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ep.63 『そして討伐』


 竜化を発動させてからというもの視界が鮮明に見えるようになっていた。対峙しているディギュリスや浅い海面のような地面も、全て。

 動体視力も向上していてディギュリスの攻撃がよく見える。

 大剣の突きも十字の槍の薙ぎ払いも。

 突きは横に、薙ぎ払いは下がり避ける。それでも当たりそうな攻撃は剣形態のガン・ブレイズで払い強引に射線を逸らす。



「狙うのは…ソコだッ」



 竜化して始めて分かったことがある。ディギュリスの四肢を覆うように胸の中心にある結晶体と同じ結晶が存在していたのだ。

 複数の平面と点が組み合わされた結晶体の角を正確に打ち付ける。

 ディギュリスの体に直接触れずとも結晶体を砕くことが出来れば有効なダメージを与えることが出来るとふんだのだ。

 鎧とは違う硬さが伝わってくる。

 それでもと強く踏ん張り、体を捻り力一杯ガン・ブレイズを振り下ろす。

 聞こえてきたガギンッという音。それと時を同じくしてディギュリスの腕を覆っている結晶が砕け俺の目だけに映る欠片が周囲に舞った。



『キィイイイイイイイイイイイイイインッッ』



 耳障りな高音の絶叫が響き渡る。

 顔を顰めながらも耳を塞ぐことが出来ず、思わず動きを止めてしまった。

 大きな隙を曝したにも関わらず追撃が来ないのはガン・ブレイズの一撃を受けたディギュリスがその場で硬直しボロボロと片腕を崩壊させていたからだ。



「――ッ、五月蠅いッ」



 悪態を吐きつつも残る腕を狙いガン・ブレイズを振り抜く。

 またしても硬い壁に阻まれたような感触が返ってくる。しかし二度目ともなれば対処も慣れたものだ。再び剣先に全体重を掛けて無理矢理にその障壁となっている結晶を打ち砕くだけ。



「せやぁッ。<インパクト・スラスト>!」



 気合いを込めて吠える。そして宣誓した威力特化の斬撃アーツ。

 眩い光を伴って放たれた斬撃が残るもう片方のディギュリスの腕を崩壊へと導いた。

 両腕を失い地面に落ちていく大剣と十字の槍。大きな水飛沫を上げて浅い海の中へと沈む。

 次に無防備を曝したのはディギュリス。だというのに俺は一度ディギュリスとの距離を取ることにしたのだった。その理由は不自然に静かになっていた仲間の現状(いま)を知ること、そしてもう一つが自分が使える攻撃の最大威力を高める必要があると予期したからに他ならない。


 竜化した状態の脚力でバックステップを行えば僅か二歩ほどで十分な距離が出来る。

 リントたちが居た場所まで下がり周囲を見渡してみると全員が武器を構え好機を待っているかのような雰囲気があった。しかし、どういうわけか動かない。息を殺し、自分たちに対するヘイトを下げているのだと言われるのならあまりに見事な陰行だと称賛すべきだろうが、どこか違っているような気がした。


 何故と思案してみようとしても、まるで俺が思考に意識を向けたことを察したかのようにディギュリスが再び甲高い絶叫を上げた。



「――くッ」



 油断していたなどと言うつもりは無い。しかし二度目の絶叫に対して今度は思わず左手で片方の耳を塞ぐと、右腕でもう片方の耳を塞いでしまった。

 立ち尽くし動きを止めた俺の目の前でディギュリスの体を巨大な一つの結晶が包み込む。

 生物のように結晶の表面が隆起したかと思えば一瞬にして失っていた両腕が復元され、その横に大剣と十字の槍が海底に突き刺さるようにして聳え立っていた。

 腕を交差させて両端にある大剣と十字の槍を掴むとディギュリスはこちらに向かって突進してきた。

 海面を切るかのように立ち上がる二本の水柱。

 急激な加速により瞬時に到達した最高速度を以てしての攻撃は他の誰でもない俺一人を狙っている。



「<アイス・ピラー>」



 淡々としたライラの声が轟いた。

 一瞬にして出現した氷の柱がディギュリスの行く手を阻む。

 ディギュリスは出現した障害物などまるで意に介していないように速度を維持したまま正面からぶつかった。結果砕けるのは氷の柱の方。だがそれも織り込み済みというべきか、ライラは繰り返し魔法アーツを発動させ続けていた。

 断続的に出現する氷の柱は違えること無くディギュリスの移動する直線上にある。

 一つで駄目なら二つ。二つで駄目ならば三つということを地で表わす魔法アーツの連発に俺は息を呑み視線を奪われてしまっていた。



「<スパイラル>」



 動きを止めてしまっていた俺の視線の先で氷の柱を砕き突破してきたディギュリスに穂先を回転させて放つ刺突アーツをリントが繰り出した。

 竜化していないときでも幾度もディギュリスを追い込んでいた攻撃だ。当然、全く効果が無いというわけではない。しかし、それでどうにかなるのかとなれば話は別と言わざるを得ない。ディギュリスは回転する槍の一撃を受け一度はその勢いを緩めるもののまたしてもすぐに最高速度に到達してしまう。そうなるといとも容易くリントの槍が届かない距離にまで移動されてしまうのだ。



