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ep.11 『忘れ去られし街の聲⑩』



 次第に回廊と化していく一本道を進んでいくと暫くして大きな両開きの扉に隔たれた部屋の前に辿り着いた。

 扉に刻まれているのは左右対称の騎士の姿。片手に携えた盾と向かい合う騎士に交差させるように構えた剣。纏っている鎧は一般的なデザインの全身鎧。流線型なシルエットのそれはプレイヤーが使っている全身鎧に比べれば量産品と思わしき代物だ。



「いいか、開けるぞ」

「ああ」



 ハルが扉に手を翳す。騎士のレリーフに仄かな青い光が駆け巡り扉がゆっくりと開かれていく。

 ゴゴゴッと音を立てて開かれた扉は動きを止めた。

 外からでも見通せるようになった部屋は閑散とした有様だった。部屋の中には装飾のようなものは何もない、ただ広い空間が広がっているだけなのだから。



「何もない、よな?」

「入ってみればわかるさ」

「そ、そうだよな」



 恐る恐るといった面持ちで部屋の中に足を踏み入れるハル。俺はそんなハルの隣で周囲を観察しながら部屋に入って行った。



「……!」



 二人の体が完全に部屋に入った途端に扉が閉まった。

 驚き振り返った俺は閉まり今や壁の一部へとなってしまっている扉を見た。



「ユート!」



 ハルに呼ばれ振り返ると自分達が立っている場所とはちょうど反対側になる位置で景色を揺らめかせながら何者かが現われる瞬間を目撃した。

 揺らぎが収まりそこに立っているのは騎士。それこそ扉に刻まれていたレリーフから飛び出してきたと思わんばかりの様相だ。

 胸の前に盾を構え、もう片方の手に握られている剣を騎士の儀礼風に顔の前に翳している。

 俯くように顔を下げた騎士は未だに動く気配はない。



「素通り、は出来そうにないよな」

「そりゃあそうだ。でもなあ」

「どうした?」

「あの騎士がさ、【悠久】とどう関係しているっていうんだ? さすがに無関係ってことは無いと思うけどさ」

「まあな」



 何かを考え込むように眉間に皺を作るハルに俺は頷いて同感の意を伝えた。

 そもそも【悠久】がどういう存在(もの)なのか分かっていない現状、全く関係ないと言い切ることなど出来やしない。

 部屋の中に佇む二体の騎士はそんな俺達の困惑など関係ないと言わんばかりに強い存在感を醸し出してその瞬間を待っているように見える。

 アイコンタクトして俺とハルは揃って一歩足を踏み出した。

 刹那、その瞬間はやってくる。

 騎士が剣先を地面に叩きつけると風が震え大地も揺れた。

 ピリピリと張りつめた空気が肌を刺す。

 否応なく伸びる手がガンブレイズに触れる。



「――っ!?」



 ハルが息を呑む音が聞こえた。

 視線の向こう。二体の騎士が儀礼的な構えを解き、臨戦態勢を取ったのだ。



「行くぞ、先制攻撃だ。<琰砲(カノン)>!!」



 戦闘開始を告げる号砲となる一発がガンブレイズの銃口から放たれる。流星の如く流れる光弾が騎士の一体に命中した。



「せいやぁっ、<爆斧(ばくふ)>」



 俺が狙わなかったもう一体の騎士にハルが戦斧を叩きつけた。

 大きな爆発が騎士を飲み込んで行く。



「どうよ」



 攻撃をして直ぐに俺の傍へと戻ってくるハルがヘルム越しに騎士を睨みながらいった。



「効果はいまひとつだ」

「なんだそれ」

「大したダメージじゃないってことさ」



 俺が放った射撃アーツもハルのアーツを受けても騎士にダメージはごく僅か。盾を構えて防御しているわけでもないにも関わらずだ。



「ん?」



 ハルのアーツが生み出した爆発が収まりその中に立つ騎士が剣を持つ手を振った。風が起こり残る紫煙が吹き飛ばされる。

 一拍の間を置いて顔を上げた並び立つ二体の騎士の腹部から真紅の光が迸った。

 重なり合う二つの光が騎士の姿を変えていく。

 一体は黒く、闇を纏うかの如くその鎧を染め上げて。

 もう一体は純銀。光を反射する鏡の如く磨き上げられたかのような鎧に。



「『月騎士(ツキノキシ)』と『日騎士(ヒノキシ)』か」



 俺が狙った黒い騎士が月騎士に、ハルが攻撃を仕掛けた銀色の騎士が日騎士へとその存在を変貌させていたのだ。加えて最後にそれぞれが持っていた盾が砕け散って鎧に飲み込まれていく。無機質な鎧のようだった体もより生物的なものへと変わる。筋肉のラインが浮き彫りになっているかのような、それでいて硬い甲殻を纏っているかのような姿になった二体の騎士。

