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闘争の世界 ep.08 『予選~第一回戦②~』



 当然現実世界で巨大な蛇に追いかけ回された経験など俺にはない。そういう意味では希有な経験を経ていると言えるのかも知れない。それが嬉しいか嬉しくないかと言われれば微妙な話だが。

 眼前に迫るソードウィップの切っ先をギリギリのタイミングで払い打ち上げる。本来ならばその瞬間に生まれるであろう隙を突いて接近し反撃するのだが、意外にもヴァイバーは戦い方が上手い。絶妙なタイミングで剣を引き、攻撃と攻撃の間に生まれる空白を埋めてきたのだ。その挙動が大きな動作によって引き起こされるのならば目で見て対応することもできたのかもしれないが、事実ヴァイバーはそれを僅かに手首から先だけを動かすことのみで果たしてみせたのだ。



「粗雑な態度をしているわりには繊細な戦い方をするもんだな」



 感心したように呟く俺の目に映るのは心の底から楽しげなヴァイバーの姿。それが彼の望みなのだろう。だとすればこの戦いは彼にとってまさに絶好の舞台となったのだ。



「はっ、楽しいな、ああ」



 興が乗ってきたのかヴァイバーは徐々にソードウィップを振るう動作が大振りになってきた。それでいて全く精度を失っていないのだからタチが悪い。



「そうだな。楽しい、かもね」

「はっ、いいね。おまえもなかなかじゃねえか」

「アンタに褒められても嬉しくはないかな」

「ほざけ」



 少しずつではあるが俺とヴァイバーの位置は近付いている。それがわかっているからかヴァイバーの攻撃も徐々に苛烈になっていった。

 傍から見れば俺は踊るように動いているのだろう。当人は必死にどうにか直撃を避けて動いているに過ぎないというのに。

 この戦い、確かに見世物として十分な派手さをもっているのだろう。ハルバートを振るうハルも、狼牙刀を振るうムラマサも、そして彼女達と相対している赤矢とヨグスもそれぞれ格闘ゲームも同然という戦いを披露しているのだから。

 奇しくもこの戦いは魅力的に感じられた。自分達以外の戦いを見てみたい、当事者ながらそう思えるくらいには。



「このままだと届かない、か」



 適切な回避と防御は出来ているとはいえ俺にはまだ唯一出来ていないことがある。それが攻撃。刀身を伸ばすことで自在に距離を変えて攻撃が出来るソードウィップを使うヴァイバーが圧倒的優位に間合いを支配していたからだ。

 自分が使っている剣だけでは届かない。

 けれど他の武器は持っていない。

 だから攻撃が届かない。

 純然たる事実。

 変えられない現実。

 ただし、これまでは。



「<シーン・ボルト>!!」



 直剣の切っ先をヴァイバーに向けて叫ぶそれは新たに獲得したアーツの名前。MPを消費して無属性の鏃にも似た砲撃を撃ち出すことができるアーツ。ボルトと名付くのはその軌跡が稲妻のように見えることから。

 それを開放するスキルは≪砲撃・7≫。本来、銃系統の武器に対応しているスキルを剣で使っているのだ。スキルを得ることになったきっかけは手近な石で投擲攻撃をしたこと。その時点で≪投擲≫というスキルは習得可能になっていたが攻撃手段を増やすという目的ならもっと威力の高いスキルのほうが良いだろう≪投擲≫は見送ることにしたのだ。だとしても中遠距離攻撃は欲しい。見送ったとはいえ≪投擲≫が一番可能性があったことも直感で理解していた。

 だからだろうか。俺は無意識にもモンスターとの攻撃に手近な物を使った投擲を織り交ぜるようになっていった。それは時に落ちている石ころだったり、あるいは自分の武器であったり。他にも手当たり次第投げつけて僅かなダメージを与えていた頃、突然習得可能スキルの一覧に≪砲撃≫が加わっていた。最早何がトリガーだったのかはわからない。けれどそれが自分が求めていたものであることは間違い無かった。

