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R:ep.02『剣士、はじめる』



 翌日。

 件のテーマパークの中にあるゲームエリア前。

 一人仕事を遂行する目的で訪れた悠斗は突然呼び止められた。



「君が相馬悠斗さんですね?」



 声を掛けてきたのはおよそこの場には相応しくないビジネススーツを纏った女性。年の頃は二十代後半だろうか。艶のある黒髪を一纏めにして後ろで縛っている所謂ポニーテールのような髪型をしている女性は悠斗を見つけるや否や平然とした様子で話しかけてきたのだった。



「えっと、貴女は? どこかでお会いしたことありましたか?」



 誰ですかと暗に訊ねる悠斗に女性はなんてことないといった感じで答える。



「いえ、初対面ですよ。……現実ではね」

「どういう――」

「私は烏島謡(からすしまうたい)。フォラスと言えば解りますか?」



 微笑みながら問い掛ける。

 この台詞を聞いてからほんの数秒の間、理解が追いつかないというように固まっていた悠斗であったが、ようやく正気を取り戻したといった感じでみるみる表情を驚愕に染めていく。悠斗の記憶の中にはフォラスという人物は存在する。それもここ最近に出会った人の一人であるからこそ、その人物の姿を鮮明に覚えているともいえるのだ。



「え、ええっ?!」



 遂に声を上げて驚いた。

 悠斗の信じられないと言った様子に対して何故か満足げな表情を浮かべる烏島謡。思い起こせば悠斗が知るフォラスの出で立ちと目の前に立つ烏島謡の出で立ちはよく似ていた。寧ろ現実の彼女の姿をそのままトレースして作り上げたキャラクターがフォラスであると言われても納得するほどに。なのに何故その二人が直ぐに結びつかなかったのか。それは目の前の烏島謡が金髪碧眼といった所謂日本人然としていない容姿をしているからかもしれない。

 目鼻立ちもくっきりしていて背も高い。スタイルもすらっとしていてモデルだと言われても信じてしまいそうなくらいだ。



「今日は悠斗さんの仕事に同行させて貰う事になっているのですが、聞いてませんでしたか?」

「えっと、はい。ちょっと待って貰っていいですか?」



 と悠斗は慌てて携帯端末を取り出してメッセージを送った。すると間髪開けずに返信が来る。『言い忘れていたが、まあ、そういうことだ』といった一切悪びれていない言葉が記されていた。



「ああ、確認が取れました。こちらの連絡ミスだったみたいです。申し訳ありません」

「いいえ。大丈夫ですよ」

「それで、どうして烏島さんが?」

「あーっと、その、何というか――」



 烏島が声を潜める。



「私共の会社も独自に不正ログインの調査を行っておりまして、今回、高坏円事務所に助力を求めるように提言したのも私共なんです。それでどうせなら合同で調査しようということになって――」



 また一段と烏島の声が小さくなった。その理由が分からず疑問府を浮かべる悠斗だったが、話そのものは理解できた。加えて(まどか)もその事情を承諾しているのであれば悠斗個人が問題視する謂われはない。



「はあ、そういうことですか。分かりました。それでどうします? 一度施設の人に話を聞いてみたりしますか?」

「いえ、直接ログインしてみましょう。聞き取りは既に行われているみたいですし、それにあまり意味が無かったみたいなのです」

「そうなんですか?」

「元々ここで働いているのはテーマパークの従業員ばかりです。このゲームコーナーを担当していた人がそのまま今回のイベントの作業も兼ねているだけで、実際に機材等のメンテナンスを行っているのは本社から派遣された人物ですので」

「だったらその人に聞いてみたりはしないんですか?」

「その……派遣された人物というのが私の部下でして、信用もできますし、今回の問題が起きて一番に疑われた人物でもあって既に数回に渡る面談は行われているのです」

「それで問題なかった、と」

「はい。自社と念のために警察の方にも行って頂ましたが結果は問題無しで一致しました」

「ということはやはり外部の誰かが侵入しているということですか」

「はい」



 神妙な顔をして頷く烏島に悠斗はそもそもと訊ねてみることにした。



「そもそも外部からアクセスしたりログインすることは可能なんですか? 聞いた話では完全なスタンドアロンのように思えるのですが」

「ここの稼働という意味ではその通りです。ですが、それぞれのキャラクターデータを読み取る際は個人が持つデータにアクセスすることになります。その際マザーデータにもアクセスすることになりますので、出来るとしたらその時にキャラクターデータにバックドアを付随させて秘匿し侵入させるくらいしかないのですけど」

