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ep.20 『忘れ去られし街の聲⑱』



 【悠久】が弾けたことで舞い散った光の粒子が弧を描く星空写真のように部屋の天井を埋め尽くす。



「何が起こっているんだ?」



 天体ショーのような光景を目の当たりにして浮かぶ感想は綺麗というよりも困惑だった。【悠久】を倒した事で終わったはずなのに一向に収束する気配がないのだから。



「シャムロック。いないのか? シャムロック!」



 戦斧を携えたまま叫ぶハル。しかしその呼ぶ声にはなにも返ってこない。



「どういうことだ? 倒して終わったんじゃなかったのか?」

「さあな。倒せていないのか、あるいは――」



 ハルと合流する道中に答える俺。



「まだ続きがあるか、だな」

「続き?」

「戦闘じゃなくてさ、この一連の話のさ」

「ああ、なるほど。それは十分にありえそうだ」

「だろ」



 少しだけ落ち着きを取り戻したハルが俺と背中合わせになるように並んで天井を見上げる。

 幾重にも重なる星々の軌跡を見続けていると突然星々がその動きを止めた。

 一つ、また一つと星々がその煌めきを失っていく。

 次第に広がっていくのはほんの僅かな光さえ届かない漆黒。まさに闇を体現しているかのような色が天井に広がっている。



「暗くはならないんだな」



 星々の煌めきが失われていっているにも関わらず見通せる範囲も、自分達の姿ですら闇に呑まれてしまう気配もない。



「太陽とまではいかないまでも、眩しいな」



 闇に呑まれた星空にただ一つ、一際強い光が残った。



 「あっ」



 明滅するのではなく常に光り続けているその星が流星として流れ、そして、何処かへと消えていった。



「消えた」



 全ての星々が消失し、残った闇の空も徐々にその色を薄くしていきもとの冷たい印象を受ける石の天井へと変わっていった。



「これで本当に終わり、か?」

「だといいんだけどね」



 半信半疑といった様子で呟くハルに応える俺。

 ガンブレイズの引き金に指は掛かっていないとはいえ、未だに警戒を解かない俺と同じようにハルもまた戦斧を持つ手の力を弱めることはしなかった。

 星が消え、闇すらも掻き消えた今、自分たちが居る空間には一時の静寂が訪れていた。



「何も起きないな」

「何も起きないね」

「やっぱりさ、これで終わったって事でいいんだよな」

「えっと、たぶん?」

「多分って」

「いや、だってさ、リザルト画面とか出てきていないしさ。まあ、新しい敵が出てくる気配は無いみたいだけどさ」



 困った顔をしているハルが早口になっていった。



「もう少しこのまま待ってみるしかないのか?」



 途方に暮れるという言葉が脳裏に浮かんできた。まさにどうすれば事態が動くのかさっぱりわからないのだ。

 腰のホルダーにガンブレイズを戻す。

 ハルも戦斧を背負い直してほっと体の力を抜いた。



「とりあえず完全回復しておこうか」

「そうだな」



 思い出したように提案した俺にハルは頷き自身のストレージから色の違う液体が入っている二つのポーションを取り出した。言わずもがな。一つはHP用の回復のポーションであり、もう一つMP用の回復ポーションである。

 提案した自分もまたハルと同じようにストレージから二種のポーションを取り出して使用することにした。

 戦闘の最中からHPとMPは自動回復していく。戦闘が終わったことで減ることがなくなり自動回復は目に見えて効果を発揮していた。それでも完全に回復するには至らずそれを補うためにアイテムが必要になるのは当たり前のことだった。素早くポーションを飲み干すと程なくして現象していたHPとMPが完全に回復した。



「で、これからどうするよ?」

「そうだなあ……ん?」



 空になったポーションの瓶が手の中から消失したのを見届けてハルが問い掛けてきた。この問いを合図にしたかのように消えていた部屋の扉が開き、外の光が差し込んでくる。



「何だっ!」



 突然の光を警戒して叫ぶハルに倣い俺も咄嗟に腰のガンブレイズに手を伸ばす。

 息を殺して待ち構えていると光の中から現われたのは見覚えのある顔。



「ありがとうございました」



 深々と頭を下げるその人物、シャムロックはどこか満足そうな笑みを浮かべている。

 安心したように警戒心を解いた俺達はシャムロックに駆け寄っていく。



「シャムロックが来たって事は【悠久】は倒せたってことでいいんだよな?」

「ええ」



 ハルがいの一番に確かめたのは未だにリザルト画面が現われていないがために確証が持てなかったこと。自分達よりも今回の事象に詳しいシャムロックに断言されたことでようやく心のそこから安堵することができた。



