュラハン・ナイトのHPゲージを削り取っていた。



「<マグナ>!」



 ≪格闘・1≫のアーツを使う。ただし攻撃ではなく、よろめくデュラハン・ナイトの反撃を事前に防ぐためだ。

 背後に回り、背中に向けて拳を突き出す。

 アーツのライトエフェクトが迸り、黒光りするデュラハン・ナイトの鎧が光を反射して輝いた。



「<イグナイト>」



 続けて再びアーツを発動させて剣を振るう。打撃と斬撃。二つの攻撃を受けてデュラハン・ナイトが剣を持たない手を床に付けて膝を折った。

 追撃のためにアーツを使わずに連続して斬り付ける。

 光の軌跡を描く剣閃がデュラハン・ナイトにいくつも刻まれた。



「<イグナイト>!」



 三度アーツを使う。

 切り下ろしでも切り上げでもなく、突きの構えで。

 カーンッと大きな音が闘技場の舞台に響き渡る。

 自らの攻撃の反動を利用して大きく後ろに跳んだ俺の目の前で、デュラハン・ナイトが声もなく吼えてその全身に黒い炎のようなオーラを纏い始めた。



「いいね。ここからが本番ってわけか」



 HPが半分ほど削られたことでようやく本気になったというわけでもあるまい。

 一部のモンスターに見られるHPが減ったことによる発狂モードという感じでもない。ただ俺を全力を出すに足る相手と認めたとでも言うように、デュラハン・ナイトは一層強めた威圧感を以てこちらに攻撃を仕掛けてきた。



「のわっ!?」



 思わず叫びながら飛び退いた。

 デュラハン・ナイトが剣を振り下ろした瞬間、黒いオーラが飛ぶ斬撃となって俺の元にまで届いたのだ。

 床にできた真新しく深い切り傷。あまりもの威力にあのまま近くに陣取っていて直撃を受けたらどうなっていたかと背中に冷たい汗が流れた。



「全部の攻撃でそれを発生させるわけじゃないよなっ!」



 そうであってくれと願うように叫んで俺は前に出た。

 思った通り斬撃を飛ばしてくるのは剣を上から下に大きく振り下ろす動作の攻撃だけでそれ以外はこれまでの攻撃とさほど変化は見られない。

 飛ぶ斬撃に一際気を配りながらも攻撃を続ける。無論<イグナイト>や<マグナ>を使ってだ。全ての攻撃がクリーンヒットしたわけじゃない。俺が繰り出した攻撃のいくつかは空振りしたり、デュラハン・ナイトにガードされたりもした。

 だけど構わない。攻撃を続ければ必ず勝てる。

 回避にミスしてデュラハン・ナイトの攻撃をまともに受けたこともあるが、一撃で俺のHPが全て削られるわけでもないらしい。せいぜい最大値の三分の一。十分に協力であるとも言えるが、少なくとも同じような攻撃を三度喰らわなければ俺は倒されることは無い。

 戦闘中、互いの攻撃が激突してその反動で後ろに飛ばされて大きく距離が開けられる場面が何度かあった。良い機会だと俺は闘技場に来るときに用意していた回復アイテムを使用したのだ。

 ゆっくりとではあるが着実に回復していく俺のHPゲージ。

 即座に視線を左上から正面に戻してデュラハン・ナイトに攻撃を仕掛けた。



「はあっ! <イグナイト>!!」



 通常攻撃で牽制しながら本命であるアーツ攻撃を繰り出す。

 黒いオーラが漂うデュラハン・ナイトの直ぐ傍に潜り混んだ俺が繰り出す切り上げの一撃が、その胴体に縦に真っ直ぐ伸びる切り傷を刻み付けた。

 威力は十分。与えられたダメージも十分。しかし、この攻撃は俺にとっては悪手だった。近付きすぎた俺をデュラハン・ナイトは乱暴に蹴り上げたのだ。



「……!」



 息を止めて堪えるも声にならない声が漏れる。

 格闘ゲームかと思えるような現実離れした空中コンボを決められ、俺のHPは瞬く間にレッドラインを超えてしまっていた。

 大きく吹き飛び転がるように舞台の端に滑っていく。

 急いで回復をしなければ。

 お決まりの動きでストレージにある回復アイテムを取り出して煽るように飲み干した。徐々にHPは増えていき危険域を脱することができた。

 乱れていた呼吸を整える。

 下がっていた剣先を上げる。

 長いゲームの経験で体に馴染んでいる構えを取りながら俺はデュラハン・ナイトの頭上を見た。

 偶然にも先程の切り上げ攻撃はデュラハン・ナイトのHPを三割以下へと追い込んでいたようだ。

 今度こそ発狂モードが来るか、と身構えた俺の目の前で、デュラハン・ナイトは全身に纏う黒いオーラを勢いよく噴き出していた。

 内側からの圧力に鎧の耐久度が負けたのか、デュラハン・ナイトが纏う黒光りする鎧の至る所に亀裂が入った。そこから漏れ出すように立ち込める黒いオーラ。本来頭があるはずの部分では黒いオーラが黒い炎となって燃え上がっている。