「不可能だと思われているのですね」

「そもそも個人のキャラクターデータはそれほど大きくはありません。そこにバックドアのような余計なデータ(もの)が付けられているのならば調べれば直ぐに判明します。それに毎回プレイしている人が変わり、なおかつ現実でこの場に訪れる必要があるとなれば複数回のゲームでそれが検出されていること自体が妙な話なのです」



 はっきりと言い切る烏島に悠斗は「わかりました」と深く頷いていた。



「今回のように内部からの調査も幾度かは行われてきました。ただ、それを行うのが私共の社員でして、加えてあくまでも一般のプレイヤーと同じように参加する以外は稼働中の調査の方法がないこともあって結果は芳しくないのです」

「聞いています。だから俺に話がきたのだと」

「プレイヤーは多いものの、それを仕事としている熟練のプレイヤーは案外少ないんです。それに悠斗さんのようにイレギュラーな事態にも対応できる方となれば尚更」



 高坏円事務所を選んだ理由を述べる烏島。再び悠斗が「わかりました」と答えると、



「そろそろ良い時間ですね。行きましょうか」

「そうですね」



 この日最初のゲームが行われる時間となっていた。

 話をしている最中、ゲームコーナーに入っていく人は増えていた。その何割が参加するのかは分からないが、朝一番の回にも関わらず大勢の人が入っていくことに今回のイベントの人気が窺える。



「確認ですが今回俺たちが参加するのは【ブルーイースト】で良かったですよね?」

「はい」



 【ブルーイースト】というのはこのイベントにおける勢力の名称だった。もう一つは【レッドウエスト】。この二つの勢力がしのぎを削るという内容であるが故にログインする段階で参加する勢力を決めることになるのだ。といってもそれそのものに優劣はない。それほど広くない一つの大陸を舞台として、それを真ん中で二分した右と左で決まるだけだ。

 それぞれが参加したい勢力は予め選択することもできる。選ばなければ自動的に振り分けられるだけだが、できるだけ同じ人数になるように振り分けられるということもあって、複数人で一緒に参加するプレイヤーは事前にどちらを選ぶか決めていくものだった。



「では行きましょう」



 二人は並んでゲームコーナーへと入っていく。

 エスカレーターを使い二階にでるとそこには数十台ものVRポッドが設置されていた。



「いらっしゃいませ。ここで参加チケットを拝見させて頂いています」



 入り口で受け付けを担っている従業員が声を掛けてきた。



「あ、はい」



 このイベントは事前予約制。

 当日来られないからと空席が出来ることもあるが、当日券として販売されるのはそんな極少数でしかなく、基本的には事前に申し込むのが一般的だった。

 テーマパーク側は当初そこまで人気が出るのか半信半疑だったらしいが、今でも予約だけで席数が埋まるほどの人気をキープしているのが現状だ。



「確認出来ました。では、こちらの番号札にあるポッドをお使いください」



 プラスチック製のプレートを受け取り、そこに記されている番号のポッドを探して歩き出す。

 一列目、右から1番、2番、と続き十台。二列目は11番からとなっているらしい。悠斗が受け取ったプレートには32番。烏島が受け取ったプレートには31番と記されており、既に多くのポッドにはプレイヤーが腰掛けているのが見えた。



「えっと、これでレヴシステムと繋ぐのか」



 ポッドの内部後方。椅子でいう背もたれの部分から伸びるコードを自身のレヴシステムに接続する。これで自分のキャラクターデータを使用できるはずだ。

 ふと隣の烏島を見る。すると烏島も持参してきたレヴシステムにコードを繋ぎ終えていた。



「烏島さんも自分のデータを使うんですか?」

「ええ。そのつもりですけど、いけませんか?」

「いえ、聞いた話では用意されたデータならランク1、レベル50でスタートできるみたいですし、俺が覚えている限りでは烏島さんは……」

「大丈夫です。この仕事が決まったときにランクを上げて、レベルも上げてきましたから」

「そうなんですか」

「まあ、レベル50まではいかなくて46なんですけど」

「四つくらいなら誤差みたいなものです。それに使い慣れたキャラクターというのはそのくらいのデメリットを打ち消してくれますよ」



 悠斗の言葉に烏島は安心したように微笑みを返す。

 程なくしていつものように各々の意識が仮想世界へと誘われた。

 一瞬の暗転の後、悠斗はユートとなってそれまでとは違う場所に立っていた。



「他の人は……誰もいないのか」



 ぐるりと辺りを見渡してみるも自分以外の人影はない。次に自分の体を見る。それはいつも【ARMS・ONLINE】で使っている自身のキャラクターデータと同じだった。

 腰のホルダーに手を伸ばす。どうやら専用武器も変わらずに存在しているようだ。



「っと、ここで勢力を決めるみたいだな」



 突然出現したコンソールに目を通しながら独り言ちる。事前に烏島と打ち合わせしておいた通り【ブルーイースト】を選択した途端ユートは淡い水色の光に包まれて別の場所に転送された。



