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迷宮突破 ♯.20

 その日の夜。


 各自夕食を終えた俺たちは再び迷宮の中に戻って来ていた。


 場所は第六階層と第七階層を繋ぐ階段の中央。転送ポータルの前で俺はふと上に続く階段を見つめていた。


「どうしたの?」

「あ、いや。このまま上に戻るとまたボスとの戦闘になるのなかって」


 ゲームによっては一度倒したボスも時間の経過やもう一度同じフロアに入ったことで復活するように設定されているものもある。このゲームでも通常のエリアで戦ったボスモンスターは雑魚モンスターよりも時間が掛かるが一応は復活するようになっている。


 だがそれらはレイドボスではない。


 故にこの迷宮内で戦ったレイドボスモンスターが復活するかどうかというのは、もう一度前の階層に戻るかその場で時間の経過を待って復活するかどうかを確認してみるしか知る方法はない。


「バカなことを言ってないで進むぞ」


 先陣を切るハルが迷宮第七階層に足を踏み入れた。


 レンガのように積まれた石が壁になりより迷路のような雰囲気を強調している。それまでが剥き出しの土壁に松明が付けられただけのものだったのに比べれば格段に人の手が加えられたように感じられる。


 地面にも石が敷き詰められていて歩きやすい。


 何故この階層からなのかという俺の疑問に答えたのは道の先にいるモンスターの姿。動物系のモンスターでは無くコボルドのように小人の姿をしたモンスターが巡回しているのが見えた。


「戦うの?」


 戦闘を回避出来るのならそうしたい、俺にはリタがそう言っているように聞こえた。


 小人のようなモンスターとの戦闘は通常のフィールドでもゴブリンで経験がある。それは他の雑魚モンスターと大差なく感じられたのに一度コボルドのようなモンスターと戦ったことにより少なからず苦手意識というものが植え付けられてしまったかのようだ。


「あれは避けて通れそうにもないからな」


 目の前を通るモンスターを見ながら告げるハルにその後ろにいるリタが微かに肩を落としていた。


 迷宮を巡回している小人モンスターの数は少なくともプレイヤーが組んでいるパーティの最大人数である四人の倍はいる。一体一体の体の大きさがプレイヤーの半分にも満たないためにそれだけの数が同時に広くも無い道を行き来しても問題なく行動することが出来るようだ。


 現に今も絶えず姿を見せては消えていく小人モンスターは俺たちが進んでいる道を塞いでしまっている。


「俺が引き付けるから、皆は近付いてきたモンスターから倒していってくれ」


 小人モンスターに気付かれないように近寄る俺は銃形態の剣銃で射程に入った数体の小人モンスターに狙いを定め一体づつ狙撃していった。


 銃弾が命中した小人モンスターはHPをガクンと減少させる。


 この階層を行き交う小人モンスターは上の階で戦った同じ小人型のモンスターのコボルドとは攻撃力防御力ともに違うようだ。


 安心して攻撃をしかけても大丈夫だとサムズアップして振り返った。


「って……早いよ」


 せっかく俺が安全を確認したのに、と文句を言いたくなってしまうほどハルとリタそれにマオの三人は勢い良く俺を追い抜いてこの道にいる小人モンスターに攻撃を仕掛けていった。


 それぞれが強化した武器を振るうと瞬く間に全てのモンスターを掃討してしまった。


「おーい、ドロップアイテムを見てみろよ」


 駆け足で俺の元に来たハルが驚いた様子で告げた。


 言われたとおりにストレージから今回入手したドロップアイテムを確認する。するとそこにあったのは今までモンスターを倒して手に入る素材とは別の、収集で手に入れることのできるアイテムである鉱石が並んでいた。


「どういうことだ?」


 一種類のモンスターから手に入る素材にはいくつかの種類があろうとも今回のように収集アイテムが手に入ることはなかった。モンスターからはモンスターの素材、収集では鉱石や薬草の類とプレイヤーが手に入れることのできるアイテムにはある種の規則性があるはずなのだ。


「ねぇねぇ、薬草もあったよ」


 俺と同じようにストレージを確認しているマオが驚いたように告げる。


 アイテム一覧を下にスクロールさせていくとマオの言葉の通り、俺のストレージにも鉱石に混ざって薬草が確認された。


「もしかして――」


 と思い当たることがあったのかあごに手を当てながら思案顔でリタが言葉を切りだした。


「トロルと戦った階層から収集ポイントみたいなのって見当たらなかったじゃない?」


 そうだったかと記憶を探ると確かに目に見える範囲では一つとして採集ポイントを見つけることは出来なかった。偶然俺たちが見つけられていないだけなのだと思っていたのだがどうやら違うらしい。


 積み上げられた石段は本来壁にある採掘ポイントを覆い隠し、隙間なく敷き詰められた石は草木一つ生えることを許さない。これから先も必要になる素材アイテムの回収は第二、第三階層に戻って行う必要がないように別の入手手段が用意されたということか。


「これなら装備の消耗を気にする必要も、アイテム切れを心配する必要もなさそうだな」

「そうだな。これでなんとかなりそうだ」


 階層を重ねるごとに戦闘は否応なく激しさを増していく。その度にアイテムの残量を気にしていたのでは満足のいく戦いは出来ない。だからといってアイテムの使用を渋ってやられてしまうのだけは避けたいと考えていた俺にとって自分で作る必要はあるが回復アイテムの補充が出来るのはこれ以上の無い朗報だった。


