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ep.45 『砂津波』


 頭の上まで振り上げられたメイスは瞬く間に振り下ろされた。

 ごうっと風を切る音の後、次に聞こえてきたのは地面をも揺るがすような爆発にも似た轟音。火の気など一切無かったはずの爆発だが、それが引き起こしたのは真っ赤に燃える炎の爆発ではなく自分たちの身長を優に超す純白の津波だった。

 海水ではなく、この部屋の床にうっすらと広がっている砂による津波。

 メイスが地面を叩いたその瞬間に聞こえてきた「逃げろッ」というハルの声。

 それに促され俺たちは咄嗟にその場から後ろに飛び退いていた。しかし、襲い来る砂津波の勢いや規模だとその程度では回避出来るはずもなく、俺たちはそのまま白に飲み込まれてしまった。


 声も出せず、自分の意思に反して動かされてしまう体。

 砂に流され、後方へと押し込まれている間ずっと感じていたのは痛みでも圧迫感でもなく、純粋な驚きだった。

 漂流物なんてものは何一つない。それもそのはず、砂津波によって破壊されているはずの壁や床、他にも部屋の至るところにある柱も次の瞬間には細かく砕かれ砂津波と同化してしまっている。砕かれて増えた砂粒も砂津波全体から見れば微々たるもの。自分たちに襲い来る砂津波の勢いは一定の時間が経つまで弱まることがなかった。


 水と砂粒とでは飲み込まれてしまえば呼吸の可不可に関しては変わらない。

 それでも現実とは違って意識を失うことも死んでしまうことも無い。ただ、見える自身のHPゲージがみるみるうちに減ってしまっているだけ。

 問題だったのは回復しようとしてHPポーションを取り出そうとしても全身を押さえ付けるように纏わり付いている砂粒のせいで指先ひとつ動かせずに取り出すことはおろか飲む動作を起こすことも困難だったからだ。

 砂に飲み込まれながらもじっと耐え続ける。

 受けるダメージを減衰する方法として全身に力を込めるなんてことありはしないのだが、それしか出来ないのだから仕方ない。


 呼吸に問題がなければ後はいかに自分が冷静さを維持できるかどうか。


「…ッ、あッ、はぁッ」


 ようやく砂津波が収まったことで解放された。

 部屋の端まで押し込められた俺は四足歩行の動物のように両手を床に付いて大きく息を吐き出した。サラサラと腕や足、防具の折り重なる箇所などから砂が零れ落ちる。

 ガン・ブレイズのような複雑な機構を有する武器の極々微細な隙間に砂が入り込んでしまうことを心配していたのだが、そんなことは杞憂だったことに安心した。何より砂粒も細かく水分など一切含まれていないのだろう。軽く手足を振れば残っていた砂粒は全て払い落とされた。

 ストレージからHPポーションを取り出して一気に煽る。口腔内に流れ込んでくる液体を飲み込み、ガン・ブレイズを構えた。

 その照準が捉えるのは白の守護者。


「くそッ。みんな無事か!?」


 声を荒らげたハルがまるで旗印のように掲げ戦斧を左右に振った。

 砂浜に海水が吸い込まれるが如く、白の守護者が作り出した砂津波を形成していた砂粒は全て隙間など無いはずの床に吸い込まれるように消えていった。足に絡みつく砂粒がなくなったことで俺たちの移動は元のように行える。

 素早く動いたリントは一度「おおっ」っと吠えるとそのまま近くにいたセッカを助け起こしていた。

 長杖(ちょうじょう)を文字通り杖のように立つライラにフーカが駆け寄り、ムラマサは一人大きく跳躍して腰の刀を引き抜いていた。


「ハアッ」


 気合いを込めて白の守護者の頭を切り付ける。

 しかし、それも霞を斬り裂くかの如く空振りをしてしまい、ムラマサは攻撃の勢いをそのままに白の守護者を通り抜けて着地した。

 体勢を整え、刀を持つ右手を引き、体を斜めに腰低く構え、短く息を吐き刀を突き出す。

 案の定というべきなのか、その攻撃も白の守護者には意味を持たず刀はその足を虚しく貫いていた。


「これもダメか。となると……」


 戦斧を振り回すハルの元に集まっていく仲間たちを視界の端に捉えつつブツブツと何か呟いていた。


「ユウ! 一回ずつで良い。四肢を撃ってくれ」

「任せろ」


 乱雑に白の守護者そのものに狙いを付けていたがそれをムラマサの一言で別の箇所を狙うことにした。

 まずはムラマサが突きを放ったのとは違う左足。その左膝。だが撃ち出された弾丸は先程のムラマサの刀の一撃と同様に効果がなかった。それでも戸惑わず続けて両肩、そして両腕を撃った。だが、結果は想像していたとおり。


