R:ep.11『剣士、保護区を進む』
「これが今回確認された新種のモンスターです。フォラスさん今一度間違い無いか確認お願いします」
「ええ。合っていますよ」
再度同行の意思を確認して歩くさなか、城石が全員に見せてきた画像には一頭の犬が映っている。
長毛種ではなく、柴犬のような外見をした犬。ただしその淡い水色という普通の犬ではあり得ない毛色が一際目を惹いていた。
「モンスター名『シアンドック』。水を操る魔狼の一種です」
「魔狼? 魔犬じゃなくてですか?」
「私が把握している情報では魔狼となっていますね」
フォラスは城石が見せてきたのと同じ画像が載っている別の画面を見ながら断言する。それからユート達にも見えるようにコンソールの画面を可視化させた。
ユート達は城石が見せた画像とフォラスが見せた画像を見比べている。
「確かにこっちには魔狼って書いてありますね」
「ま、犬も狼も似たようなものですし」
確かめるように呟いたユートにセイグウが何気なく言った。
「いやいや、犬と狼は全く別物でしょう。モンスターという形で出てくるなら尚更」
「た、確かに」
首肯するセイグウはマジマジと画像を見つめていた。
モンスターの多くにはモチーフがある。動物であったり、昆虫であったり、植物であったり、空想上の存在だったりと。モチーフがあるからこそ、それぞれの特徴は誇張されることが多いのだ。だからこそ似ているモチーフを持つモンスターであっても、そうであると一目で解るようになっている。
犬と狼の場合はその面構えが違う。種類によっての多寡はあれども狼の方が鋭くて犬の方がより丸い印象を与えていた。
「っと、話はそこまでです。次のゴブリンが来たみたいですよ」
そう全員に声を掛けて武器を構えたマキトは視線を鋭くして前を見据えた。
殆ど間を置かずに飛び出してきた複数のゴブリン達。
保護区の奥へと進んで行くに連れてゴブリン達が使っている得物が変わっていった。最初の頃はただの木の棒、棍棒と言い換えてもいいがあまり質の良い武器とはいえない。それが石の鏃がついた槍となり、錆びて刃の欠けた古びた剣が混ざるようになっていた。さらにそれらの武器が徐々に新しいものへ。
武器の品質が向上は何も近接武器だけに限ったことじゃない。弓などの遠距離武器もそうだ。弦が綺麗になったり、矢が整えられたり、弓本体がより強い一射が放てるようになったりと。
保護区を進む度に遠近問わず武器の精度と威力が向上していったのだ。
「あれは――皆さん、この先に『メイジ』がいます!」
城石の声が響く。
その声に促されるように全員の視線が迫るゴブリン達の奥へと向けられた。
『ゴブリンメイジ』というモンスターは通常のゴブリン種と体つきは変わらず、纏っている襤褸も同じ。ただ携えている武器が違う。先が折れた廃棄間際の杖。プレイヤーならば最初の町で売っている一番安い杖でももう少しマシだ。
「魔法を使われる前に倒してしまいましょう。ユートさん。先程の作戦通りに、お願いします」
「任せてください」
そう言って近付いてくるゴブリン達には目もくれずユートは駆け出していった。
迫る槍や剣の刃は尽くマキト達によって防がれている。
「ゴブリンメイジが魔法を放つまでまだもう少し」
ゴブリンメイジが掲げる杖の先に光が集まっていく。杖の先端、中心部に炎が灯りそれがゴブリンメイジの攻撃魔法であることは誰の目にも明らか。
迫るゴブリン達の攻撃を無視したまま走ってユートはゴブリンメイジの杖目掛けて直刀を振り上げる。
「せやぁ」
ぼとりと落ちた杖の先端に怯み仰け反るゴブリンメイジがギャアギャアと何か叫んでいる。ユートはその叫びを無視してすかさず直刀を振り下ろした。
「よしっ、倒せた」
杖と本体が繋がっていたのか、杖を両断しただけでそのHPゲージが大きく減らされ、振り下ろしの一撃で残るHPも削りきっていた。
光の粒となって消滅するゴブリンメイジを見届けて振り返る。そこでは既に襲いかかっていたゴブリンが掃討された後だった。
「どうでした?」
武器を納め駆け寄ってくるセイグウが開口一番に問い掛けてきた。
「考えていた通り、俺の手でも簡単に倒せました。皆さんはどうでした?」
「こっちはいつもとちょっと感覚が違う感じがしました。なんと言えばいいのか、普段の攻撃のほうが強いような」
「そうですか? 私はそれほど変わっていないような気がしますけど」
