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闘争の世界 ep.07 『予選~第一回戦①~』



 障害物など一つも無い広大な舞台。

 正方形に切り出された石が敷き詰められた地面、舞台の四方の端にはそれぞれ石の柱が聳え立っている。天井はなく見上げると雲一つない晴天の空が果てしなく広がっている。

 目には見えないがこの柱を結んだ範囲の内側が今回の戦場となっているようだ。

 程なくして同じ色をした六つの光が瞬いた。

 舞台の両端に三つずつ。

 幾重にも重なるように上から下へと移動する光の輪の中から六人のプレイヤーが現われた。



「向こうも準備万端みたいだなー」



 マッシブな重鎧――【翠玉(エメラルド)(アーマー)】を纏ったハルが山頂から遠くを眺めるときのような素振りで言う。



「んー、僅か半日の準備期間だったというのに、向こうも中々だね」

「それを言うなら俺達だってさ。結構良い感じだと思うけど」

「まあね」



 ムラマサは着物の意匠が組み込まれた軽鎧――【紫水晶(アメジスト)(アーマー)】を、俺は【竜玉(ドラグライト)(アーマー)】という防具を装備している。それぞれ同じタイミングで手に入れた【外装防具】であるために基本的な部分は似通っていて、パーティで揃えたと言っても違わないような防具となっていた。唯一の予想外があるとすればこの【外装防具】は戦闘に突入した段階で頭部を覆う兜が出現するということ。普通の兜とは異なり装備していても視界を遮ることはなく、呼吸も何も装備していない時と変わらない。顔の前面から後頭部にかけて頭を覆うこの兜のことをハルは仮面みたいだと言っていたのが印象的だった。そしてそれに自分が殊の外すんなりと納得してしまっていることも。

 とはいえその中身は以前とは別物だ。

 限られた時間の中で最大限行えたダンジョン攻略で手に入れたそれぞれに適した最大限性能の高い防具を装備しているのだ。

 俺は【幼竜(おさなりゅう)の鎧】というもの。【外装防具】の名前から関係していそうなものを使った方が良いとハルとムラマサに勧められて選んだ防具だ。そしてハルは【灰色巨人の重鎧】、ムラマサは【流れの反物】。全員が自然と先に決まっていた【外装防具】に合った【内部防具】を選んだのだった。



「武器まで完璧とはいかなかったけどな」

「んー、それは仕方ないさ」

「まあ、そうは言っても武器もそれなりには出来たと思うぞ」

「おれは【剛腕のハルバート】に変えたし、ムラマサも【餓狼の太刀】を持ち替えて【狼牙刀(ろうがとう)】にした。そして、ユウも――」

「まあ【量産された片手用直剣】よりは大分マシだよな」



 そう言って腰の後ろにある新しい剣【精錬された片手剣】に手を伸ばす。



「おーい!」



 10メートル以上離れた場所にいる赤矢が警戒心など無い様子で声を掛けてきた。



「えっと…」

「あれってさ、応えた方がいいのかな?」

「んー、どうしようか」



 困ったように微笑うムラマサに俺とハルは互いの顔を見合わせた。



「とりあえずさ、手でも振ってみる?」

「そ、そうだな」



 ハルと揃って小さく手を振る。すると喜色一杯に笑い赤矢が大きく手を振って返してきた。



「これで合ってる?」

「あってるんじゃないか?」

「でもさ、何で俺達はこんなことしてるんだ」

「さあ?」



 戸惑う俺達の間に微妙な空気が流れる。この空気を破ったのは意外にもヴァイバーが赤矢の背中を蹴り飛ばしたことがきっかけだった。

 こちらには聞こえてこないくらいの声量で赤矢が何か怒鳴っているように見える。それを無視して知らぬ存ぜぬを貫いているヨグス。

 そんな漫才を繰り広げている三人を眺めているとようやくといったくらいに舞台の中央に大きな時計が出現した。文字盤だけの巨大な時計。六時を示しているそれがゆっくりと動き出した。



「三十秒後、かな」

「みたいだな」

「これってさ、誰かが見ているんだろ?」

「んー、そのはずさ。尤も観られているのはこの試合だけではないと思うけどね」



 何もない虚空を見上げて呟くムラマサ。その視線を追って彼方を観る俺とハル。

 ピリッと肌を刺す緊張感が漂い始めた頃、時計の針が十二時を指した。

 ゴーン、ゴーンと大鐘楼かと見紛うばかりの鐘の音が響き渡る。

 全ての舞台で全ての予選が始まったのだ。



「来るぞっ!!!」



 即座にムラマサが構えをとって叫ぶ。

 それと同時に向こう側からヨグスが駆け出してきた。

 この予選が始まる少し前、発表された今回の予選のルール。それは戦闘はパーティ同士で行うということ。勝敗を決めるのはどちらかのパーティメンバー全員が戦闘不能になる、あるいは敗北を認めたとき。戦闘中、回復アイテムは使用禁止。つまり体力を回復させるにはそれに該当するスキル、もしくはアーツを使用しなければならないということのようだ。使う武器、防具に制限はなく、各プレイヤーのレベルも上限は設定されていない。これによりいずれレベルによる隔たりが参加しているプレイヤーの間に生まれるだろう。しかしそれはまだ先のこと。今はまだその差は限りなく少ない。

