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ep.06 『偏屈ドワーフと変わり者のエルフ⑤』



 ガダンが先行する後を追って街に戻ってきた俺はそのまま一つの建物へとやって来ていた。

 飾り気のない簡素な一軒家。

 ドアにも軒先にも看板は無くぱっと見ただけでは民家のように思える。



「入れ」



 鍵を開けドアを開けるガダンに続いてラムセイも慣れた様子で建物の中に入って行った。



「おじゃまします」



 とりあえず一言掛けてから俺も二人の後に続く。ズンズンと進むガダンが「おう」と返事をしたかと思うと突然周囲が明るくなった。エルフであるラムセイが魔法を使い部屋の明かりを灯したようだ。



「うわぁ」



 夜の暗闇が晴れて見えてきた部屋の中は想像以上に雑多だった。

 足元には何かの素材らしきものが無数に転がっており、失敗作なのか何なのか多種多様な武器が乱暴に壁に立て掛けられている。



「師匠。片付けておく約束では」



 じとっとした視線を向けるラムセイ。ガダンばあからさまな態度を取り誤魔化そうとしている。



「はぁ。まぁいいです。ユート。私が片付けますので少しそのまま待っていて貰えますか?」

「あ、手伝いますよ」

「いえ、大丈夫です。こうすればーー」



 そう言って手をかざすラムセイ。かざした手が仄かに輝くと同時に床に転がっていた素材が一斉に影の中へと吸い込まれていった。



「あれだけの素材アイテムはどこに行ったんです?」

「倉庫として使っている地下の部屋ですよ。この魔法はユート達プレイヤーが使うストレージと似たようなものなんです。地下の倉庫に直接繋がっていて自動的に整頓される便利な魔法ですよ」

「へえ。そんな魔法があったのですね」

「あー、それはラムセイの一族が使う特別な魔法なんだよ。普通は自分で運んで片付けなきゃならん」

「それでも今回は師匠が片付ける約束だったと思うのですが」

「おまえがそんな楽な方法で片付けてるってのにおれが地道にちまちまやってられるかってんだ」

「それはそれ。師匠に出来て私が出来ないことの方が多いでしょうに」

「それこそ、コレはコレってヤツだな」



 ガダンは豪快に笑って歩きやすくなった部屋の中を歩き回り雑に置かれた武具の数々を手に取り一瞥しながら一箇所に集めていく。



「捨てておけ」

「全部ですか?」

「二級品どころか三級品のできだ。それにおれにとっては使い道がないやつばかりだからな。構わんだろ」

「師匠にとっては三級品の出来でも一般的には十分な出来なんですよ。いつもの処に卸しても構いませんね?」

「あー、好きにしろ」

「では好きにさせて貰います」



 一纏めにされた武具をラムセイは集めて部屋に置かれている大きめの木箱の中に入れた。



「そんなことよりもだ。これで場所は空いたな」

「埋め尽くしていたのは師匠ですよ」

「うるせえよ」

「失礼」

「ほれ、貸してみろ」



 軽口を叩き合いながら話していたガダンが俺の方に手を伸ばしてきた。



「貨すって、これのことだよな」

「そうだ。おまえさんの武器をもう一度じっくり見ておきたくてな」

「別にいいけどさ。そんなに何度も見て何かあるのか?」

「さっきは出来なかったことを試すんだ」

「出来なかったこと?」

「ま、そこで見てればわかるだろ。ほら、さっさと貨さんか」

「わかった」



 取り出したガンブレイズをガダンに手渡してことの成り行きを見守ることにした。



「いくぞ」



 誰にでもなく声を掛けてからガダンは小さく「《錬成》」と呟いた。

 直後ガンブレイズに淡い光が宿る。光は最初こそガンブレイズ全体に宿っていたが今では変わった形をしていた。人体の透過図の神経や血管のように光を宿した無数の線がガンブレイズに浮かんでいるのだ。



「これは?」

「おまえさん、見えているのか?」

「あ、ああ。光の血管みたいなものが浮かんでいるようだけど」

「なるほどな。地盤はできてるってわけか」

「どういう意味だ?」

「さてな。それよりコレのことだったな。ラムセイ説明してやれ」

「私達は【魔経路まけいろ】と読んでいるものです」

「魔経路…」

「読んで字の如く魔力を流すための路ですね。これがあるから人は魔法を使えますし、これを持つ武具は錬成することで性能を高める事が出来るのです」



 漠然と専用武器リンクアームズだから錬成することが出来るのだと思っていた。加えてゲーム的なシステム、エンドコンテンツとして用意されているものであるとも思っていた。それを世界観的に解釈したのがガダン、そしてラムセイの話なのだとも。



