表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
546/664

闘争の世界 ep.19 『最終予選にむけて~闘技場①~』


 早朝。俺は約五時間の睡眠休憩を挟んだあとに再びゲームの世界へとやってきていた。

 変わらず人の数が多い街。

 都会的な街並みに行き交う人は全てがプレイヤー。

 彼等の多くが集まっている塔のようなモニュメントがある広場。巨大な電光掲示板が掲げられ、そこに映し出されているのは本日より開放された『闘技場』という施設の案内。

 『闘技場』という施設を一言で言い表すのならば格闘ゲームのソロモードだろうか。通常のダンジョンがパーティ単位で挑むことを前提とした場所ならば、闘技場は自分一人で戦うことを前提とした場所だ。戦う相手はダンジョンに出没するモンスターと少し異なるらしいが、公開された情報では雑魚モンスターの類は出現せずに最低でも上位種に当たるモンスターが現われ、それらを倒すとより強力なボスモンスターが相手として登場するようだ。

 獲得出来るアイテムは通常の戦闘と変わらず、得られる経験値もまた特別増減することもない。

 掲示板にある案内に目を通していると不意に肩を叩かれた。



「よっ」



 振り返るとそこに立っていたのはハル。どうやらハルも朝早くから自分の強化のためにゲームを始めたらしい。



「何してんだ?」



 電光掲示板前の人集りから逃れるように人の数が少ない場所に移動してからハルが聞いてきた。



「俺は昨日の続きだよ。レベル上げと装備集め、それと最後のスキルトリガーに入れるアーツ探しかな」

「おれも似たようなもんだな。夕方の最終予選前に出来ることはしておきたいからさ」

「とはいえ、どうしようかと思っていたんだけどさ、あれさ、丁度いいと思わないか」

「闘技場ね。おれと組んでダンジョンに行ってもいいんだぞ?」

「昨日もいくつかダンジョンに潜ったんだけどさ、自分が使う武器を狙ってドロップすることができなかったんだよな」



 昨日手に入った使わない自分では武器は全て売却済み。得た金額で回復用のポーションを購入してある。装備が売りに出ている店があればそこから自分が使う武器を買うことも考えたが、プレイヤー間で行われるマーケット機能はまだ解禁前だったために諦めた。

 回復アイテムは運営が用意してある誰でも購入可能なオフィシャルの無人販売所で手に入るものだ。



「それは仕方ない。少しずつ判明しているけどさ、まだどのモンスターからどういうアイテムが落ちるのか分からないからな。現状狙ったドロップアイテムは手に入りづらいな」

「わかってるけどさ、困るよな」

「ああ。困る」



 しみじみと分かり合う俺達は変わっていないそれぞれの武器を見て、大きく溜め息を吐いていた。



「あ、でも、防具は上位の物に変えられたぞ」

「マジでかっ!?」

「偶然【成長の因子】ってアイテムを手に入れてさ。それを使ったんだよ」

「それって結構レアって話だけど、まあ、使うか。今は」

「こうも装備が集めにくいとさ、取っておいてもさ、いつ使えるか分かったもんじゃないからな」

「確かにそうだよな」

「で、これからだけどさ」

「うん?」

「俺はこの闘技場ってのに行ってみるつもりなんだ」



 人集りの向こう。電光掲示板を見つめていった。



「ダンジョンを周回するよりは効率的か?」

「だといいな」



 苦笑して答える俺。ハルは暫く考える素振りを見せたあとに、



「よっし。おれもやってみるか」

「ハル?」

「おれもレベル上げとか武器集めとかをするつもりだったんだよ。でも昨日と一緒だとさ、あまり代わり映えしないだろ。それならおれもユウと一緒に闘技場に行くのもいいかなってさ」

