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闘争の世界 ep.18 『最終予選にむけて~自己鍛錬③~』


 エルダー・リザードマンが出現した瞬間に俺は残る一体のリザードマンに向けて<シーン・ボルト>を放ち葬った。

 これで一対一。

 上位種であるエルダー・リザードマンと万全の状態で戦うには外野は邪魔だ。

 人よりも大きな体でギザギザの剣を持ち、尻尾で床を叩きながらこちらを威嚇してくるその姿は戦いに慣れない状態では怯み身を竦ませてしまうことだろう。

 いつもの構えを取り、激突の瞬間に備える。

 リザードマンとの戦闘でMPは消費しているが戦えないというわけではない。



「来ないのか? だったら俺から行かせてもらう」



 宣言して駆け出した俺はエルダー・リザードマンに正面から攻撃を仕掛けた。

 小賢しい駆け引きなど必要ない、互いに力と力で潰し合う。まるでモンスター同士の戦いだと言わんばかり攻防の幕が開く。

 振りかざした精錬された片手剣とエルダー・リザードマンのギザギザの剣が激しく打ち合う。

 体躯の違い、武器の違い、そして戦い方の違い。

 モンスターの土壌では人は戦ってはならないという基本を無視した俺の攻撃は当然のように全てエルダー・リザードマンによって軽く防がれてしまった。

 最初こそ互角に打ち合えていた。しかし、次第にエルダー・リザードマンの腕力に圧されるようになり、その一度の攻撃と打ち合うのにこちらは二度の攻撃を必要とするようになっていた。

 それでも攻撃速度は俺の方が上。

 一度の攻撃にこちらは二度。それならまだいい。エルダー・リザードマンの攻撃の勢いが増してくる度に必要になる攻撃の回数が増えてしまったのだ。

 自分の攻撃速度を上回り始めた現状に俺が取れる選択肢は一つ。アーツの使用だ。



「<ラサレイト>!」



 剣を引いた瞬間にアーツを発動させる。

 光を宿した刀身を振り抜く。

 エルダー・リザードマンのギザギザの剣と自分の剣が激突した瞬間、凄まじい閃光が迸った。



「怯んだな」



 それまでの攻撃とは一線を画す威力を有するアーツの一撃を受けて僅かに身を仰け反らせたエルダー・リザードマン。その一瞬を隙と捉えるや否や、俺は再び<ラサレイト>を発動させて、ガラ空きの胴体を横一線に斬り裂いた。かに見えた。

 微動だにしないエルダー・リザードマンのHPゲージ。

 どうやらあの体制から防御されてしまったようだ。


『グオオオォォ』


 エルダー・リザードマンが吼える。

 攻撃を受けそうになったことで虚勢をはっているわけではない。むしろ自身と互角に打ち合える相手と出会えたことに歓喜するかのような咆吼だ。

 ギザギザの剣を持たない空の手で爪を立てて俺が居る場所を目掛けて振り下ろした。

 攻撃のモーションが固定される類のアーツ攻撃だったのならばそれをまともに受けてしまっただろう。幸いにも<ラサレイト>は規定のモーションはなく、普通に振るう攻撃に高い威力を上乗せする技であった為に、俺は素早くその攻撃範囲から逃れることができていた。



「直撃してたらこうなったってか」



 エルダー・リザードマンの爪が床を抉った傷痕を見つめながら独り言ちる。

 硬い石の床ですらこの有様だ。俺が装備している防具など紙切れも同然に切り裂かれていたことだろう。

 背中を冷や汗が伝う。

 どういうわけかエルダー・リザードマンの攻撃でより威力が高いのは爪や牙など生まれ持った武器を用いた攻撃の方らしい。

 ならば何故ギザギザの剣を携えているのか。その疑問の答えはこの直ぐ後に自分の身を以て知らされることになった。

 爪撃の威力を目の当たりにして無意識のうちに最接近することを避けてしまっていた俺にエルダー・リザードマンのギザギザの剣の刃が微かに触れた。



「あ、がっ!?」



 攻撃にすらならない、ダメージも殆ど無い、それを回避に失敗したとするのならば、これからはより大袈裟に動く必要が出てきてしまう。だが、この戦闘ではそんなほんの僅かな接触が俺の全身に凄まじい一瞬の衝撃を駆け巡らせる。

 目を凝らして見れば自分の体に残る攻撃の残滓が分かる。

 白色で現われてはすぐに消えてしまう閃光の瞬きを自分の記憶にあるもので最も近しく表せるのは“雷”。今更ながら思えば、その剣の形状が指し示していたのだろう。けれど、ここに至るまで、俺はそういう効果を持つ武器を持つモンスターと出会ったことがない。だから失念してしまっていたのだ。そういう可能性があるということを。