「いや、確実に威力が減衰している。マキトさんはどうです?」
フォラスはあまり変化を感じてはおらず、反対にセイグウとパロックははっきりと違いを自覚したようだ。
三人から視線を向けられたマキトは空の手を振りながら、
「自分は力だけじゃなく速度も落ちている気がします。防御に関しては攻撃を受けなければ確かめられませんが、おそらくは」
「つまりマキトさん、セイグウさん、パロックさんの三名が能力の減衰を感じていて、フォラスさんとユートさんはあまり変わっていると感じていない、と」
「あ、いや、俺の場合はちょっと違くて逆に能力が上がっている……ような気がします」
「上がっている、ですか?」
一人違う意見を告げたユートに城石は何か考え込んで、
「そうですか。だったら、おそらく私も多少は戦えるようになっていると考えても良いのかもしれませんね。もっとも私にその技術があるかどうかは別問題なんですけど」
「つまり、能力値だけは自分達と拮抗している、と?」
訝しむような視線を送るマキトに城石は首肯で答えてみせる。
「ということは能力値が上昇している人と減衰している人、それと変わっていない人がいると言うことですか」
最初にユートを見て、それからマキト、セイグウ、パロックの三人の顔を見て、最後に自分の胸に手を置いていった。
「何故こんなことが起きているんです?」
当然の疑問がセイグウから出た。
「元より保護区では戦闘に関してある一定の制限が掛けられているんです。モンスターの討伐を無意味にする目的も含めた特殊設定の副次効果がプレイヤーはHP全損しない設定なんです」
そう言ったフォラスは何故か釈然としない顔をしている。
「ただ、それが能力値の上昇とどう繋がっているのかは解らないんですが」
「え?」
「フォラスさんだけじゃないですよ。正確なことは私も解っていないんですから。一応、現状を鑑みた限りで言うのなら私達の能力値が均一化されているようです」
「だから自分達は弱くなったと?」
「フォラスさんが変化をそれほど感じていないのだとすれば、ランクが0の高レベル帯で統一されている可能性が高いのではないかと。それならばユートさんが強くなっていると感じたと考えても違和感はないはずです」
本来強い者、まだ弱い者。装備を付けて上昇したパラメータすら均一化されるのならば、それにより個人個人の能力値に差が無くなったのだとすれば、各々の違いを表わすのは自らの技量だけとなる。
幸いにもここに集まっている人はある程度戦闘に慣れていた。そのためこうしてゴブリンと危うげなく戦えているのだ。
「だったらその設定を切ることはできないんですか?」
「私がこの保護区の設定を操作することはできないんですが、フォラスさんなら」
「いいえ、その権限は私も与えられていません。それに、私達も把握していないその設定は城石さん達が何か手を加えたと思っていたのですが」
「まさか、とんでもない」
大仰に否定してみせる城石を見てフォラスも嘘を吐いていないと判断したのか「そうですか」と短くいって、
「でしたらこの保護区にいる何者かがそのような効果をもたらす何かを発動させたと考えるべきでしょう」
「ボスモンスターとかが発する結界みたいなものってことですか」
「おそらく似たようなものかと」
「それなら、新種のモンスターのテイムするよりもその事態の収拾に集中したほうが良いのではないですか?」
「とはいえ誰が何を発動しているのか、そもそも本当に結界に類するものを発動させているのか解っていない現状では当初の目的を達成することを優先させた方が良いと思います」
マキトの提案を城石が拒み、あくまでも現状のまま進めることを告げる。依頼人で行動の指針を決める人員となっている城石の意見は誰も拒むことはない。
現状を把握するための会話はそれほど長くなることなく終わった。
ユート。レベル【12】ランク【0】
所持スキル
≪直刀・Ⅹ≫
≪錬成≫
≪始原の紋章≫
≪自動回復・HP≫
≪自動回復・MP≫
≪HP上昇≫
≪MP上昇≫
≪ATK上昇≫
≪DEF上昇≫
≪INT上昇≫
≪MIND上昇≫
≪DEX上昇≫
≪AGI上昇≫
≪SPEED上昇≫
≪LUCK上昇≫
残スキルポイント【0】
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