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R:ep.07『剣士、斬り開く』



 フォールドに出て戦うシャドウの姿は意外なことにどこかの特撮番組に出てくる『ナントカ星人』のようだった。

 鼻や口、耳がない代わりに目だけははっきりと描写されていてギョロリと発光している。一般的な大人の体格でしかないが、その割に異様とも思える位に長い手足。その手の先にはおそらくモデルとなったプレイヤーが使っている武器なのだろう。長さや幅の違う刀身が備わっていたり、弦の無い弓のようなもような物などようなものなど、全体の無個性さに反した個性を象徴しているようであった。

 シャドウの強さというものは想定通り、そこまで強くは無かった。動きも何処かぎこちなさを匂わせており、ある程度ゲーム内の戦闘に慣れたプレイヤーであれば終始優位に戦えるのではないだろうか。

 実際、ユートとフォラスはそれほど苦労することもなく対峙したシャドウを討伐することに成功し、また次のシャドウを探してフィールドの奥へと進んでいるのだった。



「二日目にしてここまで奥に来られるとは思いませんでした」



 向かったフィールドは相も変わらず荒れ果てた市街地。

 風雨に曝されてボロボロに崩れた瓦礫の破片の陰や、どうにか現状を維持しているらしい建物の内部に目を凝らしているフォラスは関心したように呟く。



「そうなんですか? 正直シャドウの強さがあのくらいでしたら、もっと先に進む人がいてもおかしくないと思いますけど」

「それはユート君が戦いに慣れているからですよ。全くの初心者が何の準備もしないで効率的にシャドウを討伐できるわけないじゃないですか」



 当たり前のことを聞くなと言わんばかりに言い切るフォラスにユートは若干怪訝そうな視線を向けた。



「何ですか?」

「あ、いえ。俺が戦闘に慣れているのは確かにそうなんですけど、他のプレイヤーだって俺くらいのこと出来る人は多いと思いますよ。それに、初心者だからこそ無策でも戦闘に突撃していく人は多いんじゃないんですか?」



 無知の知とは違うだろうが、余り情報が多くないからこそ出来ることだってある。既知の中に飛び込むことよりも未知の中に飛び込むことの方が困難とはいえ、現実ほどリスクなくそれが行えるのがゲームの利点でもある。

 何よりテーマパークのアトラクションの一つとして参加する今回のゲームであるからこそ、自ら果敢に戦闘を行おうとするプレイヤーが居てもおかしくはないのだ。



「いつ他のプレイヤーと出くわすかも分からないんですよ。どれかでここが【ブルーイースト】陣営に近いフィールドだとしても【レッドウエスト】のプレイヤーが居たとしても、それこど変な話じゃないんですから」



 言い切るフォラスにユートはそういうものかなと首を傾げながらも、追求することは止めていた。視線の先、建物の陰に新たなシャドウを発見したからだ。



「ユート君」

「わかっています。これまで通り俺が突貫しますから」

「私が援護する、でいいのよね」

「はい」



 戦術の確認を素早く終えるとユートは周囲に他のプレイヤーの姿が無いことを確認するや否や駆けだしていた。

 手には剣形態のガンブレイズ。

 射撃を行い威嚇するよりも直接攻撃を仕掛けた方が効果的だと判断したのだ。

 ユートの接近に気付いたシャドウは素早くその得物をユートに向けた。

 手の先が変化したシャドウの武器は両刃の大剣。通常片手では扱えないであろうそれをシャドウは軽々と振り上げてみせる。



「ハッ」



 声と共に気合いを吐き出し矢を放つ。

 ユートの背後から流星の如く放たれたそれはシャドウの掲げた大剣に命中すると小規模な爆発を巻き起こした。

 弓のアーツの一種<バースト・アロウ>である。

 本来フォラスが得意しているアーツは氷結系のもの。爆発の属性を持つそれは決して使い慣れているものではないはず。しかし、シャドウとの戦闘を始めてからというものフォラスは牽制にしろ妨害にしろ、相手を討伐する目的であったとしても使うのは爆発系のアーツばかりだった。



