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ep.08 『偏屈ドワーフと変わり者のエルフ⑦』



「これは地味にキツイ」



 思わずそう愚痴りたくなるのも仕方のない事だろう。

 なんといってもリョウダンに連れられてその仮の住居となっている廃校舎の校庭にまでやってきてから今に至るまでずっとリョウダンが呼び出したゴーレムと戦い続けているのだから。



「どうだ! これが我の技【サモン・クラフト】だ!」



 剣形態のガンブレイズに斬り裂かれ元の土塊へと戻ったゴーレムを眺めながらもリョウダンは胸を張り自慢げに叫んでいた。



「いや、おれはリョウダンが召喚系のスキルを使えるのは知ってるからよ」

「そうですね。私も何度か見たことありますよ?」

「ふっふっふっ! そうではない! そうではないのだ!」



 さらに胸を張って半ば体を反らしかけて慌てて元の体勢に戻るリョウダン。

 両手を広げ続け様に言い放つ。



「この技が喚び出すのは並のゴーレムではない! 我が自らの手で作り上げた特別性のゴーレムなのだぞ!」



 その台詞にガダンとラムセイは揃って土塊が蠢き再びゴーレムの体を成す様を見つめてみた。



「たしかに。あの状態から再生するゴーレムはめずらしいか」

「そうであろう! そうであろう!」

「一つお聞きしたいのですが、あれは本当に再生なのですか?」

「ぎくっ!」

「ん? 違うのか?」

「同じ外観をしているとしても同一の個体であるとは限らないのですよ。師匠もあのゴーレムの魔力を注意深く見てみて下さい」

「ほう。あー、なるほどな」

「そういう事です。リョウダン。詳しい説明をお願い出来ますか?」



 鋭い視線を向けるラムセイにリョウダンは観念したというように手を挙げるとそのまま話し始める。



「其方らが疑問に感じていることの種はこれだ!」



 そう言ってどこからともなく取り出したのは紫色をした小さな石だった。



「魔石、ですか」

「その通り! これには基となるモンスターの記憶が残っている! それを媒介にして喚び出すことであの通りの性能を持つゴーレムが出来上がるってわけだな!

 そもそも普通のゴーレムを相手にしてレベル上げなど出来るはずがないであろう!」



 大声で告げるリョウダンの言葉を目の前ゴーレムと戦いながらも聴いていた。

 プレイヤー、あるいはNPCが喚び出す存在はそれそのものが使用者の魔法または武具として扱われるのが通常だった。つまりどれだけそれらを破壊したことで経験値を得ることは叶わず、精々自分の戦闘技術が向上するだけと言われていたのだ。

 だからこそ俺は最初にリョウダンからこのレベル上げの方法を告げられた時は半信半疑だった。それが誤りだと気付いたのは一体目のゴーレムを倒した時。その際に得られた僅かな経験値があったのを確認した時のことだった。



「普通にモンスターを倒した時に比べれば半分以下の経験値しか得られないがな! それも考え方を変えれば利点だろう!」

「より多くの戦闘経験が得られるということですか。しかし、同じゴーレムが相手だと意味が無いのでは?」

「それはどうかな!」



 何度目かになるゴーレムを倒して土塊に変えていると突然リョウダンが叫んだ。



「ゴーレムの形を変えるぞ!」

「へっ!?」

「今度は! そうだな! 熊型だ!」



 言葉の通りに土塊が再び蠢き新たなゴーレムを作り上げた。

 人の形をしていた時に比べて熊型は一回り近く大きく、鋭い牙や爪が目立っている。



「下手に攻撃をうけると殴られるのではなく引き裂かれそうだ。それに、ゴーレムらしからぬ毛皮が刃を弾くか」



 数回攻撃を加えてみて感じた手応えを声に出して呟いた。

 これまでも斬撃が通らない相手とは何度も戦った経験はある。そういう時はアーツを常時発動させて威力を増加させるか、銃形態で攻撃するかのどちらかだ。



「うん。やっぱり射撃は通るみたいだ。このまま倒させて貰う!」



 戦い方を変えた俺を見ながらリョウダンとガダンは感心したように唸った。



「で、だ。階位を上げられるまで同じことを繰り返すつもりか?」

「当然! こればっかりは近道などありはしないのだからな!」

「ま、そりゃそうか」



 またしても土塊がゴーレムに変わる。

 最初は動物然とした熊型だったそれも今や硬い鎧のような甲殻を纏ったモンスター然とした姿になっていた。



「鎧があったとしてもーー」



 鎧の隙間を狙い撃つ。そうすることで的確にダメージを与えられるからだ。

 幾度もなく攻撃を加えることでゴーレムは土塊に変わる。

 


