R:ep.24『剣士、二週目の戦いで……①』
今回はちょっと短め。
申し訳ありません。
出現したアモルファスは体を震わせながら飛び出して行ったタークを迎え撃った。
角付いて見ているだけでももの凄い違和感を抱かせる動きをしているとはいえ、確認出来る名称は紛うことなくアモルファス。つまり微塵も油断できない相手だ。
だというのにタークは一人で無謀にも突撃を繰り出している。
手には彼女が使っている武器が顔を覗かしているが、それでは彼女の武器本来の性能を発揮できない。
「知り合いですか?」
助けるべきか迷うユートに近付いてきたフォラスが問い掛けた。
「えっと、このゲームで数回フォラスさんと合流する前に一緒に戦ったことがあるんです」
「だったら助けないと。このままだと彼女は確実にやられてしまいますよ」
断言するフォラスが言うとおり奇襲性の高い武器を使うタークが真正面から挑んだとしてアモルファスを討伐出来る可能性は低い。
そもそもで攻撃力が足りない。いくらゲームで使い手が攻撃力を高めていったとしても、武器による得手不得手を完璧に覆すまでには至らない。それができるのは高ランク、高レベルのプレイヤーだけだ。開始地点で一定の値までランクとレベルが下げられるシステムがある以上、そこに至ることは困難であるのは間違いがないのだ。
「でも……」
と今ひとつ煮え切らない態度を示すユートにフォラスは殊更怪訝そうな視線を向けた。
言葉には出せないほど些細なものであったのだがこの時のユートはほんの僅かな違和感をタークと戦っているアモルファスから感じ取っていた。その正体が分からないのに無策な突撃に同調するべきではない。そんな考えがどうやっても拭いきれなかった。
一人で悩んでいる間にタークは手の中にある暗器をアモルファスへと投擲していた。彼女が繰り出す基本的な攻撃手段であるそれは、どんなに効果が薄いとしても全くの無意味に終わることはないだろう。
振える体のアモルファスは避ける素振りを見せることなく暗器を受けた。だが柔らかいゴムに吸い込まれるように暗器はアモルファスの体を凹ませるだけに終わり貫くことは出来ていないようだった。
カランッと音を立てて勢いをなくした暗器がアモルファスの足元に散らばる。そして落ちた暗器は誰にも拾われないまま僅か数秒で消滅するのだった。
「ユート君!」
「わかってます!」
あからさまに攻撃の体をすら成していないと思ったのだろう。切羽詰まったような声でフォラスが名前を呼んだ。
向けられる視線には「何故?」と疑問が込められている。
一瞬の逡巡の中、迷いを晴らすようにガンブレイズを掴む手に力を込める。
確かなものとして返ってくる硬い感触に腹を括ったユートは感じていた僅かな違和感を頭の隅に追いやって向かうべく意思を固めた。
「――っ!?」
だが、ユートは突撃するのではなくその場で横薙ぎの斬撃を繰り出したのだ。
フォラスの眼前を過ぎ去るガンブレイズの刃。
ユートはおかしくなったのか。そんな風に思ってしまうのも無理はないだろう。何せ誰もいない場所に向けて攻撃を行ったのだから。それも自分すら巻き込む危険すら孕んだまま。
「何をするんですか!?」
敵はあちらだと文句を言うフォラスはそのとある一点を見て言葉を失った。
奇妙な動きを見せていたアモルファスが何故かユートの背後に出現したのだ。
加えて新たなアモルファスは自身に向けられたガンブレイズの刃をその手を変形させて作られた鎌のような武器で受け止めている。
「フォラスさん!」
「任せて。この距離なら外さない」
戸惑いながらも素早く距離を取り、フォラスは己の弓を構える。
これだけ近ければ精密な狙いを付ける必要はない。ただ目の前の相手に向けて番えた矢を放てばいいだけ。
フォラスが放った矢は初速の勢いをそのままにアモルファスの胸を打ち付けた。
「弾かれた!?」
フォラスは自身が放った矢がまるで鋼鉄の板を打ち付けた時のように弾かれたことに驚いていた。その様子を見てユートは叫びながらアモルファスを押し込んでいく。
ガンブレイズを持つ手に力を込めて、両足で大地をしっかりと踏み締めて。
いつしかフォラスとアモルファスの間には十分な距離が出来ていた。初速を利用した一射よりもより防御の薄い場所を想定した精密射撃の方が効果があるかもしれない。予測を立てながらいくつもの手段を試しては効果的にダメージを与える方法を探っていく。
胸を狙っても効果がないのならば、頭。それでも駄目なら攻撃を行っている腕を狙ったり。
そのようなことを試している間もタークは不規則に揺れながら蠢く最初に出現したアモルファスと戦っている。
しかしあの様子を戦っていると称して良いものだろうか。
タークは確かに正確にアモルファスに攻撃を命中させている。させてはいるのだが、全く効果が無いようにアモルファスは平然と佇んでいるのだ。
不思議とその様子に疑問を抱いていないターク。それどころか何時まで経ってもユートやフォラスが参戦してこないことにも疑問を感じていないような感じがある。
まるでタークと自分達がいる場所が不可視の障壁で覆われてしまったかのように、タークは二人の様子を微塵も気にしていないような素振りすらあったのだった。
「フォラスさんっ。俺のことは大丈夫です。だから、タークを助けてやってくださいっ!」
「えっ!?」
アモルファスと鍔迫り合いを繰り広げながらユートが叫ぶ。
戸惑うフォラスはユートとそれぞれ一瞥して、
「わかりました」
意を決したように不規則に揺れるもう一体のアモルファスの元へと駆けて行った。