「悪くはないが、微妙だな。ラムセイ。調整できるか?」

「多少なら」

「やってみろ」

「いいのですか? 師匠が行った方が宜しいのでは?」

「ここまで育つとおれがやろうともラムセイがしても変わらんだろうさ」

「わかりました。では……《錬成》」



 ガンブレイズに浮かぶ魔経路に更なる光が灯る。

 光の色は白。無色の光とでも呼べばいいのか、その光が魔経路を駆け巡るとガンブレイズからかなりの量の微細な金属片が溢れ落ちた。



「こんな感じでしょうか」

「悪くないな」

「ありがとうございます」

「な、なあ。終わったのか?」

「ああ。見てみろ」



 手渡されたガンブレイズはラムセイの手を離れたというのに魔経路を発現させたまま。武器であるこら無機物なのだが魔経路が浮かんでいるとどうも有機物であるように感じてしまう。

 気味が悪いとまでは言わないが、この状態の武器が苦手と感じる人もいると思う。

 絡み合った紐みたいだった魔経路がラムセイの手によって葉脈のように広がっている。



「なんか、形が変わったみたいだけど」

「それは私が行ったからですね」

「他の人だと違うの?」

「基本的には錬成した人によって違うはずですよ。稀に自在に施せる方もいるのですが。ですよね、師匠」

「そうだな」

「でもさ、どうして違いなんてものがあるんだ?」

「それは強化の傾向が異なるからですね」

「というと?」

「ユート達が錬成による強化をするとき大抵はそれが出来る人に依頼しているはずです」

「確かに」

「聞いたことがありませんか? 例えば誰々の所では攻撃力が上がりやすいとか、或いは別の誰かは正確性が上がりやすいというようなことを」



 首肯して応える。

 それは噂程度ながら聞き覚えのある話だった。

 街にいる錬成をしてくれるNPCの中には稀に特定のパラメータが比較的伸びることがあると。

 俺はそれを誤差、あるいは偶然だとばかり考えていたのだが、ラムセイの話を聞く限りでは漠然とした傾向は確実に存在しているらしい。



「けどさ俺が自分でしてるときは偏りなんてなかったと思うんだけど」

「普通はそうだと思いますよ。だからこそ傾向が出てくるのは熟練してきた証でもあると言われているのです」



 ラムセイの話を補足するようにガダンが付け加えた。



「おれに言わせりゃそれを自在にコントロールしてこそ熟練してきたと言えるんだがな」

「師匠の基準は高過ぎるんですよ」

「そんなことないと思うんだかなぁ」

「だったらさ、ラムセイがする錬成はどんな特徴があるんだ?」

「残念ながら今回私が施した錬成では傾向が出ることはありませんよ」

「そうなの?」

「今回施したのは魔経路を整えるための錬成でしたから。その証拠に魔石を使用していなかったでしょう」

「あ、そういえば。魔石を使わない錬成なんてものがあるんだな。知らなかったよ」

「代わりに武具が強化されることもないのですけどね」



 それでもラムセイが行なったからには何か理由があるのだろうと納得して受け取ったガンブレイズに再び視線を落とす。



「錬成の下準備はこれでいいですよね」

「まあな。だがもう一つ先にすることがあるぞ」

「えっ!?」



 ラムセイの確認にガダンが返した言葉に驚き思わず声が出た。



「おまえさんの武器、壊れてはないがちぃとばかしガタがきてるぞ」

「ちょっと待ってくれ。ガンブレイズには不壊特性があるはずなんだけど」

「だから壊れてはないと言っておろうが」

「だったらどうして?」

「壊れてなくてもだな小さな欠けなんかは出来るもんだ。おまえさんらが使うヤツはそれすら勝手に直るかも知らんがな、おれからすればたまにはちゃんと直してやったほうがいいのは明らかだな」

「そっか」

「てなわけだ。もう一度それを貸してみろ。おれが綺麗に直してやるよ」

「お願いします」



 思わず丁寧に返していた。

 久方ぶりに目にするガンブレイズの研ぎの作業はどこか懐かしく、それでいてガダンの腕が確かなことを物語っていた。




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