ep.10.5 『一方その頃。石材集め』
あけましておめでとうございます。
新年一発目の更新は本編本筋の直ぐ隣の話です。
今回はかなり短めですが、来週からは本編を再開しますので、どうぞ今年も本作をよろしくお願いします。
「そおりゃ」
硬い石の体を持つゴーレムの腹部に穴が空く。
竜頭の人間――魔人族の竜人であるリントが振るう槍の穂先から粉々に砕けた石の欠片がパラパラと落ち、槍による一撃を受けたゴーレムはその体を砂のようにして崩れその場から消えていた。
ゴーレムの居た場所に残されたものは何もない。その代わりとでも言うようにリントのストレージに『ゴーレムの石材』が僅かではあるが追加されている。
「っと、まだまだ足りないッスね」
竜の頭は人のそれのように細かな表情は出ない。それでも本物の竜に比べると格段に表情豊かではあるものの、所詮それまでである。
それに加えてリントのレベルがこの辺りに出現するゴーレムを遙かに凌駕しており、体の硬さが特徴のゴーレム種ですら今のリントが相手をすれば動きが鈍い柔らかい粘土で出来た人形と戦っているに等しい。斯くしてリントは見つけたゴーレムをその都度倒しながら岩山エリアを進んでいるのだった。
目的はゴーレム種のモンスターからドロップする石材集め。その理由が一年ぶりに復帰してきた自身が所属するギルド『黒い梟』の創設者の一人にして元ギルドマスターのユウが初心者が活動する町で拠点を借りたことに始まる。
どのような町でも拠点を確保するプレイヤーは一定数存在する。なかでも生産職ならばその数の割合は増していくことだろう。ユウだって例にも漏れず生産職の一面を持つプレイヤーである。だが、今回『黒い梟』のギルドホームを拠点にしなかった理由はキョウコという初心者プレイヤーの同行者がいるから。
キョウコをギルドに誘えばわざわざ新しく拠点を借りる必要はないのではないかと思うリントだったがそれを口に出すことはしなかった。ギルドの選択の理由は数あれど、何も知らないうちに外からの要因によって決める物ではない、そう思っているからだ。
「それにしても一年経っても変ってなかったッスねぇ」
懐かしむように目を細め、リントは次なるゴーレムを探しながら呟いていた。
思い出されるのは自分とユウが出会ったときのこと。あのときも見ず知らずの姉に力になってくれていて、リントとはその過程で知り合った。その時リントに対しても分け隔て無く接してくれたこと、短い時間にも関わらず友人のように扱ってくれたこと。そして姉の強い希望もあってリントは『黒い梟』の一員になることを決めたのだった。
ランクを上げレベルをリセットした今でも装備や所持しているアイテム、スキルなどは変らない。それ故に嘘でも初心者と同等ではないのにも関わらず、敢えて自分のパラメータを下げる装備を買い、初心者のキョウコに合わせている様子も、姉を助けていたあの頃のユウと重なって見えたのだ。
だからだろうか。リントもユウがいない一年の間に困った様子のプレイヤーに自ら声を掛けることがあった。その際、竜の頭は何かと不便だということを思い知った。他の人族や魔人族、動物の耳や尻尾をつけただけのプレイヤーの方があまり驚かれないのだということも。
それでも、自分の行動を受け入れてくれた人も多い。
彼、彼女らがある程度のレベルになるまで協力することを繰り返していたリントはいつしか自分の知らない所で積極的に初心者支援を行っている他のプレイヤー達に知れ渡っていた。その際、その人達のギルドにも誘われたが、結局リントは『黒い梟』を離れることは無かった。
目標としている人物が作ったギルドだということもあってか、出来うる限りこのギルドを残したい、せめて彼が復帰してくるまでは残していたいと強く考えるようになっていたのもその理由の一つだったが。
「お、居たッスね」
背中から折りたたまれている槍を抜く。
瞬間、展開される槍を構え、静かに佇むゴーレムに向かって飛び出した。
先ず一撃。自分を遮るように差し出された腕を弾き飛ばす。
次いで二撃。逃げられないように脚を砕き、最後の一撃として胸を穿つ。
総じて僅か三度の攻撃でゴーレムを屠ったリントは再び槍を背負い直すと次なる獲物を探し歩き出す。
「出来ればユウさんよりは早く戻って待っていたいッスからね。もう少しペースを上げるッスよ!」
誰に言うわけでもなくそう告げるとリントは走る速度を上げた。
幸か不幸か、土埃を上げながら岩山を駆け上がるその姿を目撃したものは誰も居ない。
もし、その姿が見られていたなら、鎧を纏ったモンスターとでも噂されたかも知れない。そんな風に思ってしまうほど、この時のリントは獲物を求める獣のような瞳をしていたのだから。