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ep.05 『偏屈ドワーフと変わり者のエルフ④』



「重ね重ね申し訳ありませんでした」

「お、おう? おかまいなく?」



 深々と頭を下げるラムセイに俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

 ラムセイの後ろではガダンがバツが悪そうに吹けもしない口笛を吹く素振りをしながら視線を虚空に向けている。



「師匠は一度熱中すると視野が狭まってしまい、周りに迷惑を掛けることが度々あるのですが、いえ、これは言い訳ですね」

「まあまあ、何もラムセイさんでしたっけ。あなたが代わりに謝るようなことでは」

「いえ。師匠の不始末は弟子の不始末。責任は私にもーー」

「相変わらず堅いヤツだなぁ」

「師匠?」

「なんでもないぞ」



 ジロリと視線で釘を刺され押し黙るガダン。



「はぁ。何にしてもです。この方の戦闘の邪魔をしたのは確かなのですから、師匠も少しは自重というものをですね」

「あー、聞こえない。聞こえない」

「子供ですか」

「おれは立派な大人だ」

「大人はそんな誤魔化し方しませんよ」



 大きな溜め息をつくラムセイは大袈裟に頭を振った。



「あのさ。それよりも教えてくれないか? どうしてガダンはアイアン・ワームに手を突っ込んで離さなかったんだ? あそこには一体何があったんだ?」



 感じた当然の疑問を口にした俺にガダンはニンマリと笑った。



「これだよ、コレ」



 ガダンが見せてきたのはその大きな手に収まっている一つの鉱石。この場所が坑道の中ということを考慮すればあって当然の代物だが、ガダンがそれを手に入れたのはアイアン・ワームの胴体の中から。だからこそ普通に採掘して手に入れる物とは違うはずなのだ。



「魔石みたいに見えるけど」

「おうよ。ただし、ただの魔石じゃねぇぞ」

「え?」

「モンスターの魔力ってヤツをたっぷり吸ってできた高純度の魔石。【けん魔石ませき】だ」



 初めて聞く名称に今ひとつわからないという顔をした俺の反応に不満なのかガダンが腕を組み小さく唸っている。



「師匠。それは私達ですら手に入れられる事は稀なのです。第一、市場に出るのもでもありませんし、知らなくても無理は無いはずですよ」

「む。そりゃあ、そうか」



 俺をフォローするように語りかけたラムセイにガダンは納得したように頷いている。



「しかしその素振りだと魔石の使い方は知っているみたいだな」



 俺を見てそう訊ねたガダンに頷いて答える。



「実際に何度も使ってみたこともあるよ。コレの強化にね」



 腰のホルダーに収めることなく持ち続けていたガンブレイズを見せて付け加えた。



「ほう」



 と先程とは違う感じで唸りながらガンブレイズに厳しい視線を送った。



「確かに。おまえさんの言う通り、ソレには何回も強化した跡があるな」

「見ただけでわかるのか?」

「こう見えて師匠は名工ですから」

「こう見えてってなんだよ」

「気にしないで下さい。言葉の綾です」

「ったく。まぁ、いいけどよ。ま、この【環・魔石】の使い方は大体おまえさんが想像している通りだな」



 ガダンの言葉の通りならばより高い効果が見込める魔石ということなのだろう。それならば、というやつだ。



「ガダンはそれが欲しかったってことか」

「ん? あ、ああ。そうだな」



 歯切れの悪い返事をするガダンに俺は疑問符を浮かべて見つめた。



「どうしても、という訳じゃ無かったはずですが。何故あんな無茶をしたんですか?」

「や、それはだな。目の前に実物があるとなるとだな、こう、じっとしてられなくてな」

「そもそもあのアイアン・ワームが【環・魔石】を持っているとどうして分かったのですか?」

「長年の勘」

「正気ですか? ああ、正気でしたね。師匠にとってはいつもの事でした」



 馬鹿にしてというよりは関心半分、呆れ半分といった感じで自己完結してラムセイが言った。



「ラムセイ、おまえ、ほんとにおれに遠慮が無くなったな」

「それはもう。こう何十年と師匠に付き合っているのですから」

「そうかい」



 二人にとってはいつものやり取りをしているだけなのだろう。たとえ側から見ていると一色触発にしか見えなくとも。



「んで、だ。おまえさんもコレが欲しくてここに来たクチか?」

「いや、俺は普通の魔石を探してだな。坑道に来たのは、まあ、たまたまかな」

「うーん、それはまだ確かに普通の魔石で事足りてるって感じか。にしてもなぁ」

「師匠?」



 職人の目をしたまま唸るガダンにラムセイはそれまでとは違う雰囲気を感じ取ったのか嘲るのでもなく真剣な面持ちで声を掛ける。



「おまえさん。これは誰の仕事だ?」

「えっと、それって、ガンブレイズの強化のこと、だよな?」

「当たり前だ。それ以外になにがあるってんだ」

「例えばガンブレイズ自体の形状とか、かな」

「まぁ、それにも言いたいことは多少あるがな。とりあえず今は強化に関してだけでいい」

「強化というか《錬成》スキルを使ってなんだけど」

「だろうな」

「俺が自分でしてるんだ」

「何?!」

「そんなに驚くことか?」



 目をカッと見開いたガダンの圧力に負けて思わず後ずさる。



「ラムセイ!」

「何ですか?」

「帰るぞ」

「いいのですか? まだ目標数には足りて無いみたいですが」

「馬鹿をいうな。仕事だ」

「依頼もまだだというのにですか?」

「これはおれとおまえの共通の命題だ」



 そう言い切ったガダンにラムセイは驚き、それからすぐに納得したようだ。



「成程」



 小さく頷き二人の視線が此方に向けられた。



「と、言うわけだ。おまえさん、名前は何だったか」

「ユートだけど」



 簡単な自己紹介したような気がすると思いながらももう一度自分の名前を告げる。



「よし。ユート。おまえさんは今からおれの……いや、おれたちの後継者だ。異論は許さん。拒否も許さん。おまえさんにはおれたちのとっておきをくれてやる」



 そう言い切り、ガダンは意気揚々と歩き出した。



「えっと…」



 助けを求めるようにラムセイを見た俺に、ラムセイは穏やかな笑みを浮かべながら頭を横に振った。



「私達も行きましょう」

「えっ!?」

「ユートが戸惑うのも解ります。しかしこれは長命種である私達にとっても千載一遇の好機なのです。それに、ユートにとっても悪い話ではないはずですよ」



 ガダンとは違う意味で有無を言わさない雰囲気のあるラムセイがその後ろを着いて行く。

 一人残された俺の前に突然コンソールが出現した。



『クエスト 技術の継承を成功させよ。

 報酬 《錬成》スキルの強化。

 スタートしますか? YES or NO』



 どうやら突発的にクエストが始まったようだ。


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