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ep.02 『偏屈ドワーフと変わり者のエルフ①』



 どうしてだろう。【魔鉱石】というアイテムは採掘によって手に入る物ではないと知りつつもそれを探すときには自ずと鉱山に足が向くのは。

 採掘に使う道具も持たず、鉱山で見受けられる採掘ポイントすら無視して突き進むのは鉱山エリアに出現する【ゴーレム種】のモンスターを倒すという目的があるからなのだが、実際は魔鉱石を入手するだけならば別のモンスターを討伐してもなんら問題はない。

 だからこそ不思議だ。なぜこの鉱山エリアが常に第一候補として浮かんできたのか。



「なーに、ぶつぶつ言っているのさ?」



 心の底から訳がわからないといった口振りでリリィが問いかけてきた。



「声に出てた?」

「しっかり」

「あまり気にしないでくれ。意味の無い独り言だからさ」

「ふーん」



 俺の意図を汲んでくれたのか、あるいはどうでもいいと思ったのか。顔を真っ直ぐ前に向けて軽い足取りで坑道の奥へと進んで行った。



「あまり一人で先に行くなよ。何時モンスターが出てきてもおかしくは無いんだからさ」

「はーい」



 それでも歩む速度は緩めずに先導して進むリリィ。

 野生の嗅覚でも発揮しているのか、今の所モンスターと鉢合わせる気配はない。

 ゴーレム種のモンスターの特徴としては自然の鉱石に擬態してフィールドに紛れているというものがある。こういう土や岩に覆われている地形こそゴーレム種の本領発揮だ。

 周囲に注意を向けつつリリィの後を追う。

 チラチラ時折姿が見受けられたのは坑道の天井にぶら下がっているコウモリ型のモンスターと近くの物陰に潜んでいるイモムシ型のモンスター。この二種のモンスターはそれほど強くなく、今の自分のレベルからすればわざわざ倒してまで得たい経験値を持っているモンスターではなかった。加えてプレイヤーとのレベル差が開いているがためにモンスターのほうから襲い掛かってくることもない。そういう理由もあって、目的のゴーレム種を見つけるまで道中のモンスターは無視して進むことにしていたのだった。



「あれーなーにもいないねー」



 周囲を警戒と探索しつつ進む俺とは違い、リリィは軽い足取りで進んでいる。歩幅の違いこそあれどいつしかリリィとは数メートルの距離ができていた。



「おーい、リリィ。離れすぎだぞ」



 声を潜めながら叫ぶという離れ業を披露してリリィを呼ぶ。

 妖精猫の耳がピクッと動き、



「わかったよー」



 と振り返り駆け足で戻ってくる。いつもならそのまま俺の肩に乗ろうとして昇ってくる。だからこそ立ち止まりリリィが来るのを待っていた俺を不意な揺れが襲う。



「――っ!」



 突然の異変が何によることなのか。考えるまでもない。モンスターの襲撃だ。



「リリィ、こっちに飛べ」

「うんっ」



 自分も前に向かって駆け出してジャンプしたリリィの着地点を目指して滑り込み受け止める。

 俺の腕の中に収まったリリィに安心しつつも即座に立ち上がり腰のガンブレイズへと手を伸ばした。



「どこから来る? そもそも――何が来る?」



 ゴーレム種の出現時の演出に揺れはあってもそれは岩などに擬態していたゴーレム種が動き出した時に地面を踏み締めることで起きる揺れだ。つまりゴーレム種の場合は揺れが起きた段階でその姿を確認することができるのだ。

 なのに今回はそれが見つけられない。つまりゴーレム種ではないということだ。

 素早く脳裏でこの鉱山に出現するモンスターを思い浮かべた。



「この規模の揺れを起こせるモンスターはそう多く無い。それにまだその姿が確認出来ないということはよほど高い隠密性能を持っているか、見えない場所を移動しているかのどっちか」



 さっと辺りを見渡す。高い隠密性を持っていたとしてもこの坑道という狭く絶えず壁にある剥き出しの電灯に照らされていては完全に痕跡を隠すことは不可能。



「だとすれば地中。この坑道で出てくるモンスターで可能性が高いのは――」



 小声で呟きながら足から伝わる揺れでその接近を察知した。

 素早く立ち位置を変えるとそれまで自分が立っていた場所に地面を貫いて一体のモンスターが姿を現わした。



「やはり【ワーム】か。こいつは【アイアン・ワーム】だな」



 アイアン・ワームの特徴はその身を覆う鋼鉄の鱗。地中深くが生息地ということで目は退化してその代わりに蛇のように周囲の熱を感知することが出来る器官を有していた。

 まさに地中を這い動く蛇龍(じゃりゅう)