「隙ありっ」



 爆発によって仰け反らされたシャドウの腹を切り払い、そのまま斬り上げに繋げる。

 連撃を受け大きくHPを減らすシャドウ。だが通常攻撃だけではまだ倒しきるには至らない。



「ハァッ」



 ガンブレイズを構え直したユートの背後から再び一本の矢がシャドウを穿つ。

 やはり着弾と同時に爆発が起り、残っていたシャドウのHPを削り取ってみせたのだ。



「お疲れ様でした」

「さすがです」



 互いを労うように声を掛けながらフォラスはシャドウが消滅した場所に残された小型のケースに手を伸ばす。



「開けますよ」

「お願いします」



 一言断りを入れてケースのロックを外す。

 特別な演出など一切無く開かれたケースの中身は数枚の硬貨。銀貨と銅貨のみなのはこのシャドウが弱い証左だろうか。



「二等分するとこうですね」

「有り難うございます」



 ちょうど割り切れる金額だったこともあってフォラスは今得た報酬の半分をユートに手渡してきた。

 手にした数枚の硬貨をポケットに入れる。その所作を以てして自身の所持金に獲得した金額が加算されるのだ。

 通常のゲームの通貨とは違う今回の硬貨はプレイヤーの所持金の項目と同じ場所に表示されている。ただ合計金額という表記ではなく、金貨何枚、銀貨何枚、銅貨何枚、というようにではあるが。



「中々アイテムはドロップしませんねえ」



 空になったケースが手の中から消えるのを待ってフォラスがいった。



「まあ、最初はこんなもの何じゃないですか?」

「だとしてもこの調子だと日々の宿泊費だけでトントンなんですよ」

「う、そうですよね」



 これまで何度かシャドウを討伐しているが、獲得できたのは硬貨ばかり。何か使えそうなアイテムの類は一切手に入ってないのだ。

 フォラスはそのことが存外に不服のようで、弓を片手に不満を漏らしているのだった。



「やっぱりフィールドに出現するケースを探した方が良かったんじゃないですか? この世界での戦闘にもそれなりには慣れて来またことですし」

「あー、そう思います?」

「とはいえ、何処にケースがあるのか分からないままですし、探すとなるともっと遠くに行く必要がありそうですけど」

「そうなんですよねぇ」



 あまり乗り気ではないフォラスにユートは問い掛ける。



「何か気掛かりなことでもあるのですか?」

「現状他のプレイヤーとの戦闘は避けたいんですよ」

「どうしてです?」

「単純にリスクにリターンが伴っていないからですね。他のプレイヤーを倒した時に得られるものはそのプレイヤーが獲得してきたものが反映されるんです」

「だから今倒しても旨味は少ないってことですか」

「はい」



 現金ながらも現実的であるフォラスの意見に苦笑しながらもユートは同意するのだった。



「だったら余り遠くに行かずシャドウの討伐とケースの探索が当面の目的ですかね数度」

「それだと現状と大差ないですけど、最善だと思います」



 そうして二人は別のシャドウを捜し、また同時にケースを探しながら歩きだした。

 道中、形状を残しているモーテルの中に足を踏み入れたり、その裏を探したり。そうすることで数回シャドウを発見し、その都度討伐していった。しかしもう一つの目標としていたケースの探索は叶わず一つ足りとて発見することはできなかった。



「――ッ!」



 既に他のプレイヤーによって刈り取られた後なのだろうかと首を傾げていたユートの横でフォラスはいきなり弓を構えた。矢をつがえ即座に放つ。

 矢が飛んでいった先は果ての見えない道の先。



「フォラスさん? 何を――」



 問い掛けるよりも先に爆発音が聞こえてきた。

 もくもくと立ち込める黒煙。どうやら燃えたわけでは無いようだが、何かに命中したのは間違いなさそうであった。



「来ますッ」



 説明が無いと文句を言いたくなったユートであったがそれは視界に飛び込んできた無数の影によって遮られていた。



「何だ、あの数! あれが全部シャドウだっていうのか!?」

「ユート君も早く撃ってください。あの数が一斉に押し寄せてきたらどうしようもありませんよ!」

「わかっていますッ」



 ガンブレイズを銃形態にしてがむしゃらに射撃を行う。

 フォラスによって放たれる矢とユートによって撃ち出される弾丸。フォラスの矢とは違い、爆発が起らないがために命中しているかどうか不明だが手を止めて奥を見定めようとする度にフォラスが「手を止めないでくださいっ」と檄が飛ぶために一心不乱になって撃ち続けるしかなかった。