 ヨグスが単独で突っ込んでくる光景を目の当たりにしながらも俺はぼんやりとそのようなことを思い出していた。



「予定通り、彼の相手はオレがするよ」



 予選第一試合の対戦相手が赤矢、ヴァイバー、ヨグスの三名だと知った時、俺達はそれぞれの武器と戦い方を予想し、対策してそれぞれが対峙する相手を決めた。

 レイピアっぽい剣を携えているヨグスにはムラマサが。



「だったらあの赤矢ってヤツの相手がおれだな」

「ああ。任せるぞ」



 あの時に見た赤矢は背中に大剣を背負っていた重く大きな武器を使う相手ならば同じように大きな武器を使うハルが適任だろう。

 剛腕のハルバートを構え、赤矢に向かって走って行くハル。一対一で戦う意思を察したのか赤矢もまた背中の大剣を抜き構えて迎え打つことにしたようだ。



「さて、俺の相手はっと……」



 ゆっくり歩いて近付いてくるヴァイバーを睨む。



「行儀良く戦ってくれるみたいだな」

「意外か」

「正直ね」

「はっ、そうかよっ」



 俺の持つ片手剣とヴァイバーが持つ剣が打ち合う。

 生じた衝撃に身を仰け反らせ、そのままの勢いで追撃を繰り出す。そしてこの一撃もまた互いを吹き飛ばすだけに留まった。



「くぅっ、流石に強いな」

「はっ、まだだ、全然足りねえな」



 仮面により表情が読めない俺とは異なり楽しげに表情を歪めて笑うヴァイバー。



「なっ!?」



 体を起こして切っ先を向けた瞬間、ヴァイバーの体が目の前にあった。



「遅えよ」



 ニヤリと笑い素早く斬り付けてくるヴァイバーに反撃することは間に合わず、俺が出来たことと言えば片手剣を盾にしてその攻撃を耐えることだけだった。

 それでも、どんな時でも反撃のチャンスはやってくる。

 攻撃の狭間となる一瞬の空白。今回は徐々に大振りになるヴァイバーの剣先が浮いた、その瞬間。



「そこだっ」



 振り上げられたヴァイバーの腕を狙って片手剣で斬り上げる。

 激しい火花が散るダメージエフェクトが迸りヴァイバーの攻撃が止まった。



「ぁああ?!」

「いつまでも好きにさせるかってな」

「はっ、いいね。もっと来い、おれを楽しませろ」



 嬉々として剣を打ち付けてくるヴァイバーに再び俺は防戦一方になってしまう。どういうわけかこの時の俺はヴァイバーから放たれる威圧感のようなものに圧され続けているのだった。



「くっ」

「どうしたあぁ、守ってばっかじゃ面白くもねえぞ!」

「アンタを楽しませてやる義理はないんだけどな」

「だが、おまえはおれのまえに立っている」

「生憎とアンタの相手は俺が一番ってことになったからさ。不本意だけどなっ」

「だったら、もっとおれを楽しませろっ!!」



 乱暴に打ち付けてくるヴァイバーの剣に徐々に慣れ始めていた俺は時折それを自らの片手剣を用いて弾き返し始めていた。



「せいやッ!!」



 ヴァイバーの剣を弾き出来た隙を突いて攻撃を行う。

 俺の片手剣の刃がヴァイバーの体を捉えるも、ヴァイバーの装備している鎧が俺の攻撃を防いだ。



「何っ?!」

「いいね。攻撃を当てられたのは久しぶりだ」



 ヴァイバーの体にノイズが走り、その姿が変わっていく。

 これまでのヴァイバーの姿は薄汚れた蛇皮の上着だけが特徴的で下のパンツや靴なんかは一般的なものでしかない。防具の形と能力が一致している装備だったのならばあまり性能の高くない防具を選んでいるのだろうと思っていたが、どうやら違ったらしい。



「【偽装】か」



 それがスキルの効果なのか、あるいは防具の効果なのかは分からないが、自分の能力を隠すことが出来ていたのは間違いなさそうだ。



「違うな。おれのこれは【擬態】だ」



 種明かしをするかの如く露わになっていく新たなヴァイバーの姿。

 暗い影を貼り付けたような色をした鎧。上半身も下半身もそしてその口元を覆っているフェイスガードもよく見れば黒い鱗がびっしりと敷き詰められていた。



「名前の通り、蛇みたいなヤツだな」

「知るか。これは使いやすいから使っているだけだ」

「自分で選んだんじゃないのか?」

「はっ、おれが興味あるのは戦いだけだ」



 きっぱりと言い切ったヴァイバーに驚く俺。

 自然体のままだらりと両腕を垂らした格好で立つヴァイバーが軽く腕を振った瞬間、俺の足下に亀裂が生じた。

 その後一瞬キラリと輝いた何かを視線で追いかけるとそれはヴァイバーの剣に行き着いた。



「何かが伸びた? 腕、いや、あれは――剣か」



 あるわけないと思いながらも呟いた俺は直ぐに自分の認識が間違っていないことに気が付いた。ヴァイバーの剣がその本来の姿を現わしたのだ。

 文字通り鞭のように伸びて撓る剣――【ソードウィップ】が本物の蛇のようにその切っ先で得物を探しているのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【12】


武器


精錬された片手剣――一人前の鍛冶職人が作り出した片手用直剣。かなり頑丈に作られている。


外装防具


【竜玉の鎧】――ドラグライトアーマー。剛性と柔軟性を兼ね揃えた鎧。


内部防具


幼竜の鎧――幼き竜が身を守るための鱗の如き鎧。


習得スキル


≪片手剣・3≫――<ラサレイト>発動の速い中威力の斬撃を放つ。

≪……・7≫――<……>

≪……・1≫――<……>


残スキルポイント【1】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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