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R:ep.05『剣士、街にて』

いきなりですが、次回5月7日(金)の更新はお休みさせていただきます。

その次の5月14日(金)の更新は行いますのでその時はどうぞよろしくお願いします。



 時が進み次第にユート、タークの両名は否が応でも戦闘に巻き込まれていく。

 戦闘は苛烈を極め――なんてことにはなることもなく、正直雑な戦いが頻発したのだった。その理由は単純、戦闘に未だ慣れていないプレイヤーのほうが多いからだ。

 各自選んだ武器を使う際にはシステムアシストが働きそれなりの動きを発揮できるのだが、慣れというものは別の問題。そもそもプレイヤーが自らの身体を動かさなければシステムアシストも働きようがない。本来ならば自分に見合ったレベルのモンスターと戦い戦いに慣れていく行程を踏むために問題なく戦えるようになるが、今回はいきなり戦場に送り込まれるようなもの。

 多くのプレイヤーがギリギリ不格好にはならない程度の実力しかないままというわけだった。



「次っ!」



 正面の相手を切り伏せて刃を下げるとユートは視線を別の場所へと向けた。

 蛇に睨まれた蛙とでもいうべきか、ゲームに慣れたユートの戦い方はいきなり戦闘に突入したプレイヤーとは一線を画するために視線を向けられた先にいたプレイヤーは体を竦ませている。

 その一瞬の隙は接近して切り付ける切っ掛けには十分すぎた。



「ひっ、ひぃぃぃっぃ」



 悲鳴を上げながら後ずさるプレイヤーは既に武器を構えることすらできていない。

 慣れというものがここまで明白な差を生むものかと感心したように戦闘を見守るタークは短い溜め息を漏らしている。

 両手を体の前で組み身を守るも刃を完全に塞ぐことは出来ずそのHPを大きく減らしていた。



「浅かった!?」

「あっ、ああ………」

「って、速っ」



 想像していたように一撃で倒すなんてことにはならなくとも与えたダメージの少なさに戸惑い、攻撃を受けたプレイヤーは尻餅をつきながら必至に逃げ始めた。



「追いかけるんですか?」

「いや、止めておこうかと」

「どうしてです?」

「これ……多分制限時間ですよね」



 逃げていったプレイヤーを余所にタークがユートに近寄り話しかけてきた。この時点で一連の戦闘は一時の休息を得ていた。

 ユートは逃げ出したプレイヤーを追うことはしないですっと居住まいを直すと、自らの言葉を説明するために手元に簡易マップを出現させる。

 そのマップの上部に記されているデジタル時計は着実にゼロへと向かっていき、既に残り五分を切ろうかという所になっていた。



「そう…みたいですね」

「制限時間内にどちらかが全滅しなかった場合どうなるんです?」

「確か残っているプレイヤーの数が多い方が勝つはずですよ」

「その数が同じなら?」

「そこまではちょっと……」



 分からないと言い淀むタークにユートは「そうか」と短く答える。

 いつしか二人の近くに他のプレイヤーの姿はなく、新たな戦闘が始まる予兆すら微塵も感じられなくなっていた。

 程なくしてガンブレイズをホルダーに収めるとユートは残り僅かな時間の過ごし方をタークに相談するのだった。

 相談の結果、時間の限り二人は周囲の探索を行った。目的はケースの回収。制限時間をめいっぱい使い探し続けると修了する頃には四つのケースを見つけ出すことができていた。

 ケースの中身は見慣れない色と形状をした鉱石の原石が三つ。金貨が七枚。似たような模様が描かれた銀貨が十枚。既に所持している単眼鏡がさらに二つと残念なことに回復ポーションは一つとして獲得出来なかった。

 獲得したものを二人で分け合い、ユートは鉱石を四つと金貨を三枚、銀貨を五枚と単眼鏡を一つ獲得し、タークは鉱石を三つと金貨を四枚。残りはユートと同じ数だけ手に入れた。



「そろそろですね」



 時計の目盛りがゼロに近付く。

 そして残りお時間がゼロになった瞬間に二人は淡い光に包まれた。それと同じ頃、戦場に残っていた全てのプレイヤーが同じ光に覆われていた。この光の色は二つ。赤と青。それぞれが選んだ所属している陣営を表わす色だった。

