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迷宮突破 ♯.4

「これなら大丈夫かも」


 部屋にある中型炉とテーブルを見てリタが告げる。


 近くの棚を確認すると鍛冶や細工に使う道具も揃っているようだ。


「一日、か。意外と短いかもしれないな」


 揃っている道具と施設を見る限り、運営側から与えられた猶予はこれらに対応したスキルを習得するためのようだ。


 この場にいる四人のなかで生産職を主にしているのはリタとマオの二人。俺も一応は鍛冶と細工が行えることは皆に知られていること。


「分担を決めた方が良いかも」


 マオの提案はここでの作業の担当を決めるというもの。


 道具と施設が揃っているとはいえ、ここにあるのは全て一人分の数だけ。いくつか被っているスキルが存在するがゆえにそれぞれ専属にした方がいいということだろう。


「だったら私は防具ってことになるのかな。多分よく使うのは炉になると思うけど、いいかな?」

「私はアクセサリがメインだから、今回はそんなに出番ないかも」

「そんなことないと思うぞ」


 イベントでわざわざ新しいアクセサリが必要になることは少ないかもしれない。けれど、マオは俺やリタが持たないスキルを持っている。


「運営も言ってただろ。迷宮には特別な装備品が隠されているって。他にも素材とかどんなふうに使えるか解からないと困るからな」

「そうだよ。マオは鑑定が使えるじゃない。よく分からない素材とか見つけたら持って帰って来るから鑑定お願いね」

「わかった。任せなさい」


 胸を張って自信があるというように言い切った。


 リタが防具の修理と強化、マオが未鑑定アイテムの鑑定とそれぞれが得意なことを活かせる状況を作り出すことに成功していた。


「武器は俺が担当するとして、ハルはどうする?」

「あー、悪いけど俺は生産系のスキルはサッパリなんだ」


 お手上げといわんばかりに両手を掲げるハルは俺の知る限り純粋な戦闘職だったはず。


「それなら、素材集めをお願いしてもいい?」

「任せろって言いたいところだけど、このイベントで素材が採れるのって迷宮内だけじゃないのか?」

「うーん、どうだろ? 最低限の素材はこの町の中でも取れそうな気もするけど」


 迷宮内の素材だけで全てを賄うには五時間という時間制限がネックになってくる。最悪の場合自然回復の時間を待てずに使った回復アイテムの数が足りず満足に迷宮の探索が出来ないという事態になりえる。


「とりあえずハルは目に付いたアイテムを出来る限り回収してくるようにしてくれればいいさ」

「悪いな」

「でも、そうなると問題はポーションとかの回復薬だよね」


 幸運なことに装備に関してはかなり充実したメンバーが集まった。だがそれだけでは不十分。最低でもHPとMPを回復させるポーションは毎回それなりの数を用意したい。


 担当するのが生産職の誰かとするならば、それは誰が適任か。


「ポーションを作るには何が必要なんだ?」

「道具はあれだね。薬草をすり潰したりする擂り鉢に煮出したりするためのお鍋。必要な≪調薬≫だったと思うよ」

「一通り道具は揃っているんだな。だったらそれは俺が担当するよ」

「いいの?」

「まあな。俺の目標は自給自足の出来るソロプレイヤーだからな」


 今俺が出来ることは武器の強化だけだが将来的にはアイテムの製作や防具の調整まで自分自身で出来るようになりたい。


 出来るだけNPCショップに頼らずに冒険をすることが目標なのだ。


 コンソールに出現させたスキル一覧がら≪調薬≫を選択し習得する。するといきなり調薬に使う道具の使用方法が漠然と理解出来るになった。


「っと、試そうにも素材がないか」


 これまで集めてきた素材は鍛冶に使える鉱石が殆どで調薬に使えるような草木には見向きもしてこなかった。その鉱石も俺の工房に置いてきたまま。この町で鍛冶をするとなるとどうしても迷宮で素材を集めてこなければならない。


「ねえユウくん。もしかして防具も自分で作れるようになりたいの?」


 心配そうな顔で俺に尋ねてくる。


 現在俺が纏っている防具はリタが作ったものだ。これから先自分で修理や強化ができるようになれればいいと言った俺は暗にリタに頼むことはしなくなると言っているようなものだ。


「将来的にはだな。ま、作るというよりは修理が出来るようになれればいいだけなんだが」

「どういうこと?」

「ハルも言ってただろ、装備を溶かしてきたモンスターがいたって。その時ハルは勝てたからよかったけどもし勝てなかったら、一時的でも戦闘から離脱しなければならなくなったらある程度は自分で修理ができた方が便利じゃないか」