 だが大変だったのは習得してからも同じだった。≪砲撃・1≫で使えるアーツが<ショット>だったことが最初のつまずき。<ショット>というアーツは射撃攻撃の威力強化で、そもそも射撃攻撃が行えない俺では使えないアーツだったのだ。ならばとスキルレベルを上げて≪砲撃・2≫にしてみても使えるアーツは<シーン・ショット>という弾丸を使わずにMPを使って攻撃することができるものでしかなかった。それだと剣を使う俺では使えない。我が儘であろうと弾丸や銃を使わずに遠距離攻撃が出来るようにならなければならないのだ。

 スキルを習得するために使ったスキルポイントは結局件のスキルを使わなくなったからといっても戻ってくることはない。だとすれば使える段階になるまで強くするか、失敗だったと諦めてスキルポイントの無駄を受け入れるしかない。大抵は諦めるのだろう。けれど俺は諦めが悪く、同時に使ったスキルポイントが勿体ないと考えてしまったのだった。

 スキルポイントは残っているとさらに≪砲撃≫のスキルレベルを上げる。そうして≪砲撃・7≫になった時にようやく弾丸も銃も使わずに射撃ができるアーツを手に入れることができた。

 後は自分がそれを使い熟すだけ。

 モンスターとの戦闘のたびに繰り返し使う事で着実に命中精度と使用感を高めていくことができていった。

 ヴァイバーが振るうソードウィップの合間を縫うように放たれた<シーン・ボルト>がヴァイバーの肩を穿つ。

 白色の閃光が迸り、衝撃がヴァイバーを襲う。



「くあっ」



 ほんの僅かにヴァイバーの制御を離れ、ソードウィップの切っ先が浮いた。

 いつもならここで突っ込むだろう。けれどこの時の俺はそうすることはなく、再び<シーン・ボルト>を放った。

 よろめくヴァイバーに追撃の砲撃が命中する。アーツであるが故に気軽に乱射することはできないが、それでも十分な連続性を以て放つことができる。



「ああ、鬱陶しい」



 ダメージは通っているが、一撃で倒しきるほどの威力ではない。だがそれはプレイヤー戦であるからこそ。モンスターには必殺の攻撃であってもプレイヤーにとってはただの強攻撃程度になってしまう。

 現にヴァイバーは二度の<シーン・ボルト>を受けても平然としているし、減ったHPも全体から見ると2割程度でしかない。動きを阻害するような付加効果もなくダメージと衝撃にさえ慣れてしまえば慌てることはなくなる。

 三度切っ先を向ける俺を見てヴァイバーは自身のソードウィップを引き戻した。そして天高く剣を構えると、腕全体を鞭のように撓らせて地面を深く抉り取るように斬り付けた。

 ガリッと耳障りな音がする。

 もくもくと砂埃が周囲を覆う。

 ヴァイバーが作り出した目眩ましは俺の視界から完璧に自身を隠すことに成功していた。



「どうする?」



 戦場から去ったなんてことはありえない。そもそも舞台が用意されている以上はそこから外れてしまえば敗北となってしまう怖れすらあるのだ。いくらヴァイバーが戦いそのものに執着しているとはいえ、むしろだからこそその機会を自ら失わせるような真似はしないはずだ。