 程なくしてそれらは姿を現わした。

 想像していた通り大群となって押し寄せてくるのはシャドウ。ゾンビ映画のようにゆっくりとしているわけではなく、謂わば軍勢の行進を彷彿とさせるそれは見て楽しいものではない。



「どうしてこんな群れ相手に攻撃を仕掛けたんですっ?」



 必至に射撃を繰り返しながら叫び問い掛ける。するとフォラスは心外だと言うように食い気味で、



「違いますっ! 私が気付いた時にはもうこっちに近付いて来ていたんですよ」

「だったら隠れてやり過ごせば良かったんじゃないですか」

「無理ですよ。戦闘に突入しているシャドウは付近にいるプレイヤーを感知するんです。隠れたら袋小路に追い込まれて一巻の終わりですって」



 断続的に続く爆発が不意に止まる。

 ユートは手を止めないまま隣にいるフォラスを見ると、



「MPが切れそう」



 小さく呟いていた。

 MPとはアーツの発動に必要不可欠なもの。当然使えば減るし、回復させるのは専用のアイテムを使う他には自然回復を待つしか無い。ユートは自然回復を助けるスキル≪自動回復・MP≫を習得しているのだが、同じように元のゲームの経験値があるフォラスも習得していないワケがない。だというのにMPが枯渇気味になってしまったということはそれだけ頻繁にアーツを発動させていたということ。それは通常の戦闘と今起きている戦闘とは勝手が違うと物語っているも同然だった。



「アーツの攻撃を止めて回復に努めてください」

「でも――」

「いざという時のためにMPの完全枯渇は避けるべきです」



 ユートの言い分を理解したのかフォラスは攻撃をアーツから通常攻撃へと切り替えた。

 当然矢が命中しても爆発は起らなくなる。つまり命中したとはいえダメージを与えられるのは矢を受けた一体だけとなり、シャドウの進行を妨げることは出来ない。



「俺が前に出ますッ」



 シャドウの大群の中へと飛び込んでいくユート。その手にあるガンブレイズは既に剣形態に変形済みだ。

 迫り来るシャドウの数は減っている。だが全体に比べれば微々たるものであると言わざるを得ないだろう。それだけ襲い来るシャドウが多く、何故こんな事態になったのだろうかと、無心になってガンブレイズを振るいながらも疑問を抱かずにはいられなかった。



「せやぁあ。<光刃(セイヴァー)>」



 接近してくるシャドウをアーツを以って斬り付けて葬り去る。消滅したその足元には小さなケースが転がるがそれを拾う余裕などなく、別のシャドウがそれを踏み付けながらも攻撃を加えてくるのだった。

 幸いにもケースは破壊不能なオブジェクトのようで踏み潰されたくらいでは傷つくことはない。しかし、長時間放置された場合には消滅してしまうらしく、最初の頃に倒したシャドウが落としたそれは既にこの場から消え去っていた。

 ドンッ。

 暫くユートがシャドウの群れの中で奮闘しているとまたしても爆発音が聞こえて来た。これ以降先程よりは感覚が空くものの爆発は繰り返し巻き起こった。



「それでも足りないのかっ」



 自分の手によって倒されていく数。フォラスの放つアーツによって倒されていく数。この数シャドウの総数よりも明らかに少なく思えるのは何故だろう。

 迫るシャドウの隙間を縫って、攻め込んできた方を見る。すると驚いたことに空間が歪みどこからともなく新たなシャドウが出現しているではないか。



「くそっ、これじゃあキリがない」



 ゴールの無いマラソンを強いられた気分になるもここで死ぬわけにはいかないとユートはガンブレイズを振るい続けた。

 時にアーツを発動させて、付近のシャドウを一掃するもまたしてもシャドウは流れ込むように攻撃を仕掛けてきた。いつしか自分の手から逃れたシャドウがフォラスを狙っているのが見えた。けれど、この場から動くことが出来ずユートに出来たことと言えばただフォラスの名前を呼ぶだけ。

