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R:ep.17『剣士、直感を信じて、覚悟を決める』



「むむ無理、無理ですっ。無理ですよ。私達には戦える力なんてないのですよ」



 激しく慌てふためいた城石が全力で首を振った。



「ちょっと、大声は――」



 ユートが咄嗟に城石の口を塞ぎ恐る恐る暴れ回っているソーンスライムの様子を窺う。

 幸いとでもいうべきか、あるいはユート達のことなど眼中にすら入っていないとでもいうべきか、ソーンスライムは微塵も二人のことを気にしたような素振りは見られなかった。



「よかった。気付かれていないみたいだ」



 ほっと胸を撫で下ろしながら城石の口を塞いでいた手を退ける。



「皆さんが全力を出せていないのはシアンドッグが捕らえられているからです。それさえなければ今よりも強力な技を使うことも出来るようになるはず……だったら俺達がしなければならないことは一つだけ」

「でも、どう考えても無謀です。そもそもテイムっていうのは何度も何度も試してようやく一回成功させることができるものなんです。それを激しい戦闘のなかで何度も試行するなんてこと、出来るはずがありません!」

「なら、たった一度で成功させるしかないですね」

「無理だっ、そんなこと出来るわけがない」

「だとしてもするしかないんです」



 はっきりと言い切るユートに城石は表情を曇らせた。

 決意や戸惑い、恐怖など様々な感情が城石の脳裏を駆け巡る。理性で自らがすべきことを理解しながらも、恐怖を抱いた感情がそれを実行に移すことを邪魔していたのだ。

 ユートは迷いを見せる城石を傍目にもう一体、ソーンスライムによって捕らわれている仔猫のようなモンスターに視線を送っている。



「ちょっと良いですか?」



 狙いをソーンスライムに定めたままフォラスが近付いてくる。

 体の向きは変えずに顔だけを二人のいる方に向けて、



「話が聞こえて来たのですが、もしかしてあの中に突っ込むつもりなんですか?」

「あ…」

「はい。そのつもりです」



 なおをも戸惑っている城石とは裏腹にユートはある種の覚悟を決めているように見える。



「正気ですか? 私にはただの無謀にしか思えないのですが」



 そう言ったフォラスに城石が向けている視線は助け船を出されたような感覚なのだろう。それでいてどことなく後ろめたさを抱いているような瞳は自分の決まりかけていた決意が揺らぐのを感じていたからだ。



「無謀だとしてもそうするしかないんです」

「何故です? シアンドッグはあの三人がどうにかするでしょう。ユートさんと城石さんが無茶をする必要なんてないのですよ?」

「かもしれません。ただ……」



 そこでユートは言葉を詰まらせて現在も繰り広げられている戦闘を見た。



「あのままでは三人は倒されてしまう。――そんな気がするんです」

「え?」

「まさか。ユートさんの杞憂では? 三人は未だに大きなダメージを与えるには至っていませんが、反対にまともなダメージを受けてもいないのですよ。謂わば拮抗している状態だと言える現状からどうしてそのようなことを思ったのですか?」



 戦況の事実はフォラスが言った通り。冷静に戦況を分析しても同じ事が言えるのだろう。つまり危機感を抱いているのはユートだけ。城石が危惧しているのことはシアンドッグが何かの拍子で倒されてしまわないかということだけ。

 二人は同じ状況で同じように危機感を募らせながらも、その中身は違っていることがフォラスによって浮き彫りになってしまった。

 それでいて目的は同じなのだから問題が無いようにも思えるが、残念なことにここで強引な手段に出るかどうかということに関してだけならばこの差異は明確な亀裂となったも同然だった。



「テイムの成功率が低いと予想されている今、ここでお二人が前線に出るのは明らかな悪手。違いますか?」



 冷静なフォラスの言葉が突き刺さる。

 城石はその言葉に腕を掴まれたように足を止めてしまった。



「そ、そうですよね。ここで私達が何かしたとしたらあの三人の邪魔になってしまうかもしれませんし」



 加えて口に出した言葉は留まる別の理由を探すもの。

 俯き早口で告げられたそれにユートは一瞬だけ顔を顰めると、続いてこれまた一瞬、違う流れを生んだフォラスに厳しい視線を向けた。



「何か?」

「いや、なんでもない――」



 消え入りそうな声で返したユートは一人胸の中で違うことを考えていた。

 自分にモンスターをテイムする手段はない。けれど、シアンドッグと仔猫が捕らえられた状態を維持したままのソーンスライムとの戦闘はいつか破綻してしまう。そう確信していたからだ。