 その騎士が持つ剣の刀身が先程内から放たれたのと同じ色に染まっていく。血のように赤く、そしてルビーのように煌めいた赤色に。



「<光刃(セイヴァー)>!」



 射撃アーツが効かないのならば斬撃アーツを試す。

 正面の月騎士に向かって駆け出した俺が振るうガンブレイズの刃を月騎士は鎧の小手の部分を用いて防御してみせた。

 どんなに力を込めて押してみてもビクともしない月騎士。

 後頭部がザワッとした。自分の直感に従って咄嗟に後ろに飛び退くとそれまで自分が立っていた場所を月騎士の剣が振り抜かれたのだ。

 体勢を崩して片膝を付く俺は咄嗟に地面に片手を付いて身を起こす。

 そんな俺に追撃をしてくることもなくただ無感情な眼差しを月騎士は向けてきていた。



「大丈夫か?」

「ああ。攻撃を受けたわけじゃないからな」

「そうか。だったらやれるな」

「当然だ」



 立ち上がった俺の隣に立つハル。戦斧を構えて戦意を漲らせているハルは自らが戦うべき相手を見定めたようだ。



「一人一体だ。ユートもそれでいいよな」

「ああ、いいさ。向こうもそのつもりみたいだからな」

「そうか」



 じっと動かず待ち構えている月騎士と日騎士。しかしそれぞれの視線が向かう先は異なっていた。

 二人が近くで戦おうとすれば互いのことが邪魔になってしまうかもしれない。そうじゃなくても月騎士と日騎士が連携してしまうかもしれない。その危険性を排除するという意味だけでもハルと離れて戦うことは悪い選択じゃないはずだ。

 幸いにもこの部屋は広い。そして遮蔽物のようなものもない。人型の相手と戦うには最適の場所なのかもしれないのだ。



「勝てよ」

「ハルこそ」

「分かっているさ」



 拳を打ち付けあって俺とハルは左右に別れて駆け出した。

 走る俺達を追いかける二体の騎士の視線。

 ある一定の距離まで離れた瞬間、二体の騎士はそれぞれが見つめる相手を追いかけるべくゆっくりと歩き出した。

 重厚な騎士の足取りというよりは圧倒的な強者の足取り。余裕と悠然さを兼ね揃える歩みだ。



「さあ、ここから仕切り直しだ。行くぞ、月騎士!」



 十分にハルと離れた場所で俺は追いかけて来た月騎士に向かって叫んだ。

 月騎士は微かに頷き、初めての構えを見せた。

 刹那飛び出してくる月騎士。

 俺は慌ててガンブレイズを構えて振り下ろさせる月騎士の剣に打ち合わせた。



「――ぐっ」



 生じた衝撃が全身を駆け抜ける。

 思わず仰け反りそうになるのを堪えて前のめりになって剣を押さえ付けようとすると月騎士はまるでその行動すら予測済みだというように切っ先を動かしてガンブレイズを絡め取ろうとしてきた。

 片刃と両刃、互いに直剣の形状を持つガンブレイズと月騎士の剣の刀身がぶつかり擦れる度に線香花火のような火花を撒き散らす。

 一瞬だけ月騎士にガンブレイズを取られないように持つ右手に力が入るがそれも悪手だと分かり即座に少しだけ力を抜いた。ガンブレイズを持つ手を固定しないことで何とかいなした俺は月騎士に左の拳を突き出した。



「うおっ、硬ッ」



 それも当然。重厚な鎧を素手で殴り付けたようなものなのだ。ビクともしないで平然と受け止めた俺の拳を気にする素振りもなく剣に体重を乗せて強引に押し込もうとしてくる月騎士。

