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ep.46 『津波VS津波』


「<アイス・ピラー>」

「<プロテクト・シエル>」


 異なる二つの声が重なる。

 今まさに振り下ろされようとする白の守護者が持つ一対のメイス。その直撃を防いだのは二つの現象。一つは俺とムラマサの頭上に広がる半透明な障壁。メイスの直撃をも耐えうる防御力を持つそれがセッカが使う自分や仲間を守るためのアーツであることを俺は知っている。そしてもう一つ。白の守護者の片方のメイスを止めた氷の柱。ライラが得意とする氷属性の魔法アーツの一種だ。

 ただそれがセッカの使う防御アーツとは違い、基本的に攻撃用とされているアーツを相手の攻撃を防ぐために用いるのはかなりの技量を要する。限りなくシビアな着弾のタイミング。使用者側が決して負けてはならない程度の威力。そして的確な技の選択。それら全てがその時の条件に適合したときにのみ戦闘相手の攻撃を攻撃によって防ぐことができるのだ。


「流石だな。ライラ」


 無論その何度は時と場合、対峙している相手によって変動する。どこにでも出てくるような雑魚モンスターならば割と簡単に攻撃を弾くことができるが、ボスモンスターとなれば話は別。相手の威力が高くなるに比例して防御が成功する可能性も低くなっていく。

 正確に攻撃で攻撃を防御したライラに称賛の声を呟くと、それは起こった。

 氷の柱によって停止させられている方の手をどうにか解放させようと蠢かしながらも障壁に阻まれた方の手が再びメイスを振り上げたのだ。

 障壁にメイスが打ち付けられる度に轟音が鳴り響く。

 幸いダメージも衝撃すらも障壁が阻み俺たちに届くことは無い。しかしそれで安心できるかどうかといえば話は別。

 最初はほんの僅かな亀裂だった。いや、亀裂とも呼べないような僅かな小さな小さなひびだったのかもしれない。氷の拘束から自由になろうとして暴れ回る白の守護者がめちゃくちゃな攻撃を繰り返すごとに自ずと危機感が募っていく。


「む。安心するのは早いみたいだ」


 表情を険しくしながらムラマサが声を張り上げる。


「ねえ、ハル君たち一度戻ってきて。もうあまり時間がないみたいよ」

「え!? 何だって?」


 セッカが発動させた障壁の外にいるハルたちにはこの攻撃による衝撃も轟音も防げない。障壁の内部にいてもこれだけの音が聞こえてくるのだ。ちょっとくらい叫んだところでその声は届きはしない。どこかの難聴系主人公のようにハルがとぼけた顔で聞き返していた。


「だからぁ!」

「急いでそこから離れるんだッ。おそらく――」

「……もう、保たない」


 ムラマサを補足するようにセッカが彼女なりの大声で告げる。しかし轟音の中ライラとセッカ、そしてムラマサの声は届いていない。それでも三人の表情と態度で事態の緊急度合いを推し量れたのだろう。ハルが指示を送りフーカとリントを連れて駆け寄って来た。


「……でも、ここも危ない、よ?」


 三人が合流した途端セッカが告げた。

 その言葉を証明するように俺たちを覆っている障壁にひびが広がり、同時に白の守護者の片手を拘束している氷の柱も徐々に崩壊を初めている。


「さて、どうするか」

「とりあえず、下がる?」

「下がっても同じ事の繰り返しよ。だったら」

「別の手段を講じなければならないってわけッスね」

「そういうこと」

「……だめ。時間ない」


 いよいよピキピキという嫌な音が聞こえてきた。ハッとして振り向くと氷の柱と障壁の両方に見て解るほど大きな亀裂が走った。

 素早く氷の柱と障壁の異変に目配らせ、苦笑交じりに呟く。


「みたいだな」

「とりあえずここから離れようか。その後に突貫。皆もそれでいいよな」

「了解ッス」


 ハルが下した結論にリントが声に出して頷く。

 今にも走り出そうとするリントの肩に手を置いてちょっと待てと制止する。


「ま、そうはいっても考え無しに突っ込んでも結果は見えてるだろ」

「それならどうするってのさ」

「手早く考えよう。問題は二つ。この攻撃を避けても大して意味は無いってこととどうにかして倒さなきゃならないってこと。それからあまりアイテムを消費できないってことだな」

