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R:ep.10『剣士、影を追い払う』



「<琰砲(カノン)>!」



 フォラスに向かって飛んでいくメイスが激突するよりも速く赤い光がその体を撃ち抜いた。

 プレイヤー同士によるフレンドリーフィイアは存在する。ただし与えるダメージの大半は軽減され、例え状態異常を付与することの出来る攻撃であってもその状態異常を負うことは無い。

 変わらないのは与える衝撃だけ。

 それが今回のゲームに設定された新たな制限だ。

 ほんの僅かなダメージと共にフォラスは光をその身に受けて空宙で突然軌道を変えた。そしてそれまでフォラスがいた付近をアモルファスが投げたメイスが通り過ぎて霞みのように消えた。



「良かった。なんとか間に合った」



 ほっと胸を撫で下ろしながらユートは後方のアモルファスへと向き直った。

 所持していた二つの武器は既に投げてしまっていて何もない。だというのにアモルファスから感じる威圧感はそれまでと何一つ変わってはいなかった。



「――さて、どう出る?」



 意思の感じられないアモルファスは言葉一つ発しないまま徐に手を翳した。刹那自身の足元の影がその手元にまで伸びたのだ。

 影の端を掴むアモルファス。いつしかその手にはフォラスが使っているものと似た形状をした弓のような武器が握られていた。弓のようなとしか言えないのはそれが本物の弓とは大きく形状を違えているから。弓に張られている弦は無く、同時に絶対必要であるはずの矢もそれを納めて置く矢筒すらアモルファスは所持も装備もしていない。



「まさかっ――狙うならこっちだ」



 一瞬の危惧を抱き目を凝らすとアモルファスがその弓で狙っているのは変わらずにフォラスだった。まるでそこに在るかのように不可視の矢を引き放とうとするアモルファスに向かってユートは繰り返し引き金を引いていた。

 ガンブレイズから放たれた弾丸は全てアモルファスに命中した。その頭上に浮かぶHPゲージは目に見えて減少していた。だが攻撃を受けたことによるよろめきは発生せずに、その攻撃を止めることは叶わなかったのだ。

 フォラス目掛けて放たれる矢。

 ゲームだからか弾丸よりも速く飛ぶそれを撃ち落とすことなど不可能だ。そしてそれはフォラスでは回避することが出来ないことを物語っているも同然だった。


 バンッと銃声とは違う轟音が響き渡る。

 案の定フォラスは矢を避けることはできなかった。が、どうにか急所で受けることだけは避けられたようで、腹部を押さえながらも直ぐにストレージから回復ポーションを取り出していた。



「くっ、これ以上は――させない! <琰砲>!」



 次の矢を番えようとするアモルファスにユートは射撃アーツを放つ。

 アーツの直撃を受けながらもアモルファスは平然と弓を引く動作を開始した。当然攻撃が命中すればダメージを与えることは出来る。例えよろめかなくても減少をみせたHPゲージがユートの攻撃が無駄では無かったことは間違いは無さそうだ。

 とはいえ行動を阻害することには失敗していることもまた疑いようのない事実だった。



「フォラスさん! また狙われてますっ!」

「分かっています。けど、どうやったら避けられるんですか、これ」



 困惑しているフォラスは弓を持ったまま視線を外さずにアモルファスの攻撃の射線から外れられる位置を探し続けている。

 しかしそんな場所などありはしないというようにアモルファスは正確にフォラスを射貫いてみせた。

 回復ポーションを使用していなければ大ダメージを蓄積してしまっていたことだろう。ただ、それで事態を逃れられたかと問われれば答えは否だ。



「だったら回避よりも防御に集中してください。その間に俺がアモルファスに攻撃を仕掛けますから」

「それしかないみたいですね。わかりました。なんとか耐えてみます。けど、あまり長くは保ちそうにないので、それまでにはどうにかしてください」

「わかりました!」



 声高々に答え、ユートはガンブレイズを銃形態から剣形態へと変えた。

 アモルファスの攻撃の意思は絶えずフォラスへと向いている。ユートのことはその存在すらまるっきり無視しているかの如く。それ故に近付いて行きより大きなダメージを与えるための選択を取ることができていた。

 弓を引き狙いを付けているアモルファスに正面から突っ込んでいく。

 ガンブレイズを構えたユートの狙いはまずその武器、あるいはそれを持つ腕。回避困難な攻撃を引き付けると言ったフォラスを助けるためだ。



「<光刃(セイヴァー)!>」



 ガンブレイズの刀身は吸い込まれるようにアモルファスの腕を斬り付ける。

 下から上へ向かう斬り上げの一撃。硬い鎧を纏ったような姿のアモルファスだが、その一撃は思っていたよりもはっきりとした効果をみせた。

 何の抵抗も感じることなくアモルファスの両腕が斬り飛ばされる。

 両断され重力に従って落ちるのではなく、くるくると回転しながら宙を飛ぶアモルファスの両腕は血飛沫ではなくドロドロとした違う液体を撒き散らしながら消滅した。

 両腕をなくし弓を使うこと叶わず攻撃手段を失ったというのに相も変わらずアモルファスの敵意はフォラスに向けられたまま。

 身を乗り出して自爆紛いの突撃を繰り出そうとしているかのようなアモルファスに向かいユートは二度目の<光刃>を放つ。

 光を伴う斬撃がその胴体を薙ぎ払う。今回も腕を斬り飛ばしたときのようにそれほど抵抗を感じることなくアモルファスの胴体に大きな亀裂を刻むことが出来ていた。両断とまでいかなかったのは腕に比べ胴体は厚みがあるからだろう。

 アモルファスの頭上に浮かぶHPゲージの一つが消滅した。

 残り二本。

 現状自分達が受けたダメージを鑑みると優勢とまでは断言できないとはいえ、劣勢にまでは追い込まれていないのは確かなことだ。

 いつしか斬り飛ばした腕も再生するかもしれない。そうでなくとも別の攻撃手段を取るかもしれない。一時攻撃が止んだこの瞬間に体勢を整えるためにもユートはフォラスの元へと急ぐことにした。

 フォラスもまたHPを回復させながらユートと合流して再び自分達がとるべき戦術を模索することを決めたようだ。


 しかし、今度もまた現実は自分達の思うようにはいかない。

 胴体を斬り付けられたことで初めてよろめいたアモルファスが唸り声のような音を出すと次の瞬間、全身を霧散させて消えてしまっていたのだ。

 虚を突かれたように立ち尽くすユートとフォラス。

 何とも納得出来ず、締まりの結果結果になったとはいえ、これでこの戦闘は終わった。そんな風に思いつつもこの時の二人はその事実を受け入れることが出来ずにいた。

 無駄で徒労に終わる警戒心が溶けたのはそれから数分という時間が経過した頃になっていた。




ユート

レベル【15】ランク【2】

所持スキル

≪ガンブレイズ≫

≪錬成≫

≪竜精の刻印≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪状態異常耐性・全≫

≪HP強化≫

≪MP強化≫

≪ATK強化≫

≪DEF強化≫

≪INT強化≫

≪MIND強化≫

≪DEX強化≫

≪AGI強化≫

≪SPEED強化≫

残スキルポイント【9】



――――――――――



【作者からのお願い】

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