R:ep.25『剣士、二週目の戦いで……②』
前回と今回で普段の一回分。
つまり今回も短いです。
すみません。
一人残ったユートはそのままアモルファスと対峙し続けた。
攻撃、回避、攻撃、防御。
一連の攻防を繰り返しながらも拮抗した状態が終わらない。
「やはり、もう一体のアモルファスを先にどうにかしないといけないのか」
自身の攻撃が意味を成していないことに悔しさを滲ませながら、時折視線をフォラスの元へと向ける。
タークを助けるために別行動を取ったフォラスはすかさず矢を放っていた。放物線を描くことなく水平に飛んでいったそれはタークの攻撃とは違って不規則に揺れるアモルファスにダメージを与えていた。
「タークさん。手伝います」
「あなたは?」
「ユート君に言われて来たフォラスと言います。自分は大丈夫だからと言ってはいましたが、ユート君もそんなに余裕は無さそうです。だから一気に倒してしまいましょう」
軽く言いながらフォラスはちらりとユートの方を見た。そこには孤軍奮闘してアモルファスと戦っている姿がある。
善戦しているように見えるがそれでは何時まで経っても優勢には持って行けない。
カクカク揺れるアモルファスに弓を向ける。そのまま即座に矢を放ったのだが、今度はダメージを与えることができなかった。
「どういうこと?」
わからないと思案顔になるフォラス。その隣でタークはこれまで意味が無かったことを理解しながらも暗記を投げつけていた。
不思議なことに今度はタークの攻撃がダメージを与えている。
タークにとっては今が攻撃のチャンスと言わんばかりに連続して暗器を投げつけていた。
しかし今度はその攻撃が全く通用しなくなった。
「もしかして」
三度フォラスが矢を放つ。
真っ直ぐ飛んでいって命中したそれは違わずダメージを与えている。
「やはり。だとしたら」
確認のためにもう一度矢を放つ。
案の定というべきか、それは揺れるアモルファスにダメージを与えることはなかった。
「わかりましたよ。タークさん。私の攻撃が効かなくなった時にはタークさんの攻撃が、タークさんの攻撃が効かなくなったのなら私の攻撃が効くようになるみたいです」
「だから私一人で戦っていた時には攻撃が通用していなかったんですね」
安心したように言うタークにフォラスは微かに訝しげな視線を向けていた。
「とにかく、交互に攻撃を仕掛けますよ」
仕切り直しだと言わんばかりにタークが告げる。
そうして揺れるアモルファスに向かって次々と二人の攻撃が繰り出された。
矢と暗器。交互に放たれるそれがアモルファスのHPを削っていく。
一度攻略法がわかった相手に手こずるはずもなく、二人は着実にアモルファスを討伐した。
「よしっ」
喜色満面に拳を握るターク。
やり遂げたというような表情を浮かべている彼女にフォラスは一層怪訝そうな瞳を向けた。
「喜んでいるところ悪いですが、アモルファスはまだ健在ですよ」
「何を馬鹿なことを。アモルファスは私とフォラスさんの手で確かに――」
フォラスが視線だけでなく指をさして示す。
そこには揺れるアモルファスが消えたことで一段と素早い動きをするようになったアモルファスと戦っているユートの姿があった。
「どうして――アモルファスは私が、私達が今……」
「何を言っているんです? 初めからアモルファスはもう一体居たじゃないですか」
「始めから……?」
信じられないというように呟くターク。
「まさか、本当に気付いていなかったとでもいうのですか?」
「嘘だ…嘘……」
驚いて訊ねたフォラスに、よろめき後ろに下がるタークはガクッとその場に崩れ落ちてしまう。
拭い去れない違和感を感じるタークの様子に心配するフォラスは注意深くその様子を見守っている。
「すいませんユートさん。少しだけ遅れそうです」
聞こえてなどいないだろうが一言断りを入れてフォラスはタークの介抱を始めるのだった。
「ふっ、動きが速くなったとはいえ、さっきよりは手応えを感じられるな」
動きを加速させたアモルファスを相手にガンブレイズを振るっているユート。
戦闘の終わりに続く光明を見たような気がしてユートもまた攻撃をより苛烈さを極めていく。
二者が繰り広げているる攻防が止まる。
訪れる静寂。
息を呑む音すら響くような静寂の中、アモルファスはその身を自ら爆発させて拡散した。
「何だっ!?」
ドロッとしたコールタールのような染みが広がる。
ユートの爪先を掠めたそれはシュウッと音を立てて白い煙を発生させていた。
「っつ。これにダメージがあるのか」
直撃したわけではないというのに自身のHPゲージが減っていた。
もしあのコールタールを全身で受けていた場合どうなっていたことか。得も知れぬ恐怖に背筋が凍る。
「ん? アモルファスはどこに行った?」
予想外のダメージに戸惑うユートは先程の爆発によって見失っていたアモルファスを探す。
しかしどんなに目を凝らしてみてもその姿を見つけ出すことができなかった。
「逃げた? いや、消えた?」
素直に受けた感想を口に出す。
いつしかガンブレイズの切っ先は下げられ、ユートが纏っていた戦意のようなものが霧散している。
ふとフォラスの方を見る。
そこには膝から崩れ落ちて呆然としているタークとそれを慰めようと苦心しているフォラスがいた。