ep.19 『忘れ去られし街の聲⑰(後篇)』
2023年もどうか本作をよろしくお願いします。
「攻撃を途切れさせるなっ!」
「わかっているさ」
ハルが繰り出す自らのアーツ<爆斧>による連続発動の最中に叫ぶ。
俺もMPの残量に気を配りながらもアーツを発動刺せた攻撃を途絶えさせることはなかった。
被弾は大きなダメージになりそうなものだけを積極的に回避することにして、小さなダメージは敢えて無視をして攻勢に回る。そうすることでようやく【悠久】との戦闘に光明が見出すことができたのだ。
「いいか、回復を忘れるなよ」
「わかっているともさ」
「だったら、すぐに回復!」
自分よりも接近して戦斧を振るうハルに向かって告げる。それは俺かハルのどちらかに回復が必要だと側から見てて思った時にするようにした声掛けであり、今回とは違い俺に回復が必要だと感じた時にはハルが声を掛けてくれる。
「わかったって。少し下がるぞ」
「任せろ」
ハルに代わって前に出る。
攻撃に集中するあまり回復が疎かになってしまうのはどんなに熟練者であろうともありえること。それ故の声掛けであり、それ故のローテーションを組んだ攻撃だった。
「おまたせっ! もういいぞ」
「ああ。でも、もう少しだけ……」
「ダメだ。ユートは後ろでも攻撃が入るんだからさ、下がっていてくれよ。全滅だけは絶対に避けたいんだからさ」
「ああ。でも、<光刃>!」
バックステップする間際、置き土産だと言わんばかりに斬撃アーツを放つ。
地面と水平に放たれたそれは的確に【悠久】の脚を切り裂いた。
「よしっ!」
例え脚を傷つけたとしても【悠久】は揺るがない。動じない。常に平然としている。そう思っていた俺だからこそ喜声を上げたハルがどうしてそんな声を出したのか、意味が一瞬分からなかった。
だがそれは目の前の【悠久】の巨体がよろめいたのを見て理解した。
これまでの攻撃でもダメージは入っている。ならばそれがもたらす影響もまた確実に与えられているのだ。例えどんなに微かでも積み重ね続けた結果がいま身を結ぶ。
「チャンス! 一気に行くぞ!」
【悠久】が体勢を整えるまでの時間が俺達に与えられた絶好の好機。ハルの声を合図にして俺達はより強力なアーツを発動させて攻撃を仕掛けた。
『ガアアアアァァァァァァアッッッツ!!!』
着実に【悠久】のHPゲージが減っていく。
しかし、程なくして【悠久】は起き上がると獣のような叫声を上げた。
「くっ」
「うわっ」
無視できないくらいの大音量の叫声に思わず両手で耳を塞いでその場に立ち尽くしてしまう。
声が止むのと同時に出現した黒い炎が渦を描くように収縮し始めて俺を飲み込まんとしていた。
「ユート!?」
「大丈夫だ。それはさっき見た!」
黒い炎の対処法は掴んでいる。接近してくる黒い炎から射撃アーツで迎撃すれば回避するだけの道は作れるのだ。
素早く行動に移して黒い炎から逃れる。
そうしている間に出来た隙を付いてハルが強撃を放っていた。
またしても叫びよろめく【悠久】。
いつしかそのHPゲージは残り僅かになっていた。
「このまま勝つぞ!」
「ああ!」
簡単に討伐するような攻略法はない。しかし着実にダメージを積み重ねることで【悠久】は倒すことができるのだ。
そのことを実証するかのように、俺とハルは自分達が受けるダメージを丁寧にコントロールしながら戦闘を進めていく。
そして、遂にその瞬間がやってきた。
叫び前のめりになって倒れる【悠久】は自らの巨体を支えるために両手を地面に付いたのだ。
「今だっ!」
ハルが叫ぶ。
一気に【悠久】に駆け寄りガンブレイズを構える。
天高く掲げ、告げる。
「<ブレイジング・エッジ>!!」
極大の斬撃を放つ必殺技の名を。
眩い閃光が【悠久】を飲み込んでいく。
【悠久】が自身の崩壊に抗うように自らの体をも飲み込む黒い炎を巻き上がらせた。
「これでもまだ足りないってのか?!」
「なのだとしても! <豪爆斧>!!」
ダメ押しと言わんばかりにハルがアーツを放つ。
戦斧の激突と同時に広がる爆発が黒い炎を吹き飛ばした。
「頼むぞ、ユート!」
このタイミングではハルに追撃の手札がない。それならば攻撃するのは俺しかいない。
何を使う?
何を使えばいい?
1秒にも満たない逡巡のなかで行き着いた答えはある意味で当然の選択肢。
それは俺が使えるもう一つの必殺技。
「<ブレイジング・ノヴァ>!!」
銃形態になったガンブレイズから放たれるのは極大の光弾。
怯む【悠久】が防御の体制で構える騎士の腕を貫き、悪魔の頭部を穿つ。【悠久】の体を貫いた光弾は遂にその背にある天使の翼を吹き飛ばした。
「どうだ?」
「どうなった?!」
固唾を飲んで事の推移を見守っている俺達の眼前で【悠久】が動きを停止させた。
そしてその次の瞬間、【悠久】の全身が光に包まれ、弾けるように霧散したのだった。