「納得していないみたいですね」

「えっ、まあ」

「どうしてですか? あの三人の実力は明白です。それに先程までのステータスが規制されていた状況とは違って今は本来の能力が戻っているのですよ。それなら安心できるはず――」

「だからこそっ――!」



 ユートは語気を強めた。



「だからこそおかしいんです。本来の力。それこそランクの高いプレイヤーが有する力は生半可なボスモンスターくらいならば圧倒できるはずです。それができていないということはソーンスライムはレイドボスモンスターに匹敵しているかもしれないんです」



 強く訴えるユートにフォラスと城石は目を丸くして再びソーンスライムを見た。

 戦況は拮抗している。勝てていないが負けていない。有利と不利の天秤は未だどちらにも傾いていないのだから安心だ。自分達の力が通用している証拠なのだと思っていたフォラスはユートの言葉をそのまま受け止めることができていないようだ。

 しかし城石はユートの言葉に多少の説得力を感じ取ったのかまたしても悩み出していた。



「この状態がいつまでも続くとは思えない。そう俺の直感が告げている――そんな気がするんです」



 確証は無い。けれど決して低い可能性の話をしているわけではないのだとユートは思っている。それに賛同を得られるかどうかはまた別の話。となれば当然自分一人で現状を打破する手段が必要となることを覚悟し始めた、その時だった。それまで否定的な意見を理路整然とした顔で告げていたフォラスが「わかりました」と言って態度を一変させたのは。



「ユートさんの直感をまるっと信じることは出来そうもないですが、その可能性があることは否定できません。なのでお二人が話していたことの成功率を上げるために必要ならば私もお手伝いします。まあ、あの戦闘に私はあまり力になりそうもないですからね」



 苦笑交じりに意見を変えて言ったフォラスに城石は唖然とした顔を向けていた。

 一対一だったそれが二対一となった状況で、一人残されたように感じられたのだろう。がくりと肩を落としつつも城石もまた諦めたように覚悟を決めた雰囲気がある。



「わかりました。けど、テイムの成功率を上げることは難しいんですよ」

「本来はどういった手順でテイムするんですか?」

「普通はプレイヤーが戦闘で弱らせた後だったり、元より餌付けを続けたりして成功率を上げていくんです。ですが今回の場合はシアンドッグを傷付けるのは倒してしまう怖れがありますし、餌付けなんてできるはずがありません」

「それ以外の方法はないのですか?」

「特殊なモンスターの場合は専用のフラグがある場合があって、それを達成していることで成功率がグンッと跳ね上がるのですが」

「シアンドッグは?」

「新種というだけでこれから他のエリアでも見つけることが可能となる通常のモンスターのはずです」

「だったらそれを待つわけにはいかないのですか?」



 後に通常エリアでも見つけられると聞いてフォラスが目の前の個体を諦めることが可能なのかと問い掛けた。

 城石は首を横に振って、



「ご存知だと思いますが、私共のテイムの効果はあくまでもこの保護区の中でのみ有効な特殊なものなのです。他のエリアで見つけたとしてもそれをテイムすることは今以上に困難ですし、何より、普通のプレイヤーのようにエリアを歩き回ることは私共のキャラクターではできないんです。何せ戦闘力皆無ですからね」