「よーし! 先に進もう!」


 新たなアイテムの補充手段を得たことで俺たちの足取りは自然と軽くなった。それもそのはず、回復アイテムを作り出すことのできる俺がいる以上このパーティでは常に近くにNPCショップがありそこで補充ができるのと同じだった。


 ふとアイテム作成の出来ないパーティはどうしているのだろうと気になってきた。


 午前中に出会ったフーカたちの様子を見る限り装備の修復やアイテムの補充は間に合っていないように感じた。


 イベント中だけでも拠点にある設備を使えばスキルを持っていなくとも修復やアイテム作成ができるようになっているのだと仮定しても、元々その手順や方法を知らなければ出来ないとの同じ。結局の所生産のスキルを持っていないプレイヤーないし生産職が仲間にいないパーティはかなりのハンデを背負ってしまうことになりそうだ。


 開始前日には迷宮前の町に来ることができていたがそこで生産スキルの習得の重要性に気付けたプレイヤーはどれほどいるのだろう。


 まるで最初から不公平になるように仕組まれたかのようなこのイベントはそれまで圧倒的に少なかった生産職のプレイヤーを増やすことを目的にされているようだが、結局生産職と戦闘職の違いを明白にしてしまっているだけのような気がする。


 生産職は常に装備を万全の状態に出来る代わりに不慣れなボスモンスターとの戦闘では後れを取ってしまう。また戦闘職は次第に減少していくリソースに追われ続けることとなる。


 運営側がわざわざこのような状況を生み出そうとしているのだとしたら性格が悪いなんてものじゃない。もはやイベントに参加したプレイヤーにをクリアさせるつもりがあるのかさえ疑わしくなってしまう。


「よっしゃ、階段見つけた!」

「やっとか……」


 驚いたことにこの階層で出現するモンスターはそれまでよりもかなり多種多様になっていた。


 草花一つ生えてこないように敷き詰められた石の隙間からゲル状のモンスター、俗にスライムと呼ばれるそれが無数に現れたこともあったし、先程戦った小人モンスターとは同種の別カテゴリ、冠詞にメイジやらファイターやらナイトやら、別のゲームで職業――ジョブと呼ばれるものによく似た特徴を持ったモンスターまで現れることがあった。


 中でも俺が驚いたのは壁や地面の石が独りでに組み上がり小型のゴーレム――スモール・ゴーレムを作り出した事だった。攻撃力や防御力は本家に数段劣るものの小型なだけあって同時に複数体出現し俺たちに襲いかかって来た。俺たちもゴーレムと戦った経験がなければ一見大振りに見えるその攻撃の対処をすることが難しかったかもしれない。


 他には小型犬くらいの大きさのあるネズミや、それとよく似た大きさの蜘蛛。


 下の階層に続く階段に行き着くまで相当数の戦闘をくぐり抜ける必要があった。


「それにしてもこれだけのアイテムが手に入るとはな」

「ほんと、上の階層で必死に収集したのがなんだったのかって思うよ」


 モンスターとの戦闘でドロップアイテムとして得た素材の数は上の階層の何倍にも及ぶ。


 ストレージに貯まるアイテムの数に驚きと喜びの声を上げる俺に対してマオが若干辟易した声をだしていた。


「気を落としてる暇はないぞ、次の階層が見えてきた」


 階段を下りた先、第八階層も第七階層と同じように石造りの壁と床に囲まれた迷路のような形をしている。


 第七階層に足を踏み入れてからというもの第五階層までとは別のデザイナーが起用されているかと思うほど仮想の肌で感じる空気は別物だった。それはこの先に見える第八階層も同じなのだろう。


 緊張し過ぎるほどの強敵はいないが、それでも気を緩めることができるくらいの弱い相手はそんざいしない。適度なバランスを保ちながら進むことは戦闘に不慣れな人にはかなりの負担になってしまうようで、迷宮の中から中間のポータルへと戻っていくプレイヤーの顔はどれも疲労の色が濃く表にあらわれていた。


 周囲に警戒を向けながら石造りの迷宮を進んでいく。


 第八階層も第七階層と同じ、素材アイテムをドロップするモンスターが徘徊するだけ。そう思っていた俺の耳にたったひとつの異変を知らせる声が届けられた。


 現実だろうとゲームだろうと中々聞くことないその声は聞き間違えようがない。


 そう、それは悲鳴。


 好奇心に駆られたとでもいうべきか、俺たちは悲鳴の聞こえた方を目指して走り出していた。


 階層を重ねるごとに入り組んだ構造になっていく迷宮は道中に出現するモンスターも相まって俺たちの進行を阻んている。


「誰もいない、な」


 なんとか悲鳴の聞こえてきた場所に辿り着いた時には既に人影すらなく、戦闘のあった形跡も見つけられない。


「どうする? ここでもう少し探してみる?」

「止めておくよ。余計な時間は使えないからな」


 ここで何かがあったのは間違いないだろう。


 けれど痕跡一つなければそれを追求することすらできない。


 突然生じた謎の緊張感に苛まれながらも俺たちは先に進むことに決めた。




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