表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
451/665

R:ep.12『剣士、戦闘の前に探索を始める』



 朝日が昇り暫しの時間が経った頃、それは始まった。

 参加している全てのプレイヤーが光に包まれて転移した先は、かつての文明の残滓漂う瓦礫の街。もう何年もの間、誰も足を踏み入れてはいないのだろう。

 未だ手付かずのその場所に今はもう総勢百名ものプレイヤーが存在している。

 しかしその誰もが他のプレイヤーの位置と人物像を把握出来ていない。

 この百名ものプレイヤーがこの瞬間に理解している共通認識は二つだけ。百名のプレイヤーがきっちり半分五十人づつ、二つの勢力に別れていること。そして戦うべき相手は自分とは違う勢力であるということ。



「――っ、いきなりだな」



 はじまりの鐘などは鳴らない。

 何故ならば転送された瞬間に始まっているからだ。この生き残りを決める特殊な戦闘が。



「敵は……ってマップにはまだ表示されていないのか」



 手元に呼び出した簡易マップを見ながら近くの縁に身を屈めて隠れる。

 幸いユートが転送された場所というのがどこかの廃墟の屋上だったこともあって突然の襲撃に遭う怖れは他の場所、それこそ瓦礫の街のど真ん中などに送られるよりはよっぽど安全を確保出来るかもしれない場所だったのだ。

 簡易マップには瓦礫の街全ての地形のデータが記録されているとはいえ、現段階で見ることが出来るのは自分がいるビルの近くのみ。それよりも広げるのならば自らの足で直接向かう以外に方法はない。



「えっと、制限時間は夕方まで。勝利条件は相手陣営の全滅、または自身の生存。こっちの方が達成できる確率は高そうだな」



 コンソール上に映し出されたルールを読みつつ確認していく。

 それでいて当初の作戦通りの行動を取るのか、もしくは別の行動を取るのか選択する必要がある。



「せめてフォラスと早めに合流出来ればいいんだけど……場所も分からないとなると難しいだろうな」



 昨日フォラスと共に組んでいた作戦は二人で行うものが全てを占めている。それもアモルファスの出現に備えるという基本方針を元にしたものばかり。

 だからだろうか。普通にゲームを進めるとすればその都度相談しながら決めようとしたのが間違いだったのかもしれないと思い始めていた。



「とりあえずこの建物の探索からかな。他のプレイヤーに鉢合わせしないといいんだけど……いや、誰か見つけた方がいいのか?」



 戦闘になるかもしれない怖れは残っているとはいえ、じっとてても事態は動かないのは明白。ならば先ずは手近な所から始めるべきだ。

 屋上の縁から顔を出して見通せる限り周囲の様子を窺う。

 近付いてくる人影はいない。ならばと早足で下の階に続く階段を探すことにした。

 ここが普通の建物とは違うのは本来在るはずのドアがないこと。つまり普通にしていたのでは自分はここから移動することすら出来ないということだ。

 目を凝らし、手探りで下の階層に続く道を探す。

 約五分もの間探し続けて出た結論。それは道は無いということ。けれど途方に暮れるわけにはいかない。



「つまり、道が無ければ作ればいいってことだよね」



 腰のホルダーから抜いた銃形態のガンブレイズを構えてゆっくりと照準を定めていく。

 視界に映る見慣れたターゲットマーカーがとある一点で形状を変えた。通常のそれがダーツの的のような形状だとするのなら、形状を変えたそれは謂わば危険物を示すハザードマーク。

 屋上の地面の一角。五十センチ四方の石のプレートが敷き詰められている場所にハザードマークが浮かんでいるのだ。



「もしかすると壊せるのか」



 ものは試しだと引き金を引く。

 撃ち出された弾丸は的確にハザードマークの中心を射貫き、その下にある石のプレートまでも撃ち抜いた。

 だが、たった一発では粉砕することまではできないらしく、弾丸が命中した跡が付きその周囲に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせるだけに留まった。