 頭の天辺から爪先まで。まんべんなく光が覆うと全てのプレイヤーは同時に転送された。転送先はそれぞれの陣営の拠点となる街。【ブルーイースト】ならば【蒼の街】、【レッドウエスト】ならば【朱の街】というそれぞれの陣営を象徴する建造物が並ぶ街だ。

 光に包まれ転送されたユート達は街の中心部に立っている。

 周囲には同様に転送されてきた大勢のプレイヤー。

 その数が多いのか少ないのかはそれぞれの感覚によるものが大きいが、この時のユートは少ないと感じていた。



「先程の戦闘で倒されたプレイヤーは先にこの街に送られているはずです。そこで一足早く準備を始めているんですよ」



 そう声を掛けてきたのは黒髪黒目の弓士。格好に見覚えはないもののその顔つきや髪型。携えている弓には見覚えがある。



「フォラスさん! 良かった合流できたんですね」

「さっきの戦闘では別の場所に転送してたみたいですから。それよりもこのタイミングで転送してきたってことはユート君はさっきの戦闘、ちゃんと生き残れたのですね」

「はい。フォラスさんは?」

「私もちゃんと生き残りましたよ。というかゲーム経験者は最初の戦闘の生存率は高いんですよ。戦い慣れているからでしょうね」

「ああ、成る程」



 フォラスの言葉に納得したように頷く。

 合流出来たことを喜び話をしているとユートはたった今まで共に行動していた人物の紹介を忘れていることに気付きハッとしたように隣を見た。



「え!? 何ですか?」



 そう言ったのは知らない人。

 慌てて「あ、いえ。すいません」と挙動不審な動きをしながらも返答したユートに視線を向けられたプレイヤーは眉間に皺を寄せながらも街の喧騒のなかへと消えて行った。



「どうかしたんですか?」

「さっきまで一緒にいた人が居たんですけど……どこに行ったんでしょう?」

「私に聞かれても」

「ですよね」



 キョロキョロと辺りを見渡しながらタークの姿を探した。

 しかしいつの間に消えてしまったのか、結局その姿を見つけ出すことは出来なかった。

 せめて一言あっても良かったのにと不満を表情に出すユートにフォラスは、



「さっきの戦闘で何か手に入れることは出来ました?」

「えっと、はい。鉱石とか金貨とかは少し」

「でしたら、防具を揃えた方がよさそうですね。初期装備は見た目だけで防御力が無いのはここもゲーム本編も同じですから」



 そう言ってフォラスは歩き出した。

 街の中を行き交っているのがプレイヤーだけでNPCがいないとは到底思えないほどの賑わいが満ちていることに感心しながらも迷う素振りもなく歩いて行くフォラスの背中を追いかける。



「っと、その前に。今のところ使いそうにないものはありました?」



 歩を止めないまま思い出したように訊ねてくる。



「それだったらこれですかね」



 ユートはストレージから二つある単眼鏡を取り出して見せる。



「単眼鏡ね」

「これって一つで十分ですよね」

「ですね。だったらもう一つは売ってしまいましょう」

「売るんですか?」

「使わない物を持っていたって仕方ないですから。それにこれから向かう場所でも買い取りしていますのでわざわざ違う店舗に向かわなくてもいいですし」



 軽快な足取りで進むフォラスは暫くして一軒の人気の無い店の前で足を止めた。

 小さなコンビニエンスストアみたいな外観の建物とはいえ自動ドアではないらしい。フォラスは自らガラスドアを押して開けると躊躇することなく店内へと足を踏み入れた。



「買い取りカウンターはあっちです」



 店内には人はいない。それは自分達以外のプレイヤーだけではなくNPCすらもいないという意味だ。



「ここと似たような店舗はこの街の至るところにあります。ですので一軒が込み入るなんてことはない――らしいです」

「売っている物に違いはあるんです?」

「なかったはずですよ。何処に行っても同じものが手に入る。品切れも売り切れもない、のが今回用意されている店舗の共通点ですから」

「成る程。買い取り金額に差異は?」

「それもありません。そもそも買い取りも販売もプレイヤーはおろかNPCが行うものではないですし」



 とフォラスが視線を向けた先には人の気配がない無人のカウンター。「最初に自分がやってみますね」といって持っていたアイテム――小さな空の金属製のボトルらしきもの――をカウンターの所定の位置に置くとボトルは自動的にカウンターの奥へと移動し、数秒後には数枚の硬貨が出てきた。金でも銀でもない、少しだけ錆びたそれは銅貨なのだろう。



