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迷宮突破 ♯.19

 俺がアオイとアカネの武器に強化を施した結果、彼女らの持つ槍と薙刀の刀身が黒く変わってしまった。どうやら使用したインゴットの色がそのまま移ってしまったようで元々の刀身の色とはまるで違う。


 俺が強化する前は彼女らの髪の色と同じになるように綺麗に塗装されていたのだ。


 一度始めた強化を途中で止めるわけにはいかないと最後までやり切ったがアオイとアカネはじっと刀身を見つめたまま固まってしまっている。


 これは満足しているのだろうか、それともすぐにでもやり直せと言いたいのを我慢している顔なのだろうか。


「イベントが終わったら色を塗り直すこともできるから……」


 何を言われるのかと内心ビクビクしながら俺は告げた。


 自分の工房に戻れば二人の武器に使う塗料くらいは調達できる。出来ることならすぐにでも駆け戻りたいがそうもいかない。今はその色で我慢してもらうしかない。


「……いい」

「え?」


 ぼそっと小さな声で呟いたのはアカネの方だった。


 拗ねて放った言葉なのかと思いもしたがその顔を見る限りそうではないようだ。


 目を輝かせて熱い視線を自分の武器である薙刀に向けるその姿は少なくとも気に入っていないようには見えない。


「このままでいいよ。すっごい綺麗」


 アオイもアカネと同じように自分の槍に見惚れてしまっているかのよう。


「本当にいいのか? さっきまでとは全然違うだろ」

「これがいいです」

「うん。なんか強くなったって感じがするもん」


 嬉しそうに言う二人には申し訳ないのだが実は今回の強化ではそこまでのパワーアップは叶わなかった。元々それなりのレベルまで強化されていた二人の武器を今以上に強化するにはここにある素材では不十分だったのだ。それでも多少ながらのパラメータアップは出来たし減少していた耐久度も完全に回復させることができた。


 現状出来ることはしたと思ってはいるがあそこまで喜ばれるとやはりどこか気まずい感じになってしまう。


「ありがとな。ユウ」

「ありがとうございます。ユウさん」


 揃って礼を言う二人に俺はただ頷いて見せることしかできなかった。


 これから先、二人がもう一度俺の元に武器の強化を頼みに来ることがあるのならばその時は持ち得る限りの技術で応えよう、そう心に誓いながら俺は残るリタの武器の修復に取りかかった。


 強化とは違い、修復はすぐに終わらせられる。


 ライラの杖は正直専門外だが、金属製の装飾が施されていてそこに手を加えると耐久度を回復させることができた。


 全員分の修復と強化を終えた俺は次に自分の手に集まった薬草をポーションに変える作業を始めた。


 ゴリゴリと磨り潰し、濾過させ、数種類の液体を混ぜる。


 出来あがったポーションを棚の空瓶に入れていくと、合計で六十本ものポーションが完成した。


 二日でかなりの数を作ることになったおかげか、この手順でのポーション作りは手慣れたものだ。一度たりとも失敗することも無く、反対にポーションの効能を上昇させることができた。上薬草から作られたポーションからは低級という文字が取れハイポーションとなった。どうやら足りなかったのは別の素材では無く俺の≪調薬≫スキルのレベルだったらしい。


「リタも終わったみたいだぞ」


 フレンド通信を受けたハルが告げる。


「そうか、わかった」


 防具の修復が終わったのならばリタ達もここに戻ってくるだろう。


 散らかした工房を片付けながら待つことにした。




「今日はこれからどうするの?」


 ぎゅうぎゅう詰めに並べられた椅子の一つに座るライラが問い掛けてきた。


「俺たちはまだ制限時間が残っているから夜にでも迷宮に行くことにするさ」


 代表して答えるハルに反対の声を上げる人はこのパーティにはいない。プレイヤーに与えられる制限時間を有効に使いたいと考えているのは俺一人ではなさそうだ。


 リタが修復をした防具は新品同様の状態にまで回復していた。俺たちはそれに着替え普段の恰好に戻っているなか、リタ一人だけが見覚えのあるツナギ姿になっている。


「ライラ達はどうするんだ?」

「今日はもう終わりだよ」


 そう言って取り出した砂時計を見せてくるアオイは少しばかり残念そうな顔をしている。


 砂時計の砂の大半が下に落ちているのは制限時間の殆どを消費してしまっている証拠。俺たちが助けに行った段階でフーカ達はトロルに追い詰められていただけでもなく、制限時間というものにも追われてしまっていたらしい。


「私たちは朝早くから迷宮に挑んでいたの。その時間は人も少なくて結構自由に探索できるから」


 決まって昼を跨ぐように探索をしていた俺たちとライラ達が顔を合わせることがなかったのはその時間帯に誤差があったから。最後の一時間くらいは重なっていることのあったのだろうが、今から探索を始める俺たちと探索を終えようとしているライラ達は進む場所も違っていれば戻ってくる場所も違う。


