ep.75 『続・雨』
前回よりは多く書けた。
……が、まだまだ足りない。
次回こそ文量が戻せるように頑張ります。
では、評価、ブックマーク宜しくお願いします。
流星群のように降り注ぐ光が自分の体を貫いていく。
竜化して鎧のような外殻を纏った体に迸る鋭い痛み。同時に砕かれ剥がれ落ちていく外殻が足元で霧散する。
かといって素の自分の体が露出するわけではなく瞬時に砕けた外殻が再生されているがために外見上は無傷のまま辺りに光の粒子が散っているようにしか見えていないだろう。
何より不思議なことにHPゲージに反映されているダメージは驚くほど少ない。それこそ全身を襲っている痛みに反して、とすら言えるほど。
「あっ、ぐぅ」
頭を動かしてザ・ビーストのほうに視線を向けるだけでも苦痛を伴う。思わず漏れた苦悶の声も降り注ぐ光の雨の中に消えてしまう。
目を凝らしザ・ビーストを見る。
光を放つことを止めたにも関わらずザ・ビーストはこちらに追撃を加えようとしてこなかった。それに何故という疑問を浮かべるも、その多くは何故追撃しないではななく、何故この光の雨は止まないのか、という方に対してだ。
どれだけ疑問を浮かべても意味は無い。
答えを見出すことが突破口となり得るのならばまだいいが、現状を変えるには至らないのは明白。反撃を試みようとしても銃口を向ける先が解らないのだ。
ザ・ビーストは浮遊しながら先が七つに割れた尾を悠然と振っている。それに反して微動だにしない骨格翼。巨大な顎を僅かに開いたままの頭部は俺たちに興味は無いと言っているかのように彼方を見つめている。
現在進行形で敵対しているとは到底思えないほど敵意どころか戦意すら感じさせない素振りはザ・ビーストがまるで人智の及ばない存在だと物語っているかのよう。その感覚がガン・ブレイズを構える俺の照準をブレさせていた。
「――くそっ」
トリガーに指を掛けながらも引けないまま硬直する俺は一度撃つことを諦め、別の方向を見た。そこに居るのはうつ伏せに倒れたままのムラマサ。彼女のHPゲージがまだ健在なのは自分の視界の左端にあるパーティメンバーの簡易表示からも明らか。しかし、ムラマサは先程から降り続いている光の雨を受けたまま身動きが取れないでいるようだ。
「――ッ! ごほっごほっ」
ムラマサの名前を呼ぼうとして硬直した。大きく息を吸い込んだその瞬間に全身からピキッという嫌な音が聞こえてきたからだ。それと同時に胸と背中に鋭い痛みが走る。
むせて咳き込んでしまったことで前屈みになった俺の背中を光の雨が打ち付ける。その度に背中の外殻が砕かれ断続する痛みが俺を襲った。
痛みが、ダメージが、俺の意識をこの世界に繋ぎ止めてくれている。
ハッっとなり痛みを堪え再び構えたガン・ブレイズの銃口から放たれた閃光は一度目は目標から逸れて彼方へと消えた。それでもと即座に撃ち出した二度目の弾丸が真っ直ぐザ・ビーストの足に命中した。
パンッと甲高い炸裂音が響き光が弾け飛ぶ。
ザ・ビーストの足に小さな焦げ跡がだけで大した効果は与えられなかったようにも思えたが、この攻撃が功を奏したのか不明とはいえ、徐々に光の雨の勢いが弱まってきたのは事実。
程なくして痛みが消えた瞬間に走り出した。目的はザ・ビーストに対する攻撃のためではなくムラマサの救出だ。
滑り込むように側に拠り雑になりながらもムラマサの防具である和風の服の襟を掴む。
「っと、引き摺るけどさ、文句は後で頼むよ」
返答は待たずにその身を反らせるようにしてこの空間の壁際まで引っ張っていった。その間、彼女は目を覚ますことなく瞳を閉じたまま。
俺にとっては僅かなダメージと鋭い痛みの連続だった光の雨もムラマサにとっては違う効果を発揮したのかもしれない。
そっと壁にもたれ掛からせるようにしてムラマサを休ませると即座にザ・ビーストに視線を向けた。
突然一人で戦うことを強いられた展開に気持ちを引き締めると、ガン・ブレイズを握る手にも力が入る。
「行くぞッ」
息を吸い込み、自分を鼓舞するために叫ぶ。
まるでその瞬間を待っていたかのように、ザ・ビーストはそれまで彼方を見つめていた目を此方に向けた。
「――っ!?」
刹那パカッと開かれたザ・ビーストの口が迫る。
攻撃を中断しその場から回避するとザ・ビーストは予め狙っていたかのように回避した先にいる俺に向かって七つに先が割れた尾を振り抜いてきた。
「まだっ」
咄嗟に魔導手甲を装備した左手を付き全力で押し出すその反動を利用して更に後ろへと跳んでみせる。意思を持っているかのように独立して動いているようにも見えるザ・ビーストの尾が地面を打ち付けると地面が砕け砂埃が辺り一面に舞い上がった。
「くっ、これじゃ何も見えない!」
それでもあの巨体だ。先程は適当に撃ったために外しはしたが、ある程度狙いを定めれば何処かしらに命中させることはできるだろう。
水平にガン・ブレイズをスライドさせながら連続して引き金を引く。
一定の間隔を置いて放たれる弾丸のいくつは空を切った感じはするが、確実に数発はザ・ビーストに命中したはず。
発砲音に混じって聞こえてきた破裂音は聞き違いなんかじゃない。
「っても、効果があったようには思えないんだよなぁ」
俺の射撃とザ・ビーストの挙動によって砂埃は晴れている。だからこそ平然とした様子のザ・ビーストが眼前に広がっているわけだ。
「まあ、完全にノーダメージってわけじゃなさそうなのがせめてものって感じか」
ザ・ビーストの頭上に表示されているHPゲージに僅かな減少が見受けられたのだ。その僅かな事実こそが俺の心を軽くしてくれる。
などとコツコツ小さなダメージを積み重ねてザ・ビーストのHPを削っていこうと決意したその時、ザ・ビーストが俺を嘲笑うようにその強靱な両腕で殴り掛かってきたのだ。
左右から自分を押し潰そうと迫る巨大な拳に照準を定める。
そしてギリギリの距離まで引き付けることなどするまでもなく連続して引き金を引いた。