「でも闘技場は一人用なんだろ?」

「そこに行くまでは一緒に行けるし、二人なら使える装備が手に入る確率も二倍だろ」

「や、これまでもハルとかムラマサが使う装備を手に入れたら渡すつもりだったけど」

「おれもそうだったな」



 あっさりと言ってのけるハルに俺は乾いた笑みを返す。



「だからさ、無理に俺に合わせなくてもいいんだぞ」

「別に合わせてるつもりはないさ。おれも新しく開放された闘技場ってのには興味があるからさ」

「そうか?」

「そうなんだ。ほら、早速行ってみようぜ」



 返事するよりも早く、ハルが俺の手を掴み歩き出した。

 迷う素振りもなく一直線に進むハルに俺は思わず「行く場所は分かっているのか」と問い掛けていた。するとハルは当然だと言うように頷き、



「闘技場の場所は事前に把握済みだ」と言ってきた。

「ってことは俺は関係なく闘技場に行ってみるつもりだったんだろ」

「ははっ、バレたか」



 歩調を合わせて歩き出した俺はハルの隣に並ぶ。

 似たようなビルが並ぶ通りを抜けて辿り着いた先に待っていたのは大勢のプレイヤーと巨大なドーム状の施設。

 現実世界にある『なんとかドーム』を彷彿させるその見た目に唖然としながらも俺達は列の最後尾に並んだ。

 意外なほどすんなりと消化されていく列は思っていたよりも早く自分達の番を迎えていた。



「一人用の施設なんだよな」

「入り口は一緒っぽいけど」

「とりあえず入ってみれば分かるか」

「そうだな」



 闘技場の入り口を潜り、施設の中へと入るとそこに広がっていたのは近代的な建物の外観とは似ても似つかない一面に草花のレリーフが刻まれた扉。



「あれ、ハルがいない」



 いつの間に別れたのだろうと思うほど自然に俺は一人になっていた。

 俺が振り返ろうとする直前に目の前の扉が光を放った。光の扉となった扉に触れようと手を伸ばしてみると信じられないほど空虚な感触が自分の指先に触れた。

 全く抵抗を感じることなく俺はその光の扉を通り抜ける。

 そこにあったのは正方形に広がっている石畳。戦いの舞台としては予選で使われたものと酷似しているように思えた。



「他に人はいない。どうすればいいんだ、これ」



 舞台に近付きながら独り言ちる。

 どんなに近付いて行っても変化は起こらず途方に暮れかけたその時、ほぼ無意識に舞台に足を乗せたことでそれは起こった。



「おわっ」



 慌てて舞台に飛び乗る。

 うっすらとした光の膜が舞台を包み込んだ。


『戦闘が開始されると勝敗が決まるまで舞台の外には出られません』


 目の前に浮かぶ文字のアナウンスを読み上げる。


『なお、戦闘を続ける場合は“継続”を、戦闘を止める場合は“終了”を選択してください』


 自動でアナウンスが変わる。


『戦闘を始めますか? “はい” “いいえ”』


 すかさず“はい”を選ぶ。

 途端、前方数メートル離れた場所に魔法陣が浮かび、そこから一体の骸骨騎士が姿を現わした。



「あれが最初の相手か」



 素早く精錬された片手剣を抜く。

 カタカタと骸骨騎士が頭を揺らす。骸骨騎士が剣を構えたその瞬間、戦闘が始まった。

 見た目からは想像出来ないほど俊敏に動く骸骨騎士が剣を構えて斬り掛かってくる。まるで剣技の見本のようなその一撃を正確に打ち合わせる。

 感じる衝撃は思っていたほど強くない。骸骨騎士は剣技の技量が高いわけではないらしく、打ち合った衝撃に身を反らして俺に反撃の隙を与えていた。



「<ラサレイト>」



 瞬時にアーツを発動させて斬り付ける。

 体力が低いのがアンデッド系のモンスターの特徴だ。骸骨騎士もその例に漏れず総HPは同レベルのモンスターに比べて半分以下程度。威力を高めたアーツの直撃ならば僅か一度の攻撃であったとしてもそのHPを全て奪い去ることができるようだ。

