ep.43 『至る道・その2』
目を奪われた石像のある部屋の中を満遍なく歩き回る。目的は一つ。だだっ広いこの部屋から次なる場所へと向かうためだ。しかし、そのための階段はおろかそこに繋がっている扉すら見当たらなかったのだ。
ここに来た全員が手分けして道を探すこと数分。俺は再び石像の傍へと戻って来ていた。
「……何か、あった?」
「いや」
「……じゃあ、どうして?」
曖昧な返事をしつつ石像の周りを一周する。
目線はそのてっぺんから床と繋がっている土台の先まで。目を見開き、僅かな違和感すら見逃すまいと心に決めて。
「駄目だ。何も解らない」
大きく溜め息を吐いて足を止める。
目を伏せたまま落胆する俺の隣に困ったような笑顔を見せたハルが近付いてきた。
「そっちも駄目だったみたいだな」
「ま、見ての通りだ」
腰に手を当て背伸びをするように体を反らせて答えたハルは勢いを付けて体を起こすと俺の目を見ずに、
「一体どこに道があるんだろうな」
「さあな」
愚痴をこぼしながらも道を探すことは止めない。
石像や壁に近付いては離れ、離れては額が付きそうなくらいにまで顔を近付けるを繰り返していると不意にライラの「あら?」という声が耳に入ってきた。
何かあったのかと慌てて駆け寄ると他の人たちも同じように集まってきていた。
「寒っ」
ライラの傍に近寄るとさっきまで感じなかった冷気を強く感じた。密閉されているとまでは言わないが、隙間風ひとつ入ってこない神殿の一室で突然一部分だけが気温を下げたなどということは有るはずもない。それにライラの手には彼女がいつも使っている杖が握られている。
「ライラさん。どうしてここで魔法を使ったんッスか」
「ああ、そういえばリントは寒いのが苦手だったよな」
「リザードマンッスからね。それに最近前よりもちょっとだけッスけど竜の要素が強くなったんッス。そのせいで前以上に寒さが苦手になったんッス」
両手で体を摩りながら言ったリントを労うように背中を叩き、皆の視線が集まっている所を覗き込んだ。
「ねえねえっ、もしかしてこれってそうなんじゃないのっ」
「んー、そうなのだとすれば歓迎するんだけどね」
「ええっ、違うのっ!?」
「それをこれから確かめるのよ」
大袈裟に驚いてみせるフーカをムラマサとライラが宥めている。
「その前に」
振り返り寒さを堪えているリントにライラが申し訳なさそうに両手を合わせて、
「リントくん。先に謝っておくわね」
「あ、はい。皆まで言わなくても大丈夫ッス」
フンスっと鼻息を荒らげるリントにライラは力強く頷き、
「それじゃあ、やってみるわね」
と、最初に使用したのと同種の魔法アーツを発動させた。
威力は最小で効果範囲は従来通り。当初床に敷き詰められている石板四つ分ほどしかなかった効果範囲も今度は神殿の床一面にまで及ぶ。
極細かつ極小の氷の粒が見渡す限り全てに広がっていく。
「うわぁっ」
フーカの驚く声が響く。
いっそう白く染まった床には先程から見ていたのと同じラインが更に向こうへと続いている。
「行きましょう」
ライラを先頭にして氷によって浮き彫りとなったラインを追って進む。ラインの通りに進み、その線が曲がると俺たちも曲がり、まっすぐ伸びていればそれに沿って俺たちもまた直進する。
グルグルと見えない迷路を進むかの如く歩いていくと終着点は神殿の奥にある司教が演説をする時に使う台が置かれたステージのような場所だった。
本来はいくつもの生花が植えられていたのだろう。土が剥き出しの花壇にも霜が張っている。この花壇と台の間に四角い図柄が浮かび上がっていた。
コツコツと杖の先で床を叩きながら音を確かめているライラが深く頷く。
ラインで四角く囲まれた場所だけが僅かに軽い音がしたからだ。
「ハルくん。お願いできるかしら?」
「もちろん! 任せて。みんな少し離れててくれよ。<爆斧>」
言うよりも早く振り下ろされた戦斧を前に俺たちは慌ててその場から離れた。
次の瞬間に巻き起こる爆発の中に舞い上がる氷の粒。
キラキラと輝く爆炎の中から現われたそれこそが、俺たちが探し求めていた地下へと続く階段であった。
「【守人の迷宮】の入り口はここか」
肩で戦斧を担ぎながらハルが言った。
誰かの息を呑む音がする。
先の見えない暗闇が階段という形をとって大口を開けて侵入者を待ち構えているかのよう。
「さっさと行くぞ」
「ああ。気を引き締めていこう」
今度先陣を切ったのはハルとムラマサ。
その後を追って俺は階段を下り始めた。
今回も短いですがそれは前回と合わせて通常回文ということで何卒。
ちなみに作者の目はようやく治りました。
PCも使えるようになり一安心。次回の更新も問題無さそうです。
では。また次回。