「やはり効果は無かったか」

「まあな」

「とりあえず、ハルたちと合流しよう」

「ああ」


 と俺とムラマサは先に集まっていたみんなの元に駆け寄っていった。


「さて、白の守護者の攻撃が来る前にだ。簡単に作戦を決めてしまおうか」


 リーダー然と口を開いたハルに俺たちは揃って頷く。


「ま、そうは言っても大した作戦はないんだけどな」

「そうなんッスね」


 やっぱりといった口振りで肩を落すリントにハルは苦笑交じりに頷いみせる。


「二人が試してみて解っただろうが、こちらの攻撃は今のところ効果が無い。それが部分的な問題なのか、あるいは攻撃手段的な問題なのかまでは解っていないんだけどさ、とりあえず効果が無かったのは見ての通りだ」

「それを念頭に置いて戦わなければならないのよね」

「まあ。そういうこと」


 困ったと長杖を抱えるライラの呟きをハルが肯定した。


「でも……」


 とフーカが立った今思いついたように呟き、


「……ん」


 セッカは訳知り顔をしてにやりと笑う。


「そうねぇ。いつものことよね」


 大した問題では無いというようにライラが言った。


「まずは白の守護者に効果がある攻撃を探り当てよう。話はその後。いいね」


 全員の顔を見渡しムラマサが言い放った。

 それが最低限の指示で、俺たちの行動方針を決める指針。


「ユウは何か言いたいことはあるかい?」

「特にないかな。けど、俺たちはここでリソースを使い切るわけにはいかない。この先どれくらいの相手が待っているか解らないんだからな」

「解っているとも。けれど、ここで倒されれば元も子もないのは理解しているだろう?」

「だな」


 ムラマサの言うことは尤もだと納得できる。

 全員の意思が纏まったこと、そして大まかだがこれからの行動方針が決まったことで、ハルとリント、それからフーカの三人はアイコンタクトして、他の誰よりも先陣を切って走り出した。

 三人は白の守護者の正面から切り込んでいく。

 それに対し白の守護者は左手で持つ盾を構えた。いや、正確には床にその盾を突き立てたのだ。

 身を守るというこれまでに見せなかった行動を起こした白の守護者に怪訝な目を向ける。

 現在進行形で攻め込んでいる三人のうちの誰かの攻撃が効果あるのかもしれないと考えたのは俺だけではないらしく、ムラマサも一際鋭い視線を白の守護者に向いている。


「行くぞ」


 こくりと頷くムラマサと並んで三人の後を追いかける。


「ライラ、妨害を頼む」

「はいっ。 <アイス・ウォール>」


 ムラマサの指示の意図を正しく読み取ったライラは三人と白の守護者の間に氷の壁を出現させた。その壁に阻まれ動きを止めたのは白の守護者ではなく三人の方。何故と問い掛ける視線を伴って振り返ったフーカにムラマサは、


「少し待っていてくれ」


 走りながらそう告げた。

 ムラマサの刀は抜いたまま、そして俺はガン・ブレイズを剣形態へと変形させて自然体で構え、盾を構える白の守護者に、正確にはその盾に向けて全力でそれぞれの武器を振り抜いた。

 同じ水平の薙ぎ払い。

 左右から迫る斬撃を白の守護者は盾で受け止めた。

 そう。受け止めたのだ。これまでのように全身を霞のようにして攻撃を無効化するのではなく防御したのだ。

 守ったという事実は守らねばならないという現実の裏返し。


「今だッ」


 ムラマサの声が響き渡る。

 盾の傍から離れた俺とムラマサと入れ替わるようにして三人が白の守護者へと攻め込む。

 白の守護者の盾には初めて攻撃を受けたことで剥き出しになったある変化があった。それは盾の表面に浮かぶHPゲージ。つまりこの盾も独立した個体としてモンスター存在しているということ。だが、その名称は浮かんでこない。あくまでも別個体というわけではなく、白の守護者の一部という扱いのようだ。


「そおらぁ。 <爆斧(ばくふ)>」


 白の守護者の盾の表面を一発の爆発が広がっていきその表面を焦がす。


「俺もやるッスよ」

「あたしもいくよっ」


 爆発に巻き込まれないように一拍遅れて二人が盾を攻撃する。

 すると白の守護者の盾の表面がボロボロと剥がれ落ち、その形状を崩壊させ始めた。


「よしっ。これなら…」

「いや、どうやらまた駄目そうだ」

「えっ!?」


 盾が崩壊したその刹那、白の守護者の左手には右手にあるのと同じメイスが握られている。


「来るぞ。備えろ」


 左右のメイスが同時に振り下ろされる。

 ひとつの標的は俺とムラマサ。そしてもう一つの標的はたった今攻撃を繰り出した三人に。

 メイスの攻撃を回避してもその次に待っているのは砂津波だ。

 容易に想像ができる次の光景に俺は待たしても全身を強張らせていた。



戦闘パートが続きます。

終わり方が前回と似ているのはわざと。話が続いているよという証みたいなものです。

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