 膝を付き視線を上げる。

 痺れは僅かな時間で消えた。

 すぐに体勢は整えられる。

 だが、それよりも早くエルダー・リザードマンは己の尻尾を大きく振り抜いていた。



「くうぅっ」



 回避が間に合わないのならば防御するべし。

 精錬された片手剣を盾のように構えることで尻尾の直撃から逃れた。



「のわああああああああああ」



 全身を襲う衝撃に俺は大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。

 床を転がり、止まることをしらない自分の体は壁に激突するギリギリの距離で止まった。

 指先が熱い。

 膝や、肘、足の裏も同様の熱を孕んでいた。

 全身を覆う【竜玉(ドラグライト)(アーマー)】によって俺の体には大きな外傷は見られない。全年齢対象のゲームだから過度な流血表現はないというだけではなく、微細な傷も付いていないのだ。

 身を起こし再び精錬された片手剣を構える。

 二割程度減少している自分のHPゲージを一瞥し、問題無いと断じて再び駆け出した。



「せいやっ」



 気合いを込めて剣を振る。

 確かにエルダー・リザードマンの爪撃は脅威だ。しかし離れて戦ったところで待ち受けているのはギザギザの剣による雷と丸太のように太い尻尾による打撃。その威力は一度で十分すぎるほど理解した。HPの減りに比べて俺がより警戒すべきだと感じたのはその雷を受けたことによって僅かな時間であっても動きを止められてしまうこと。さっきは防御が間に合ったからいい。けれど間に合わなかったら、防御の上からでも大きなダメージを与える攻撃が行われたりしたら。

 剣同士で打ち合っている時には雷は発生しなかった。であれば、少なくとも雷の攻撃を防ぐには前に出続けるしかないということだ。

 意を決して剣を振る。振り続ける。

 時にはアーツを織り交ぜて、時には後退して相手の攻撃を空振りさせながら。



「<マグナ>」



 剣ではダメージを与えられない。

 この短い時間の間にエルダー・リザードマンと打ち合ったことで得た結論だった。

 俺の剣撃は全てエルダー・リザードマンに防御されてしまう。どんなに緩急を付けて攻撃のリズムを変えようとも、アーツを連続発動させて常に威力を上乗せしたとしても。もはや理外の力が働いているのではないかと疑いたくなるような完璧な防御を見せるエルダー・リザードマンに剣の攻撃では有効打を与えられるビジョンが浮かんではこなかった。

 だからこそ、考えを変えた。

 剣が届かないのなら、それはエルダー・リザードマンの剣を受けることだけに集中すればいい。

 エルダー・リザードマンの本来の武器がその爪だというのなら、この戦闘俺の本命の攻撃は自分のこの拳だ。

 アーツの光を宿した拳を、ギザギザの剣を切り払ってできた空白に打ち込む。

 ドゴンっと大きな音が轟き、エルダー・リザードマンがグルルと低く唸る。

 それだけじゃない。エルダー・リザードマンの頭上に浮かぶHPゲージが十分の一ほど減ったのだ。



「いいね。これならオマエを倒すことが出来そうだ」



 確かな手応えに笑みを浮かべる俺。

 それに反して呻き苛立ちを露わにするエルダー・リザードマン。

 攻略法だなんて立派なものじゃない。自分の持つ手の中で通用する攻撃を見つけただけだ。けれどそれで十分。勝てない相手ではないと実感しただけで俺にとっては確実な活路を見出せたも同然なのだから。

 エルダー・リザードマンがギザギザの剣を勢いよく振り下ろす。

 俺はそれを横から叩き軌道を逸らすと、返す刀で切り上げる。

 するとどうだろう。エルダー・リザードマンは驚くべき格好でそれに自身のギザギザの剣を打ち付けてきたのだ。

 自身の筋力のよって強引に軌道を変えたかのようなその剣に俺を倒す意思はない。ただ、こちらの攻撃を払うためだけの目的によって振るわれているも同然だ。

 何故そのようなことをするのだろう。

 感じずにはいられないその疑問を俺は自身の剣に込めながら、人ならば防御が間に合わなくなるような軌道を選び振り続けた。

 それに比べてエルダー・リザードマンの攻撃は単調なものばかり。

 剣を使い慣れていない、なんてことはあの完璧な防御を見ればありえないと感じる。ならば感じる違和感は何だというのか。<マグナ>と<ラサレイト>を発動させながら攻撃を仕掛けていく最中、俺は冷静にエルダー・リザードマンを観察し続け考えていた。



「そうか……」



 エルダー・リザードマンに感じる違和感。それはやはり剣に不慣れに見えること。おそらく本来使わない武器を使う事を強いられているからこそ浮き彫りになったことだろう。ならば何故、防御は完璧なのか。それは剣を武器として使っていないから。ある種腕の延長のように使っているからこそ熟練者のように扱えているのだろう。



「俺は――全力のオマエと戦ってみたかったよ」



 <マグナ>を発動させて拳を突き出す。

 エルダー・リザードマンの横っ腹を打ち付けた一撃は頭上に浮かぶHPゲージの最後の一割を砕いた。

 一瞬の静寂。

 エルダー・リザードマンの全身を光が包み、次の瞬間、光と共に弾けて消えた。



「ふぃ」



 自分以外誰も居なくなったダンジョンの一室で俺は緊張と疲労を息と共に吐き出していた。

 出現するメニュー画面。

 どうやらレベルが一つあがったらしい。



「よし。スキルポイントが増えたな――ん?」



 いつものように獲得したスキルポイントを確認して喜んだのも束の間、俺はエルダー・リザードマンからドロップしたアイテムに目を止めた。

 アイテムの名称は【成長の因子】。詳細を確認するとそこには『装備している武器か防具を一つ上位のものにすることができる』とある。意味が分からず、その場で使う事は躊躇われた俺はとりあえずこのダンジョンから抜け出すことを決めた。

