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迷宮突破 ♯.18

「ちょっと狭いか?」


 元々四人用に建てられた拠点だ。二つのパーティが一堂に会するには若干手狭感が否めない。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 無邪気そうな笑顔と共にアオイがピースサインを向けてくる。


「椅子は足りてるみたいだな」


 不思議とこの拠点に置かれている椅子の数は三つのパーティが全員座れる分だけ用意されていた。普段使っているのは四人分だけ、残りは拠点固有のストレージに保存されている。


「さて、まずは皆の装備の修復だな」


 壊れてしまったフーカの直剣はもちろんのこと、他のメンバーの装備もそのままにはしておけない。


「みんな、武器を出してくれ」


 机の上に様々な形をした武器が並べられていく。


 剣に斧、槍に薙刀、そして杖。俺とマオは迷宮に行く直前に手を加えたから修理するとしても一番後でいいだろう。


「皆は予備の防具はある?」

「ありますけど、なんでですか?」

「そんなにボロボロじゃこの先やっていけないよ。だから私が直してあげる」


 武器は俺に、防具はリタに渡して殆ど初期装備の状態に戻ってしまったフーカのパーティはどこか申し訳なさそうに顔を見合わせている。


 リタが行う防具の修理は鎧の部分と布の部分で修理の方法が違う。一手に引き受けるといっても俺も並行して武器を修理することになる以上、使う素材の数も道具も、場所すら足りなくなるかもしれない。


 現に装備から外された防具のいくつかは机の上に乗らずに横にある棚の中身をどかし、そこに置かれていた。


「……あの」


 とうとう申し訳なさに耐えきれなくなったのかアカネが小さく声をかけてきた。


「どうしたの?」


 ストックしてあるインゴットを確認し始めた俺に代わりリタがそれに答える。


「なんでそこまでしてくれるんですか?」

「何でって何が?」

「だって私たちとは初めて会ったのに……」


 限られたリソースでやりくりしなければならないこの状況で他のパーティに分け与えることなど出来ないと考えているようだ。実際素材は有り余っているわけでは無く、この人数分の装備を全て完全な状態に戻すことができるかどうかはあやしいかもしれない。


「そんなこと気にしなくていいの」

「え?」

「競争じゃないんだから助けあえばいいと思うけどな」


 一つ一つ防具を確認しながら当たり前のことだというようにリタが言った。


「もしこの先、さっきみたいな戦闘があった時にアカネちゃんたちと一緒に戦うことになるかもしれない。その時装備がガタガタでどうしようも無くなってたらいやでしょ?」

「そう……ですね」

「でも、このままじゃ貰い過ぎね」


 アカネの肩に手を置いてライラがはっきりと告げる。


「私たちが出来ることないかしら?」


実際に修理をするのは俺とリタの二人だけ。他の人はスキルを持っていないために直接手伝うことはできない。そんなことはライラも百も承知の上で、それでも何か自分たちに出来ることはないのかと尋ねてきたのだ。


「そうね、だったらあなた達の工房を使わせてもらえないかな? ここで作業をするには狭すぎるもの」


 机は二人が作業したとして十分なほどの広さがあるが問題は鍛冶に使う炉だ。


 武器の修理に使う俺は勿論だとしてリタも金属が使われている鎧の修復には炉を使いインゴットを加工する必要がある。昨日鉱石をインゴット化させていたために行程の一つを省略出来ているとしても肝心の炉は一つ。俺が使用していればリタが使えず、反対にリタが使っていると俺が作業できない。どちらかの修復が終わるのを待ってもよいのだがそれでは今日一日で全ての行程が終わることはないだろう。


 この疑念を晴らす方法は簡単だ。俺とリタがそれぞれ別の場所で作業をすればいい。ここにいるのは二つのパーティで宛がわれている拠点の数も二つ。


「それから、素材アイテムがあれば渡してくれないか? 鉱石やモンスター素材は装備の修理に使えるし、薬草なんかは俺がポーションに変えておくから」


 フーカ達もここに来るまで一度も採集をしなかったなんてことはないはず。自分たちに生産系のスキルが無くても得たアイテムは何処かで使えると考えるもの、少なくてもそのまま使っても僅かばかりの回復効果のある薬草の類は回収していると考えても問題ない。


 自分たちが集めたアイテムは自分たちの資産。そう言って渡すことを阻むこともできるのだがフーカ達は皆自分のストレージから素材アイテムを取り出し俺とリタに手渡してきた。


 俺の予想通り薬草の類はそれなりの数を持っていたが、鉱石は少なかった。モンスターの素材は俺たちよりも戦闘をした数が多いのか種類も量も俺たちが昨日手に入れた分を軽く超していた。


「鉱石をインゴット化させたりするのは私に任せて」


 と言ったのはマオだった。


 俺とリタ以外で唯一生産系のスキルを持つ彼女は自分からアイテムの変換を買って出てくれた。


 テキパキと担当を分担していく俺たちにフーカ達は驚いたような顔を見せた。生産の現場というのは戦いの場とはまた違う緊張感がある。それはこのイベントで他人の武器の修理を担うことになったことで身に沁みた感覚だった。


「それじゃ、私とマオはライラさん達の拠点で作業するから」

「ああ。ここは俺に任せてくれ」


 ライラ達の拠点に行ったのはリタとマオ、それにライラの三人。残る五人はこの拠点に残り俺の手伝いをすることになった。


 手伝いと言っても実はそれほどやって貰うことはない。せいぜい素材と道具を持って来てもらうくらいだ。


「どれからするんだ?」


 背後から顔をのぞかせるハルが尋ねてきた。


「やっぱ、これかな」


 修復の度合いからみれば一番手間と時間と素材が掛かるのはフーカの直剣だろう。他の武器は簡単に修復することができそうだがそれをしたことでインゴットが足りなくなってしまうことだけは避けるべきだ。最悪の場合、このままでもまだ使用に耐えられる状態の武器は無視してもう一度鉱石を集めに行かなければならなくなる。


