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闘争の世界 ep.03 『初日~その③~』

前回登場して作中で詳細が出てきていないスキルとアーツの紹介です。


≪ハンマー・1≫――<クラッシュ>最大3カウントのため攻撃を放つ。

≪弓・1≫――<狙い撃ち>命中率の高い一射を放つ。




 アーツを用いた攻撃は普通の攻撃と違う所がある。それはシステムに促されるようにアーツによって定められている動きを半ば強制的にしてしまうことだ。俺が使った<スラッシュ>のような基本的でシンプルな攻撃を繰り出すアーツでもそれは変わらない。

 アーツ<スラッシュ>は文字通り斬撃を放つ技である。その挙動は飛び込みからの振り下ろし。

 自分が予測していたただの斬り付けとは違う一撃に若干の戸惑いを覚えながらも俺は正面にいるコボルトに攻撃を命中させた。



「一体がそっちに向かったぞ!」



 一人先んじて攻撃を仕掛けていた俺を無視して一体のコボルトがハルとムラマサの元へと向かって行った。



「見えているとも!」

「任せろっ」



 二人は普段とは勝手の違う武器、そしてアーツを持たないまま戦うことになった。だというのに戸惑う素振り一つ見せはしない。アーツの挙動に戸惑った俺とは違うと思ってしまうほど。

 基本的な攻撃だけでコボルトと渡り合っている二人を横目に俺は一人でコボルトと対峙していた。

 コボルトの動きは単調でやはりゲーム序盤に登場するモンスターなのだと実感できた。けれど生憎なのは自分達のレベルが低いことか。



「メニュー画面を調べてみたときにステータスの数値っぽいものはなかったから正確には分からないけど、これはやっぱり能力不足ってやつかな」



 自分の攻撃がコボルトに与えているダメージが少ないのはその頭上に浮かぶHPゲージを見ればわかる。常に見ていたわけではないから確実なことは言えないが、同じレベルで同じ武器を使っている以上は二人も自分と似たような状況になっていることは間違いないはず。

 それでもどうにか戦えているのはコボルトの攻撃が単調で回避や防御が容易だからだ。



「さっきの感じだと下手にアーツを使うわけにはいかない、か。けど……」



 このままでは埒が明かない。あからさまに自分が与えているダメージ量が少なく無駄に時間だけが掛かってしまう。そう考えることで自然と自分の動きが雑になっていく。だからこそ敢えて声に出して思考を巡らせる。悪い方向ではなく良い方向へと向かうように。



「剣が壊れる感じはない」



 片手用の直剣を突き出してコボルトの肩を穿つ。

 刺さったように見えるが実際には剣先はコボルトの肩に当たった時点で止まる。血も流れないし、穴も開かない。血飛沫の代わりに火花に似たダメージエフェクトが迸り、ダメージという数字でコボルトのHPゲージを削る。