 ユートは不満気な顔をしながら足でその亀裂と小突いてみる。するとパラパラと僅かな破片が靴底から溢れ落ちたのだ。



「お、行けるかも」



 一転して喜色を滲ませたユートはそのまま連続して引き金を引いた。

 正確に同じ場所を射貫いたことでより亀裂は広がり、最初に作った弾痕はいつしか完全な穴になっていた。

 射撃を繰り返すこと程なくして、さらに亀裂は大きく広がった。ここまでくれば最早同じ場所を撃ち抜く必要はなくなったも同然。着弾地点を変えながら新しい亀裂が最初に作られた亀裂に重なるように想像しながら射撃を繰り返していく。すると銃撃音に混じってミシミシという音が聞こえてきた。



「ここまでくれば――」



 ガンブレイズを腰のホルダーに戻して落下しないように気を付けながら思い切って踏み抜く。



「開いた!」



 一際大きな音を立てて崩れ落ちていく石の欠片の奥を覗き込む。すると下の階の様相が窺えた。

 見えたのは朝の光に照らされた部屋。窓にガラスは既に無く、今踏み抜いて降り注いだ石の欠片の他にも壁や天井から剥がれたコンクリートの破片のようなものが床の至る所に散らばっている。



「この位の高さなら何とかなりそう」



 出来た穴を広げるように数回蹴り続ける。そうして出来た大きな穴は人一人余裕で通れるくらいの幅があった。

 ユートは勢いを付けて飛び降りることはしないで、そっと慎重に飛び降りることにした。

 不意に体が落ちてしまわないように床に手を突いて飛び降りる。

 着地は難なく成功。

 手に付いた埃を払うように打ち付けるとユートは簡単に部屋の中を見渡した。



「案外ファンタジー感のない部屋だな」



 一つの階層を下った先の部屋はどこか学校の教室を彷彿とさせる部屋だった。

 味気ない殺風景な部屋の内装。机や椅子のようなものは一つとして無く、ここは本来何の目的で使われていた部屋なのか想像する手掛かりすら見つけられなかった。

 ただ、ゲームという現実離れした空間だというのに、どこか既視感のある内装である意味現実味が強い印象を受けたのだ。



「ここは何も無さそうだし、別の部屋に行くか」



 誰に向けたわけでもない言葉を呟きながらユートは割れた窓から廊下へと飛び出した。ドアを使わなかったのは軽く拉げていて動くようには思えなかったことが原因だった。

 窓を跳び越えるとパリッと砕けたガラスがさらに砕けた音がする。

 前後に伸びた廊下は想像していたよりも長い。

 屋上から降り立った部屋と似たような部屋がいくつも並んでいるのが見える。

 廊下には砕けたガラスが敷き詰められていて歩く度に先程と似た音が響き渡った。



「あれだけ大きな音を立てたのに誰も近付いてくる気配はない、か。足音も俺一人分しか聞こえてこないし、本当にここには俺以外誰もいないのか?」



 これだけの広さのある建物に転送されたプレイヤーが自分一人なんてことありえるのだろうか。

 そのようなことを考えながら進んでいると突然ジャリッという音を聞いた。

 それは紛れもないプレイヤーが歩く度に聞こえてくるガラスを踏み締めることで鳴る足音だ。

 敵か味方は直ぐには判別することはできない。ユートは腰のホルダーから銃形態のガンブレイズを抜いた。



「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ。わたし、わたしです。タークです」



 素早く構えて銃口を向けるユートの前にパタパタと手を振る少女のようなプレイヤーが現れた。



「え?」

「お久しぶりです。ユートさん」



 自分の名前を呼ぶその少女はユートの記憶の中にある姿とは若干印象が異なっている。

 ショートカットの水色の髪や中性的な顔立ちは変わらない。けれどその装備はあからさまに以前とは違う。

 まるで忍者のような服装をしているが、何故かその装束の色は白。これでは闇に紛れることはおろか、人混みに紛れることすら困難に思える。



「まさか、タークさん?」

「はいっ」



 自分の名前を呼ばれたことでタークは満面の笑みを返してくる。

 それに反してユートの顔にはいくつもの疑問府が浮かんでいたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