「三つあるぞ」

「三つ目のはここでの基本方針ってやつさ。何時、何処まで続いているか解らないんだ。湯水のようには使えないってことくらい解るだろ」

「まあな」


 肩を竦めるハルに溜め息を吐きつつ、俺は残り全員の顔を見渡した。


「で、だ。さっきまでの感じだと白の守護者の武器は俺たちを襲った砂津波と同じもののはず」

「そうね。盾は崩れて消えたみたいだしっ」

「砂が形を変えてメイスや盾になっているのだとすれば実体があるようで無い。そしてそれは白の守護者本体も同じだろう」

「成る程。オレの攻撃が空を切ったのもそれが原因か」

「ムラマサなら感付いていたんじゃないか?」

「だとしても皆が同意見だというのは心強いってわけさ」


 力強く言い切るムラマサにライラとフーカが解るとこれまた力強くうんうんと頷いていた。


「攻撃が通らないのは砂だから。つまりどうにか固めることさえ出来ればこちらの攻撃が通るはずだ」

「問題はその方法だけど、何か思いつかないか?」


 首を横に振る。

 一人一人顔を見渡すと俺たちのなかでたった一人、ライラが何か考えこむ素振りを見せた。


「私何とかできるかも」

「そうなのか?」

「えっと自信は無いんだけどね」

「ま、やってみてくれ。駄目なら駄目でまた考えれば良いことさ」

「そうなると、後は――」

「どうにか現状から逃げ出さないとッスね」


 攻撃に関してはライラ次第。徐々に大きくなる氷の柱と障壁の亀裂に追われ現状の打破を考えることが次の命題となった。


「障壁が消えればメイスは俺たちに届く。最低でもどうにか回避しないといけないってことか」

「そうだ。何か良い案は?」


 一斉に押し黙る。

 それもそうだろう。限られた場所で確実に自分にダメージを与える攻撃が待っている、逃げようとも襲い来るのは先程と同じ砂津波。それは誰にでもできる未来の想像。


「だったら確実に避けなければならないものを決めよう」

「つまりメイスかその後の津波かってか?」

「そうだ。おそらく先程ダメージが無かったのは偶然。次に砂津波に呑まれても無事かどうかは解らない。その上で、どっちに対策を立てるべきだと思う?」


 多数決を取るつもりはないが、皆がより脅威に感じているのはどちらなのかは知りたい。するとぽつりぽつりと皆が口々にどちらがより脅威に感じるか話し始めた。


「大体半々か」

「んー、まあ、仕方ないよ。体験している脅威と目の前に迫る脅威。どちらがより危険かなんてそう簡単に決められるものじゃないさ」

「解ってる。となれば取れる方法は一つだ。攻撃を回避しつつ砂津波も未然に防ぐ」

「そんな方法あるのかっ!?」

「俺たちはそれぞれにできることが違う。だからこそってやつさ。まあ、多少自爆覚悟になるけどな」


 覚悟を決めたように笑う俺にムラマサはハッとしたように目を見開くと苦笑を浮かべ、


「成る程。ユウが考えそうなことだね」


 そういって抜き身で持っていた刀を鞘に収めた。


「……そろそろ、限界」


 タイムリミットを告げるセッカに俺は即座に指示を飛ばす。


「ハル! それからムラマサ。二人には一番危険なことをやって貰うことになるぞ」

「ああ、解っているともさ」

「お、おお。お前が言うならやりきってやるぞ」

「まず、障壁か氷の柱のどっちかが崩壊した瞬間が合図だ。その時に合わせてハルが地面に向かって大爆発を起こせ」

「規模は?」

「俺たちをも巻き込むほどに」

「良いのかよ?」

「そこはムラマサが頼りさ」

「オレが皆を守る風の障壁を作り出すよ。こっちの刀なら出来るはずだ」


 ムラマサがもう一振り携えていた刀を抜く。

 刀身がほんの僅かに緑色なそれはムラマサが得た二つめの専用武器だ。


「俺たちは何をすればいいッスか?」

「そうだな、リントは俺と一緒に砂津波を斬り裂こうか」

「ふえっ!?」

「あたしもやるっ」

「いや、フーカはライラを守ってくれ。ライラにはこの間にもこちらの攻撃に備えていて欲しい。向こうの攻撃をやり過ごしたらすぐに攻勢に出たいからな」