「<ライトニング・スラッシュ>」



 空を切った槍よりも自分に近しい距離で光る剣閃が描かれる。

 フーカの片手用直剣で放つ連撃だ。

 見た目は綺麗で威力も申し分ない。そのはずなのにディギュリスはまるで羽虫が舞っているのを軽く払うように十字の槍を振るうことで簡単にその攻撃を防いでしまう。


 三人がそれぞれ得意とするアーツを受けてもなおディギュリスは進み続ける。

 遂にその大剣の切っ先が俺に届く距離まで接近すると躊躇すること無く大剣を持つ腕を突き出して来たのだ。

 下がっても追いつかれることは必至。となれば受けるか回避するかを選ぶことになるのだが、生憎とその両方が悪手に思えてしまった。



「くそぉ」



 よりもよって思いついた方法がこれだけとは。

 内心で自分に対して舌打ちをしながらも俺は前にでた。

 攻撃を受けるのでも避けるのでもない。正面から流すことを狙ったのだ。


 ガン・ブレイズの刀身を魔導手甲(ガントレット)を装備した左腕の前で寝かしピタッと付けるとディギュリスの大剣の刃に沿うようにして自分の体の表面を滑らせた。

 破壊不能特性を有する専用武器だからこその芸当で狙ってするようなことでもないのは百も承知。それでもこの行動こそが最も反撃に移るのに適していると思ってしまったのだから仕方ない。

 頬が引き攣るのを自覚しながらもどうにか息を止めディギュリスの大剣を受け流してみせる。



「今ッ」



 自分の横を大剣が通り過ぎたのを見届けたその刹那、強く地面を踏み込んだ右足を軸に回転して、



「<サークル・スラスト>」



 範囲攻撃の斬撃アーツを発動させる。

 これならば攻撃を外す可能性は低い。狙い通りガン・ブレイズの刃はディギュリスの背中を水平に打ち付けていた。

 バリンっと障壁が砕ける音がする。

 ディギュリスの体を覆っていた結晶体に蜘蛛の巣状に広がった亀裂の中心が砕けその内部であるディギュリスの体が露呈した。

 即座にガン・ブレイズを銃形態に変えると連続して引き金を引いた。撃ち出される弾丸は亀裂の穴を通り抜け命中する。自動的に装填される魔力弾をディギュリスの亀裂に生じた穴が修復されるまで無心で放ち続ける。

 すると今度は全身を覆っている結晶の内部でディギュリスがその体を崩壊させたのだ。


 パンパンに水の入った風船に針を刺して割る時のように結晶内部で弾けたディギュリス。けれど今回もこれまで通りなのだとすれば即座に修復されることだろう。

 故に見定めるは今。

 頭まですっぽり兜で覆いながらも狭まるのではなく広がる視界のなか、注意深くディギュリスを観察していると、その再生とも取れる修復を担っているものの正体が判明した。

 これまでディギュリスの(コア)だと思っていた胸の中心にある結晶体などではなく、それを覆っている鎧の上半身。

 炎を宿す蝋燭ではなくその下にある燭台こそが肝心だったのだと、ここに至ってようやくそれを知ったのだ。


 おそらくリントたちも俺が来る前にそこを狙って攻撃していたはず。けれどその時は討伐に至るまでのダメージを与えることが出来なかったのだろう。その原因を探ろうにも現状そんなことをする余裕も理由もあまりない。

 考えるべきはどうすればそこに致命傷足るダメージを与えることができるかどうか。


 結晶の中で崩壊していたディギュリスが再びその姿を形成させていく。

 またしても万全の状態を曝すディギュリスはこれまでにない行動を取った。

 十字の槍を突き立てると両手で大剣を持ち、頭上高く構えると一気に振り下ろしたのだ。


 瞬間天高く立ち上がる水飛沫。もはや水の塔とでもいうべきソレは残されていた氷の柱の残滓をも飲み込んで全方向に衝撃波を発生させた。


 瞬く間にそれに呑まれていく俺たち。

 しかし純粋な攻撃とは異なるその衝撃波は竜化した俺にとっては脅威となる攻撃とは成り得ない。だがそれはあくまでも俺に対してだけだ。リントたちは衝撃波を苦悶の表情で耐えている。



「このッ、邪魔だ!」



 衝撃を引き裂こうとガン・ブレイズを剣形態に変えて切り上げる。

 僅かにできた空気の裂け目の中を左腕を前にして突き進む。そのまま透明な水の塔の向こう側に見えるディギュリスに向け今度は銃形態に変えたガン・ブレイズで攻撃を繰り出す。

 水の抵抗を受けずに飛んでいく弾丸がディギュリスを覆っている結晶を穿つ。バラバラに攻撃を拡散させるよりも一点に集約させたほうが良いのは明白。さらに言えば一度破られればその箇所が脆くなるのもよくあること。

 ゲームだから関係ないと割り切るよりも、もしかするとという思いで狙えば功を奏する時もあるというものだ。

 先程穴が開いた場所と同じ場所に同じ大きさの穴ができた。



「あれを広げるためには――」



 未だ人一人通るには小さすぎる穴だが、二度開けられたからには広げることも出来るはず。そう考えた時真っ先に浮かんだのはハルが使う爆発を引き起こすアーツ。その次がライラやムラマサが使う氷の攻撃によって穴を固定しそこから徐々に氷を砕きつつ広げていくという方法。しかし、ハルやムラマサはこの場にいないし、ライラも先程衝撃波を受けてしまいすぐに攻撃に移ることは難しそうだ。



「<インパクト・ブラスト>」



 自分でどうにかするしかないと腹を決め、威力特化の射撃アーツを放つ。

 全身を覆っている結晶の内部、剥き出しになっている胸の結晶体に命中して小規模な爆発を引き起こす。その余波がほんの僅かではあるが徐々に穴を広げていった。



「今だッ! <リベレイト・ブレイク>!」



 結晶の中に体を捻り込み超至近距離から放つは必殺の一撃。

 この時までに消費し続けたMPは威力に変える俺の必殺技(エスペシャルアーツ)

 極大の斬撃がディギュリスを呑み込む。

 ディギュリスの全身が一瞬停止した次の瞬間、これまでにない爆発を伴う崩壊が巻き起こった。




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