「浅いっ。それに…少ないっ!」



 感じる手応えに反して目立った効果を上げない攻撃に歯痒くなり、不満が言葉となって漏れ出していく。



「いや、全く効いていないわけじゃないんだ。俺が負けなければ、確実に勝てるはずだっ!」



 自分の不安を否定するように、あるいは自分を鼓舞するように言葉を紡ぐ。

 剣を握る手に力を込めて、視線はコボルトから逸らさない。

 腰を低く、前屈みになって、溜め込んでいた息を静かに吐き出す。そして息を吸って、告げる。



「行くぞ」



 すうっと視界がクリアになる。

 コボルトの一挙一動が見えてくる。

 外見は人と異なれど、その体の内側の作りは人と酷似している。主な攻撃手段となる爪は鋭いが、そのリーチは見極められた。

 一気に駆け出してコボルトに切迫する。



「狙いは内側!」



 全身を包んでいる毛皮といえど防御力が高いわけじゃない。自分の攻撃力が低すぎるだけ。ならば効果的な場所を狙って攻撃すればより大きなダメージを与えられるはず。



「はあっ」



 腕の内側を狙って斬り上げる。

 火花が散り、コボルトが身を反らした。



「効いてる。だったら――」



 続け様に攻撃を繰り出す。

 縦横無尽に斬り付け、そのHPを削っていく。



「くっ」



 しかし根本的に威力が低い為にコボルトに態勢を整える余裕を与え、また反撃の機会を与えてしまった。

 まるで先程の突きのようにコボルトが突き出した爪が眼前に迫る。



「回避は――間に合わないかっ」



 それならばと咄嗟に剣で打ち払う。

 大きく打ち上げられた腕を潜り、コボルトの体を斬り付けた。



「ようやく半分っ!」



 コボルトの頭上のHPゲージを見て叫ぶ。

 想定以上の長い攻防。これがもし自分のレベルが相応だったのならば。つい考えても無意味なことを考えてしまう。

 互いの攻撃が届かない距離にまで下がり体勢を整える。



「この距離ならさっきのアーツを使っても――」



 そう考えて全身にグッと力を込める。

 仕掛けるべきタイミングを見極めて息を潜めていると、不意に自分の後ろから二つの人影が飛びだした。



「待たせたね」

「やっと倒したぜ」



 ハルとムラマサが俺と戦っていたコボルトに同時に攻撃をしかけたのだ。



「速かったな」

「嫌みかよ」

「いや、事実俺より倒すの速かっただろ」

「そりゃあ、おれたちは二人だったからさ」

「だとしてもさ」



 コボルトに攻撃しているハルと軽口を叩き合う。

 ムラマサは静かに、そして苛烈に攻撃し続けている。



「もう少し――」

「ユウ!」

「ああっ!!」



 冷静に状況を見極めているムラマサに反応してハルが俺の名前を呼んだ。

 まるで演出したと言わんばかりにコボルトに大きな隙が生じた。



「<スラッシュ>!」



 自分の意思とは異なり加速する体。

 振り上げられた直剣から繰り出される斬撃は正確にコボルトを斬り裂いた。



「ふぃ」



 斬撃を受けて光の粒子となって砕けるコボルト。俺はそれを見届けることなく体から余計な空気を吐き出していた。



「ん?」



 独りでにメニュー画面が出現する。

 戦闘のリザルト画面が映し出されているそこには『レベルアップ』の文字。ユウのレベルが『1』から『2』に上昇したのだ。



「ドロップアイテムは無し、か」



 メニュー画面に映し出されているのはレベルアップ、そしてスキルポイント獲得の画面。それがこの戦闘で得られたものならば、少々物足りなく感じる。



「そこじゃねえよ」

「どういう意味だ?」

「んー、モンスターを倒した時のドロップアイテムってのは直接手に入るわけじゃなくて倒したモンスターが居た場所に落ちているものらしいね」



 なにかを拾い上げながら答えるムラマサ。

 ムラマサはそれを此方に差し出してきた。



「受け取ってくれ」

「いいのか?」

「勿論。均等に三等分できるアイテムでよかったよ」



 手渡されたアイテム。それは透明な液体が入った小さな小瓶が二つだった。



「ポーションか」

「とりあえず回復手段が手に入ったのはいいとしてよ」

「どうした?」

「やっぱり武器がこのままだと使いづらいと思ってさ」



 ハルが自分の剣に触れながら告げた。



「ムラマサもそうだろ?」

「ん、ああ。確かにね。贅沢は言えないけれどさ、せめてもう少し反りのある刀身なら戦いやすいと思うよ」

「おれの場合はせめて大剣かなあ。これがどうも軽すぎて」



 二人の言葉に俺は曖昧な笑みで返した。俺の場合は直剣が使いづらいとは感じていなかったからだ。物足りないとは思っているが。



「それなら先に進もう。ここで何かを手にする手段はただ一つ。戦い、勝利することだけ。なのだからね」



 そう言ったムラマサに頷き俺達は歩を進めることを決めた。



「ただし、オレ達は今よりも一層警戒するべきだろうけどね」

「ああ。それにレベルが上がれば攻撃力とかってのは上がるんだよな?」」

「さすがに初期値固定とはならないはずさ。スキルだってスキルトリガーにセットしなければその効果を発揮しないようになっているみたいだからね。でなければプレイヤーが強くなる手段が限られ過ぎてしまうからね」

「装備で強化するのが基本っていう可能性はないのか?」

「んー、勿論それもあるのだろうけどね。それだけということはないはずさ」

「ってことはさ、自分で確認することは出来ないけど、レベルが上がれば確実に強くなれるってことだよな」

「おそらくね」

「どっちにしてもスキルポイントを稼がないとスキル一つ獲得できないんだ。レベルは上げるほうがいいだろ」

「そうだね」



 周囲を警戒しながら進むさなか交わす言葉は僅かではあるがこのゲームの理解を深められた。



「ところでさ、新しいスキルは何かあった?」



 【地底路】を進んでいる途中でハルが何気なしに訊ねてきた。



「おれとかムラマサはまだスキルを習得していないけどさ、ユウはほら≪片手剣・1≫を獲得しただろう。だったら新しいスキルが出てるんじゃないかなって」

「そういえば。うん。見てみるよ」



 メニュー画面を出して習得可能なスキル一覧を確認した。変わらずにある≪ハンマー・1≫と≪弓・1≫のスキルの他にもう一つ、新しく≪片手剣・2≫のスキルが出現していた。



「習得条件は≪片手剣・1≫の上書き、か」

「問題はアーツだよなあ」

「ああ。俺が思っていたよりも<スラッシュ>のアーツは使いづらかったから、事前にアーツが分かれば良いんだけど」

「んー、そこは習得してみるまでわからないということだね」

「ま、後になれば誰かが攻略情報として纏めてくれるだろうけどさ」

「初日の今日は無理な話ってわけか」

「残念ながらね」



 ふと立ち止まり考える。使いづらいとはいえ一応有用なアーツである<スラッシュ>を残してスキルを変えないままにしておくか、それとも新しい可能性に賭けてスキルを変えるか。



「どうするんだい?」

「これから先の戦闘がさっきと同じ感じなら、もう少し強い手札が欲しいのは間違い無い。それに――」



 なんとなくの勘だけど、俺はこのまま片手剣を使い続けるような気がする。例え異なる何かを手にしたとしても、この剣がこの【ARMS・ON・Verse】における俺の基礎。



「使えるかは使ってみて決めるさ」



 そう言って俺は新たに≪片手剣・2≫のスキルを習得した。スキル紐付いて習得できた新しいアーツは<ラピッド・スラッシュ>。あからさまに<スラッシュ>の強化版であるアーツだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ユウ レベル【2】


武器


粗雑な片手用直剣


防具


簡素な服・上下


習得スキル


≪片手剣・2≫――<ラピッド・スラッシュ>加速した斬撃を放つ。


残スキルポイント【0】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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