「そう、だけど……」


 今でも金属製のアームガードくらいなら修理できると思うが、防具は武器とは違う。修理の手順も変わってくるのだろう。リタもいて修理の手順の右も左も分からないこの状況で試そうとは思えない。試すのならNPCショップで安価な装備を購入してそれを使うべきだ。


「当分はリタに頼むことになると思うけどさ」

「よかった。それじゃ、とりあえずの分担はこんな感じでいいかな?」

「そうだな」

「私が主に鑑定。リタが防具でユウが武器と回復薬。ハルは皆の分の素材を集めるのと戦闘の中心になって貰うってことで」

「ああ。それで異存はない」


 建物の一階部分を一通り見てどんな設備があるのか確認した俺たちはそのまま二階に続く階段を上っていった。


 玄関と同じ造りの木のドアを開けた先にあったのは四つのベッドが並ぶ言わば寝室だった。


「机もないのか」


 部屋の中にあるのはベッドだけで椅子や机は一つとして見当たらない。


 そもそもゲーム内で眠ることなど想定してなかった俺はこの部屋の存在意義が解からないでいる。


「ここでログアウトしろってことか?」


 近くのベッドに腰掛けたハルが誰に聞くというわけでもなく呟いた。


「他に使い道はなさそうだよねー」


 迷宮に挑める時間は一日五時間と決められている。だからといってこれまでのプレイ時間を鑑みるとその五時間で時間が足りなくなるとは思えない。なにより生産系のスキルを持っている俺たちは迷宮から帰った後にもするべきことは多く残っている。


「今日はこれくらいかな?」

「――だね」


 マオとリタが並んで部屋を確認し終え、納得したように言った。


「明日は十一時スタートだったよな」

「そうだよ」


 イベントの開始時刻に間に合うようにログインするならそれよりも三十分は早く来るべきだ。


「じゃあ、また明日だね」


 この町から他のエリアに向かうことも、素材がない以上何かを生産しようとすることも出来ない。今日はこれ以上ここでするべきことがなくなったのと同じ。


「ちょっと待ってくれ。俺たちの目標を決めておきたい」


 コンソールを出現させてログアウトの為の動作を始めたリタとマオをハルが呼び止める。


「目標?」

「運営も言ってただろ。迷宮には専用の装備やアイテムが存在するって」

「それに、迷宮攻略が報酬もあるとも言ってたな」

「ああ。だから俺たちの目標を決めておきたいんだ。アイテム収集に集中するなら迷宮を広く探索するべきだし、報酬を狙うならあまり探索をするべきじゃないと思うんだ」


 両方を選ぶことは出来ないと言いたいのだろう。二兎を追うものは一兎も得ずというように期間が限られているこのイベントでは集中するのはどちらか一つにするべきだ。


「そうだな。俺は迷宮攻略の報酬っていうのが気になるけど、みんなはどうだ?」

「俺も同じだな。やっぱりイベントに参加したからにはクリアを目指したい」

「私もクリアするつもりだよー。素材やアイテムの回収は出来る時にするくらいでいいんじゃないかな」

「だよねー。折角のイベントなんだからアイテム集めだけで終わるの嫌だし、なんだったらさっさと迷宮をクリアしてその後ゆっくり探索するのはどう?」

「うん。それが良いと思う」


 会話の最後に出てきたマオの案にリタが賛成して、それを受け入れるように俺とハルも頷いた。


 ここにいる四人のうち誰一人として迷宮にあるアイテムに固執している雰囲気はない。それぞれが一人のゲーマーとしてイベントのクリアを目標にしているということに他ならない。


「明日からのイベント頑張ろう!」


 円陣を組み差し出されたリタの手に重ねるようにしてマオが自分の手を置いた。


「ほら、二人も」


 リタとマオの意図が読み取れる。


 照れくさそうに手を重ねるハルに続いて俺も自分の手を乗せた。


 体育会系のノリは苦手だと思っていたのだが、不思議と悪い感じはしない。それどころか俺の中で明日からのイベントに対するモチベーションが上昇しているのが感じられた。


 ひとりひとりの顔をしっかり見てリタが言う。


「目標は迷宮クリア。後はみんなで楽しもう。せーのっ、おおー!」


 重ねた手を勢いよく下から持ち上げられて皆が同じように片手を掲げる格好になった。


 呆ける俺に満面の笑みを見せるマオ。ハルはどこか温かみを含んだ視線を皆に向けている。


 一拍の間を置いて俺たちは自然とこの部屋の中からログアウトしていった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] パーティー単位のイベなのに生産職いなかったら詰むのヤバ スキルポイント余ってなかったり他のパーティーと連携出来ない性格の人とか終わりじゃん
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