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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十三章  【revision:2】
330/665

ep.13 『明日に続く一日』

ではでは、今週の更新です。


 装備を完成させた俺は拠点の裏にある野晒しの庭に出た。

 そこは俺の腰ほどもある草が茂っており、お世辞にも手入れされていたとは思えない現状だ。それでもなんとなく十分な広さがあると見えるのはここが教会の裏にある建物だからだろうか。この庭が、延いてはこの拠点の建物がちゃんと管理されていた頃はしっかりとした畑が作られていたのだろう。

 そうは言っても足裏を通して伝わってくる土の感触は硬い。長い間人の手が入っていないのは明らか。


「ま、今の目的は畑じゃないし、少し草を切れば十分かな」


 さて草刈り用の鎌がどこにあるのかと考えた矢先、この拠点には無いことを思い出した。そもそも庭があると聞いていたもののどうせ今は使わないとしっかりと確認することを怠り今の今まで足を踏み入れなかったのが悪かった。最初からこの惨状を見ていたのならば町に出ていた際に草刈り鎌の一つくらいついでに買っておいたのに。


「仕方ない。コイツには悪いが今は鎌の代わりになってもらおう」


 腰のホルダーからガン・ブレイズを抜き、即座に剣形態に変形させる。

 そして腰を下ろし近くの草を鷲掴みにするとその根元から一気に刈り取った。

 仮想の体は疲労しない。腰が痛くなることもない。黙々と庭の草を刈り続けること数分。目の前には最初に比べると雲泥の差がある綺麗な地面が現れていた。


「それじゃ、始めるか」


 武器にしろ防具にしろ、作成したときや強化したとき、作り直した時にはその使用感を確かめるのが癖になっていた。より謙虚なのは武器だが防具でも自分が動きづらいところはないかと確認するのだ。唯一しないのはアクセサリだが、それはあくまでも装飾品であり小物でもある為に実際に使うというのは違うからこそ。

 今回の場合は防具の確認。アクセサリ『変更のアンクレット』に登録してあるディーブルー装備はともかく、能力を取り外した着ぐるみ装備は念のため異常が無いかどうか確認しておかなければならない。

 この時に使うのがちょっと変わったアイテム『土人形の喚び笛』だ。能力としては土人形、謂わばゴーレムを自身の従者として召喚することができるというもの。しかしながらこの土人形の性能というのが問題で、攻撃力、防御力ともに低く戦闘には向かない。さらには単純な命令しか受け付けず、何かの作業を手伝わせることにも向かない。精々が何かを持たせたり、抑えさせたりするくらいで、俺の場合は土人形に暴れるように命令をして、その攻撃を避ける際に防具が邪魔しないかどうかの確認作業に使うのが常になっていた。


「よし。『暴れろ』」


 出現した土人形がまるで癇癪を起こした子供のように両手を振り回し、地団駄を踏みながらその場で暴れ回っている。

 攻撃力が低く目立った脅威にはなるはずが無いにしても、人よりも頭一つ大きな土人形が暴れ回る様は迫力満点。何も知らない人が見れば町中に突然モンスターが出現したようにさえ見えるだろう。それ故にこのアイテムを使う際には周囲に人が居ないこと、周囲にある程度の広さが確保されていること、そして使用後パーティ以外のプレイヤー進入不可の領域発生が使用条件となっていた。

 町中であろうと無かろうと他人が侵入してくることのない、建物の中、加えて言えばそこにある程度の広さが確保される場所となればこのアイテムを使うのには最適だった。

 ガン・ブレイズを腰のホルダーに戻し、俺は暴れ狂う土人形の腕を避け続ける。

 装備しているのは着ぐるみ防具。

 自分の体格を一回り大きくさせるそれを元から自分の体だというように自覚しながらの回避行動は意外なほどしっくりきていた。

 となれば、次に行うのは『変更のアンクレット』の動作確認。

 使う方法というのがコンソールを操作するなんてものではなく、足首にあるアンクレットの表面を撫でるだけ。そうすることで俺の体は光に包まれ柴犬のシルエットを有する着ぐるみ防具から一年近く使い慣れたディーブルー装備へ変わっていた。


「お、一瞬で変わるとこんな感じなのか」


 着ぐるみ防具とディーブルー装備では付与されるパラメータの上昇数値に雲泥の差がある。それに加えて着ぐるみ防具の時にはデフォとなっている手枷や足枷、首輪が持っている上昇効果打ち消しの能力。それらが一気に消えることも合わせて極端なパラメータの上昇へと繋がっているらしい。

