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闘争の世界 ep.12 『予選~第二回戦②~』



 自分達が切っ掛けだったとまでは言わないが、それを良く目にするようになったのはまさに先程の邂逅の後からだ。

 鬼の面を付けた大勢の者達。

 それに追いかけられる予選参加者達。

 起きていることは鬼ごっこであり、プレイヤーが隠れて逃げるかくれんぼでもある。こどものあそびと異なる点はごく僅か。例えば鬼に見つかってもその時点で敗北にならないこと、例えば鬼に触られてもその時点では敗北にならないこと。そして、プレイヤーの敗北はHPの全損が条件であること。制限時間は不明。勝利条件はただ一つ、生き残ること。

 問題なのは生き残り方だ。

 予選二回戦が終わるまでずっと隠れ続けてもいい。逃げ続けてもいい。そして、鬼に立ち向かってもいい。



「でも、無謀気味だろ」



 走りながらぽつんとハルが呟いた。

 棍棒を持った鬼に向かって行くプレイヤーの姿を見て素直に抱いた感想のようだ。

 肯定するわけでも否定するわけでもなく、ただ曖昧に笑みを返しているムラマサが視線で俺に伝えてきた。自分達も鬼に立ち向かうことになる可能性が残されているということを。



「でもさ、あの鬼は一体誰なんだろうな」

「んー、どういうことだい?」

「だってさ、運営が用意した人って感じじゃないだろ」

「どうしてさ?」

「棍棒と服装と鬼の面が揃えてあるからよりはっきりとわかるんだけどさ、鬼の体格はバラバラだろ。背の高さも違うし、多分性別もバラバラなんだと思うぞ」



 鬼が纏っている服で目立っているのはボロ切れで作られたマントだ。まるで体格を隠すために用意されているかのようなそのマントの下に着込まれている服もまた体格を隠すためにかだぼっとした作りになっているのだ。

 鬼の面もそうだ。顔を隠すのには適している仮面ではあるが、その内側に覗える頭の形や髪型はその中身が異なっていることを証明していた。

 ゲームなのだから、デジタルなのだから、鬼の装備を付けた段階で同じ体格、同じ容姿になるようにすることもできただろう。それをしない理由がなにかあるはずだ。



「どっちに曲がる?」



 三人揃って走り続けていると丁字路に行き着いた。

 建物の中に入っていけるのならば第三の選択肢を取ることもできただろう。しかし目の前のビルのドアは固く閉ざされ、明かりが差し込んできている窓も決して破ることはできなくなっているのだ。

 右と左、素早くその先を見据えるとムラマサは「右」と答えていた。

 理由を聞くこともなく俺とハルはその意見を受け入れて右の路地を再び走り出した。



「ったく、いつまで逃げればいいんだよ」

「ハルは疲れてきたのかい」

「精神的にさ」



 兜を被っているために表情を読み取ることはできないが、それでもハルが纏う雰囲気は僅かに疲弊しているように感じられたのだ。

 一本道となっている大通りを駆け抜ける。

 暫く走っていると前方から誰かが争っているような音が聞こえてきた。



「どうする? このまま行くのか」

「んー、下手に戦いになることは避けたいけど…」

「いや、行くしかないみたいだ」



 ハルの問い掛けに考え込む素振りで答えるムラマサ。そんな二人を横目に俺は後方を見つめながら告げた。

 疑問符を浮かべながら俺の視線の先を追った二人は納得したように頷いてみせた。



「どうして気付かなかった?」



 走る速度を上げながらハルがいう。

 逃げる俺達の後ろから追いかけてきているのは自分達の数と同じ三体の鬼。

 振り返り注意深く観察することで分かる。ハルが言っていたように鬼の体格は異なっていたのだ。背が高く痩身の鬼。それよりも背は低いが筋肉質の鬼。筋肉質の鬼と同じくらいの背の高さだがどちらかと言えばアスリート体型の鬼。

 その装備品にはやはりなにか錯覚させるような効果があるのか、こうして目の当たりにして、且つ注意深く観察しなければ、そのあからさまな差異すら無いものと気にも留めなかっただろう。

 走力にも違いがあるのか、アスリート体型の鬼が頭一つ抜き出て自分達に近付いてきていた。



「この先でも鬼がいるかもしれないんだよな」

「ああ。そうなるね」

「だったらあの三体はここで迎え撃ったほうがいいんじゃないか?」



 自分達と鬼の戦力の差が分かっていない状況では俺達の意見はまだ合致できていない。

 勝てる可能性があるのなら戦うべきと考えているハルに対して、不用意な危険は避けるべきと考えているムラマサ。俺は比較的戦ってみることに賛成しているが、自分達と同じ戦力の相手は避けた方がいいとも思っていた。



