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R:ep.13『剣士、探索して向かう』



 慎重に階を降りて行く最中、ユートの隣にはタークがいた。

 身を潜め、周囲の気配を窺い、他のプレイヤーと邂逅しないように気を配りながらの移動は殊の外時間が掛かってしまっていた。しかしながらその甲斐もあって自分達が攻撃を受けることはない。残念だったのは自分達から他のプレイヤーを見つけることも出来ていなかったのだが。



「こっちには誰もいませんでしたよ」



 一定の距離を開けて周囲の様子を窺っていたタークは駆け足でユートの傍へと戻ってくる。



「俺の方も同じです」


 淡々とした口調で告げるユートもまたタークへと近付いていく。

 居るビルの入り繰り付近の物陰で二人は数十秒も掛けずに合流した。



「今なら安全にビルから出ることができるはずです。とはいえ次の目的地を決めずに外に出るのは得策とは言えません。そこでユートさん。次はどこに向かいますか?」



 どこか期待を込めた眼差しでタークが問い掛けてきた。

 タークの言葉を疑っているわけではないがユートは自らの目で外の様子を探ることにした。身を乗り出して見たのは入り口とは違う場所から。ここがビルの一階ということもあって比較的大きめの窓を探してみると比較的簡単にガラスが割れて窓枠すら無くなっているそれを見つけられたのだ。

 言われた通り近くに他のプレイヤーが居るようには見えない。だが、自分達のようにどこかに隠れているのだとすれば話は別。一瞥しただけで見つからないのはある意味道理だとも言える。



「俺達も気付かれてはいない……か」



 敢えてもう一歩身を乗り出して自分の存在をアピールするように身を晒す。それで何かのリアクションを引き出せたのならば僥倖だったが、生憎と状況は静かなまま。



「ここから見える別の建物は三つ。ここと同じようなビルが一つ。小さな建物が一つ。あとは……ショップ跡かな。探索するのならビルが一番階層が多いとはいえ、現状とさして変わらない気もする」



 考え込むユートをタークはキラキラとした目で見つめている。



「だとすれば素早く探索を終えることの出来る建物。ショップ跡を目指してみませんか?」

「はい。いいですよ」



 逡巡の果てに出した提案をタークは一瞬の迷いもなく受け入れる。反対にユートは一瞬の戸惑いを見せた。何故自分の言葉をすんなりと受け入れられたのか疑問に感じていたのだ。

 しかしそんな疑問のことなどは現状棚上げにするべきだ。

 小声で短く「行きましょう」とだけ告げてビルの入り口から飛び出した。

 ユートは念のためにと腰のホルダーに手を添えている。

 タークは何も持っていないが、それは彼女の武器が暗器であるため。今、この瞬間にでも攻撃しようと思えば半ばノーモーションで杭のようなものを放つことが出来るはずだ。

 だとしても相手の姿が見えなければ到底無理な話。ユートが攻撃を加えることも、タークが攻撃することも不可能に近い。



「このまま突入しましょう」



 立ち止まることなく二人はショップ跡に飛び込んだ。

 素早く内部を見渡して隠れそうな場所を探す。

 候補は二つ。

 商品が置かれていただろう棚の陰。それとレジ台の陰。

 仮に突入後直ぐに襲撃を受ける危険性を考慮して選んだのは商品棚の陰。完全に身を隠すことは出来ないが、レジ台に比べて待ち伏せされても追い込まれる可能性は低いだろうからだ。

 建物の中は風化したコンクリートが敷き詰められている。歩く度に砂利を踏むような音がする。これでは自分達が入り込んできたことが丸分かりとなってしまう。



「誰かいるのか――?」



 突入した瞬間、一気に緊張感が高まっていく。

 警戒を周囲全体に向けていつでも攻撃に移れる体勢のままユートは変わらず武器に手を添えていた。



「誰もいませんね」



 じっと身構えたままタークがいった。



「そう……ですね」



 頷きユートは一段階だけ警戒を解いた。

 体を起こして手近な棚へ視線を向ける。残されているものがあったとしても使えるようなものではないだろうが、新たに使えるものが設置されている可能性は高い。その第一候補がアイテムが収められたケースの存在。

 一応の警戒をしながら二手に別れて内部を捜索する。

 ユートは左側。タークは右側から中心に向かってチェックしていく。

 左の壁際にあるのは現実のコンビニエンスストアで飲み物が売られているような棚がある。勿論そこに飲み物などは置かれているはずもなく空のまま。その棚の向かいにあるのは大半が錆びた金属製の棚が置かれていた。



「こっちも空みたいだな。他には――」



 ショップ跡の中を歩きながら他の場所を探していく。

 壁際以外の場所に置かれている棚の形状は似通っている。その為にそれほど時間を掛けずとも探索を終えることができた。



「どうでした?」



 明るい口調で問い掛けてくるタークにユートは首を横に振った。

 残念なことにどれだけ内部を探してもケース一つ見つけることが出来なかったのだ。



「そうですか。わたしも何も見つけられませんでした」



 がくりと肩を落としてみせるも、その仕草はどこか芝居がかっているように見えた。大してショックを受けているようには思えないタークにユートは「そうだな」と言葉少なく頷いてみせる。



「既に他のプレイヤーがここに来て中にあったものを持ち去ったんですかね-」



 その可能性が高いだろうとユートは再び頷いた。

 遮蔽物こそ多けれど得るものは何もなかったことで別の場所に移動することを考慮し始めた頃、不意にどこかから戦闘音が轟いてきた。



「隠れて!」



 素早く指示を送ったユートの言葉に従い近くの棚の陰にタークは身を隠した。

 じっと隠れること僅か数分。戦闘音は絶えず聞こえているが、それが近付いているような気配がないと判断した二人はそっとショップ跡の入り口の傍へと向かった。

 出来るだけ素早く、それでいて慎重に進んだ二人はそのまま外の様子を窺った。

 目を凝らして遠くを見通す。



「あそこですね」



 タークが指差したのは先程向かう先として候補に入れた別のビル。

 割れた窓や崩れて内部が剥き出しになった穴のある壁から時折覗くのはプレイヤー同士の戦闘。

 自分の目で確認したからだろうか。絶えず表示している手元の簡易マップの件のビルのある場所に二色の光点が表示された。

 光点の色の色は赤と青。各プレイヤーが所属している陣営を示す色が設定されているようだ。



「まだ此方に気付いた様子はない、か。どうします?」



 今度はユートから問い掛けた。

 自然と共に行動することを念頭にしているかのような口調に自ら驚いているユートであったが、それすら自然と受け入れている様子のタークは少し考えると、



「とりあえず近付いてみましょう。あの音を聞いて他のプレイヤーが集まってこないとは限りませんし、乱戦になる可能性は高いはずです。漁夫の利を狙うのは難しいと思いますが、これだけ近い場所に居ていつまでも見つからない保証なんてありませんから」

「確かに。けど、強引に戦闘の中に突入することは――」

「大丈夫です。近付いて行けばは嫌が応にも戦闘に巻き込まれることになるはずですから!」



 何故か自信満々に言ってのけるタークに戸惑いながらもユートは件のビルへと物陰に隠れながら近付いて行くのだった。





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