「ええ、わかったわ。フーカちゃんもよろしくね」

「うんっ」


 やってやるというようにフーカが片手用直剣を胸の前で強く握りしめる。


「……私、は?」

「セッカにはさっきのとは違う障壁を作り出して欲しい。対象は俺たち全員。ただ、ムラマサが作る風よりも前には出ちゃダメだ」

「……ん。ギリギリ体の傍に作れば、いい?」

「ああ。頼む」


 作戦を示し合わせ終えるとその時を待っていたかのように、障壁と氷の柱が砕けた。


「ハル! ムラマサ!」

「任せろってんだッ。おらぁ! <轟大爆斧(ごうだいばくふ)>!」

「<風華乱舞(ふうからんぶ)>」


 ハルが地面に向かって戦斧を叩きつけた。瞬間巻き起こるは真っ赤に熱された爆風の氾濫。決して密室では使ってはならないと思えるその威力の爆発が目の前に広がった。

 この爆炎と熱は使用者すら傷つける。だからこそ本来は爆発に指向性を持たせ、下から上へ、横から横へという風に発動させるのだろう。しかし、今は上から下へ。そうなると爆発は全体に広がりありとあらゆるものを飲み込んでいく。

 だが、その爆炎が俺たちを傷つけることはなかった。

 ムラマサが発生させた風が爆炎と自分たちの間に僅かな空間を生み出しているのだ。


「セッカ、頼む!」

「……ん。<ガード・シエル>」


 半透明の障壁が自分たちの体に沿うように発生する。するとほんの僅かに感じていた爆炎の熱も綺麗さっぱり消えた。

 巻き起こる爆炎が白の守護者の二本のメイスを弾き返す。それでもこの攻撃が砂津波を発生させる引き金となっているようで、先程より規模が小さいものの砂津波が起こった。

 巻き上がる爆炎と襲いかかってくる砂粒が衝突し凄まじい轟音を立てる。


「今だッ。リント行くぞ!」

「はいッス」


 ガン・ブレイズの剣形態を構え前へと飛びだした俺に続きリントがその槍を持ち前に出る。


「ひっ」

「大丈夫。セッカとムラマサを信じろ!」


 自分たちを守っている二層の障壁。それがあるからこそ出来ることがある。


「やってやるッスよ」

「その意気だ。<インパクト・スラスト>」


 威力特化の斬撃アーツを発動させて迫る砂津波を斬り裂く。

 それに倣いリントも、


「うぅ、<スパイラル・ランス>ッス!」


 穂先を回転させながら放つ突き攻撃を使用した。

 小規模と言っても砂津波そのものは巨大。たった二人の攻撃で全てを押し変えることは不可能だ。しかし、その一部、自分たちの前だけで良いのなら、纏っている二種の障壁をも武器として使えるのなら出来るはず。

 自分たちを飲み込もうとする砂粒が俺とリントが前に出した刃を避けるようにして左右に裂ける。

 体の直ぐ横を通り過ぎる砂は見るからに恐怖を引き起こす。しかし、目の前で二つに裂け自分たちを避けている砂はこの選択が間違っていなかったのだと自分を鼓舞してくれた。


「今だッ! ライラ!」

「はいっ」


 指示を送れない俺に代わりムラマサがタイミングを告げる。するとほんわかとした青い光が俺たちの後ろの方で灯った。


「<タイダル・ウェイブ>」


 杖を天高く掲げ、宣言したアーツによって引き起こされるのは砂津波とは反対の勢いを持った青く透き通った水による高波。

 自分たちの遙か上にまで到達するその波に俺たち飲み込まれたのだった。



後書き追加。


2019年も本作を一読して頂きありがとうございました。

週一回更新というなかなか遅々とした更新作とでしたが続けてこられたのも読んでくださる皆様がいるおかげだと感謝しっぱなしです。


2020年の更新はおそらく1月の第二週金曜日からになると思います。


では、一年分の感謝と翌年のご愛顧を祈りつつ挨拶と替えさしていただきたく存じます。


皆様、良いお年を。

重ね重ね今年もありがとうございました。

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