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ep.04 『忘れ去られし街の聲④』



「どっせーい!」



 激しい轟音と衝撃波が一瞬にして広がっていく。

 戦斧を盾にトワイライト・ガーゴイルの突進を受け止めたハルは一拍の隙間を狙いそれを天高く打ち返していた。



「ユート。追撃!」

「わかってるっ」



 重力に逆らい打ち上げられていくトワイライト・ガーゴイルに向けてガンブレイズで攻撃を行う。

 剣形態では届かない。連続して撃ち出された弾丸だけが唯一そこに届かせることのできる俺の武器だ。

 僅かな閃光となって弾けた弾丸がトワイライト・ガーゴイルにいくつもの焦げ跡を付けている。しかしそのHPゲージが減ったのは期待していたよりもずっと少なかった。



「効果的な攻撃じゃないってか」



 だとしても届かなければ一ポイントすらダメージを与えることはできない。当然ダメージを与えられなければ倒すことなどできるはずがないのだ。

 繰り返し引き金を引いて攻撃を続ける。一度に与えられるダメージが少ないのならばそれを繰り返して蓄積させていけばいいだけだ。

 縦横無尽とまでは言わないものの自在に宙を飛び回るトワイライト・ガーゴイルは時に近付き、時に離れては攻撃を繰り出している。近付いた時にはその牙や爪で、離れた時は瞳から放たれる熱線が自分達を襲う。

 的確に回避や防御をすることで致命的な一撃は避けられているが、それがいつまで続くかはわからない。

 嫌な均衡が続く。

 背中を冷たい汗が伝い、常に首元に刃が突き立てられているかのようだ。



「くそっ、こうなったら」



 堪えきれなくなったとでもいうようにハルが小さく呟いた。戦斧を構え、深く腰を落とす。

 視線は鋭く獲物を捉え、つま先は正確にトワイライト・ガーゴイルに向けられている。



「ユート。少しだけでいい。どうにかして地上付近でトワイライト・ガーゴイルの動きを止めてくれ」



 何をするのか訊ねるよりもその願いに応えた方がいいと、この時に抱いた直感に従って急降下してくるトワイライト・ガーゴイルに銃口を向けた。

 地面すれすれで方向転換してこちらに向かってくる。そのまま通り過ぎるようにして鋭い爪を立てて引き裂く。それがトワイライト・ガーゴイルの繰り出す近接攻撃。だからこそハルの願いを叶えるチャンスがある。

 慎重に狙いを定めて、唯一無二のタイミングを穿つ。



「〈琰砲カノン〉」



 アーツ発動の宣言の後、放たれる閃光。

 眼前にまで近付いて来たトワイライト・ガーゴイルが一瞬にして瞬いた光と熱によって行動を阻害されてその場で停止した。



「ハルっ!」

「おう!」



 上半身が仰け反り、地上に近しい位置でよろめくトワイライト・ガーゴイルに向かってハルは戦斧を掲げて駆け出していった。

 ハルがトワイライト・ガーゴイルに最接近する頃、構えている戦斧の刀身が赤く熱を帯び始めていた。



「〈大爆斧〉!!」



 トワイライト・ガーゴイルの背中に戦斧が叩き付けられる。上から下に真っ直ぐ振り下ろされた一撃は凄まじい爆発を引き起こした。



「まだだ。〈爆斧狩ばくふぎり〉」



 爆発を切り裂く新たなる爆発。

 二度に渡るアーツの連撃によってようやくトワイライト・ガーゴイルに明確なダメージが刻み込まれた。



「一回で成功するなんて思っていないさ。〈爆斧狩り〉」



 同じ場所に同じアーツを使って追撃を行う。

 一気に攻め立てているその様子は苛烈の一言。

 程なくしてトワイライト・ガーゴイルはがむしゃらに腕を振り回し、近くに立つハルを払い退けた。



「くそっ、足りなかった」



 悔しそうにしながらも下がるハルは新たに発見した異変に僅かな喜色を浮かべた。



「ユート。色の変わった場所を狙え」

「色? ……なるほど、あそこか。了解だ。〈琰砲カノン〉」



 ハルの示した場所を狙い射撃アーツを放つ。

 トワイライト・ガーゴイルの色が変わっていた場所。それは両翼の付け根。平時は灰色の体に唯一見受けられた赤と白。波紋のように広がり変わったそこに撃ち出された光弾が命中した。