 フォラスは冷静に接近してきたシャドウに狙いを定めるとそれまで使用していなかった氷結系の弓アーツを発動させていた。

 矢が当たり一瞬にして凍り付くシャドウ。次の瞬間には砕けるように氷塊が瓦解し、中に囚われていたシャドウも同時に消滅した。

 それでもまだシャドウはいる。当然だ。常に出現し続けているのだから。



「どうする? 俺かフォラスさんが、あの出現地点を叩けばどうにかなるだろうけど――」



 どちらも動き出すことができない。正確にはこの場から移動することが出来ない。互いに理解しているからだ、どちらかの攻撃が緩んだ瞬間にこのバランスが崩れることを。

 必至に思考を巡らせる。

 けれど答えは出てこない。

 調子よくも他のプレイヤーに助力を求められないかとも考えた。しかし、付近に力を貸してくれそうな知り合いはいない。



「こうなったら――フォラスさん!」



 考え続けて見出せた僅かな光明。それを実行するためにユートはフォラスの名前を呼んだ。



「何ですか?」

「俺が道を作ります。だから、あそこを――」



 視線だけで目標を示す。

 自分よりも先にシャドウの群れの接近に気付いたフォラスだからこそ、ユートの視線の意味に気付けたのだろう。

 声に出さず頷いたのを見届けるとユートはガンブレイズを銃形態に変えると、



「行きますっ! <ブレイジング・ノヴァ>!」



 渾身の必殺技(エスペシャル・アーツ)を放った。

 銃口の周囲に広がる真紅の光輪。その中を貫くように放たれる赤と黒が降り混ざった光線。

 ユートの正面だけではない。光線の余波を受けて消滅するシャドウも含めておよそ半数のシャドウが瞬く間に消滅していた。



「やはり全滅には至らないか」



 あくまで直線の光線でしかないそれは端になれば成る程与える影響は少なくなってしまう。残ったシャドウがは戸惑うこともなく攻め込んでくるが、自分に辿り着くまではまだ幾許かの余裕がある。



「今です!」



 叫ぶやいなやユートの横をフォラスが駆け抜けた。

 弦を引いたまま、いつでも放てるように構えた格好で。

 件のシャドウの出現地点に歪みが現れた。新たにシャドウを呼び出す予兆だ。

 フォラスが近付くまではまだ距離がある。失敗した、と微かに思ったユートの前でフォラスは滑り込むように両足で踏ん張り、それまで以上に弦を引いてみせた。



「<清龍(せいりゅう)一射(ひとうがち)>!」



 フォラスが発動させたのは彼女が使う必殺技だった。

 淀み一つ無い清流の水のような波動を纏った矢が真っ直ぐ歪みを貫く。

 着弾と同時に広がるは波紋状の光。

 光を受けたシャドウは動きを止め、直撃した歪みは突然発生した間欠泉のように立ち上る水によって吹き飛ばされている。

 次の瞬間、残っていたシャドウは闇に溶けるように消えていた。


 未だ太陽は天高く。この日の終わりにはまだ遠い。



ユート

レベル【14】ランク【2】

所持スキル

≪ガンブレイズ≫

≪錬成≫

≪竜精の刻印≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪状態異常耐性・全≫

≪HP強化≫

≪MP強化≫

≪ATK強化≫

≪DEF強化≫

≪INT強化≫

≪MIND強化≫

≪DEX強化≫

≪AGI強化≫

≪SPEED強化≫

残スキルポイント【6】



――――――――――



【作者からのお願い】


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