 そこで問題になるのがこのまま踏破するか否かということ。

 来た道を戻るには既に半分以上進んでしまっている。

 かといってこのまま踏破しようとすれば最奥のボス部屋に行き当たる。そうなれば新たな戦いが待っていることは確実だ。

 エルダー・リザードマンとの戦闘は決して楽だったとはいえない。受けたダメージは確かに少ないが、消費したMPは戦闘を終えて暫く経つも未だ全快には至っていない。最奥のボス部屋に辿り着くまでには回復すると思うが、俺には今の自分がボスと渡り合えるとは到底思えなかった。



「レベルが足りない、という感じじゃないんだよな」



 メニュー画面をみつめながら独り言ちる。

 純粋にレベルで上昇する能力値が低いから戦えないというつもりは無い。そもそもこのゲームにおいてキャラクターの能力値の正確な数値はわからないようになっている。一応視認できるHPとMPも同一のゲージにて消費する、あるいはダメージを受けて減る値が少なくなったことで増えていると感じられる程度のもの。

 であればより顕著に自身の能力の増減が分かるものといえば装備になる。だからこそわかる。今の俺が使っている装備はこのダンジョンのボスに挑むようなレベル帯に比べてあからさまに能力値が低いのだ。

 メイン武器である『精錬された片手剣』もここが現実ならばいくつも刃毀れを起こして使い物になっているのだろう。それだけ刃が通らない相手に無理をして使ってきた自覚がある。

 防具である『幼竜(おさなりゅう)(よろい)』もモンスターの攻撃を防ぎきることができなくなっていた。



「せめて何かドロップしてくれていれば良かったんだけどな」



 このダンジョンで俺が手に入れたドロップアイテムに剣や鎧の類はない。あるのはメイスのような打撃武器や布製の防具ばかり。違うゲームならば『神官』が身に付ける装備ばかりが手に入ったようだ。

 武器を持ち替える気にはなれず、それでいて先に進むには物足りない現状を打破するにはエルダー・リザードマンから手に入れた【成長の因子】を使うしかない。まるでそう道筋が記されているかのような状況に俺は何か作為的なものを感じずにはいられなかった。



「あるわけないのにな」



 誰にというわけでもなくそう呟く。

 今はまだプレイヤーが限られており、同時にインしている人の数も少ないとはいえ、特出すべきでもない一個人にそこまでお膳立てをする必要などありはしない。ただの偶然と言い切ることは難しいように感じても、そこはやはりただの偶然以上の意味合いなど含まれてはいないのだ。



「ま、どのみち使うことは変わらないってか」



 ダンジョンを出て現実(リアル)に戻って俺がしたいことは【成長の因子】というアイテムについて調べること。それで分かればいいが、分からなかった時はどうするのか。想像を巡らせてみるも自分の中の結論は変わらなかった。

 剣と鎧どちらに使うべきか。

 意外なほど悩まずに俺は鎧に使うことを決めた。

 どこにでもあるような片手剣に比べて、俺が装備している鎧は偶然にも内装と外装の意匠が一致しているように感じられた。そして『幼竜の鎧』は明らかにその上位の装備が存在していることを暗示しているかのような名称だ。



「『幼竜の鎧』に【成長の因子】を使用する!」



 掌に収まるオーブのような形をした【成長の因子】を取り出して使用する意思を言葉に出した。

 オーブの内側から光が迸り、俺の全身を覆っていく。

 太陽みたいな橙色をした光が収まると俺の姿は微塵も変化していなかった。



「って、ありゃ? ――ああ、そりゃそうか」



 俺の見た目を決めるのは『竜玉(ドラグライト)(アーマー)』という外装防具。内装防具である『幼竜の鎧』に起きた変化は直接関係していないのだ。

 メニュー画面にある自身の装備を確認する。

 武器は変わらずに『精錬された片手剣』。外部防具も『竜玉(ドラグライト)(アーマー)』のまま。しかし、内部防具は『幼竜の鎧』から『成竜の鎧』へと変化しているのだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 後に調べて分かったことだが【成長の因子】というアイテムは下位種のモンスターを引き連れた上位種のモンスターから低確率で手に入るドロップアイテムだった。その効果は説明文と自分が使った通り。対象の武器か防具を上位のものに変化するアイテム。汎用性が高く、人によっては喉から手が出るほど欲されているアイテムのようだが、現時点では上位の装備は直接ドロップを狙った方が効率的とされており、ラスボスまで取っておかれるエリクサーの如く使用するプレイヤーは稀とされていた。



ユウ レベル【15】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


成竜の鎧――成長を遂げた竜が身を守る鱗の如き鎧。成竜の脚は数多の地形に適応する。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。


残スキルポイント【4】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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