 だとすればこの砂埃の目的は一時的な身隠しではなく次なる攻撃への布石。

 一時砲撃を断念して構えを変える。

 腰を低くして相手の攻撃の気配を探る。

 大丈夫。攻撃を察知するだけのヒントは与えられている。



「まだ……」



 息を殺してその瞬間を待つ。



「来い………来い…………」



 漫画やアニメのように気配を読むなんて事本当はできっこない。だから本当は気配ではなく予兆を探ると言った方が正しいだろう。

 この場における攻撃の予兆。それは奇しくもヴァイバー自身が作り出したこの砂埃の煙幕のカーテン。



「そこだっ<ラサレイト>!」



 灰色の煙を突き破って襲い掛かるソードウィップの切っ先が姿を現わした。

 見てから動いたのでは遅すぎる。

 衝動に身を任せて剣を振り上げる。

 タイミング良くアーツを使えたのはただ単に運が良かったに過ぎない。けれどその運がこの状況では勝敗を決する分水嶺ともなりかねないのだ。



「くそがっ」

「ようやく見つけたぞ、ヴァイバー」



 切っ先が弾かれ元の形に戻されたソードウィップと俺の持つ精錬された片手剣がぶつかり合う。

 つばぜり合いを繰り広げている間に晴れた砂埃から姿を現わしたヴァイバーはどこか楽しげに、それでいて憎々しげに嗤っていた。



「遠距離からの打ち合いよりもこういう方が好みだろ」

「はっ、間違い無いな」

「だったら! 少しばかり付き合えよ!」



 強引にヴァイバーを押し退けようとする俺に対してヴァイバーは剣を振ることで防御と反撃を同時に行った。

 そうして出来た距離は戦闘を仕切り直させるにはちょうど良い。



「さっきのアーツ。剣を向ける必要があるんだろ」



 普通の長剣となっているソードウィップの切っ先を下げながら問い掛けてくる。一見攻撃には向かない体勢、そう見えるのにどうしてだろうか、ヴァイバーにあからさまな隙は見つけられない。

 攻めあぐねている俺を前にヴァイバーは僅か二度見ただけのアーツの弱点を看破してしまっていた。

 <シーン・ボルト>は剣を用いて行える貴重な遠距離攻撃である。しかしそれ故に放つときは剣そのものを砲身として代用する必要がある。その為に無闇に序盤から使う事ができなかったのだが、だとしてもこの短期間で見抜くとは、侮っていたわけではないが、それでもと言わざるを得ない。

 攻撃モーションの固定化。それは最初に習得した≪片手剣≫スキルにあるアーツを見た時から最も避けなければならないことと自覚していたというのに。



「それはどうかな」



 などと強がったところで現実は変わらない。

 これ以上剣先を向けた所で意味は無い。ヴァイバーに対して放つ無策の<シーン・ボルト>は事前に撃つ場所が分かっているテレフォンパンチも同然だろうから。

 だからこれは虚勢。はったり。もし相手がヴァイバーのような勘の鋭さを持っていなければ攻撃するぞという牽制くらいにはなっていたかもしれない。けど、構えからアーツの発動という二つの手順が必要な攻撃である以上、それは自分から生み出してしまう隙になってしまう。



「ハッタリだろうが」

「かもな。けど、それはアンタも同じだろう。刀身を解放した鞭技(アーツ)はもう通用しないぞ」

「だろうな。だが――」



 手順が必要なのはヴァイバーのソードウィップも同じ。刀身の変化、そして攻撃と段階を踏むのでは俺に攻撃の機会を与えているだけも同然。加えて武器を元の状態に戻すという行程も攻撃の後に残されている。そうなれば自然とヴァイバーの行動は封じられてしまっているも同然だった。



「何か問題あるのか?」

「ぐっ!」



 強い衝撃が俺を襲う。

 剣の形を変えることなくヴァイバーが斬り掛かってきた。



「戦いに得物の形なんて関係ねえ。大事なのはおまえを叩き潰す腕があるかどうかだけだ」



 武器なんて関係ない。自らの言葉を証明するかの如くヴァイバーは剣を使って俺をその場に縫い付けたまま乱暴に蹴りを放ってきた。

 竜玉(ドラグライト)(アーマー)と幼竜の鎧の防御力があるというのに想像以上に重い衝撃が俺の腹部を打ち付ける。

 ここからは格闘戦だ。

 まるでそう告げるような一撃を皮切りに剣戟を織り交ぜた攻撃が繰り出される。

 剣で拳を受けて、拳で蹴りを払う。

 強制的に始まった格闘戦は不思議と俺の心を躍らせていた。

 互いの手が届く距離のまま殆ど変わらない位置に立ち続け、防御と攻撃を交わし合う。

 必要なのは技と駆け引き。

 粗暴な態度でありながらそれが高い水準にいるヴァイバーは次第に俺を追い詰めていくのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【12】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


幼竜の鎧――幼き竜が身を守るための鱗の如き鎧。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪砲撃・7≫――<シーン・ボルト>弾丸と銃を使わずに放つことができる無属性射撃技。

≪……・1≫――<……>


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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