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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十三章  【revision:2】
329/665

ep.12 『完成した工房にて』

お待たせしました。今週の更新です。



 クエストをクリアして拠点を手に入れた俺とキョウコさんはそれぞれの部屋を確認した後、本日のプレイを終えることにした。

 リントは拠点のリビングでのお茶をした後にギルドホームに帰っている。おそらくキョウコさんはログアウトしていることだろう。

 斯くして一人拠点の自室にいる俺はそのまま着ぐるみ防具から元々装備していたディーブルー装備一式へと防具を変更した。

 ストレージに収まっている着ぐるみ防具を取り出して近くのテーブルの上に置く。そして着ぐるみ防具の時に装着される手枷と足枷、それからさらに首輪も載せる。

 お世辞にも真新しいとは言えない中古のテーブルの上に置かれた防具は俺とリタが作り上げたもの。その特徴的な能力ともいえる自己能力下降も自らが願って付与したものだ。しかしながらこれは未だ完成形とは呼べない。能力値そのものには不満はないが、それを付与されている部位が思い描いていたものとは違う。

 防具の改造のやり方はリタから教えられているし、俺自身過去に防具やアクセサリの強化や調整をした経験はある。

 想定外な展開ではあったものの必要な設備も揃えることは出来た。

 意気揚々と拠点に作られた工房へと足を運んだ。


「必要な素材は、と」


 ストレージにあるのはどれも初心者エリアで手に入る素材ばかり。

 ギルドの倉庫ならば何かしら適したものがあったはずだが、取り出すにはギルドホームに戻る必要があった。


「うん。諦めるか」


 などと心にも無いことを呟き、俺は持っている着ぐるみ防具を工房の机の上に置いた。


「ま、冗談はさておきだ。まず適当なアクセサリに能力を移すんだったな」


 リタに教えられた付与効果の移動のやり方を思い出しながら、町で買って置いた最安値の指輪を取り出して、着ぐるみ防具の隣に並べる。

 思えば昔にもここまでしっかりとした防具の調整に手を入れたことはない。なのにスキルが細分化されたことにより武器とアクセサリにしか対応したスキルが無くなった今になって本格的に防具に手を入れることになろうとは。案外、このゲームも何が起こるか分からないものだと再確認させられた。


「やり方は……随分とファンタジーだな」


 着ぐるみ防具と指輪に手をかざすことでまるで何かの魔法のようだと思うばかりの光景が広がった。

 着ぐるみ防具の上に浮かび上がる魔方陣。そしてその端が光のラインによって隣に置いた指輪へと繋がっている。次いで自動的に出現したコンソールに触れると殊の外あっさりと能力の移動に成功した。


「こうも簡単ならリタのところでやって貰えば良かった、かな」


 この防具を作った時のリタの口ぶりではもっと難しいものだとばかり思っていた。それが、コンソールを操作するだけで簡単にできてしまう。

 防具の生産に関するスキルレベルは総じてリタの方が高いはずなので、俺に限り成功しやすいというわけではないだろう。だとすれば別の要因があることになるが、残念なことに心当たりは何一つ無かった。


「まあ、何がともあれ成功するってんなら文句は無いさ」


 さっそく指輪に移した能力を別の装備に、今回は首輪に移すことにした。


「と、その前にこっちの能力も移しておかないとだな」


 元々首輪に付いている即時装備変更能力を別のアクセサリに移して置いたほうがいいと勧められていたのを思い出し、失敗したときのために、と買ってあったもう一つの指輪をストレージから取り出す。

 さっきの感じからすると失敗することは無いのだろう。そんな浅はかな予想も時として的中する。もう一つの指輪に移った即時装備変更能力を確認して、首輪にはもう何の能力も無いことも確認した。


「こっちの指輪は横に置いておいて、最初の指輪から首輪に能力を移すには………なんだと?」


 同じやり方で出来ると思っていた俺を現実が簡単にあざ笑う。

 先ほどと同じ魔方陣が浮かび、同じように光のラインが結ばれる。そこまではいい。問題はその次だ。表示されたコンソールに30という数字が記されているのだ。

 この数字の意味。それはもはや考えるまでも無いだろう。この能力の移動に対する成功率。


「これは……スキルレベルとかで上昇するものなのか?」


 だとすればやはりリタの所でやって貰えば良かった。しかし、そうじゃないのならば。もし、この確率が一定で変わることが無いのだとすれば。


「そりゃあ、リタだって安請け合いはしないよなあ」


 失敗した所で何がどうなるのかはまだ分からない。一番可能性で高いのは能力の消失だろうか。武器の強化で失敗した場合に起こる現象としては、使用した素材が失われるのは大前提、稀に元から有している能力が消えることがある。尤もそれは大失敗に属するものであり、滅多に起こることでは無いのだが、武器防具問わず強化を行うプレイヤーは忘れてはならない、最大限危惧すべきものとして有名だ。