「この通りです」



 満足そうに言ったフォラスに続いてユートも持っている単眼鏡をカウンターに置いた。

 数秒後、一枚の銅貨がコロンっと出てきた。



「こんなものなのか」

「ま、まあ、だいたい?」



 高額になるとは思っていなかったがそれでもフォラスのように数枚にはなると思っていただけに戸惑いが隠せていないユートに何とも言えない表情になるフォラス。

 嫌な沈黙もわざとらしいフォラスが咳払いを切っ掛けにして、



「とりあえず防具を見てみましょうよ」



 雰囲気を変えて今度は別のカウンターの前に向かった。

 この店舗でも買い物は現実のそれとも、これまで行ってきたゲーム内での買い物とも違う。強いて近いのは自動販売機での買い物だろうか。

 壁に並んだ防具の写真を見て気に入った物を購入する。サイズやなんかは自動的にフィットするようになっているのがゲームならではだ。



「にしても、アクセサリっぽいのしかないんですけど」

「それがこのゲームの防具の基本らしいですからね」

「えっ、そうなんですか? 服装を変えたい場合はどうするんです?」

「うーん。基本的にプレイヤーが作ったりとかだったと思います。あ、そう言えばスキンという扱いで売っていたはず……ほら、あっちに」



 フォラスが別のカウンターを指差した。

 そこにはいくつかの服が羅列されている。



「見てみます? 性能的にはあまり意味が無かったような気がしますけど」

「意味ないんですか?」

「だって、まだ始まったばかりですからね。性能の高い服なんかは高価ですから」

「高価って――うわっ、確かに高いですね」



 驚くユートが見つけた一着の服の下には金貨16枚と値段が付けられていた。

 ちなみにこのゲームでの金貨の価値を現実のお金に換算すると百円だ。銀貨が十円で銅貨が一円。つまりこの服は現実で言えば僅かに一六〇〇円でしかないというわけだ。しかし、この世界で手に入れたアイテムを売っても手に入る金額は微々たる物。先程の戦闘で手に入れた金貨は僅か四枚。半分にも満たない数だ。これでは到底買うことはできない。

 服を諦め先程のアクセサリに視線を戻す。

 高ければ無理だと思いながら値段を確認すると、今度は驚くほど安かった。性能の低い物ならば一律で金貨一枚だったのだ。それよりも性能の高いものでも金貨五枚。現状最も性能の高いものでも金貨二十枚程度と服に比べればあからさまに低く設定されている。



「値段設定間違ってません?」

「案外そうでもないですよ。服は装備出来るアクセサリの数を増やしてくれたりもするらしいですし、そもそも性能もこの一番高いやつくらいはあるって聞きますし」

「そうなんですか」



 何故か納得の出来ないものがありながらもユートは持っている金貨を全て使いアクセサリを四つ購入した。

 それぞれHPとMP、ATKとSPEEDの数値に加算してくれるものだ。形状は前者二つが腕輪。後者二つが指輪となっている。



「所持金全て使うとは。剛毅だね」

「この位だったらあってないようなものですし、それにいつ次の戦闘が始まるか分かりませんから」

「ん? どういう意味です?」

「や、さっきみたいに強制的に戦闘になったりするのならお金を残していても仕方ないですよね」

「そんなこと無かったと思うのだけど」



 ユートとフォラスの頭上に意味が異なる疑問府が浮かんでいるかのようだった。



「強制的に参加させられる大規模な戦闘は終了までに三回。ゲームの期限が三ヶ月と設定されているから月の終わりにあるそれだけですよ。あとは週の終わりにある中規模な戦闘。それは自由参加だったはずですし、毎日さまざまな場所で繰り広げられている小規模な戦闘だって同じはずですが」