「ふぃ。これでも、まだ二つか。外に出てモンスターを狩った方が効率的なんじゃないか?」

「ほう! まだまだ余裕そうだな! ならば、これを使ってみるか」

「おいっ! それは【けん魔石ませき】じゃないか。それを使うつもりなのか?」

「それがどうかしたか!」

「もったいないだろうが」

「我の持ち物だ! どう使おうとも我の自由だ!」

「や、それはそうなんだがよ」

「ほれ! いくぞ!」



 水溜りのように地面に広がっている土塊が蠢く。

 次に現れたゴーレムは巨大なヤモリのような姿をしていた。



「おまえさんのゴーレムは魔石によって形が変わるっていってたな」

「その通りだ!」

「ってことはなんだ。あれは地竜の魔石ってことか」

「そのとおーり!」

「ああ。まじでもったいねー」



 叫ぶ素振りをするゴーレムだが、それがゴーレムであるがために声は出ない。

 身を屈め今にも突進してきそうなゴーレムは後ろ足で地面を削り、次の瞬間には襲い掛かってきた。



「銃形態では難しいか。ならーー」



 ガンブレイズを剣形態に切り替えてすれ違い様に斬りつける。

 横っ腹にできた切り傷もそこから何かが流れることはない。ただぱっかりとした傷痕が残るだけだった。



「このまま一気に行く」



 そう宣言して俺はゴーレムの頭上目掛けてその巨体を後ろから駆け登った。



「せいやっ」



 頭と胴体の境目掛けてガンブレイズを突き立てる。

 大した抵抗もなく深々と突き刺さったそれを今度は思いっきり右に振り抜いた。

 普通のモンスターだったならば頭部と動体が切り離され、残っていたHPも一気に削れていたことだろう。そしてそれは目の前のゴーレムも同じ。なまじ生物を正確に模しているだけにその結果も同様になるようだ。



「よし。また上がった」

「後五つだな! ならば続けよ! 次のゴーレムを喚び出すぞ」

「えっ!? ちょっと休憩をーー」

「待たん!」

「また【環・魔石】をー」



 嘆くガダンを置いてけぼりにしてリョウダンはゴーレムを作り出す。

 今度のゴーレムは巨大な肉食獣、三つの尾を持つ虎型のゴーレムが姿を現した。



「どうやら【環・魔石】を使用したゴーレムはかなりの経験値が得られるみたいですね」

「外のモンスターに照らし合わせるとボスモンスタークラスだな!」

「それを難なく倒せているユートが凄いのでしょうね」

「あ、ああ。そうだな」

「そろそろ正気に戻って下さい師匠。ユートがまた倒しそうですよ。あ、倒しましたね」



 ラムセイが言うように軽く倒しているってわけではないが、それでも比較的簡単に倒せている気がする。何故だろう。ゴーレムの性能云々はオリジナルに劣っているわけではないと思うのだが。



「次だ!」



 虎の次は獅子。それを倒したら今度は二頭を持つ獣が姿を現した。それを倒してレベルが【66】に。

 それからは出現する姿の違うゴーレムを必死に倒し続けた。ゴーレムの形状は様々。動物型もあればモンスター然としたものもある。共通しているのは全てが強力なモンスターを模っていることだった。

 レベルが【67】になるにはゴーレムを五回。【68】になるには更にそこから十体のゴーレムを倒す必要があった。

 しかし問題があった。その次のレベルになるために必要なゴーレムを喚び出すための【環・魔石】が無くなったのだ。



「お、おい。どうするつもりだ? まさか……」

「これを使うのだ!」

「なっ、それは【せん魔石ませき】だよな!?」

「数はないがな! だが使えるものは使えばいいのだ!」



 またしても「もったいない」と嘆くガダンを余所にリョウダンは新たなる魔石を使いゴーレムを喚び出した。現れたのは巨大な翼を広げる大鷹。自らの巨体なと関係ないというように飛び上がったそれは大きな鉤爪で俺を引き裂くべく急降下して襲い掛かってきた。



「今度は飛ぶのか。だが、銃形態なら関係ないな」



 剣形態に比べるまでもなく射程は長く攻撃は届く。問題は威力だがそれもアーツを使えば解消できる。

 通常攻撃とアーツ攻撃を繰り返すこと十数分。大鷹の姿をしたゴーレムは倒された。



「おい! 続けるぞ!」



 大鷹に代わり巨大なフクロウ。それすらも倒して現れた巨体な白鳥を倒すことでようやくレベルが【69】になった。



「ふぃ。あと一つか」

「残っている魔石で足りそうだな!」



 じゃらりと手の中に広げた魔石を確認しつつリョウダンが呟いていた。ただし大声で。



「五連戦! いけるな!」

「ああ。問題ないさ」

「始めるぞ!」



 覚悟を決めて待ち構える。

 最後の連戦。最初の相手は巨体なペンギン。

 飛べない鳥が空を飛んだのを初めて見た瞬間だった。




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