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R:ep.23『剣士、一仕事を終える』



 所変わって保護区入り口にある事務所小屋。

 ソーンスライムとの戦闘を終えて帰路につくこと十数分。特に戦闘らしい戦闘は起らないまま比較的安全な道程となった。



「皆さん。本当にありがとうございました」



 全員が手近な椅子に座り一呼吸置いた頃合いを見計らって城石が立ち上がり礼を述べる。

 それに対して椅子に座るプレイヤー達は各々違う動きで応えていた。



「皆さんのおかげで『シアンドッグ』のテイムは成功し、こうして無事にこの場所に戻ってくることが出来ました。重ね重ねお礼を申し上げます」



 再び深くお辞儀をした城石に今度はパロックが「仕事ですから」と声に出して答えていた。



「シアンドッグは無事でしたか?」

「はい。テイムをすれば多少のダメージは回復しますから問題はありません。今では元気に保護区のなかを走り回っているはずですよ」

「えっ!?」



 思わず驚いたマキトに城石は慌てながら、



「だ、大丈夫です。本来の保護区はとても安全な場所ですから」



 自分達の経験を元にするとにわかに信じられない言葉ではあったが、この場所を最も知っているはずの城石が疑うこと無く言い切ったことに皆「そうか」としか言えなかった。



「後はその生態を観察したり、特徴などを把握したりした情報を公開したり、安全なモンスターとして一般のプレイヤーと触れあえるようにしたりするのですが、それは我々の仕事ですのでご心配なさらずに」

「はあ…」

「それよりもずっと聞きそびれていたのですが、ユートさん。どうして無事だったんですか? それに、その格好は――」



 城石がどこか言い辛そうな口振りで問い掛けていると、自然と他のプレイヤーの視線もユートに集まった。



「なんというか、詳しいことは俺も分かっていないんですけど、結果的に強くなった感じですね」

「結果的に?」



 どこか訝しむ口振りと視線を向けてくるフォラスにユートは慌てて、



「あ、でも、チートとかじゃないですよ」



 と付け加えていた。



「どういうことですか?」

「あの、俺のこのキャラクターは二つ目なんです。で、一つ目のデータが復旧できたらしくて、それが今のデータと合わさったというか、なんというか…」

「あんな戦闘中に?」

「ちょうど死んだ時にですか?」



 フォラスの変わらぬ疑いをもった声と、納得出来ていないといった様子のセイグウの声が連なった。



「や、だからそれは偶然というか。俺も予想もしてなかったできごとだったというか」

「それ以前に、消失していたキャラクターデータが現在のデータと合併するなんてこと聞いたこともないが…」

「自分も初耳ですね」



 パロックまでもが訝しみ、いよいよマキトは疑いの眼差しを向けてきた。



「俺もそんなこと初めて知ったよ」



 がっくりと肩を落とした様子を見せるユートに少しずつ疑いが晴れていく。



「ともあれ、何か問題があれば運営側が何かしら言ってくると思いますし、俺個人としてもそれほど問題を感じていないですから」



 暗に大丈夫だと伝えると皆渋々といった様子ではあるが納得したようだった。



「あのモンスターはどうなったんです?」



 ユート個人に向けられた半分興味半分疑惑の視線の疑惑の割合が減れば当然別なことが気になりだしてくる。城石が次に気になったのはユートと共に倒された仔猫型のモンスターのことだった。



「ああ、あの仔猫なら……」



 そう言ってユートは左手に意識を向けて力を込める。

 仄かな熱を感じ始めた後に左の手のひらに浮かんだ魔法陣を通り抜けて何かが出現した。

 飛び出してきた何かはそのままユートの膝の上に降り立ち可愛らしくその小さな頭に大きな瞳を輝かせて「なー」っと鳴いた。



「あ!」



 フォラスが喜色に満ちた声を上げる。



「ご覧の通り無事?ですよ」

「どうして曖昧な言い方なんですか?」

「えっと、実はあの仔猫はテイムとは違う形で助かったんです」

「それは?」



 一際強い興味をみせたのは城石。どうやらテイム以外でのモンスターの格闘方法に惹かれたらしい。



「これも偶然だったんですが、この仔猫は俺のキャラクターデータの再構築に巻き込まれる形になったんですよ」

「それは私には真似できそうもないですね」

「まあ、俺個人も再現出来る気がしてませんから」



 曖昧に微笑み返したユートに城石はさもありなんといった様子で「そうですね」と言っていた。



「触ってみてもいいですか?」

「その仔が嫌がっていないようなら」

「ありがとうございます!」



 意気揚々と仔猫のモンスターに手を伸ばすフォラスを余所にユートは城石の方を向いた。



「とりあえず、これで今回の依頼は完了したってことでいいですね」

「はい。想定外の戦闘もありましたが、シアンドッグのテイムも成功してますし、依頼は完了ですよ」



 そう言いながらコンソールを呼びだして城石はそれぞれに依頼が完了した旨を伝える文書を作成しはじめる。程なくして完成したそれをそれぞれにメッセージを使って送信したのだった。



