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R:ep.08『剣士、集まる』


 転移石を使って移動してきたユートはとある森の入り口にやってきていた。

 森といってもその様相はゲームによくある人の手が入っていない自然そのままの森である場合が多いがここは違う。どちらかといえば国営の自然公園に近い印象だろうか。一般人の侵入を固く禁じているその場所には多くの動植物が息づいているのが入らずとも 


「まずは森の入り口で待ち合わせだったな」



 高坏円(たかつきまどか)のもとで自分に任されることになった仕事。その概要を思い出しながらユートは森の入り口を探した。

 普通ならば転移してきたその場所が入り口であるのだろうが、関係者ではない人の侵入を防ぐためにか別の場所にあるらしい。それも概要に記されていたのだ。

 森の中には入らずにその外周を歩いていると暫くしてそれらしき場所に辿り着いた。

 人の平均身長の胸くらいまでの高さがあるだろう木製の柵とその中心部に取り付けられた巨大な金属製の扉があった。柵を挟んで森の反対側にある広大な二階建ての建物。事務所兼研究所と銘を打たれたその建物の扉を叩く。ノックしたはずなのに何故かピンポーンっと昔ながらのインターホンの呼び鈴の音が鳴った。



『はい。何か用ですか?』

「あ、高坏円事務所から来た者です」



 聞こえて来た男性の声にユートは事務的に答える。すると「お待ちしていました」と訝しむ素振りも無く鍵を開けた音がした。そのまま独りでに開かれる扉。奥に見えるのは白一色に染められた長い廊下。



『どうぞ。既に皆さん集まっていますよ』



 流石ゲームというべきか。どこからともなく聞こえて来た男の声に続いて進行方向を表わす矢印が壁に浮かびあがってきた。

 驚きながらもユートは矢印に従って廊下を進んでいく。

 いくつかの部屋のドアを通り過ぎたその先で先端が右に曲がった矢印が表示された。

 辿り着いた部屋のドアをノックする。規則的な音のあと、内側からドアは開かれ、



「高坏円事務所さんの方ですね。失礼ですが、証明するようなものはございますか?」



 顔を覗かせた男に訊ねられたユートはここまで向かい入れておきながら今更と感じていたのだが文句を言う素振りは見せずに自身のストレージにある円からの預かり物を取り出して見せることにした。

 それは手の中に収まるくらいの小さなバッジ。刻まれているのは聖杯のような大きな杯とそれを囲む蔦で描かれた円環。杯の部分にはユートの名前が刻まれている。

 ただのアクセサリのようにも見えるが装備したとして能力は無く、また何らかのプロテクトが施されているらしく全く同じ形状のバッジを複製することは不可能なのだと自慢げに円が言っていた。



「はい、確認できました。どうぞこちらへ」



 体を傾けてユートを招き入れた男は、ユートが部屋に入ったのを確認するとドアを閉めて鍵を掛けた。



「お、君が最後かな」



 そう言って椅子から立ち上がったのは鎧を纏った男性。テーブルの上に置かれた兜から鎧に至るまで全てがオレンジ色をした派手な装備で椅子に立て掛けられている武器は意外とシンプルな形をした両手剣。剣を納めている鞘もまた鎧と同じようにオレンジ色をしている。



「えっと……」

「ああ、私は『マキト』。ランクは3で現在(いま)のレベルは85。そうだね、君と似たような仕事を請け負っている者だよ」



 オレンジ色の鎧の男――マキトは他人に警戒心を抱かせない笑顔をユートに向けてきた。



「似たような?」

「所謂ゲームの助っ人業だよ。といってもここに集まってきている人の多くは似たようなものだけどね。そうでしょう、『フォラス』さん」

「ここで私に話を振りますか」



 苦笑交じりに答えたのはフォーマルな黒スーツを着た女性。後ろで一纏めに束ねられた髪も黒い彼女は妙に凄みのある笑みを浮かべている。



「ま、いいですけど。どっちにしても自己紹介は必要でしょうから」



 そう言って立ち上がったフォラスは自然な素振りで握手を求めてきた。

 ユートは素直に握手に応じる。



「私の名前はフォラス。マキトさんに倣うならランクは0、現在のレベルは91です。ちなみに言っておきますけど私は助っ人じゃないですよ」

「え?」

「私がここに来た目的は視察です。ね、そうでしょう『城石(しろいし)』さん」

「はい。そうですね。貴女はこの施設、延いては我々の現状の視察がお仕事ですから」

「と、言うことです」



 フォラスに答えたのは城石というユートをこの部屋に招き入れた男だった。

 まるで動物園の職員と思わしきねずみ色のツナギを着た男はそれまで一言も発していないもう一人の男を見た。その先にいる男はこちらの会話などまるで興味が無いというように自らの前に置かれているカップを手に取り静かに飲んでいた。



「彼は『パロック』。ユートさん達と同じように今回の助っ人をお願いした方です」



 自分の名前を呼ばれたからか、ユート達の方を一瞥したパロックは一度目を伏せて軽く会釈した。



「さて、皆さんがお揃いになられたようですので、これから――」



 どこからともなく取り出したファイルを片手に城石は次の行動を決めるべく相談を持ち掛けようとしたその時、不意に先程ユートが鳴らしたのと同じインターホンの音が鳴り響いた。そして、



「すいませーん」



 突然外から別の声が聞こえてきた。

 首を傾げて互いの顔を見合わせるマキト、フォルス、パロックの面々。そしてその三人の視線を一手に受ける城石もまた首を横に振りわからないと訴えたのだ。



「あのー、グランズダインサポーターから派遣されたんですけどー、あのー、聞こえていますかー?」



 意識することではっきりと聞こえるようになった外の声に存外不愉快そうな表情を浮かべているのがマキト。その理由を訊こうとしたユートだったがそれは城石による問いによって事前に遮られた。