 ドンッと不意に大きな音が轟く。

 これまでのようにデュラハン・ナイトが歩いただけだというのに、舞台の床がデュラハン・ナイトの足の形で抉られるように窪んでいたのだ。

 一歩、また一歩と近付いてくる。

 デュラハン・ナイトが歩く度に轟く大きな足音。

 地面を揺らし、熱など持っていないはずの黒いオーラからは余人を近付かせないほど強い圧迫感を感じてしまう。

 身が竦む。

 動けない。

 呼吸が荒くなる。

 あまりに強いストレスを感じて脈拍が乱れればレヴシステムの安全装置が働いてしまうかもしれない。

 右手に持たれている精錬された片手剣の感触を確かめるように数回右手に力を込める。

 意味も無くその場で両脚で地面を踏み締めた。

 目を開いたまま、見ているデュラハン・ナイトに視線を集める。

 纏うオーラが増したことで肥大化したように感じたそれも、本体を見極めようとすれば最初に見た通りのデュラハン・ナイトの姿をその奥に見つけることができた。

 変わらぬ存在に安心するのはどうなのか。と思わなくもないが、それでも別にいい。荒くなっていた呼吸を落ち着かせて、目の前にいるのは何も変わらないデュラハン・ナイトだと改めて認識する。



「行くぞ……<竜冠(りゅうかん)>」



 俺の背後に竜の紋様が浮かぶ。

 全身に漲る凄まじい力。

 それが与えられるのは僅か三秒という極めて短い時間だけだ。

 背後を狙うことも、攻撃を捌いてから反撃するということも止めて、俺は正面からデュラハン・ナイトに向かって行く。

 <竜冠>が有効となる短い時間では俺ができる攻撃はせいぜい一度か二度。ならば初撃こそが必殺の一撃でなければならない。

 俺が選んだのは<イグナイト>の剣撃。

 黒光りする鎧に刻まれる三日月のような傷痕。

 残り三割程度だったデュラハン・ナイトのHPゲージは一瞬にして減少していった。

 これで倒した。

 俺がそう思った矢先のこと、デュラハン・ナイトは最後の意地だとでもいうべく、その剣で俺を殴り飛ばした。

 竜巻みたいに燃え上がる黒いオーラ。

 苦しむように藻掻くデュラハン・ナイト。

 殴り飛ばされた先で起き上がった俺の背後にある紋様がスウッと消えていく。それとは対照的に広がっていく黒いオーラは次第に一つの形を作り出し始めた。

 その形を一言で表わすのならば“黒い太陽”だろうか。轟々と燃え盛る黒い炎の塊は声にならないデュラハン・ナイトの叫びと共に闘技場の舞台に落下し始めた。



「嘘だろ……」



 あれだけ巨大な炎の塊は斬ることなどできないと即座に理解してしまった。

 殴り付けることなど甚だ無謀。

 であれば、どうするか。

 考えるまでもない。俺に残された手札は僅かに一枚だけだ。



「くっ、だめだ。威力が足りない――ッ!」



 剣を構えてそれを使おうとして直感した。

 自分の動きを止めて視界を埋め尽くす黒い太陽を睨み付ける。

 殆ど無意識に呟いた。



「<竜冠>」



 背後に浮かぶ竜の紋様。それは己の攻撃を底上げしてくれるもの。



「<シーン・ボルト>」



 間を置かずに叫ぶ。

 初めて目にするほどの強い光が精錬された片手剣の刀身に宿ると次の瞬間、巨大な鏃となって撃ち出された。

 黒い太陽を貫く光の鏃。

 天井へと伸びる稲妻の残滓。

 一拍の静寂のあと、黒い太陽は弾けて、極細の黒色の火花となって俺のいる闘技場に降り注いだ。

 火花の雨は攻撃ではないようで触れてもダメージは受けなかった。

 最後の攻撃が打ち破られた瞬間を目にすることもなく、デュラハン・ナイトは既にその場から消え去ってしまっている。

 黒い首なしの騎士が立っていた場所には一振りの剣が地面に突き刺さって残されている。

 誘われるようにそれに近付いて行った俺は迷うことなくそれを掴み、引き抜いた。

 デュラハン・ナイトが使っていたとは思えないほど刀身は綺麗な白銀の輝きを放っている。

 剣の銘は【閃騎士(せんきし)(つるぎ)】。

 剣と言いながらそれの形状は一振りの大太刀のようでもある。

 鍔がない刀身と柄だけの剣。もしやムラマサが使っている【刀】の武器なのかとも思ったが、その詳細を見る限り【片手剣】に属している武器であはあるようだ。

 ようやく手に入った新しい剣。

 それこそがこの闘技場に挑む際、手に入れることを密かに決意していた俺の新しい武器だ。




ユウ レベル【21】


武器


閃騎士の剣――とある極東の剣を学んだ亡国の騎士が携えたと言われている剣。白銀に輝く刀身は命無き者を葬り去る。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪闘士剣・1≫――<イグナイト>発動が速い中威力の斬撃を放つ。効果は攻撃が命中するまで持続する

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。

≪竜冠・1≫――<竜冠>自身の背後に竜を象った紋様を出現させる。紋様が出現している間は攻撃力が増加する。効果時間【スキルレベル×3秒】


残スキルポイント【1】


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