 自然とフォラスの口から出てくる言葉にユートは事前に目を通せと高坏円(たかつきまどか)に言われて渡されていたファイルのことを思い出していた。そこにはこのゲームのタイムスケジュールのようなものもあった気がするが、ここに至るまで微塵も思い出されなかったのだ。



「あ、あー、そうですね。そうでした。って、毎日何処かで戦闘が起っているのならプレイヤーの数なんて直ぐに減ってしまうじゃないんですか? 確かモンスターは出現しないんですよね」

「だからモンスターの代わりとなる存在がいるんですよ」



 いつしか自分の買い物を終えたフォラスはまた別のカウンターの前へと移動した。

 テーブルの上に置かれているのは何かの占いに使うような水晶玉。無色透明なそれが木製の台座の上に固定されている。



「これが【シャドウ】です」

「シャドウ?」

「プレイヤーの影みたいまものですね。これに手を載せることでプレイヤーはシャドウを作り出せるんです。で、そのシャドウがこのゲーム内におけるモンスターの代わりというわけです」



 フォラスが水晶玉に手を置いた。

 すると水晶玉の中心に仄かな光が宿り消える。



「これで私のシャドウが何処かに出現したはずです」

「シャドウを作ってどうするんです?」

「えっと、基本的にはモンスターの代わりって言いましたよね」

「ああ」

「なので基本的にはやられ役です。ですので負けても私達には何の影響もありません。その代わりシャドウがプレイヤーを倒した場合にはプレイヤーに何らかの特典が与えられます」

「…ほう」

「といってもシャドウはそのまま私達を反映したものというわけではなくて、使う武器種やざっくりとした体格を模しただけになるはずです」



 説明するフォラスの言葉に促され、一度目にしていたはずの資料の内容が思い起こされる。



「どうです? ついでですからユート君も作ってみませんか?」

「面白そうですね。いいですよ」



 ユートが水晶玉に手を載せる。

 水晶玉の中心部に浮かんだ光は微かに瞬くと一瞬で消えた。



「これでいいんですよね」

「はい。問題無いです。小規模な戦闘は大半がシャドウ相手となりますし、シャドウはこれまで参加したプレイヤーの分も出現するらしいので数も膨大なんです」



 防具という名のアクセサリ購入と不要なアイテムの買い取り、そしてシャドウの作成と店舗でできることの大半を終えたことで二人は店の外へと出た。



「次はどうします?」

「そうですね。私としてはユート君と共に進めるつもりですので、拠点確保ですかね」

「拠点――ですか」

「まあそれで生計を立てている人はいないので、空いている建物を所有する手続きを取るだけで済むんですけど」



 家賃や購入費などは必要ないと言うフォラスを前にユートは思案顔に変わる。



「どうかしたんですか?」

「や、お金が要らないのなら先に拠点を確保した方が良かったのでは――?」



 何気なくでたその言葉にフォラスはハッとしたような顔になり、



「!」



 言葉も無く狼狽えてみせた。



「まあ、まだ十分に残ってますよ………多分」



 気休めみたいな言葉を告げて、ユートとフォラスは拠点を探し始めた。

 ちなみに拠点確保に出遅れたために人気がありそうな場所は粗方他のプレイヤーが手に入れていて、二人で使えるという最低限の条件を満たす拠点を確保するのにはかなり苦労したのだった。




ユート

レベル【14】ランク【2】

所持スキル

≪ガンブレイズ≫

≪錬成≫

≪竜精の刻印≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪状態異常耐性・全≫

≪HP強化≫

≪MP強化≫

≪ATK強化≫

≪DEF強化≫

≪INT強化≫

≪MIND強化≫

≪DEX強化≫

≪AGI強化≫

≪SPEED強化≫

残スキルポイント【6】



――――――――――



【作者からのお願い】


製作の励みになりますですので本作をちょっとでも良いと思って下さったのなら評価・ブックマークをお願いします。



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