表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
513/665

ep.07 『忘れ去られし街の聲⑦(前半)』

すいません。今回短いです。



 夜。

 シャムロックの街が静寂に包まれた頃、それは再び現れた。

 漆黒の体躯に漆黒の翼。

 明確な敵意を持って睨み付けてくる夜翼が吠えた。空気が震え強烈なプレッシャーが放たれる。その咆吼がこの戦闘の始まりを告げる号砲代わりだ。



「上から来るぞ」



 翼を畳んでの急降下。爪を立て、牙を剥き、黒い風を身に纏う突進。開幕の一撃としてはこれ以上は無いってくらいの攻撃だ。

 ハルは近くの民家に無断で入ってそれを回避していた。



「ユートは無事かー?」



 同じように別の建物の陰に逃げ込んでいた俺に向けられた若干緊張感の抜けた声に苦笑しながらも視線は夜翼を捉え続けた。



「おーい。聞こえてるかー?」

「ああ、聞こえてる。それよりも大声を出して良いのか? 隠れても見つかるんじゃないのか」

「んあ。そりゃあ、まあ、見つかるわな」



 平然と答えるハルが逃げ込んだ先である民家がある方から轟音が響いた。ガラガラを崩れていく民家。そこから飛び出したハルは傷一つ付いていない。



「危なかった」



 逃げ出したハルを追いかけるように瓦礫と化した民家から夜翼が飛び出してくる。

 巨大な黒い影を正面から向かい打つべくハルが戦斧を構えた。



「どっせいっ」



 ホームランを目指すバッターのような大振りな攻撃。本来ならば当たるはずもない大雑把な攻撃だとしても、相手が向かってくるのならば何とか当てることができるかもしれない。当然限界まで引き付ける勇気が必要で、攻撃するタイミングも完璧に見極める必要がある。それができるかどうかもまたプレイヤーの技量次第というわけだ。

 『ガアアアッッ』と悲鳴とも威嚇とも取れる咆吼が夜翼の口から発せられた。



「のわっ」



 戦斧を振り抜いたことでバランスを崩したハルは夜翼の咆吼に当てられて足を滑らせてしまう。

 反面夜翼はハルの振るう戦斧を受けたことで突進の方向が変えられていた。誰も居ない道に着地した夜翼は体勢を崩しているハルを視線に捉えた。



「こっちだ!」



 体勢を崩したままでは回避することも防御することも叶わない。ハルをカバーする為に建物の陰から飛び出してガンブレイズの銃口を向けた。



「<琰砲(カノン)>!」



 普通に攻撃をしただけでは注意を引くことに確実性は無い。咄嗟にそう判断した俺は躊躇することなく射撃アーツを発動させた。

 真紅の光弾が漆黒の体に当たって弾ける。

 一瞬の閃光が迸り夜の闇を明るく染める。アーツの衝撃と閃光によって怯んだ夜翼は狙いをこちらに変えたようだ。



「うおっ」



 漆黒の豪腕が勢いよく振り下ろされると地面が揺れた。舞い上がる土埃、放射状に広がる細かな瓦礫の欠片。咄嗟に後ろに跳んで避けたとはいえ衝撃から完全に逃れることはできない。どうにか尻もちをつくことは避けられたが地面に片膝を付いてしまっていた。



「まだ来るかッ」



 避けた先にいる俺に夜翼が繰り返し押し潰そうとして前足を伸ばしてくる。その度に地面が揺れて、その度に瓦礫と砂が舞い上がる。射撃アーツによる閃光とはまた違う目眩ましが俺や夜翼を包み込んだ。

 視界を遮る砂埃のなか、俺は息を殺して反撃の機会を窺っていた。



「くっ、夜翼はこっちの位置を掴んでいるってのか」



 どんなに物音を立てないようにしても正確に振り下ろされる夜翼の前足に俺は回避の一手しか選ぶことができなかった。

 ならばどうして先程はハルから自分に意識を向けさせることが出来たのだろうか。視界が塞がっていることは同じ。だとすれば違うのは直接夜翼に与えられた衝撃の有無。



「それなら」



 意識を集中する。

 狙うは夜翼が攻撃してきたその一瞬。砂埃を斬り裂かれ唯一夜翼の姿が剥き出しになる瞬間だ。

 視界を遮る砂埃のなかにいて周囲を探るために残されている感覚のうちここで頼りにするのは聴覚。巨体を誇る夜翼が動けば多少なりとも音はする。自分が動けばかき消えてしまうほど些細な音だとしてもそれを聞くことだけに意識を寄せれば察知することも可能なはず。

 じっと留まりその瞬間を待つ。

 ピリッとした空気が変わる。

 微かな風が足下を通り抜けたその瞬間、右側の砂埃が裂けた。



「せいやッ」



 夜翼の姿が見えたその瞬間に振り下ろされる前足を通り抜けるべく前に出た。

 身を屈め、夜翼の攻撃の射線から逃れるように軸をずらす。

 頬を撫でる風に混じった砂粒を不快に感じながらも、自分の直ぐ傍に振り下ろされた前足が生み出す衝撃波を強く地面を踏み駆け抜けることで逃れられた。

 滑りこむように夜翼の懐に潜り込んで勢いよくガンブレイズを突き立てる。

 硬い毛皮に防がれながらもようやくダメージらしいダメージを与えられた気がする。それでも夜翼のHPゲージ全体を見ればまだ僅かではあるが。



「ぐっ、うおおおっ」



 突き出していたガンブレイズを引いたその時、突然一際強い風が吹き付けてきた。本来目に見えないはずの風が黒く色付きその流れが見える奇妙な風だ。竜巻のように渦を描き空へと昇っていく黒い風が夜翼の足下にいた俺を強く吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた俺は近くの家屋の前にある花が植えられた鉢植えが並ぶ棚の上に落ちた。壊れて滅茶苦茶になる花壇はどこか物悲しい。黒い風に乗って散った花弁が舞い散った光景がそこはかとなく綺麗だから尚更だ。



「<爆斧>!」



 黒い風を受けて起き上がれずにいる俺の視界の先で夜翼の背後からハルが攻撃を仕掛けた。

 振るい下ろした戦斧が生み出す爆炎と爆風が黒い風とぶつかった。拮抗する威力を有する二つの風が一際強い衝撃を生んだ。黒い風と爆風が衝突するその狭間から広がる衝撃は舞い上がっていた砂埃を全て吹き飛ばしてしまっていた。

 剥き出しになる夜翼と俺やハルの姿。

 ダメージは受けているとはいえ傷一つ負っていないように見える両者は仕切り直しだと言わんばかりに悠々と佇んでいた。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【17】ランク【3】


HP【9600】

MP【2680】

ATK【D】

DEF【F】

INT【F】

MIND【G】

DEX【E】

AGI【D】

SPEED【C】


所持スキル


≪ガンブレイズ≫――武器種・ガンブレイズのアーツを使用できる。

〈光刃〉――威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

〈琰砲〉――威力、射程が強化された砲撃を放つ。

〈ブレイジング・エッジ〉――極大の斬撃を放つ必殺技。

〈ブレイジング・ノヴァ〉――極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成≫――錬成強化を行うことができる。

≪竜精の刻印≫――妖精猫との友誼の証。

≪自動回復・HP≫――戦闘中一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫――戦闘中一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫――状態異常になる確率をかなり下げる。

≪憧憬≫――全パラメータが上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