 だが厳密に言えばワームは龍ではない。より細かい種類にもよるが大抵ミミズや蛇がモチーフとされているのだ。

 くねくねと蠢くアイアン・ワームが器用にもこちらに鼻先を向けた。



「ワームの攻撃手段として基本となるのは体当たりや噛み付き、けど――アイアン・ワームの場合は鱗の飛礫(つぶて)!」



 言い終えたのとほぼ同時にアイアン・ワームが前進の鱗を逆立てて、軽く全身を震わせる。アイアン・ワームを中心にして全方向に向かって撃ち出される鋼鉄の鱗が周囲の壁や天井に無数の穴を開けた。



「くっ、避けられそうな場所はないか」



 多少のダメージを受けることを覚悟して、それでもと目に付く端から鱗を撃ち落としていく。

 案の定というべきか。アイアン・ワームの鱗がいくつも体を掠めて無数の傷を刻みつけた。



「ユート!?」

「このくらいのダメージなら問題無いさ」



 傷は負った。ダメージも受けた。けれどまだ重く見る段階ではない。

 鱗を撃ち出す攻撃を終えたアイアン・ワームには新たな鱗が備わっていた。だがプレイヤーの技後硬直のようにアイアン・ワームも攻撃した後に僅かながら動きを止めた。それが大きな隙となって自分に攻撃の機会を与えていた。

 細長い胴体をしているアイアン・ワームは何処を狙って攻撃をすれば最も効果的なのかわからない。だとしてもダメージを与えることは可能だとそれほど狙いを定めること無く乱雑に引き金を引く。

 撃ち出された弾丸はアイアン・ワームの鱗に阻まれてその体を貫くことは無い。しかしその表面を焦がすだけではなく、しかとダメージを与えることができていたのだ。



「あっ、おい、逃げるなっ!」



 十数回の射撃を受けたことでアイアン・ワームが身動(みじろ)ぎをしてとぐろを巻くと、来た道を戻るように地中へと潜っていく。

 ギリギリまで攻撃を続けてダメージを与えてはいたものの、倒しきるまでには至らない。

 鋭い鋼鉄の剣の先端のような尾を揺らし、アイアン・ワームは地中へとその身を隠した。



「どこから来る?」



 モンスターの戦闘は基本的にはどちらかが倒れるまで終わらない。鉱山に生息しているアイアン・ワームも例外ではなく、例え地中に潜ったとしても戦線から離脱しているとは考えにくい。

 再び坑道の中が大きく揺れる。

 揺れはその発生源と共に移動して自分から一定の距離以上は離れることなく旋回して機会を窺っているようだ。



「こちらが隙を見せたらいつでも喰らい付くってか」

「え?」

「とはいえ、このままだと俺からも手出しすることはできない、か。どうする――?」



 自然と銃口が下を向く。まるでその一瞬を感知したというようにアイアン・ワームがその勢いを増して近付いてくるのが足下から感じる揺れによって察知することができた。



「引き付けるにしてもソロだとあまり効果はないよな。だとすればじっと堪えて待ち構えるのは一番」



 ゴゴゴッと地響きが轟く。



「来るっ!」



 素早くその場から飛び退いてアイアン・ワームの攻撃に備える。

 次の瞬間、アイアン・ワームが地面を突き破り出現した。



「残念。そこに俺はいないさ」



 ニヤリと笑ってその身を晒したアイアン・ワームに向かって引き金を引く。

 全体が地面から出たわけでは無くその半分、多くても三分の二が地上に出ているだけ。それでも攻撃の的となる場所は十分に露出している。

 一度射撃アーツを発動させてどの程度のダメージが入るのか確かめてみるかと考えている俺の耳に地響きとは違う別の音が聞こえてきた。

 音に感じる僅かな違和感を無視して攻撃を仕掛けるべきかと悩んでいる間にそれは徐々に大きくなっていく。

 一瞬の迷いは最大の好機を見失うことに繋がる。アイアン・ワームは直ぐ傍の地面に頭を突っ込み即座に地中へと潜り始めたのだ。

 瞬く間にその姿を隠していくアイアン・ワームは最後にその尻尾だけが地上に露出させていた。



「またこの音か」



 顔を顰めてぼそっと呟いた。地響きとは違う音、未だにはっきりとは聞こえてこないそれがどういうわけか俺の神経を逆撫でしていたのだ。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉい」



 それがはっきりと見えてようやく件の音の正体がわかった。



「た、助けて、くれーーーーーーーーーーーーーー」



 アイアン・ワームの尻尾に捕まっている誰かの悲鳴。そして助けを求めている声だったのだ。



「だ、誰だ?」



 米粒とまではいかないものの細かなビジュアルまでは把握できない人物を目の当たりにして俺は半ば無意識にそう呟いていた。




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