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R:ep.19『剣士、雷雨の中でまた出会う』

前回一週間のお休み申し訳ありませんでした。

今回からまた更新していきますので、また宜しくお願いします。



 大剣を持つ男との戦闘を終えて、ユートは合流を果たしたフォラスと共に近くの建物に身を隠した。

 一向に降り止む素振りの無い雷雨。それどころか時間が経過すると共に勢いを増して行っているようにすら思えてくるほど。

 風化が進みながらも未だその形を残している建物の屋根が自分達に当たる雨粒を防いでくれているがそれもいつまで持つのか保証は何もなかった。



「フォラスさんはこれまでどこに居たんですか?」

「ユート君を探してあちこち巡ってたの。何せ最初は一人で辺鄙なところに飛ばされたから速く合流すべきだと思ったんです」



 体に付いた雨粒を手で払いながら問い掛ける。

 するとフォラスはさも何でも無いようにあっけらかんと告げるフォラスは記憶を辿りながら言葉を続けた。



「幸い大抵の戦闘を避けて行動することができたのでダメージを負うことは無かったんですけど」

「それよりも、この仕様変更って毎回なんですか?」

「戦闘の内容は毎回違うルールであると謳ってはいますけど、大抵が同じルールで行われているんです。ただ、今回みたいな制約はあまり確認されていなかったように思います」

「だったら戦闘が終わる条件は? どちらかの勢力の全滅か時間経過しかないんですか?」

「そんなこと無いと思いますよ。どちらかの全滅なんて現実的じゃありませんし、時間経過だってはっきりとしたカウントがされているわけでもないですから」

「だとすれば、どうすれば戦闘は終わるんですか?」

「基本的にはある程度数が減れば終了するはずですよ」

「ある程度?」

「正確な数字までは分かりませんけど、これまでの統計からすればおそらくどちらかの勢力が三割を切ったくらいなのでは」

「三割……となるとそれほど遠い先じゃない?」

「だとは思いますけど」



 事前に収集した情報の中に今回の制約と同じ状況があったという記述があったとフォラスは言った。しかし、あまり好評ではなかったらしく、これまでに同じ設定になった回数は限りなく少ないとも。

 それ故にユートはこの変更に戸惑ってしまっていた。何故こうなったと気になっていると言ってもいい。何せこの変更がなければそれほど戦闘が激化することはなかっただろうとすら思えるのだ。



「とにかく。今回が初めての仕様変更ってわけじゃないんですね」

「そのはずですよ。公式の情報にも今回の設定の存在も戦闘のルールの一つとして明記されているはずです」

「だったら今回の戦闘が終れば元に――?」

「戻るはずですよ。ただ、いつ終わるかはまだ不明ですけど」



 ユートはその言葉でおかしな事態になったわけではないのだと納得した。

 それから暫くの間、二人は雨宿りを続けた。とはいえ目的は雷雨から逃れることでも戦闘終了まで身を隠して生き延びることでもない。事態の推移を見守るためである。

 切っ掛けとしては雨宿りしてから程なくして、稲妻が迸る黒雲に反射する強烈な光を目撃したからだった。何よりその光が徐々に自分達に来ている来ているような気がしていたのだ。

 雷の轟音や天井を打ち付ける雨音に混じって聞こえてくる戦闘音。それはプレイヤー同士がぶつかり合う音とは若干異なっている音だった。



「妙ですね」

「はい?」

「アレを見ても、そう思いませんか?」



 神妙な面持ちで呟くフォラスにユートは首を傾げる。

 無言のまま閃光が瞬く先をフォラスが見つめる視線の先を辿るようにユートは見つめるとハッとしたように表情を険しくした。



「誰かと誰かが戦っている、というだけではなさそうですね」

「ええ」



 プレイヤー同士の戦闘というだけではあれほどの閃光が連続することは稀。それこそアーツの応酬でもしない限りは。

 二人は彼方を見つめて眉間に皺を寄せた。

 幾度となく明滅する光源が徐々に自分達のいる方へと近付いてくるように見えたからだ。実際、それは錯覚などではない。僅か数分で端を切ったように闇の中から駆け出してくる複数人のプレイヤーが姿を覗かせたのだ。