「と、先に聞いておくべきだったな。フーカ、どんな感じの剣にすればいい?」

「え?」


 突然話を振られてアオイとアカネと一緒になって道具を運んで来ていたフーカが返答に困ったように持っていたポーションを入れる空瓶を床に落とした。


 頑丈に作られているポーションの空瓶は床に衝突しても割れることなくコロコロと地面に転がるだけ。


「なにか注文があれば言ってくれ。長さだとか刀身の幅だとか、重さとか。出来る限りその通りに作るから」

「えっと、元の剣に戻せればそれでいいんだけど」

「俺はその元の状態てやつをしっかりと把握していないんだ。だから出来るだけ細かく注文してくれた方が助かる」


 形で言えばかなりスタンダードな形をしていたことは覚えているが、それはこのイベントに挑む前までのこと。俺たちが自身の武器を強化して挑んだようにフーカもまた何かしら強化を加えていたのかもしれない。俺の記憶の中にある直剣を再現するとなると、それは直剣の状態を強化前に戻してしまうということにもなりかねない。


「いいの?」

「遠慮するな」

「剣はこのくらいの長さで重さは片手で振れるくらいがいい」


 と両手を広げて長さを現してみせた。


「ちょっとそのまま止まってろ」


 手近にある紐を使ってその長さを測り、紐に印を付ける。


 紐に付けられた印を見る限りフーカの望む長さは俺の剣銃の刀身よりは五センチほど長くリタの持つ大剣よりは二十センチ以上短い。この長さで片手で振れるようにするには刀身の幅も自ずと決まってくる。


「もういいぞ」

「うん」


 紐を片付けて告げるとフーカは両手をバタバタと振った。


 元の直剣の材質は何なのか知らないがここで芯に使えそうなのは鋼という名前の付いた鉱石だけだ。


 これは俺たちが手に入れた物ではなくフーカ達が持っていたもの。そして予めこうなることが予想できていたのかマオが鉱石を自分のストレージに納めライラ達の拠点に向かう際、一つだけここに残していったものだった。


「さ、始めるぞ」


 鞘と柄の支えになるように入れられていた折れた刀身の欠片を取り出して横に置く。


 鋼を炉にくべて溶かし、型に流し込んで固めてインゴット化させる。次にそのインゴットを使い刀身の中に入れ強度を高める芯を打つ。加熱と冷却の時間が思ったほどかからないのは俺の≪鍛冶≫スキルのレベルが上がったというよりもこの拠点に備わっている設備のレベルが高いことが関係しているのだろう。早く自分の持つ工房の設備もここと同じくらいにしたいものだ。


 形を作った芯を一定のリズムで叩いてゆく。


 徐々に平たくなる芯は俺の剣銃に使った物より上質なのか、その形を自由に変えることができた。伸ばした芯を一度火にかけ柔らかくし折り畳み、再び叩いていく。この行程を六回ほど繰り返した後、かなりの強度を持った芯が完成した。


 ここにある他のインゴットで刀身に使えそうなものは鉄のインゴットだけ。重さと強度があるそれは剣の材料としては最も一般的で、最も安定している材料だ。


 鉄のインゴットを溶かし、それを芯の周りにつけていく。


 両刃の片手用直剣としての形が整うまで加熱と叩きを繰り返すことで、フーカの使う片手用直剣がとりあえずは出来あがった。


「フーカ、これを振ってみてくれ」

「出来たの!?」


 思ったよりも早く出来たと感じていたのは俺も同じだ。やはり設備が良ければその分時間も短縮されるらしい。


「どうだ?」


 風を切る音をさせながら振り回される直剣は俺が見る限りなんの問題もなさそうだ。後は使用者であるフーカが納得するかどうか。


「うん、いい感じ。重さもちょうどいいよ」


 右手、左手と持ち替えながら振るってみせるフーカは直剣の重さをものともせずに、まるで自分の手足のように扱ってみせた。


「了解だ。仕上げるからもう一度貸してくれ」


 研磨台の上に乗せられた直剣を見下ろしながら俺は苦笑していた。


 再び俺の手に渡った直剣は俺が振るうには重た過ぎる。両手で持てばそれなりに動けはするだろうがそれでは片手剣では無く両手剣だ。片手剣最大の利点ともいうべき敏捷性が失われるのと同じだ。これを軽々と扱うフーカの筋力値はどれほどなのだろう。いくら現実を反映しないとしてもあの細腕でこの重さを振り回すのは些か滑稽に思えてくる。


「ほら、出来たぞ」


 研磨して刃を作ると直剣の刀身は仄かに銀色に輝く。


 こんどこそ本当に直剣が完成した。


「ありがとう。ユウさん」


 嬉しそうに受け取ったフーカは感慨深そうに直剣を見つめている。


「アオイ、アカネ。二人の武器は修理でいいんだよな?」


 次はあの二人の武器の番だ。離れた場所でフーカを羨ましそうに眺めている二人を呼ぶと待ってましたと言わんばかりのスピードで駆け寄って来た。


「私の槍も強化して欲しい!」

「私もお願いしたい……です」


 目の前で生まれ変わった武器を目の当たりにしてはそう思うのは仕方ない。その後ろでハルが自分もという顔をしているがそれは無視することにして、


「わかった。二人はどういう武器にしたいんだ?」


 と尋ねていた。



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