 繰り返し拳を打ち付ける俺を僅かに鬱陶しく思ったのか、月騎士は一度空いている手で俺の拳を払い退け、そのまま俺に下から突き刺すようなボディブローを放った。



「ぐおっ」



 あまりの衝撃に体が浮いた。

 防御も攻撃をいなすこともできなくなった瞬間を月騎士は逃さない。左から右に勢いよく振り抜かれた剣が眼前に迫る。

 どうにか身を縮こめてガンブレイズを体の前に置く。

 月騎士の剣が俺のガンブレイズを捉えるも、ガンブレイズはそれが持つ不壊特性のおかげで刃毀れすることも無くただその衝撃が俺に透過されるだけ。

 それでも十分すぎる威力がある。

 ワイヤーアクションさながらに吹き飛ばされる俺は地面に体を擦り付けながらも左手で地面を掴むべく爪を突き立てた。

 現実ならば爪が剥がれていたかもしれない。

 そうでなくとも指先には無数の傷が付いていることだろう。

 強制的に離れさせられた俺を月騎士はゆっくりとした動きで見下ろしている。



「追撃はこない、か」



 身を屈めたまま待ち構えていた俺は感心したように呟いていた。

 確かにダメージは大きい。減ったHPもそれなりだ。けれどそんなものは回復すれば問題は無いし、なによりこのタイミングで攻めてくれればより効果的な反撃も叶っていただろう。

 立ち会い攻撃の読み合いをするよりもある程度攻撃の方向を絞れるこの体勢ならばより反撃しやすかったはずなのだ。

 けれどそんな思惑も月騎士は敢えて動かないことで打ち破った。

 仕方ないと立ち上がり、視線を送ること無くストレージから回復用のHPポーションを取り出して使用する。

 みるみる回復していく自分のHPゲージ。

 状況的にはリセットされた戦闘が再び幕を開ける。

 歩き近付いてくる月騎士に向かって俺は駆け出した。



「せいやっ」



 気合いを込めてガンブレイズを振りかざす。

 打ち合いになった場合不利になるのは自分。それは一度目の邂逅で理解した。だからこそ今度は打ち合うのではなく、ほんの僅かな隙を狙って攻撃を繰り出すことにしたのだ。

 振り抜かれる月騎士の剣を避けて的確に攻撃を行う。

 硬い鎧はガンブレイズの刃をも弾いてしまう。それでも構わない。当たりさえすればごく僅かでもダメージを与えることができるはずなのだから。

 月騎士が再び俺を殴り付ける。剣は当たらない。そう判断したのだろう。月騎士の剣は俺のガンブレイズを捌くことにだけ使われていて、月騎士の最大の武器はその四肢。硬くしなやかな鎧に包まれた肉体そのものだった。

 蹴りや突きなど無数の打撃が俺を襲う。

 重く、体の芯を震わせる打撃だ。



「くっ、まだ、だっ」



 いくつもの打撃を受けながらも俺は月騎士から離れずに攻撃を仕掛け続けた。

 斬り、突き、払う。

 その内のいくつかは月騎士の剣によって防がれてしまうが、三分の一程は命中していた。



「はああっ、<光刃(セイヴァー)>!」



 斬撃アーツを伴う突きを繰り出す。

 輝きを宿すガンブレイズが描く軌跡は月騎士の胸部の鎧の中心を捉えている。

 カーンッと一際大きな音が響き渡る。

 渾身の一撃が生み出した衝撃は俺と月騎士、お互いを大きく壁際にまで吹き飛ばしていた。



「ぐあっ」



 壁に叩きつけられて肺から空気が吐き出される。痛みなど感じていないはずなのにどうしてか呼吸が乱れてしまう。

 体を起こして月騎士を見る。

 月騎士は壁に打ち付けられることなくギリギリで止まって膝を付いている。剣を地面に突き立てて起き上がると構えは取らず剣先を下げてこちらを見て近付いて来た。

 最接近するまでの僅かな時間で俺は再びHP回復用のポーションを取り出して使う。

 HPは万全。三度の衝突はガンブレイズと月騎士の剣の激突で始まったのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【17】ランク【3】


HP【9600】

MP【2680】

ATK【D】

DEF【F】

INT【F】

MIND【G】

DEX【E】

AGI【D】

SPEED【C】


所持スキル


≪ガンブレイズ≫――武器種・ガンブレイズのアーツを使用できる。

〈光刃〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

〈琰砲〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

〈ブレイジング・エッジ〉――極大の斬撃を放つ必殺技。

〈ブレイジング・ノヴァ〉――極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成≫――錬成強化を行うことができる。

≪竜精の刻印≫――妖精猫との友誼の証。

≪自動回復・HP≫――戦闘中一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫――戦闘中一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪憧憬≫――全パラメータが上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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