 雨でぬかるむ泥に足を縺れながらも必至にその場から逃げようとしているみたいだ。



「無差別に襲われている? でも、誰に?」



 皆の様子は必至そのもの。

 例えるのなら強大なレイドボスモンスターに襲われている時のよう。



「助けに行きますか?」



 フォラスが至極真っ当な問いかけをユートにぶつける。

 しかしユートは思案顔のまま向かおうとはしない。



「どうかしました?」

「あれ……片方の勢力だけが逃げ出してきた、って感じじゃないですよね」

「そう言われてみれば確かに。ですが、だとすれば何に襲われているのか分からない」



 疑問府を浮かべるフォラスにユートは神妙な顔のまま頷いた。

 何に、あるいは誰に襲われているのか。無差別にプレイヤーを襲うプレイヤーがいるのか。はたまた別の何かか。

 どれだけ考えても答えはでないまま、数少ないHPしか持たないプレイヤーは闇の中から繰り出される不明な攻撃が彼らを襲う。

 足を掴まれ闇の中に引きずり込まれるかのように、次々と逃げているプレイヤーが姿を消していっているのだ。



「――ッ」



 あまりの光景に息を呑んだ。

 闇に飲み込まれて行くだけじゃない。その向こうでHPを全損している証拠となる光の粒がいくつも霧散しているのだった。



「止まらない。こっちに来る――!」



 咄嗟に腰のガンブレイズに手を添えて身を起こしたユートの横でフォラスも自身の弓に手を掛けた。

 息を顰めじっと待つ。

 不意に雨脚が強くなった。

 周囲の音を遮るほどの雨が降り注ぐ。

 滝のような雨は天然のカーテンとなって視界を遮り、そのカーテンを突き抜けてそれが現れた。



「大丈夫、まだ距離はあります」

「けど、暗くて姿がよく見えない」

「なら私が撃ってみます」

「え?」



 矢を装填して素早く放つ。

 闇の中から飛び出してきたそれに向かってフォラスが放った矢が真っ直ぐ飛んでいった。獣のように走るそれに矢は命中しなかった。当たる直前で何かに払われたのだ。



「外した!?」

「いや、弾かれたみたいです」

「だったら、俺が――」

「駄目です。間に合わない」



 雷光が迸る。

 一瞬の閃光によって曝かれたそれの姿は細身の人。それも全身を古めかしい鎧で覆った存在だった。



「――くっ」



 銃形態では間に合わないと判断したユートは剣形態のガンブレイズを手に振り抜かれる拳を受け止めた。

 硬質な拳とガンブレイズの刃がぶつかる。

 ぬかるんだ地面に僅かに後ずさるユートの足跡が刻まれた。



『アモルファス』



 頭上に浮かぶ名称。それは過去に自分達が戦った存在でありながら、初めて目にする存在でもあった。

 


「まさか――」



 記憶の中の姿とあまりにも違うそれに戸惑い驚愕するユート。

 そんなユートをまるで気にも留めていないようにアモルファスはもう片方の手を伸ばしてフォラスを掴もうとする。

 人の成りをしているアモルファスは当然その四肢も人のそれに倣う。漠然と持ってしまっていた常識がこの時のユートの行動を阻害した。



「フォラスさん。避けて!」



 アモルファスの腕が伸縮するカエルの舌みたいに伸びた。

 指までもが伸びて、掌も広がっていく。まるで人一人簡単に飲み込んでしまいそうなくらいに拡大したそれはフォラスよりも遙かに大きくなっている。


 雷雨降りしきる闇のなか。フォラスは更なる暗闇に襲われたのだ。




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