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ep.18 『忘れ去られし街の聲⑯(中篇)』

先週休んだおかげでどうにかちょっとだけ落ち着いてきました。

今回の更新分は前回の続きですが、今回もまた次回に続きます。一気に終わりまで更新できれば良かったのですが、正直そこまでの時間を作ることができませんでした。

とはいえ、今回で今年の更新も終わりです。

途中で更新を止めるつもりはありませんのでどうか来年も本作をよろしくお願い申し上げます。

では、良いお年を。



 大地を這う無数の蛇の如く駆け巡る黒い炎。俺はそれから逃れるべく必死に走り続けた。

 右へ左へ。ハルとの間に距離が出来ようとも構うことなどしないままに。



「ダメだ。追いつかれるぞ」



 俺が走る軌道を視線で追っていたハルが切羽詰まったように叫んだ。

 逃げることに必死になっている現状、残念ながら俺はその声に返す余裕はない。



「その位置はマズい。ユート速く移動を――くそっ。<大爆斧(だいばくふ)>」



 手を伸ばし、躊躇するように手を止めたかと思えばハルは自身の前方へ向かって爆風を飛ばす得意のアーツを放った。

 戦斧の刃は地面に触れた瞬間に巻き起こる爆発は狙ったように俺を追いかけて来ている黒い炎の一部をも飲み込んでいく。



「こっちに来るんだっ」



 爆風に呑まれたことで黒い炎の一部が欠けた。しかしそれは一時的に過ぎない事象。次の瞬間には欠けた場所を補うように黒い炎がその規模を縮めるだけ。

 一瞬覗いた希望への道筋も終ぞ俺は辿ることができなかった。軌道を変えつつ全力で駆けていくも黒い炎の収束する速度がそれを上回ったのだ。



「どうすればいい――?」



 立ち止まり、振り返り、迫る黒い炎に気持ちが焦る。



「そうだ――ハルはアーツで炎を吹き飛ばしていた。それなら俺にも出来るはず」



 ガンブレイズを銃形態にして迫る黒い炎の先端に狙いを定める。



「<琰砲(カノン)>!」



 まずはそれが成功するのかの確認に一発。

 放たれた光弾が黒い炎を弾き飛ばしたのを見届けてから更なる射撃を行った。



「いいぞ。そのままこっちに来るんだ」



 弾けて舞い散る黒い火花の中を駆け抜ける俺に喜色を浮かべるハル。しかしそれに反して俺は未だに勢いを落とさずに追いかけてくる黒い炎に強い危機感を抱いていた。



「途中で止めても復活するか。このままハルと合流したとしてもどうにかなるとは思えないな」



 浮かぶ考えを纏める為に声に出す。

 自分を追いかけてくる黒い炎と反対に佇む【悠久】を一瞥して浮かんだのはある種の希望。



「あ、おい。ユート」



 戸惑うハルを通り過ぎた俺は真っ直ぐ【悠久】へと近付いていく。



「なにをするつもりだ――って、まさか」



 俺がやろうとしていることは攻略法としては比較的ありふれたもの。多大な経験のあるハルでなくとも簡単に気付くことができただろう。

 そう。俺の狙いは黒い炎をそのまま【悠久】にぶつけ返すこと。

 時折振り返ってしっかりと黒い炎が自分を追いかけてきていることを確認しながら走る俺。

 決して狭くはないが、広大と言えるほど広くも無い部屋の中。その瞬間は程なくして訪れる。



「さて、どうなるか」



 急に曲がったとして追いかけてくるであろうことは先程までの逃走劇で確認済みだ。だからこそ危険を承知でギリギリまで引き付けつつ【悠久】にぶつけなければならない。



「【悠久】は動かないか。だったら試してやるよ」



 脇目も触れず【悠久】を目指す。



「ここだっ」



 【悠久】の近く、ギリギリの距離で俺は敢えて追いかけてくる黒い炎の方へと跳んだ。

 ごうっと燃え上がる黒い炎が俺を飲み込んだかに見えたが、俺は黒い炎に呑まれながらも自らの足を止めることはしなかった。

 減り続けるHPゲージ。全身を襲う熱さと不快感。それら全てを受け入れて駆け抜ける。

 蛇の群れのようになって追いかけてくる黒い炎はその挙動を変えることが間に合わずに【悠久】までをも飲み込んだ。



「ふぃ。キッツいな、これ」



 体に残る黒い炎の残り香を振り払いながら俺は燃え上がる【悠久】を見つめた。



「ほれ、回復しとけ」

「ああ。悪いな」



 ハルの手から回復用のポーションを受け取ると躊躇しないで使う。減っていたHPが回復していくのを視界の端で確認しつつ、俺は事の推移を見守ることにした。



「にしても、効いてるようには見えないな」

「…だな」



 ハルの呟きを肯定して目を凝らすとそれは起こった。【悠久】を燃やしていた黒い炎がその役割を果たすことなく掻き消えたのだ。



「やはり自分の攻撃でダメージを受けるような相手じゃないってことか」

「そういうギミックの相手だと思ったんだけどな」

「それはハルの本心か?」

「まさか。言ってみただけさ」



 黒い炎が消滅して、黒い火の粉が舞い散る中に【悠久】は健在なその存在を俺達に見せ付けるかのように悠然と佇んでいた。





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