「この先に戦えそうな場所はあるみたいだ」

「みたいだな」



 メニュー画面でマップを確認しながらそう告げるハル。彼と同じようにマップを見た俺は同意の意を込めて相づちを打っていた。

 ムラマサが神妙な面持ちでマップと睨み合うこと数秒の後「わかった」と言うと走る方向を変えた。

 案の定、自分達を追いかけてくる三体の鬼。

 一本道から脇道に逸れて入り組んだ裏道を駆け巡る。

 ジグザグに走る俺達を追いかけてくる鬼もまた小刻みに走る道を変えていたのだ。



「もう少しっ」



 件の場所まであと僅か。

 程なくして見えてきたのは開かれた場所。

 新たなビルの建設予定地となっている空き地。十分な広さのあるそこ鬼達を誘導しながら俺達は走り続けた。

 走る速度を上げて鬼達から離れて行く。

 俺達は空き地へと辿り着いた瞬間に振り返り、それぞれの武器を抜いた。



「気を引き締めるんだ。この戦い、自分達が普段の体力とは異なっていることを忘れるな」



 檄を飛ばすムラマサの言葉に頷く俺。ハルはハルバートを抜いてその石突きで地面を叩いた音で返事をしていた。



「来るっ!!」



 自分達が離れたことで三体の鬼は足並みを揃えて現われたが、鬼のなかで先陣を切ったのは三体のなかで最も足が速いアスリート体型の鬼だった。

 工事用の電灯の光が鬼の姿をはっきりと映し出す。

 ここに来て始めて知ることになる体格以外にも異なっている点。それは鬼の面の色。背の高い鬼の面は黄色で、筋肉質な鬼の面は緑、アスリート体型の鬼は青色の面を付けているのだった。気付けば見えてくるのは面の色だけではない。驚いたことに纏っていたマントの色までもがそれまでの薄汚れた黒色ではなくそれぞれ面の色と同色に見えてきたのだ。

 青い鬼が棍棒を掲げて襲い掛かってくる。



「そいやっ」



 ハルがハルバートをフルスイングして青い鬼を打ち払った。

 硬い金属同士がぶつかり合うような音が響き渡る。



「なっ、案外、力が強い……」



 言葉を発することなく武器を打ち付け合う青い鬼と焦ったような声を漏らすハル。

 二人の戦いに手を出すことなく警戒し続けていたムラマサが叫ぶ。



「次が来るぞ!」



 黄色の鬼と緑色の鬼が揃って襲いかかって来た。

 鬼の武器は棍棒。ただし使う鬼の体格が異なれば当然それが届くリーチは違ってくる。狼牙刀を使っているムラマサは背の高い黄色鬼に、俺は緑色の鬼にそれぞれ対峙した。



「刀身が歪むことなく打ち合えるみたいだね」



 刀というものは存外柔らかい。時代劇のように刀同士で打ち付け合ったりすれば直ぐに刀身に歪みが出てきてしまうのだ。まして今回の鬼が使っているのは棍棒。重く頑丈なことはうりの打撃武器とぶつけ合ったりしていれば直ぐに刀の方が使い物にならなくなってしまう。

 しかし、どんなに打ち合っても狼牙刀は歪まない。それは俺が使う精錬された片手剣も同様だった。

 武器が壊れる心配はなく安心して思い切り打ち合える。

 ムラマサはその場で立ち止まって打ち合うよりも移動し続けることで得意な間合いを保ちながら戦っていた。

 どちらが優勢とも劣勢とも決まっていない、戦闘が始まってまだ間もない頃。

 俺はすっかり忘れていた。たった一つの疑念がこの戦闘においてかなり重要な要素だったことを。

 突き出した精錬された片手剣が緑色の鬼の肩を掠める。

 血の代わりに削れたポリゴンが舞い散る。

 そして、緑色の鬼の頭上にHPゲージが目に見えて減少した。



「よかった。倒せないわけじゃなさそうだ」



 俺が忘れてしまっていたこと。それは鬼が倒せる存在なのかどうか分かっていなかったことだ。

 けれど、それは杞憂だったらしい。確かにダメージは与えられた。それも自分達と同じように普通の戦闘ではあり得ない程のダメージが。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【12】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


幼竜の鎧――幼き竜が身を守るための鱗の如き鎧。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪格闘・1≫――<マグナ>発動後一度だけ武器を用いらない攻撃の威力を上げる。


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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