 能力値の移動に対するリスクも当然あると考えるべきだった。


「失敗したかなぁ。っても今更後戻りは出来ないし」


 既に一度能力を移動した後なのだ。元には戻せないし、そもそもこの一度目の移動がすんなりと成功したのが良くない。この性で失敗する恐れがあることに違和感を抱いてしまっている気がする。


「まさか、運営側の罠!?」


 などと仰々しく言ってみても意味が無いことは理解している。


「はぁ、仕方ない。別の方法を考えるか」


 再度移動することに失敗する可能性があるのだとすればこのまま使うことが最も簡単な解決方だろう。しかし、それならばもう少し質の良いアクセサリにしておくのだったと後悔が過ぎる。


「あー、やっぱりどうにか移すしかないよな」


 二つの指輪を強化するにしても元が元だ。あまり期待できる仕上がりにはならないだろう。となれば嫌が応にも当初の目的どおりに移動させるしかない。

 問題の成功率だが、この際目を瞑るしかないようだ。


「頼むから消失だけはならないでくれよ」


 と祈りながら指輪にある能力を首輪に移す。

 首輪と指輪を繋ぎ浮かんだ魔方陣が明滅する。

 そして、次の瞬間に光の粒子を残し消えた。


「どうなった!?」


 素早く首輪の詳細が記されたコンソールを表示させる。


「お、良かった。成功……か?」


 しっかりと明記されているはずの『スキルによる能力値の上昇を半分にする』が一ヶ所だけ変更されて記されていた。

 それは『スキルによる能力値の上昇を無効にする』だった。

 半分にする、が無効にするに。

 結果としては同じでも能力としては全くと言って良いほど別物になったそれは首輪にしっかりと付与されていた。


「まあ、現状問題は無いし、成功と考えてもいいか」


 能力の変質というのは大きく分ければ失敗に分類されるが、今回はそこまで問題じゃない。


「それで、次の即時装備変更能力だけど…これはどうするかなぁ。着ぐるみに付けるのは違う気がするし、別のアクセサリにするにしても、元が無いからな」


 俺が所有しているアクセサリはこの手枷足枷、首輪を除いて二つ。≪鍛冶≫スキル習得の際に作成した『証の小刀』とリリィとの契約の証となっている『妖精の指輪』だけ。

 前は他にもいくつかのアクセサリを持っていたのだが、休止する前に大半を売り払い、残っていたものもいつの間にか消えていた。

 輝石と呼ばれる石に能力を与えることができる『輝石の腕輪』は残していたはずだが、どうやら【revision:2】に移行した際にプレイヤー全員の分が削除され、代わりに対応したスキルポイントが配られたらしいが、その時点で休止していた俺は受け取る機会を逃していた。

 運営に文句の一つでも言いたい所だが、俺が知らないだけで事前に告知されていたことを後から何か言っても意味はないのも理解している。

 だからというわけじゃないが、俺はアクセサリを一から揃えても悪くは無いと思っていた。


「となると、まずは何かアクセサリを作ってみるか」


 この工房の本格的な試運転だ。

 使用する素材は手元にあるもののみ。けれど使える道具は一級品。俺のスキルは……多分、上等。ならば、それなりのアクセサリを作らないと嘘になる。

 早速工房の炉に火を入れて生成した鉄のインゴットをアクセサリの形に形成していく。

 さて、何を作ろうか。

 首輪にあった能力を付け変えるのだからネックレスか何かが適しているか、それとも作り慣れている指輪とか腕輪だろうか。インゴットをこねくり回しながら思考を巡らせて行き着いたのはある意味で初めて作るもの。足枷の下に隠れるように装備できる極薄のアンクレットだった。


「うーん。柄じゃ無い、かな」


 若干不安になりながらも完成したアンクレットを掲げてみた。

 磨き上げた金属特有の銀色にオレンジ色の夕日が反射している。

 自分の足首のサイズにぴったり合うように作られたそれを装備してみると狙い通り靴の陰に隠れ、目立たない作りになっている。

 能力を外したことで、着ぐるみ防具はシンプルな出来の防具になった。アンクレットに二つの装備セットを登録し直して、工房内を片付け始めた。




本当ならば今回の更新分でこの章に区切りを付けるつもりでしたが、そうはならなかった。

皆さん、インフルには気をつけましょうね。

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