 剣を通して感じられる骨を砕く感触。プレイヤーが不快に思わないようにそれは本物とは異なっているのだろう。例えるならば十分に乾燥した木の枝を小気味よく折るような感じだろうか。少なくとも生物を害していると感じさせないように配慮されているらしい。

 胴体から砕かれた骸骨騎士が崩れ消滅する。

 戦闘のリザルト画面が出現するもレベルは上がらず、ドロップアイテムも何もない。最初の相手と思えば全く手応えはない。

 物足りないといえばその通りで、浮かぶ次戦への意思確認には即座に“継続”を選んだ。

 再び床に浮かぶ魔法陣。

 そこから現われたのはチェーンに繋がれた棘突きの鉄球を持った一体のゴブリン。ダンジョンではありふれたモンスターも、一体だけで現われることは稀。そういう意味ではこの闘技場という場所の特異性の一つになるのだろう。



「体格の割に武器が仰々しいな」



 小柄なゴブリンであっても武器の重さに翻弄されているようには見えない。正しくその武器の特性を操ってこちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

 とはいえ、俺の敵ではない。

 棘突きの鉄球が俺を打ち付けるよりも速く、<シーン・ボルト>の鏃がゴブリンを貫いた。

 それから数回、俺は戦闘を継続した。けれど出てくるモンスターはどれも自分の感覚では弱い相手。得られるドロップアイテムも何もなく、闘技場でこなした戦闘が十回に到達したことでようやく一つレベルが上がった程度。



「どのくらい続ければいいんだ?」



 切りの良いところまで戦ってみようと軽い気持ちで始めた闘技場の戦闘もこの調子では意味があるとは言えない。これならば未踏のダンジョンに挑んでいたほうがマシだったかもしれない。

 最終予選まで時間が限られている現状、このまま闘技場で戦闘を続けるかどうか決める必要がある。

 選択を迫る画面と睨み合いながら考えているだけでは時間を無駄に消費するのみ。ならば俺はもう少しこのまま戦い続ける道を選ぶ。

 もはや見慣れた魔法陣が出現する。

 光と共にそこから出現した牛頭の巨人――ミノタウルス。その手にあるのは巨大な首狩りの斧。



「一気に強いモンスターになったな」



 十一戦からモンスターの質が上がった。

 これまではせいぜい雑魚モンスターの上位種といった程度。であればこれからは純粋に強いモンスターが現われるようになったということか。

 倒して得られる経験値とドロップアイテムに期待を膨らませながら精錬された片手剣を構える。

 目の前のミノタウルスから感じる圧に屈することなく俺は冷静にその挙動を見極めるべく息を殺してタイミングを計る。

 地面を削るように切っ先を下げて引き摺られる斧を振り上げて、ミノタウルスが思いっきり斧を叩きつけてきた。

 咄嗟に避けるも、床が砕けて飛び散る。

 これまでの戦闘では傷一つ付かなかった床がガタガタになって、すぐに元の綺麗な状態に修復される。

 常に一定の状態を保った舞台でミノタウルスが次なる攻撃を仕掛けてきた。



「せいやっ」



 明らかに重さの劣る精錬された片手剣でも剣撃をぶつければ攻撃の軌道くらいは逸らせられる。力の流れに逆らわず、あくまでも自然な感じで攻撃をいなして、その隙にこちらの攻撃を叩き込む。

 攻撃力はそれまでのモンスターとは比べるまでも無い程に高い。しかし防御力はそうでもないようで、俺の攻撃はミノタウルスのHPを大きく削っていた。



「見かけ倒しか。だけど戦闘を繰り返せばより強いモンスターが出てくるというのなら」



 剣を振り抜いた自身の勢いを利用して立ち位置を変える。

 背後に素早く回り込んだ瞬間を狙い<ラサレイト>を発動させて斬り付けた。

 短い悲鳴を上げてミノタウルスは砕け散る。

 相も変わらずドロップアイテムは何もなかったが、レベルは確実に一つ上昇していた。


ユウ レベル【17】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。


残スキルポイント【6】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