 攻撃が当たったその瞬間、トワイライト・ガーゴイルは地上に落下した。

 元々地上付近にいたために落下時のダメージはない。しかしそれ以上に見てわかる破壊がトワイライト・ガーゴイルの身に起こっていたのだ。



「これがハルの狙いだったってわけか」



 ガンブレイズを銃形態から剣形態に変えながら俺は関心したようにいった。

 初めてその両足で立つトワイライト・ガーゴイル。その足下には翼の形をした石と無数の石の欠片が転がっている。



「これで飛べないだろう。それじゃ、一気に決めようか」

「ああ!」



 翼があった時に比べてトワイライト・ガーゴイルの動きはあからさまに遅くなっていた。余裕を持って攻撃を回避できて、狙いを定めて攻撃を繰り出せるほどに。

 半ば一方的な展開になったように思う。

 反撃の隙を与えず、また逃走の可能性までも消してしまっていたのだから。



「せやっ」



 鋭い一撃がトワイライト・ガーゴイルを襲う。

 正面からガンブレイズの刃が胸の中心を貫いた。



「とどめだ」



 背後からハルの戦斧がトワイライト・ガーゴイルを縦に両断する。

 俺とハル、二人の攻撃をまともに受けたことでトワイライト・ガーゴイルは瞬く間にHPを減らしていった。

 程なくして俺はガンブレイズをその体から引き抜いた。その行為が引き金になったかのように四肢の端から物言わぬただの石になっていくトワイライト・ガーゴイル。石の体は次第に崩れ、小さな砂の山に変わる。

 砂は微細な灰になり、風がその灰を舞い上がらせる。

 いつしか灰は全て消えてその代わりに辺り一面に春の芽吹きを感じされる光景が広がった。



「倒した、のか」

「次はどうなる?」



 それぞれ武器を手にしたまま、俺とハルは何が起こってもいいようにとじっと待ち構えていた。

 サァァっと風が草木を揺らす音が響き渡る。

 空からは白い光が、大地からは薄い緑色をした光が溢れていく。

 あまりの眩しさに目を瞑る。

 再び目を開けた時、周囲の景色は一変した。



「元の場所、だよな」

「戻ってきたってこと?」

「あ、扉が……」

「消えてる」



 袋小路の最奥にあったはずの扉。それがない。あるのはただの壁だけ。

 不意にガタンっと音がした。

 音がした方を振り向くと床に転がっている一枚の絵画を見つけた。

 無言のまま絵画を拾う。裏返っていた絵画を表にして描かれているそれを見た。



「この絵、この景色って」

「さっきまでおれたちがいた場所にそっくりじゃないか」

「ああ、そうだな」



 綺麗な青空に白い雲。降り注ぐ太陽の光に生命力溢れた緑の絨毯。どこかの景色を切り取った風景画のようだ。

 絵画をじっと見つめていると突然どこからともなく鈴の音がした。

 時を同じくして周囲の景色が歪み始める。

 美術館の天井が消え、壁が消え、そして床までもが消えた。

 代わりに現れたのはそれまでとは全く違う空間だった。海底から空を見上げた時のように揺らめく青。水中から観察することがコンセプトの水族館の水槽の下に立つように煌めく光の中に俺達はいた。



『待っていたよ』



 優しい声色をした女性の声が聞こえてきた。

 足音もなく歩いてくるその姿が揺らめく光に照らされて徐々に明らかになっていく。

 光沢のある白く長い髪。飾り一つない水色のワンピースドレス。高いヒールの白い靴。

 作り物かと見紛うほど整った美貌の淑女がそこにいた。



「誰だ?」



 と呟く俺の隣でハルが言った。



「シャムロック」と。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レベル【17】ランク【3】


HP【9600】

MP【2680】

ATK【D】

DEF【F】

INT【F】

MIND【G】

DEX【E】

AGI【D】

SPEED【C】


所持スキル

≪ガンブレイズ≫ーー武器種・ガンブレイズのアーツを使用できる。

〈光刃〉ーー威力、攻撃範囲が強化された斬撃を放つ。

〈琰砲〉ーー威力、射程が強化された砲撃を放つ。

〈ブレイジング・エッジ〉ーー極大の斬撃を放つ必殺技。

〈ブレイジング・ノヴァ〉ーー極大の砲撃を放つ必殺技。

≪錬成≫ーー錬成強化を行うことができる。

≪竜精の刻印≫ーー妖精猫との友誼の証。

≪自動回復・HP≫ーー戦闘中一秒毎にHPが少量回復する。

≪自動回復・MP≫ーー戦闘中一秒毎にMPが少量回復する。

≪全状態異常耐性≫ーー状態異常になる確率をかなり下げる。

≪憧憬≫ーー全パラメータが上昇する。


残スキルポイント【7】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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