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ep.10 『幽冥の騎士⑨』

大変急ですが、次回2022/05/27の更新はお休みさせて頂こうと思います。

誠に勝手ですが、どうぞ宜しくお願いします。



 大地から遙か彼方、宙の向こうへと放たれるロケットの如く昇る煌めきが走る。

 拡張された光の斬撃をまともに受けたことでバアトが大きく怯んだ。



「どうだ!」



 してやったと喜ぶ俺を前にバアトの兜に隠れた瞳が妖しく輝く。

 一瞬、鋭い眼光を宿した瞳に見据えられた俺は蛇に睨まれた蛙のように体を竦ませて動きを止めてしまった。



「ユート! ぼさっとしているんじゃない! 反撃が来るぞ」



 ムラマサの怒号が飛ぶ。

 体勢を整えたバアトが片手で大剣を振り上げた。



「くそっ。復帰が早いっ」



 アーツを放ったことによる技後硬直は僅か。すでに追撃を行うかどうかという次の行動の選択を迫られていた。

 思考に与えられる時間は一秒にも満たない。けれどそんなこと苛烈な戦闘に身を置いていれば当たり前のことでしかない。この時点で決められることは二つだけ。安全策を取るか、強引に攻撃を続けるか。

 きらりと大剣の刃先に太陽の光が反射した。

 そのことはただの現象に過ぎない。だが、その僅かな気掛かりが俺に安全策を、事前の回避を選ばせていた。



「ふっ」



 短く息を吐き出す。

 眼前に振り下ろされる大剣が地面に一筋の亀裂を刻み込む。



「ムラマサ! 行けっ!」

「応っ」



 ガンブレイズを銃形態に変えてバアトの大剣を狙い打つ。

 殆ど間を置かず放たれた弾丸が大剣を上げようとするバアトの行動をその都度阻害してみせた。

 反撃の最も早いタイミングを潰されたことでバアトに僅かな隙が生じる。

 俺の声を聞いたムラマサがバアトが纏っている全身鎧の隙間を狙い刀身を寝かして滑らせた。狙いはその腕。籠手と二の腕の装甲の隙間を的確に斬り裂いたことでバアトは僅かに苦悶の声を漏らした。



「ぐうっ」

「まだまだ、もっとだ」



 大剣を押さえ付けるのはもう十分と判断して再びガンブレイズを剣形態に変形させて前に出る。

 突然自由になったことでバアトは戸惑うでも無く振り上げて切迫して連続斬りを繰り出しているムラマサを追い払っていた。

 大剣は攻撃力が高いぶん小回りが利かない。熟練したプレイヤーであっても武器そのものの特性を完全にカバーしきることはできない。まして攻撃を受けている状況で乱暴にムラマサを引き離すしかないバアトは大剣の自重任せの攻撃しか出来なかったようだ。

 若干バランスを崩しながらそれでもと踏み止まろうとするバアトに俺はガンブレイズで突きを繰り出した。

 全身鎧で万全の防御力を誇っていると自覚していても迫る切っ先には独特な圧迫感がある。それは例えゲームに登場するキャラクターだとしても。



「せいやっ」



 気迫を込めてガンブレイズを振り続ける。

 この時点で俺はバアトの頭上に浮かぶHPゲージを見ることを止めていた。正確にはそれを気にすることをだ。

 どっちにしても自分が与えらえるダメージは多くない。勿論それが積み重なれば無視できないダメージ量になるだろうが、それはある意味で単なる結果でしかない。



「くっ、鬱陶しい」

「そんな攻撃じゃ当たらないさ」

「一気に押し切らせてもらうよ」



 既に動きに精彩を欠き始めていたバアトの攻撃は回避することが簡単だった。ガンブレイズの切っ先を大剣に打ち合わせて射線をずらせるだけで大袈裟に回避する必要が無くなっていたのだ。

 自分とムラマサが交互に攻撃を仕掛け続ける事で終始優位に戦闘が続く。

 いつしかバアトのHPゲージが三割を切ろうとしていた。

 きっかけはどちらの攻撃だったのか分からない。

 ただ、分かっていることは、この時からバアトはその身に宿る力の全てを開放してまでこちらを倒そうと決めたということだけだ。


 突然発生した全方位に向けた衝撃波。

 まともにそれを受けて吹き飛ばされた俺達を受け止めたのは硬い壁と冷たい地面だった。


 背中の一対の翼を除きその身を包み込んでいた全ての翼が広がる。

 玉虫色をしていたそれらはこの瞬間に漆黒に染まっていく。

 それはまるで堕天した大天使のように。



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