「あ、ユートさん」



 転送してきたユートの名前を呼びながらフォラスが駆け寄ってくる。よくよく見れば以前と変わらぬ出で立ちで、現実の烏島謡によく似た姿。しかし、金の髪が黒色になっているだけでこうも印象が変わるのかと目を見張るほどにそれぞれ違う印象を受けた。



「ポッドに座っていた人全員がここにいるんですか?」

「確か同じ勢力を選択したプレイヤーとこちらに振り分けられたプレイヤーだけだったと思いますよ。つまりここは【ブルーイースト】の待機所ですね」

「にしては人数が多い気がするんですけど」

「同時に稼働している他の場所の参加者も集まっているからじゃないですか」

「他の場所……そういえば、あと二箇所別の場所でも開催しているんでしたっけ。てっきりそれぞれ別のサーバーでプレイしているものだと思ってました」

「それだと人数に対して舞台となる大陸が広すぎるんです。だから全ての施設で開催時間を合わせて繋いでしまっているんだそうです」



 成る程と頷き開始の瞬間を待っていると程なくしてその時が訪れる。

 天井付近に出現したモニターに開始五分前からのカウントダウンが表示されたのだ。



「意外と自分のデータを使う人は少ないのか」



 周囲にプレイヤーを見比べて見ると、案外同じ服装をしたプレイヤーが多く目に付いた。ユートやフォラスのように自身のデータを使っていれば能力値は別としてそのデザインは元々のものが流用されるらしいからパッと見るだけで簡単に区別ができた。



「【ARMS・ONLINE】の運営側としては新規プレイヤーの確保も目的の一つらしいから、そういう意味では成功しているとも言えるかもしれませんね」

「既存のプレイヤーのほうが少ないと?」

「自分のデータを残したまま新しくプレイできることもあってか専用のキャラクターを使用する人もいるみたいです。とはいえ全員が全員新規というわけでもないと思いますし、それに専用のキャラクターの場合は先程の選択画面でキャラクタークリエイトができるようです。ただ、時間は限られているので使用者の姿をポッドが取り込んだデータをベースに作るのがベターらしいですね。その際スキルも好きなように習得できるので本来のゲームを始めたばかりの初心者プレイヤーとは一線を画したステータスを持っていることになりますね」



 残された五分の間にユートはフォラスと簡単な打ち合わせを行う。

 ゲームを開始した後の方針。不正ログインの調査を行う必要があるが、具体的に誰をどう探れば良いのかは分かっていない。現実とは時間の流れが違う設定のためにリアルに居る人からサポートをうけることもできない。全て自分達で行う必要があるが今のままでは暗中模索もいいところ。何か足掛かりになることはないかとフォラスの話を聞いていると、例のプレイヤーによる影響らしきものが現れ出すのは戦闘が激化したとき、あるいは鈍化したとき。つまるところ何かに対して変化をもたらすことが多いらしい。

 不自然な勝率の偏りが現れる原因の断定。加えてその目的の調査が今回の悠斗達の目的となる。



「やっぱり聞いただけだとそこまで目くじら立てる必要はない気がするんだよなぁ」

「私もそうは思うのですけれど、上の方は何か気にあることがあるみたいで」

「分かってますって。仕事として受けたからにはしっかり頑張らせてもらいますよ」



 何をすべきか道中で考えることには慣れていると伝える。

 頭上に浮かぶモニターのカウントダウンがゼロになった。


 いよいよゲームが始まる。



ユート

レベル【14】ランク【2】

所持スキル

≪ガンブレイズ≫

≪錬成≫

≪竜精の刻印≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪状態異常耐性・全≫

≪HP強化≫

≪MP強化≫

≪ATK強化≫

≪DEF強化≫

≪INT強化≫

≪MIND強化≫

≪DEX強化≫

≪AGI強化≫

≪SPEED強化≫

残スキルポイント【6】



――――――――――



【作者からのお願い】

製作の励みになりますですので本作をちょっとでも良いと思って下さったのなら評価・ブックマークをお願いします。



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