「だったらどうして何も起きないんだ?」



 暗にリザルト画面が出てこないことを聞いた俺にシャムロックは、



「それは」



 と天井に手を伸ばしながら答える。



「これを手に入れていなかったからでしょう」



 星も闇も消えたと思っていた天井から滴のように光が一粒落ちてきた。シャムロックの手に収まった光はゆっくりとその質量を増していく。



「それは?」

「【悠久】です。ただし、美術品のという注釈は付きますが」

「ほう」

「これがそうなのか」



 徐にシャムロックの手の中を覗き込んでみるとそこには小さなコインのようなものがあった。刻まれているのは先程戦った【悠久】をモチーフにした彫刻(レリーフ)。所々がデフォルメされている彫刻は小さなコインにはどうやって掘られたのか分からないくらいに精巧だ。



「さて、これにてわたしの依頼は全て終えたということになります」



 シャムロックがそう口にした景色が一変した。

 自分達が集めてきた美術品が収められている美術館。仰々しい三つの土台の上にそれぞれ置かれている二つの美術品。一つは透明な硝子板に施されている彫刻。刻まれているのはパッと見る限り何がモチーフなのか分からない代物だった。もう一つは生花と見紛うばかりの作り物の花。様々な色が施された花々は華美な生け花の作品のような存在感を放ちながら鎮座している。



「転移したってことか」

「シャムロックの仕業だよな」

「ええ。その通りです」

「ついでに聞くけどさ、シャムロックが最後の敵……なんてことはないよな」

「どうでしょうね」

「えっ?!」

「ふふっ、冗談です。もちろん、ありえませんよ」



 一瞬ピリッとした空気が漂ったが、すぐに霧散して穏やかな雰囲気に戻った。



「びっくりさせないでくれよ」

「いえいえ。これでお別れなのだと思うと少し名残惜しくてね」

「だとしてもさ」



 へたり込むかに思えたハルだったががっくりと肩を落として脱力するだけに留まったようだ。

 シャムロックがその手にあった【悠久】を残る三つめの台座の上に置いた。その途端に美術館中に広がっていく暖かな光。命を育む陽の光のようであり、人々の心に安堵をもたらす篝火のようでもあるその光が与えるシャムロックの街の影響は一体。



「これで街から失われてたものが全て戻りました」

「そっか」

「シャムロックの街には安寧の日々が訪れることでしょう。世界が滅んだりしない限り」



 含みのある言い方をするシャムロックの顔には穏やかな笑みが浮かべられている。

 ごくっと息を呑んだ俺は思わず隣に立つハルの顔を見た。するとそこには自分と同じように虚を突かれた顔をしているのが分かった。



「冗談だよな?」

「もちろん」

「だよな……」



 少しだけ心配になりながらも乾いた笑みを浮かべて笑い合う俺とハル。

 シャムロックが【悠久】を台座に収めたことでようやく本当にこの戦闘が終わったのだろう。普通の戦闘に比べて遅れることかなりの時間を要して俺が密かに待ち望んでいたリザルト画面が現われた。



「終わったみたいだな」

「ああ、やっとな」

「おつかれさん」

「ハルも。お疲れ様」



 互いの拳を打ち付け合う。

 その後は自分達の足で美術館を出て行くまでシャムロックの好意を受けて美術館に飾られている数多くの美術品を見て回ることにした。

 現実の代物ではないからこそ出来る造形や色彩を楽しみつつ日が暮れるまで、いいや夜空に月が出て月光が美術品を照らす中を満足するまで見物して歩くのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【20】ランク【3】


HP【9850】

MP【2790】

ATK【D】

DEF【F】

INT【D】

MIND【F】

DEX【E】

AGI【D】

SPEED【C】


所持スキル


≪ガンブレイズ≫――武器種・ガンブレイズのアーツを使用できる。

〈光刃〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

〈琰砲〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

〈ブレイジング・エッジ〉――極大の斬撃を放つ必殺技。

〈ブレイジング・ノヴァ〉――極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成≫――錬成強化を行うことができる。

≪竜精の刻印≫――妖精猫との友誼の証。

≪自動回復・HP≫――戦闘中一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫――戦闘中一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪憧憬≫――全パラメータが上昇する。


残スキルポイント【10】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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