「マキトさんの話では今回ここを訪れるのは貴方だけだったのでは?」

「ええ、そのはずです。今回この仕事を任せられたのは自分だけだったはずですが――」



 不審がるマキトに驚きの表情を向けるフォラス。困惑している城石、パロックは無関心を装いながらも確実に耳はマキトの方へ傾けている。



「一つ、いいですか? グランズダインサポーターってのは?」

「ああ、私が所属している組織の名前です。確かユートさんは高坏円事務所でしたよね。グランズダインもそれと同じですよ。とはいえ極めて小さな職場ですし、あまり有名ではない組織ですから知らなくても仕方の無いことですよ。それに、あまり有名になりたくはないと上も言っていましたから」

「それで、マキトさん。外にいるこの方に見覚えはありますか?」



 城石の手元に表示されたモニターに映る男が一人。

 逆立たせた金髪に着ているのはどこにでもありそうな洋服。長袖のシャツとジーパン、それに安物のスニーカーといった風貌は現実ならばどこでも見かけるが、このゲーム世界ならば稀な部類に入る。まったく居ないわけではないが、限りなく少ないと言って問題はないだろう。



「うーん、ないですね。少なくとも私の知る人物ではないです。つまり――」

「グランズダインサポーターのメンバーではない、と?」

「あ、いや、実はそうとも限らないんです」

「どういうことでしょう?」

「私共がこの仕事を受けたのは一週間前。それから私は現実(リアル)でちょっと別の用事が重なりましてログイン出来ずにいたのですが、その間に新規メンバーの面接が行われていたようで」

「成る程ね。新しくメンバーになった人なら知らなくても仕方ない、と」



 話を聞いていたフォラスの納得したという呟きにマキトは大きく頷いている。



「でもさ、そんな新人がいきなり仕事を任されるなんてことあるんですか?」

「私の補佐、という名目なら」

「その場合マキトさんに一言あってもいいはずなのでは」

「ええ。それはそうなんですけど……」

「だったら一度グランズダインサポーターの他の人に聞いてみるってのは?」

「この人の名前が分からなければ聞きようがないんです。容姿は現実よりもかなり簡単に変えられますから」



 困ったように言ったマキトの言葉にユートは頷いていた。

 髪型や髪色、服装ならば現実でも割と簡単に変えることができる。しかし、この世界ならば顔の形はおろか身長や体格ですらある程度自在に変えることができる。それも簡単に。

 それをわかっているからこそマキトは未だに明確な態度を決めかねているようだ。



「あのー、聞こえてますかー、おーい」



 間延びした声が聞こえてくる。慎重に対応すべきか悩んでいることが馬鹿らしくなるほどだ。



「とりあえず、城石さんに決めて貰うしかないんじゃないですか。俺やマキトさんはあくまでも依頼を受けただけだし、パロックさんは喋らないし、フォラスさんは――」

「そうですね。ここで私が口を出すのは職務に反する、と言えるかもしれませんね」

「というわけです。マキトさんさえよければですが」

「いえ。メンバーの把握を怠っていた自分に責がありますし、城石さんの決定に従いますよ」



 いつまでも事態が動かないことに痺れを切らしたユートが徐に提案したそれを渋々といった感じで城石は受け入れた。

 そのまま考えこむ素振りを見せた後、



「わかりました。このままここを出て行っても鉢合わせすることになりそうですし、一度こちらに招き入れましょう」



 別の出入り口は用意されていないのか、あるいはユート達には隠しているのか、どちらにしてもここでユート達に出来ることは城石の提案を受け入れることだけ。

 城石は外にいる男と数回の応答を繰り返すと手元のコンソールを使い扉の鍵を開けたのだった。

 程なくして一人の男がやってくる。

 言わずもがな金髪を逆立てた例の男である。



「自分の名前は『セイグウ』。グランズダインサポーターのメンバーで今回の依頼を受けてやって来ました。遅れてしまって申し訳ありません。実はここの入り口が解らなくて…あ、でも仕事はちゃんと熟しますので。探索のサポートでしたよね。大丈夫です、こう見えても自分ランク2でレベルも70ですから」



 何故かそう言いながら敬礼するセイグウ。



「それで、その、皆さんは?」

「こちらの方がユートさん、そしてあちらがパロックさん。ご存知だと思いますが彼がマキトさん。この三方が今回の探索の手伝いをしてくれることになっています。それから――」

「私はフォラスです。今回は城石さんのお手伝いではなく、城石さんの所の視察が私の仕事です」

「なるほど。皆さん宜しくお願いします。それで気になったんですが」

「何でしょうか?」

「どうして自分がマキトさんを知っていると思っているんですか?」

「え?」



 向けられるはずのないセイグウの質問を受けた城石がキョトンとした顔になった。そしてそれは他の三人も同様だ。

 唯一怪訝そうな視線を向けているのはマキトだけ。



「自分、マキトさんのことは知りませんよ」



 その一言にユートは絶句してしまう。

 思わず向けた視線の先にいるマキトは何故か表情を歪めている。それはどこか敵意を秘めた表情であるように見えてユートは無意識のうちに拳を握っていた。




ユート現在レベル【12】・ランク【0】

所持スキル

≪直刀・Ⅹ≫

≪錬成≫

≪始原の紋章≫

≪自動回復・HP≫

≪自動回復・MP≫

≪HP上昇≫

≪MP上昇≫

≪ATK上昇≫

≪DEF上昇≫

≪INT上昇≫

≪MIND上昇≫

≪DEX上昇≫

≪AGI上昇≫

≪SPEED上昇≫

≪LUCK上昇≫

残スキルポイント【0】




――――――――――




【作者からのお願い】

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