 ならばと俺は再び『変更のアンクレット』を撫でる。

 再び光が我が身を包み、装備している防具がディーブルー装備から着ぐるみ防具へと変化した。


「む、これは、気をつけないと危ないかもな」


 上昇するときの感覚というのは体が軽くなる、力が強くなるといったものだが、反対に下降する時の感覚は全身に重しが付けられたように動きが遅くなったり体が重くなったりしているような感じなのだが、それを感じるのも数秒、直ぐにその状態の能力値に体が馴染もうとする。

 瞬時に高パラメータと低パラメータを味わうというのがこう言うものなのかと感嘆する最中、当初考えていた戦闘中に装備変更するということに対するデメリットを大きく実感したというわけだ。

 武器の大きさが変わるのも戦いの真っ只中ならばこちらの手札が変わるから良いかも知れないとすら思っていたのが、今の感覚を味わった後なら純粋に良いことだとは言えなさそう。少なくとも装備の変化とその際に味わうパラメータの上下の感覚や攻撃範囲の違いを瞬時に把握できるほど熟れなければ現実的ではないと断言できた。


「もう十分か」


 着ぐるみ防具での挙動に差し支えるような所は無い。ディーブルー装備は言わずもがな。

 そもそも土人形の攻撃力が低すぎて防具の防御力を確かめることには向いていない。結局出来るのは回避行動に関することだけ。それも十分と言えるほどに確認できた。

 即座に『変更のアンクレット』に触れ装備をディーブルー装備に変えると、瞬時に上昇したパラメータを実感しながらも敢えて抜かなかったガン・ブレイズを抜き、即座に照準を定め引き金を引いた。

 撃ち出される弾丸は違えずに土人形を射貫く。所詮は低い防御力しかない土人形。たった一発の弾丸を受けただけでその身を消滅させていった。


「きゃっ」


 不意に聞こえた声に誘われるように視線を向けると崩れた土人形が成り果てた砂を浴びたキョウコさんが目を丸くして固まっていた。


「キョウコさん!? どうして?」

「ご飯が出来たから呼びに来たんだけど……何してるの?」

「えっと、作ってたアクセサリが出来たので最後の仕上げとでもいいますか」

「戦ってたように見えたけど」

「ですから、戦っても問題ないかどうかの確認で……って、そんなことより一度ログアウトしたはずですよね?」

「うん。そうだよ。それで晩ご飯を作ったんだけど、いくら呼んでもユウくん出てこないんだもの。これはもしかしたらって思ってログインしたら大きな音がしたから」

「見に来てみたら砂を被った、と」


 こくりと頷くキョウコさんに一言謝って、地面に積もった土人形を形作っていた砂が全て消えるのを見守って、持っていたガン・ブレイズをホルダーに収めた。


「もういいの?」

「そうですね。やろうとしていたことは大概出来ましたし、もう十分です」


 拠点の中へ入るべく歩きだしたその瞬間、俺の頬に冷たいものが当たった。殆ど無意識で自分の頬に触れると指先には水滴が付いていた。


「――ん?」


 ふと空を見上げる。

 すると滝のような雨が一気に振ってきた。


「うわっ」

「な、何?」


 タイミング悪く建物の外にいた俺とキョウコさんは全身を雨に濡らしてしまう。


「急いで中に入りましょう」


 より建物の中に近い場所に立っていたキョウコさんにそう告げると慌てて軒先へと入る。

 この超短期間にずぶ濡れになってしまった俺たちは装備が自然に乾くのを待つことは出来ないと言うようにキョウコさんはその服の裾を濡れたタオルのように絞っている。俺は濡れてしっとりした着ぐるみを掴み絞ると決して少なくない水が着ぐるみ防具から滴り落ちた。


「ゲームの中の雨もリアルなんだね」

「そうですね。一年前よりもリアルになっていると思いますよ」


 着ぐるみ防具を掴み絞りながら嫌々そうにそう答える俺を余所にキョウコさんは軒先から顔を出して、雨が降っている空を見上げていた。


「でも、ここで降る雨って全部が全部こうなの?」

「こうって、何がです?」


 着ぐるみ防具の水を絞ることに集中していた俺はキョウコさんに言われて初めて雨降る空を見上げた。


「何だ…これ」


 軒先から見上げた空の色は赤く、振っている雨粒もまた真っ赤に染まっていた。




というわけで、何とも中途半端感は拭えませんがこれでこの章は終わりです。

ですが毎度の如く話は次の章に続きますし、更新頻度も変わらないので簡単な区切りですね。

では、また来週です。


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