 城石曰く過去にモンスターをテイムしていたとしてもそれを戦力として使うことすらできないとのことだ。

 限られた場所でのみ出来ることであると言外に告げた城石にフォラスは「なるほど」と小さく呟いたのであった。



「保護区で別の個体のシアンドッグを探すことは出来るでしょうが、発見できるのは何時になることか。できればこの機会を逃したくはないのです」

「そう……でしたね」

「それに…あのソーンスライムというモンスターを放置するわけにはいかない」



 強く言い切るユートに二人は驚いたような視線を向ける。



「どういう意味です?」

「何か知っているんです?」

「あ、いや、そういうわけじゃないんですけど……」



 それはユートにとって直感に似たものだった。少し離れた場所で繰り広げられる戦闘を見た感想とも言える。

 自らの心を掻き乱すその直感の出何処が自分の経験から来るもの。つまり過去からであることをこの時のユートはまだ気付いてはいなかった。



「ただ……」



 ただし確信にも似たそれを抱いているユートにとってはどちらでもいいこと。

 一度深呼吸をして気持ちを整えると続けて、



「ただ、そんな気がするんです。って、さっきからそればっかりですね」



 敢えて明るく告げたのだった。



「まあ、いいですけど。それでどうするんです? 何か良い案は浮かびました?」



 ユートと城石は揃って首を振った。



「やっぱりテイムはぶっつけ本番になりそうです。それでいいですか?」

「まったく良くはないのですけれど……わかりました。やるだけやってみましょう。それに私のHPが尽きるまででしたら何度でも試してみますとも」



 腹を括ったと言えれば格好良いのだろうが、この時の城石は半ば破れかぶれな所もあった。幸いにもそれに気付いていたとして敢えてそれを突くようなことはユートもフォラスもしなかった。



「なら私は少しでも二人にヘイトが向かないようにコレを使うことにします」



 弓を見せつつ言った。

 頼もしく感じられるフォラスの正面で城石は「あっ!」っと声を上げて何かに気付いたように目を見開いてユートを見た。



「仔猫の方はユートさんがどうにかするって言ってましたがテイム出来るんですか?」

「生憎とスキルもアーツもそれに該当するようなものは持っていません。スキルポイントも残ってないですし、新しいスキルを習得することもできません。だから、俺はあの仔猫を強引にソーンスライムから離そうと思っています。その時に俺のHPが何処まで削られるかは解らないですけど、仔猫ならばそこまでダメージは無いはず……と信じてます」

「あの状態で成体、あるいは幼体でありながら高い攻撃力を持っていた場合はどうするんです?」



 多少のダメージは覚悟の上だと告げるユートにフォラスは強引に無視していた要因を訊ねた。

 引き攣ったような笑顔を浮かべユートは、



「最悪、俺が死んでも問題ないんです」

「だったら、仔猫は無視しても良いのでは?」

「それは――」



 ユートはすぐに答えを出すことが出来なかった。

 この時もこれまでも誰にも言ってはいなかったが、ユートが惹き付けられているのはシアンドッグで原因不明の脅威を感じているソーンスライムでもなく、何故が捕らわれている仔猫の方であった。

 その理由が分かれば何か言うこともあるのだろう。しかしあくまでも直感によるものであったが所以にユートはその理由を明確な言葉にすることが出来なかった。



「あっ――」



 それは誰の声だったのか。

 フォラスか、それともユートか、城石か。あるいは前戦で戦っている三人のうちの誰かか。

 不意に聞こえてきた声に反応するようにソーンスライムはその体を異形へと変化させた。

 頭のない人。

 全身はスライム特有のゲル状のもので、手には何も持たれていないが、特異なのはその下半身だった。牢のような格子が収まった球体の中にはシアンドッグと仔猫がいる。そしてその二体から何かしらのエネルギーを吸い取っているかのように、仄かな光が明滅しながらソーンスライムの全身へと行き渡っているように見えたのだ。



「行きましょう!」



 最初に飛び出したのは意外なことに城石だった。

 シアンドッグの消滅の可能性を目の当たりにして思わず体が動いた。そんな所だろう。



「フォラスさん。前の三人に伝えてくれませんか? 下腹部の格子をどうにかして開けて欲しいって」

「良いですけど、ユートさんはどうするのですか?」

「俺は、城石さんと一緒になって開かれたそこに突っ込んでみます!」





ユート

レベル【12】ランク【0】

所持スキル

≪直刀・Ⅹ≫

≪錬成≫

≪始原の紋章≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪HP上昇≫

≪MP上昇≫

≪ATK上昇≫

≪DEF上昇≫

≪INT上昇≫

≪MIND上昇≫

≪DEX上昇≫

≪AGI上昇≫

≪SPEED上昇≫

≪LUCK上昇≫

残スキルポイント【0】



――――――――――



【作者からのお願い】

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