「はい、確かに」



 代表してマキトが応えると、そのまま立ち上がって、



「では、自分はこの辺りで」

「あ、はい。わかりました」

「それなら俺も戻ります」



 事務所小屋を出て行こうとするマキトの後を追いかけるようにセイグウが立ち上がった。だというのに一緒に出て行くようなことはなく、距離を開けて別々に事務所小屋から出て行ったのだった。



「ならば俺もここで失礼しよう」

「パロックさんもありがとうございました」

「構わない。仕事だからな。それより――」

「俺、ですか?」

「ああ。これまでにもユートさんのような事例がなかったかどうか探ることも出来るが、どうする?」

「えっと、それを俺が知ってもどうにもならなさそうなので――」

「む、そうか。わかった。出過ぎた真似だったようだ。すまない」

「いえいえ」



 柔和な感じでユートとの会話が終わるとそのままパロックは城石と一言二言を交わして帰っていった。

 残されたのはユート、フォラス、城石の三人。



「それじゃあ、俺もそろそろ……」



 と席を立ったユートは仔猫のモンスターを撫で繰り回しているフォラスに近付いて行く。



「あの――」

「にゃっ!? いえ、なんでしょうか?」

「そろそろ仔猫を返してもらってもいいですか?」

「いやです」

「はい?」

「もっと遊びたいと言ってます」



 仔猫のモンスターを抱えたまま断言するフォラス。



「えっと、そう言われても困るんですけど」

「というかですね。この仔の名前は何なんですか? 聞いていればずっと仔猫仔猫と、到底名前とは思えないようなものを連呼しているみたいですが」

「名前はまだ決めていないんですよ。だから断定的に仔猫って読んでいるんですが――」

「ダメです!」



 喰い気味でユートの台詞を遮り身を乗り出したフォラスが仔猫のモンスターを抱えて身を捩る。



「名前は大事です。このままだと仔猫で定着してしまうかもしれません。それだけはなんとしても阻止せねば! 何より! 可哀想ではありませんか! 是が非でもこの仔に相応しい名前を付けてあげるべきです!」

「わ、わかりました。ちゃんと考えます」



 圧の強いフォラスに押されそう言ったユートにフォラスは名残惜しそうに仔猫のモンスターを手渡す。

 自分の手を離れその柔らかな感触が無くなっていくことに悲しそうな表情を浮かべていることに若干の申し訳なさを感じながらもユートは仔猫のモンスターを受け取った。

 ユートの腕の中で警戒心のない安堵しきった顔をする仔猫のモンスター。



「それでは俺はこれで――」

「ちょっと待ってください!」

「はい?」

「この仔の名前が決まったら教えてください! そして出来ればまた遊ばせてください」



 そう言ってフォラスからフレンド申請が送られてくる。

 申請を拒否する理由もないので受理するとフォラスは念を押すように、



「絶対ですよ!」



 と言ってきた。



「はい。絶対です」



 微笑みオウム返しするユートは事務所小屋に二人を残して出て行った。



『さて、そろそろ良いですか?』



 途端聞こえて来たのはそれまで一度もその場ではしなかった声。

 城石のものでも、フォラスのものでもない別の女性の声。



「これでそちらの依頼も達成したということで良かったのですね。高坏円(たかつきまどか)さん」



 誰も居ない虚空を見上げながら答える城石にフォラスは微塵も違和感を感じていないような素振りを見せている。



『ええ。おかげで事は順調に成されましたよ。ただ――』

「なんですか?」

『城石さんがユート君に質問をしたときは焦りましたけどね。それは本来漏れてはいけない事情なのですから』

「それは、ちょっとした好奇心というヤツですよ。幸いフォラスさんも黙認してくれたみたいですし」

「あの場で私が口を挟むわけにはいかないでしょう。それよりもアレは一体何だったのですか? どうやら城石さんも全てを知らされているわけではないようですが」

『残念なことにまた彼の力が必要になったというわけですよ』

「また?」

「彼の力、とは?」

『そうですね。フォラスさんならば、彼に接触を続けるのならば知ることもあるかもしれませんね』

「その口振りでは、どうやら私では力不足ということですか」

『……』

「わかりました。では一度席を離れますので後はご自由に」



 落胆するわけでもなく、何故かすんなりと事実を受け入れた城石が事務所小屋を出て行く。



「私ならとはどういう意味ですか?」

『フォラスさんは今回の件に関わるように指示された運営の人ですからね。もしかすれば次も関わってくるのでは、という予感があるのです』

「予感ですか」

『と、いうわけで。フォラスさん』

「何ですか?」

『遊園地はお好きですか?』



 それは予感を現実へと導く言葉。

 その意味をフォラスが知るのはそれから一週間後に届けられた辞令を目にした瞬間となる。




ユート

レベル【12】ランク【2】

所持スキル

≪ガンブレイズ≫

≪錬成≫

≪竜精の刻印≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪状態異常耐性・全≫

≪HP強化≫

≪MP強化≫

≪ATK強化≫

≪DEF強化≫

≪INT強化≫

≪MIND強化≫

≪DEX強化≫

≪AGI強化≫

≪SPEED強化≫

残スキルポイント【0】



――――――――――



【作者からのお願い】

製作の励みになりますですので本作をちょっとでも良いと思って下さったのなら評価・ブックマークをお願いします。



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