 俺たちが探索の度に見かける人の数はそれが全体の数パーセントにしか満たないのだと気付かされたようなものだ。


「あの……情報交換をしませんか?」


 控え目に提案を出したアカネに皆の視線が集約され居心地が悪そうに顔を伏せてしまった。


「もちろんいいよ」


 明るい笑顔を見せるリタに続いて俺もゆっくりと首を縦に振った。


 自分たち以外のパーティが進めた道程は掲示板書き込まれた情報以上のことを知るには直接聞くしかない。俺の知り合いのパーティはライラ達しかいないのだから期日中盤に差し掛かる前に合流できたのはよかったともいえる。


「なにから話そうか」


 とはいえ何から話せばいいものなのか、何を聞くべきなのかすら分からない。


 進んだ階層が俺たちと同じなのだからこの先に何があるかは聞いても無駄だろう。けれど知る情報が全く同じだということはあり得ない。俺たちが知らない何かをライラ達が知っている可能性は大いに存在する。


「ユウくん達はこの迷宮がどこまで続いているのかは知っているの?」

「……知らないけど」

「掲示板を見て第六階層がボスモンスターとの戦闘になるって今日初めて聞いたくらいだからな」


 実際に掲示板を見たのはリタだけど、と突っ込みたくもなったがここはガマンだ。


「この迷宮は全部で十五階層まであるらしいよ。で、六階層と十階層、それに最後の十五階層にボスがいるみたい」

「私たちも攻略サイトを見て知ったことなのだけどね」

「それだけ分かっているってことはクリアしたプレイヤーが出てきたのか?」


 開始して三日でクリアするとはかなりのやり込み具合、それに攻略が巧いプレイヤーなのだと感心していると、


「違うみたいよ。私の知る限り最も進んでるプレイヤーでもまだ十階層周辺じゃなかったかしら」


 それでも十分早い。


 自分たちが攻略最前線だとは思っていないが、それでもかなり速いペースで進んでいるとは思っていた。他のプレイヤーの進み具合に驚きながらも俺は明確なゴールが判明したことに内心ホッとしていた。


「階層の数とボスモンスターの出現するポイントは途中の階層にあった隠し部屋で地図があったみたいでそこに書かれていたようなの」

「それを掲示板に書き込んだのか」

「自分たちだけが知っていても仕方ないからね」


 情報を秘匿するよりは広く知らしめたいと思うのもゲーマーの心理の一つなのだろう。自分が見つけたスキルの組み合わせなんかは他人に知らせようとは思わないが、迷宮で見つけた、それこそ昨日のコボルドの出現ポイントなんかは知らせてもいいのかもしれない。


「なるほどな。十階層にボスモンスターがいるのなら今日はその手前の階層を目標にするか?」


 一日で連続して二回のボスモンスターとの戦闘は精神的にきつい。期間が迫り止むを得ない状況ならまだしもまだ多少の余裕があるこの状況では強行軍をするべきではない。


「そうだね。残り三時間。進めるだけ進んでしまおうよ」


 装備の修復とアイテムの補充は終わっている。


 今すぐにでも迷宮に向かいたいところだが時間も時間だ。夜になるまで休憩し、それから挑んでも遅過ぎるということはない。


 三時間という時間を最大限、有効に使うためにも俺たちが再び集合する時間は夜の八時に決めて、今は解散することになった。


「修理と強化ありがとね。ユウさん」


 嬉しそうに剣の柄に手を置くフーカが言った。


 その後ろで残りの三人もそれぞれの武器を手に口々に礼を言ってくる。


「防具の調子はどうかな?」

「問題ないよ、というより強化したおかげで最初より強くなれたかも」


 リタの行った修理と強化を間近で見てきたライラは形こそ同じなれどその性能を上昇させた防具を撫でるように触り微笑んでいる。


「そう、よかった」


 ライラの笑顔にリタもまた笑顔で応えてみせる。


「それじゃあまたねー」

「あの……ありがとうございました」


 大きく手を振るアオイとその横でお辞儀をするアカネがまず最初にログアウトしていった。


「十階層のボスモンスターもレイドだったら一緒に戦おうね」

「ああ。その時は連絡するよ」

「待ってるよ」


 複数のパーティで同時に戦うレイド戦が第六階層のボスモンスターであるトロルだけのわけがない。それが俺たち全員が話しあって出した結論だった。


 俺たちとそう約束をしてログアウトしていく二人を見送った俺たちもまたそれぞれ夜に集まる時間を確認しあいコンソールにあるログアウトのボタンをタップする。


 四つのログアウトの光が消えたその瞬間、ほんの数分前まで賑やかだった拠点が静まり返り、微かな寂しさを醸し出していた。




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